Appearance
平成 19 年度(2007 年度)事例 Ⅲ
与件文
【C 社の概要】
C 社は年商 13 億円、従業者 70 人のカタログ、パンフレットなどの商業印刷業である。昭和初期の設立当初は活版印刷であったが、現在はすべてオフセット印刷である。昭和 50 年代中頃には、大都市の市街地立地であったこともあり夜間操業が難しくなり、地方に印刷工場を移した。工場は本社から 70 km ほど離れているが高速道路のインターチェンジに比較的近い。毎日、翌日の生産予定に必要な印刷用紙(材料)を都心の紙問屋で調達し、夜間に工場に配送している。現在、取引先は大手電機メーカーをはじめとする最終ユーザーと、最近増加傾向が著しい中堅の広告代理店などで 300 社ほどを数えている。売上高は比較的安定しているが、広告代理店からの受注が 3 割を超え利益率が低下し始めている。
一般に、印刷物の生産工程は「組版」→「製版」→「印刷」→「製本」に分けられる。「組版」とは文字や図などを配置し紙面を構成することであり、「製版」とは印刷機にかける刷版の作成までのさまざまな版づくり工程をいう。今日の印刷技術のデジタル化においては、これら「組版」と「製版」をコンピュータ上で同時に行う DTP の採用が拡大している。C 社の印刷紙面づくりはこの DTP を採用している。
ただし、C 社では本社の DTP 部門が「組版」と刷版を除く「製版」を担当し、工場が刷版以後の工程を行っている。
現在、C 社は組版から製本に至るすべての工程を社内に備える一貫生産体制を整えている。こうした体制は厳しさを増す短納期要請に応えるものとなっており、受注活動においては顧客への「企画・デザイン提案」の重要性が増しているが、現在は企画営業による受注が 3 割程度であり、さらなる増強に向けた体制づくりが検討されている。
C 社の本社と工場の業務内容および人員構成は次のとおりである。本社は社長ほか、総務・経理部(8 人)、営業部(12 人)、営業管理部(5 人)、DTP 部(11 人)の計 37 人。工場は工場長ほか、管理部(総務、生産管理等 5 人)、製造部(品質管理 3 人、刷版 3 人、印刷 10 人、製本 11 人(パート 6 人を含む))の計 33 人である。工場の平均年齢は 38 歳であるが、本社は 46 歳と高齢化している。
【受注から生産までの現状と課題】
受注活動の最前線に立つ営業は、最終ユーザーである大手電機メーカーなどから直接受注している場合、C 社が充実した企画営業を展開し、受注から納期に至るさまざまな情報を生産部門に伝えていた。しかし、広告代理店を経由する受注では最終ユーザーとの打ち合わせ機会が減少し、広告代理店との打ち合わせに留まるケースが増加している。
こうした広告代理店介在の取引増加は、C 社の収益性に影響するのみならず、最終ユーザーと異なり、広告代理店からはほぼ完成品に近いデータが提供され、印刷データへの変換時にトラブルが生じることで印刷予定に混乱を招いている。また、最終ユーザーとの関わりが薄いほど印刷時の色調トラブルが多発し、印刷物特有の手直し・修正や、本社と工場間の連絡ミスによる管理体制の遅れが原因となっているケースも少なくない。
これまで C 社の営業は、生産予定に混乱をもたらすリスクを承知の上で受注獲得を最優先し、得意先からの短納期要請を受け入れてきた。その結果、工場では年間を通じて生産変更が日々行われ、繁忙期には生産能力不足による深夜残業が発生している。工場としては最新印刷機の導入による生産力増強が生産能力不足の最善解決策と考えている。
一方、経営者は設備投資の必要性を認識しつつも、直ちに実行可能な社内環境が整っていないと判断している。印刷技術のデジタル化に対応すべく毎年約 5 千万円の減価償却費を計上するなど設備投資に消極的ではないが、最新印刷機の導入に必要な関連設備を含む総額約 3 億円の投資や、連日の残業が年 4〜5 カ月の繁忙期のみである点から、投資実行に踏み切れない理由となっている。
また、コスト競争が激化する印刷業界において、最新印刷機の導入は C 社の内部事情だけで判断するのが困難となっている。大手企業が多く装備しており、同規模の企業でも徐々に導入が進んでいるためである。ちなみに、C 社の現有印刷機 4 台はすべて片面刷りであるのに対し、最新印刷機は両面刷りで印刷スピードが格段に速く、片面刷り 2 台分以上の生産性を持っている。
【新規事業について】
近年、印刷物を媒介とする新規事業の開拓に乗り出す企業が増加している。C 社が最近取り組み始めた、大手製品メーカーからの製品取扱説明書の印刷・在庫・配送の一括受注も、印刷業界における事業領域拡大の流れの一環である。この事業は従来のコア事業である印刷業務に在庫業務と配送業務を加えたもので、顧客の生産計画に合わせたきめ細かな配送体制の整備や、突発的な納品変更に対応できる在庫管理・生産管理の充実が条件となっている。
さらに、C 社は新規事業強化のため、名簿管理を基軸とした事業展開を検討している。たとえば、通信販売会社のカタログ製作から配送までの一括受注では、配送先の名簿データ更新に加え、名簿管理に伴う個人情報の取り扱いや管理体制整備など、繁雑な業務が加わることになる。
こうした名簿管理を基軸とした一括受注は、他にも各種団体の催し物案内や、学会等の学会誌、各種会議案内の印刷から配送までの業務として検討されている。
設問文
第 1 問(配点 20 点)
印刷業界における C 社の強みを(a)欄に、弱みを(b)欄に、2 つずつあげ、それぞれ 20 字以内で述べよ。
(a)欄
(b)欄
第 2 問(配点 20 点)
C 社では、広告代理店が介在する受注の増加により収益面や生産面に影響が出ている。こうした状況をどう捉え、どのような対策を講じる必要があるか、120 字以内で述べよ。
第 3 問(配点 20 点)
C 社の営業と工場が相互理解を深め、受注から生産までの業務を円滑に遂行するために管理すべき情報項目と、その情報伝達のあり方について、合わせて 140 字以内で説明せよ。
第 4 問(配点 20 点)
C 社工場では繁忙期の生産能力不足解決策として両面印刷機の導入が望ましいとされるが、経営者は投資環境が整っているとは考えていない。設備投資問題について、C 社の経営環境および生産体制上の問題を踏まえ、中小企業診断士として投資実行の立場を明確にしつつ、どのようなアドバイスをするかを 160 字以内で述べよ。
第 5 問(配点 20 点)
C 社は大手製品メーカーの製品取扱説明書の印刷、在庫、配送業務を一括受注しているが、事業領域拡大に向け、名簿管理を基軸とした通信販売会社、各種団体、学会等を想定した事業実施を検討中である。こうした新規事業に C 社が取り組むことについて、どのようなアドバイスをするかを 140 字以内で述べよ.