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令和 元 年度(2019 年度)事例 Ⅳ 解答解説
第 1 問(配点 25 点)
(設問 1)
①:悪化している指標 1
(a) 売上高営業利益率
(b) 0.98 (%)(計算過程:49 ÷ 4,994 × 100 = 0.981...、前期:3.41%)
- 解説:本業の収益性を示す指標であり、当期は前期に比べて大幅に悪化している。 建材価格の高騰や配送コスト増、分譲住宅販売の滞りにより粗利益率が低下したことが主因である。 加えて、販管費が増加しているため、営業利益率の減少幅が大きくなっている。
②:悪化している指標 2
(a) 棚卸資産回転率
(b) 2.60 (回)(計算過程:4,157 ÷ 1,596 = 2.604...、前期:4.74 回)
- 解説:棚卸資産の効率性を示す指標であり、在庫の滞留を反映して悪化している。 与件文の「一部の分譲住宅の販売が滞った」という記述が裏付けであり、 資金の固定化とキャッシュフロー悪化の要因となっている。
②:悪化している指標(別解)
- (a) 当座比率
- (b) 41.27 (%)(計算過程: (524 + 916) ÷ 3,489 × 100 = 41.273...、前期:55.62%)
- 解説:短期的な支払能力を示す指標であり、当期は大きく低下している。
棚卸資産の急増と短期借入金の増加により、流動性が悪化している。
仕入債務や短期借入依存が高まり、資金繰りの安定性が低下していると考えられる。
- 解説:短期的な支払能力を示す指標であり、当期は大きく低下している。
③:改善している指標
(a) 有形固定資産回転率
(b) 1.64 (回)(計算過程:4,994 ÷ 3,052 = 1.636...、前期:1.50 回)
- 解説:有形固定資産を効率的に活用していることを示す。 売上高の増加に対し、有形固定資産がほぼ横ばいであるため、 資産活用の効率性が向上していると評価できる。
(設問 2 )
D 社の当期の財政状態および経営成績について、前期と比較した場合の特徴を 50 字以内で述べよ。
回答例
- 棚卸資産回転率採用(48 字):建材価格高騰や配送費増で収益性が悪化し、在庫増で財務安全性が低下したが、資産活用効率は向上した。
- 当座比率(49 字):建材価格高騰や配送費増で収益性が悪化し、借入金増で財務安全性が低下したが、資産活用効率は向上した。
解説
問題文の該当箇所
- 「建材の価格高騰」「分譲住宅の販売が滞った」「配送コスト増」などの記述。
- 財務諸表における棚卸資産・短期借入金の増加。
答案作成の根拠
- 収益性の悪化:営業利益が 156 百万円 → 49 百万円へ減少。売上高営業利益率も 3.41% → 0.98%と低下。
- 安全性の低下:棚卸資産の急増(966 → 1,596 百万円)により流動性が悪化。当座比率は 55.62% → 41.27%へ低下。
- 効率性の改善:有形固定資産回転率は 1.50 → 1.64 回へ改善し、資産活用はやや向上。
これらを総合すると、D 社は増収減益・安全性低下・効率性改善という特徴を示している。
第 2 問(配点 25 点)
(設問 1 )
事業部および全社(連結ベース)レベルの変動費率を計算せよ。なお、%表示で小数点第 3 位を四捨五入すること。
回答例
- 建材事業部: 95.33%
- マーケット事業部: 69.39%
- 不動産事業部: 3.52%
- 全社: 89.09%
解説
答案作成の根拠 変動費率は「変動費 ÷ 売上高」で計算する。セグメント情報表の数値をそのまま用いて各事業部と全社の変動費率を算出する。
- 建材事業部: 4,303 ÷ 4,514 = 0.95325... ≒ 95.33%
- マーケット事業部: 136 ÷ 196 = 0.69387... ≒ 69.39%
- 不動産事業部: 10 ÷ 284 = 0.03521... ≒ 3.52%
- 全社: 4,449 ÷ 4,994 = 0.89086... ≒ 89.09%
(設問 2 )
当期実績を前提とした全社的な損益分岐点売上高を ⒜ 欄に計算せよ。なお、(設問 1)の解答を利用して経常利益段階の損益分岐点売上高を計算し、百万円未満を四捨五入すること。 また、このような損益分岐点分析の結果を利益計画の資料として使うことには、重大な問題がある。その問題について ⒝ 欄に 30 字以内で説明せよ。
⒜ 解答欄
- 4,345 (百万円)
⒝ 記述欄(26 字)
- 事業ごとの利益率が異なり、売上構成が変動するため。
解説
答案作成の根拠⒜ 損益分岐点売上高 損益分岐点売上高は、利益がゼロになる売上高である。公式「固定費 ÷ 限界利益率」または「固定費 ÷ (1 - 変動費率)」で計算する。
- 全社固定費: 323 + 101 + 30 + 20 = 474 百万円
- 全社変動費率: 89.09% (設問 1 より)
- 計算: 474 ÷ (1 - 0.8909) = 474 ÷ 0.1091 = 4344.63...
- 四捨五入: 4,345 百万円
⒝ 損益分岐点分析の問題点 損益分岐点分析は、複数の製品や事業がある場合、「売上構成比率(セールス・ミックス)が一定」という前提に立っている。D 社は変動費率(≒ 利益率)が大きく異なる 3 つの事業(建材 95.3%、マーケット 69.4%、不動産 3.5%)を営んでいる。もし、利益率の低い建材事業の売上比率が高まれば、全社の平均利益率は下がり、損益分岐点売上高は悪化(増加)する。このように、事業構成の変動によって損益分岐点自体が変動してしまうため、単一の損益分岐点売上高を利益計画の絶対的な指標として使うことには問題がある。
(設問 3 )
次期に目標としている全社的な経常利益は 250 百万円である。不動産事業部の損益は不変で、マーケット事業部の売上高が 10 %増加し、建材事業部の売上高が不変であることが見込まれている。この場合、建材事業部の変動費率が何%であれば、目標利益が達成できるか、⒜ 欄に答えよ。⒝ 欄には計算過程を示すこと。なお、(設問 1 )の解答を利用し、最終的な解答において%表示で小数点第 3 位を四捨五入すること。
⒜ 解答欄
- ⒜ 91.49 (%)
⒝ 計算過程
- 目標とする全社限界利益: 目標経常利益 250 百万円 + 全社固定費 474 百万円 = 724 百万円
- マーケット事業部の次期限界利益: 次期売上高: 196 × 1.1 = 215.6 百万円 限界利益: 215.6 × (1 - 0.6939) = 66.0 百万円
- 不動産事業部の次期限界利益: 284 - 10 = 274 百万円(不変)
- 建材事業部が達成すべき限界利益: 724 - 66.0 - 274 = 384 百万円
- 建材事業部の目標変動費率: 目標変動費: 4,514 - 384 = 4,130 百万円 目標変動費率: 4,130 ÷ 4,514 = 0.91493... ≒ 91.49%
解説
答案作成の根拠 目標利益達成問題は、CVP の公式「売上高 - 変動費 - 固定費 = 利益」を変形した「限界利益 - 固定費 = 利益」という方程式で解くのが効率的である。
- まず、目標経常利益を達成するために必要な「全社の限界利益」を算出する。
- 次に、条件が確定しているマーケット事業部と不動産事業部の次期限界利益を計算する。
- 全社目標から上記 2 事業部の限界利益を差し引くことで、建材事業部が稼ぐべき限界利益が確定する。
- 最後に、建材事業部の売上高(不変)と、達成すべき限界利益から、目標となる変動費と変動費率を逆算する。
第 3 問(配点 30 点)
D 社は、マーケット事業部の損益改善に向けて、木材の質感を生かした音響関連の新製品の製造販売を計画中である。当該プロジェクトに関する資料は以下のとおりである。 (中略)
(設問 1 )
各期のキャッシュフローを計算せよ。
回答例
(単位:百万円)
- 第 1 期: -0.9
- 第 2 期: 6.1
- 第 3 期: 14.5
- 第 4 期: 9.6
- 第 5 期: 9.6
解説
答案作成の根拠 営業キャッシュフロー(CF)は、会計上の利益と異なり、実際のお金の出入りに着目する。計算式は複数あるが、ここでは「税引後利益 + 減価償却費」が簡便である。
- CF = 税引前利益 × (1 - 税率) + 減価償却費
与件の条件は以下の通りである。
- 税率: 30%
- 減価償却費: 4 百万円/年
- 「全社的利益(課税所得)は十分にある」という注記から、第 1 期の税引前損失(-7 百万円)は、全社の他の利益と相殺され、7 × 30% = 2.1 百万円の節税効果(タックスシールド)を生むと解釈する。
各期の計算:
- 第 1 期: -7 × (1 - 0.3) + 4 = -4.9 + 4 = -0.9 百万円
- 第 2 期: 3 × (1 - 0.3) + 4 = 2.1 + 4 = 6.1 百万円
- 第 3 期: 15 × (1 - 0.3) + 4 = 10.5 + 4 = 14.5 百万円
- 第 4 期: 8 × (1 - 0.3) + 4 = 5.6 + 4 = 9.6 百万円
- 第 5 期: 8 × (1 - 0.3) + 4 = 5.6 + 4 = 9.6 百万円
使用した経営学の知識
- キャッシュフロー計算: 投資評価の基礎となる概念。特に、減価償却費のような非現金支出費用を利益に足し戻す点や、税引前損失が生じた場合のタックスシールドの考え方が重要である。
(設問 2 )
当該プロジェクトについて、⒜ 回収期間と ⒝ 正味現在価値を計算せよ。
⒜ 回収期間
- 3.03 (年)
⒝ 正味現在価値
- 12.63 (百万円)
解説
答案作成の根拠
⒜ 回収期間 初期投資額(20 百万円)を、毎期の CF で回収するのにかかる期間を計算する。
- CF の累計を計算する。
- 1 期末: -0.9
- 2 期末: -0.9 + 6.1 = 5.2
- 3 期末: 5.2 + 14.5 = 19.7 (回収まであと 20 - 19.7 = 0.3)
- 4 年目の CF は 9.6 なので、4 年目中に回収が完了する。
- 4 年目にかかる期間を計算する: 未回収額 0.3 ÷ 4 年目の CF 9.6 = 0.03125 年
- 合計期間: 3 年 + 0.03125 年 = 3.03125 年 ≒ 3.03 年
⒝ 正味現在価値 (NPV) 将来生み出される CF を、資本コスト(割引率)で現在価値に割り引き、その合計額から初期投資額を差し引いたものである。
- NPV = Σ(各期の CF × 現価係数) - 初期投資額
- 各期 CF の現在価値(PV)を計算:
- 1 期: -0.9 × 0.952 = -0.8568
- 2 期: 6.1 × 0.907 = 5.5327
- 3 期: 14.5 × 0.864 = 12.528
- 4 期: 9.6 × 0.823 = 7.9008
- 5 期: 9.6 × 0.784 = 7.5264
- PV の合計を計算: -0.8568 + 5.5327 + 12.528 + 7.9008 + 7.5264 = 32.6311
- 初期投資額を差し引く: 32.6311 - 20 (初期投資) = 12.6311 ≒ 12.63 百万円
- CF の累計を計算する。
(設問 3 )
原材料費と労務費の合計が何%削減される場合に、高性能の機械設備の導入が<資料>記載の機械設備より有利になるか、⒜ 欄に答えよ。⒝ 欄には計算過程を示すこと。
回答例
⒜ 解答欄
⒜ 10.52 (%)
⒝ 計算過程
高性能機械が有利になるのは、投資増加額を、CF 増加額の現在価値合計が上回る時である。まず両者が等しくなるコスト削減率 x を求める。
- 投資増加額: 30 - 20 = 10 百万円
- CF 増加額の要因:
- ① コスト削減((原材料費+労務費)×x)による税引後 CF 増
- ② 減価償却費増((30-20)/5=2)によるタックスシールド
- 方程式: 10 = Σ[((原材料費+労務費)t×x)×(1-0.3) + 2×0.3]× 現価係数 t
- (原材料費+労務費)の現在価値合計の計算: (16×0.952)+(27×0.907)+(32×0.864)+(25×0.823)+(16×0.784) = 100.488 百万円
- 減価償却費増によるタックスシールドの現在価値合計: 2 × 0.3 × (0.952+0.907+0.864+0.823+0.784) = 0.6 × 4.33 = 2.598 百万円
- 削減率 x の計算: 10 = 100.488 × x × 0.7 + 2.598 70.3416x = 7.402 x = 0.10522... ≒ 10.52%
解説
答案作成の根拠 高性能機械を導入した場合の NPV が、既存案の NPV を上回る条件を求める。これは「高性能機械導入による NPV の増分(ΔNPV) > 0」となる条件と同じである。計算を簡便にするため、まず ΔNPV = 0 となる損益分岐点(有利不利が逆転する点)の削減率
xを求める。ΔNPV は「CF 増加額の現在価値合計 - 投資増加額」で計算できる。
- 投資増加額: 高性能機械(30) - 既存機械(20) = 10 百万円
- CF 増加額の要因:
- コスト削減効果: 削減額
Sがあれば、税金も考慮するためS × (1-税率)だけ CF が増加する。 - 減価償却費のタックスシールド効果: 減価償却費が年間 2 百万円増加するため、その分税金が
2 × 税率だけ安くなり、CF が増加する。
- コスト削減効果: 削減額
- 上記の考え方で方程式を立て、
xについて解く。計算過程は回答例に示した通りである。xが 10.52%のとき、両案の有利不利は等しくなる。したがって、それを少しでも上回る削減率であれば、高性能機械が有利になる。
第 4 問(配点 20 点)
(設問 1 )
D 社は建材事業部の配送業務を分離し連結子会社としている。その ⒜ メリットと ⒝ デメリットを、それぞれ 30 字以内で説明せよ。
⒜ メリット(25 字)
配送業務の責任を明確化し、コスト意識を向上できる。
⒜ ⒝ デメリット(23 字)
- 親会社との連携が阻害され、非効率が生じる恐れ。
解説
問題文の該当箇所
- 「連結子会社(D 社が 100 %出資している)を有している」「連結子会社は建材事業部のための配送を専門に担当している」
答案作成の根拠 事業の一部を切り出して別会社(子会社)にする「分社化」の一般的なメリット・デメリットを、D 社の状況に当てはめて考える。
⒜ メリット: 配送部門を一つの会社として独立させることで、その部門の収支が明確になる。これにより、責任の所在が明らかになり、採算性を意識した経営が行われやすくなる(責任の明確化、コスト意識の向上)。また、専門性が高まり、将来的には外部の配送業務を受託することも可能になる。
⒝ デメリット: 会社という壁ができることで、部門間の円滑なコミュニケーションが阻害される「セクショナリズム」に陥る危険性がある。特に D 社は今後「取引先と連携を深める」方針であり、配送を担う子会社との連携が阻害されると、かえって非効率になる可能性がある。また、子会社にも管理部門が必要となり、コストが二重にかかるというデメリットもある。
(設問 2 )
建材事業部では、EDI の導入を検討している。どのような財務的効果が期待できるか。60 字以内で説明せよ。
回答例(57 字)
得意先との在庫情報共有で過剰在庫を圧縮し、在庫管理費用を削減する。また、計画的な共同配送で配送コストを削減できる。
解説
問題文の該当箇所
- 「建材配送の小口化による配送コストの増大や非効率な建材調達・在庫保有が恒常的な収益性の低下を招いている」「受発注のみならず在庫情報についても EDI(...)を導入することによって情報を共有することを検討中」
答案作成の根拠 与件文に書かれている建材事業部の課題と、EDI 導入の目的を直接結びつけて財務的効果を記述する。
- 課題:
- ① 非効率な在庫保有 → 在庫コスト増
- ② 配送の小口化 → 配送コスト増
- EDI 導入の目的・機能:
- 在庫情報の共有
- 受発注情報の共有
- 期待される財務的効果:
- 在庫情報共有により、得意先の必要量を正確に予測でき、自社の過剰在庫を圧縮できる。これにより、在庫の保管費用や資金繰りが改善する(在庫関連コストの削減)。
- 受発注・在庫情報共有により、配送計画の精度が上がり、複数の得意先への共同配送などが可能になる。これにより、小口化していた配送を集約し、配送コストを削減できる。
- 課題: