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平成 26 年度(2014 年度)事例 Ⅲ 回答と解説
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第 1 問(配点 10 点)
設問文
C 社の創業からの事業変遷を理解した上で、精密小型部品加工業界における C 社の強みと弱みを 60 字以内で述べよ。
回答例(55 字)
強みは超精密小型部品の加工技術と、熱処理・メッキまでの一貫生産体制。弱みは X 社への高い依存度と脆弱な営業体制。
解説
問題文の該当箇所
- 【C 社の概要】「超精密加工と超小型加工技術に特化して X 社との取引に成功し、新たに熱処理設備およびメッキ設備を加えて精密部品の一貫生産体制をつくることで X 社からの受注を拡大してきた。」
- 【C 社の概要】「生産される超精密小型部品の約 90%は、主要取引先である大手精密機器メーカー X 社...を経由」「生産技術や管理技術についても指導を受けるなど、経営のかなりの面で依存している。」
- 【C 社の概要】「新規受注などの営業業務については社長と専務の役員 2 名で対応している。」
- 【C 社の主要取引先 X 社の動向】「超精密加工と超小型加工技術の評価が高く、必要な生産能力を有する C 社」
答案作成の根拠
- 強み: C 社は、創業後に「超精密加工と超小型加工技術」に特化し、さらに「熱処理・メッキ設備」を導入して「一貫生産体制」を構築したことで、主要取引先 X 社からの評価を得て受注を拡大してきた。これが C 社の中核的な競争力である。
- 弱み: 売上の 90%を X 社に依存している点、生産・管理技術も X 社の指導に頼っている点から、経営全般における X 社への依存度が極めて高いことが最大の弱みである。また、営業担当が役員 2 名のみという体制は、今後の販路開拓において脆弱な点と言える。
使用した経営学の知識
- SWOT 分析: 企業の内部環境である強み(Strengths)と弱み(Weaknesses)、外部環境である機会(Opportunities)と脅威(Threats)を分析するフレームワーク。本問では内部環境の強み・弱みを分析する。C 社のコア・コンピタンス(中核的能力)は「超精密・超小型加工技術」と「一貫生産体制」であり、弱みは「特定企業への過度な依存」と「脆弱な経営資源(営業力)」である。
第 2 問(配点 20 点)
設問文
C 社の切削工程で問題視されている加工不良率の増加について、その改善を図るために必要な具体的対応策を 100 字以内で述べよ。
回答例(95 字)
属人化した事後保全を改め、予防保全体制を構築する。具体的には、設備メンテナンス作業を標準化しマニュアルを作成する。そして全オペレーターで共有し、計画的な保全活動を実施して設備精度を維持する。
解説
問題文の該当箇所
- 【C 社の生産概要】「最近増加傾向にある切削工程での加工不良率」「歩留りの低下傾向とともに問題視されている。」
- 【C 社の生産概要】「切削工程の加工精度は、自動旋盤の精度に左右される。」
- 【C 社の生産概要】「現在の経営計画には自動旋盤の更新計画はない」
- 【C 社の生産概要】「設備オペレーターが故障対応に主眼を置いて、それぞれの経験で行っている自動旋盤のメンテナンスについての対策が必要となっている。」
答案作成の根拠 加工不良率増加の原因は、与件文から「自動旋盤の精度」の低下にあると特定できる。その背景には、メンテナンスが「故障対応に主眼」(事後保全)であり、かつ「それぞれの経験で行っている」(属人化)という問題がある。また、設備の即時更新は計画にないため、現有設備の精度をいかに維持するかが焦点となる。 したがって、改善策は以下の方向性でまとめる。
- 保全方法の転換: 故障してから直す「事後保全」から、故障を未然に防ぐ「予防保全」へ移行する。
- 標準化と共有: 熟練オペレーターの経験や勘に頼ったメンテナンス作業を、手順書やマニュアルとして「形式知化(標準化)」し、全オペレーターで共有・実践できる体制を整える。 これにより、計画的なメンテナンスが可能となり、設備の精度を安定させ、加工不良率の低減につながる。
使用した経営学の知識
- 生産管理(設備管理): 設備の生産性を最大限に高めるための管理活動。設備保全は、故障してから修理する**事後保全(BM: Breakdown Maintenance)と、故障を未然に防ぐ予防保全(PM: Preventive Maintenance)**に大別される。C 社の現状は事後保全であり、不良率増加という問題を引き起こしているため、計画的な点検・修理を行う予防保全への転換が求められる。
- ナレッジマネジメント: 従業員個人の持つ暗黙知(経験や勘)を、組織全体で共有・活用できる形式知(マニュアルなど)に変換し、組織能力を高める手法。
第 3 問(配点 40 点)
設問文
C 社では、主要取引先 X 社精密部品事業部の国内部品調達および物流の合理化計画に対応するための対策が検討されている。この課題について、以下の設問に答えよ。
設問 1
C 社が X 社の唯一の国内調達先となり、部品在庫管理および受注・発送業務の移管が行われると、C 社にはどのようなメリットがあるのか、100 字以内で述べよ。
回答例(94 字)
X 社の国内調達先として取引が集約されることによる売上の増加と安定化、業務委託費という新たな収益が得られる。また、顧客の需要情報を直接入手でき、X 社との関係強化や今後の事業展開に繋げられる。
解説
問題文の該当箇所
- 【C 社の主要取引先 X 社の動向】「C 社 1 社に集約し、同時に X 社が行ってきた精密部品の在庫管理および受注・発送業務も C 社に業務移管することが検討されている。」
- 【C 社の主要取引先 X 社の動向】「この業務の移管に伴って C 社に支払う業務委託費についても検討されている。」
- 【C 社の主要取引先 X 社の動向】「X 社が入手する顧客の 3 カ月、1 カ月発注情報および 1 週間ごとの確定発注情報を C 社とオンライン化し、C 社から直接顧客に納品させる」
答案作成の根拠 X 社の合理化計画によって C 社にもたらされるメリットは、以下の 3 点に集約される。
- 経済的メリット: これまで複数社に分散していた X 社の国内調達が C 社 1 社に集約されるため、取引量が拡大し、売上が増加・安定する。加えて、在庫管理や発送業務の移管により「業務委託費」という新たな収益源が生まれる。
- 情報的メリット: X 社を介さず、最終顧客の需要情報(3 ヶ月内示、週次確定発注)をオンラインで直接入手できるようになる。これにより、より精度の高い生産計画立案が可能になる。
- 戦略的メリット: X 社とのパートナーシップがより強固なものになる。また、最終顧客への直接納品を通じて顧客との関係を構築し、将来的な新規取引(X 社を介さない取引)に繋げる足がかりとすることができる。
使用した経営学の知識
- サプライチェーン・マネジメント(SCM): 複数の企業間で情報を共有し、原材料調達から生産、販売に至る一連の流れを統合的に管理することで、全体の効率化と最適化を図る経営手法。C 社が X 社のサプライチェーンにおいて、より上流の情報を得て重要な役割を担うことになる。
- 取引関係の深化: 単なるサプライヤーから、より重要なパートナーへと関係性が変化する。これにより、安定的で長期的な取引が期待できる。
設問 2
X 社からの業務の移管に対応するためには、C 社の生産計画や資材調達計画を今後どのように改革していくことが必要となるのか、160 字以内で述べよ。
回答例(156 字)
生産計画は、オンライン化される顧客の需要情報を基に月次から週次へ短縮する。リードタイム短縮のため、切削から検査まで後工程も含めた一貫生産計画を立案し、生産の平準化で小ロット生産に対応する。資材調達は、週次計画に連動した高頻度・小ロット発注へ移行し、原材料の過剰在庫を圧縮、コスト削減とキャッシュフロー改善を図る。
解説
問題文の該当箇所
- 【C 社の生産概要】(現状)「生産計画は...1 カ月ごとに前月末に作成される。」「熱処理工程、メッキ工程、検査工程については、...各工程担当者の判断で加工順を決めている。」
- 【C 社の生産概要】(現状)「ほぼ 2 カ月分の必要量が確保できるよう毎月月末に定期発注していて、在庫量の増加傾向がみられる。」
- 【C 社の主要取引先 X 社の動向】(変化後)「C 社の納品リードタイムは 1.5 カ月から 1 週間に短縮」「各品種の 1 回の受注ロットは...1 週間分の確定受注数量となり大幅に縮小される。」
答案作成の根拠 X 社からの業務移管により、C 社は「リードタイム短縮(1.5 ヶ月 →1 週間)」と「受注の小ロット化」という劇的な環境変化に直面する。現状の月次ロット単位の生産・調達体制では対応が不可能であり、生産システム全体の改革が必須である。
生産計画の改革: 納品リードタイムが 1 週間となるため、計画サイクルも月次から週次へ短縮する必要がある。また、これまでは担当者任せだった後工程(熱処理、メッキ、検査)も統制下に置き、全工程を同期させた一貫生産計画を立案することで、工程間の停滞をなくしリードタイム短縮を実現する。さらに、小ロット化に対応するためには、生産量を日々に均す生産の平準化が不可欠である。
資材調達計画の改革: 2 ヶ月分もの過剰在庫は、キャッシュフローを圧迫し、高額な材料費の負担を増大させている。週次生産計画と連動させた高頻度・小ロット発注に切り替えることで、必要な分だけをタイムリーに調達し、原材料在庫を大幅に圧縮することが求められる。これはコスト削減に直結し、キャッシュフローの改善に繋がる。
使用した経営学の知識
- JIT(ジャストインタイム)生産システム: 「必要なものを、必要なときに、必要なだけ」生産・供給するという考え方である。今回の改革で求められるリードタイム短縮、小ロット化、在庫削減は、まさに JIT の思想そのものである。
- MRP(資材所要量計画): 生産計画に基づいて、必要な資材の量と時期を算出し、調達計画を立てる手法である。週次の生産計画に資材調達を連動させることは、この考え方の適用に他ならない。
- 生産の平準化: 生産量や品種の変動を極力小さくし、生産負荷を安定させる手法である。小ロット多品種生産を効率的に行うための前提となる。
第 4 問(配点 30 点)
設問文
C 社社長は、主要取引先 X 社で進められている国内部品調達先の集約化の動きに対応して、X 社との取引を高める一方で、X 社以外の販路開拓を行う方針である。この方針を実現するためには、中小企業診断士としてどのような提案を行うか、C 社の経営資源に注目して 160 字以内で述べよ。
回答例(160 字)
強みである超精密・超小型加工技術と一貫生産体制を活かし、営業部門を新設して販路開拓を推進する。製造部の優秀な技術者をセールスエンジニアとして育成し、専門の技術営業部門を新設する。ウェブサイトや展示会で技術力を訴求しつつ、当面は X 社業務移管で接点を持つ顧客へ技術提案を行い、直接取引の獲得と X 社依存体質からの脱却を目指す。
解説
- 問題文の該当箇所
- 【C 社の概要】「超精密加工と超小型加工技術」「精密部品の一貫生産体制」
- 【C 社の概要】「新規受注などの営業業務については社長と専務の役員 2 名で対応している。」
- 【C 社の主要取引先 X 社の動向】「C 社から直接顧客に納品させるものである。」
- 【設問文】「X 社以外の販路開拓を行う方針」「C 社の経営資源に注目して」
答案作成の根拠 本回答は、X 社への依存体質から脱却するという経営課題に対し、C 社の経営資源を最大限に活用した具体的戦略を提案するものである。
強みの活用: 新規販路開拓の成功には、競争優位の源泉を明確に打ち出す必要がある。C 社の源泉は、X 社からも高く評価される 「超精密・超小型加工技術」 と、顧客の要求に柔軟に対応できる 「一貫生産体制」 である。これを営業活動の中核に据えるべきである。
弱みの克服と人材育成: 販路開拓の最大の障壁は、役員 2 名に依存する脆弱な営業体制である。この経営資源の不足を補うため、単に部門を新設するだけでなく、C 社の内部資源を有効活用する。すなわち、製品と技術を最も深く理解する製造部の優秀な技術者をセールスエンジニアとして育成し、彼らを中心とした専門の技術営業部門を設立することが、最も現実的かつ効果的な解決策である。これにより、技術的優位性を顧客に直接伝えられる体制が構築される。
具体的な戦略(プッシュ戦略とプル戦略の併用):
- プル(Pull)戦略: まず、自社の技術力を広く市場に認知させ、潜在顧客側から「引き合い」が来るように仕掛ける必要がある。具体的には、公式ウェブサイトの技術情報コンテンツを充実させたり、専門技術系の展示会へ出展したりすることで、C 社の存在と技術力をアピールする。これは、顧客を「引き寄せる」プル戦略に該当する。
- プッシュ(Push)戦略: プル戦略と並行して、こちらから積極的に顧客へアプローチする活動も不可欠である。当面の最優先ターゲットとして、X 社の業務移管によって新たに直接的な接点が生まれるX 社の既存顧客に焦点を当てる。育成したセールスエンジニアが、これらの特定の顧客に対して能動的に技術提案を行う。これは、製品や技術を顧客に「押し出していく」プッシュ戦略に該当する。この両戦略を組み合わせることで、効率的かつ効果的な販路開拓が可能となる。
- 使用した経営学の知識
- リソース・ベースト・ビュー(RBV): 企業の競争優位は、その企業が持つ独自の経営資源によって決定されるという考え方である。本提案は、C 社の独自資源(技術力、一貫生産体制、技術者)を競争優位の源泉として、事業戦略を構築するアプローチに基づいている。
- マーケティング戦略(プッシュ戦略/プル戦略): プッシュ戦略は、メーカーが営業担当者などを通じて製品を積極的に顧客に売り込んでいくアプローチである。一方、プル戦略は、広告宣伝活動などを通じて最終顧客の購買意欲を喚起し、顧客側から製品を指名買いさせるように仕向けるアプローチである。C 社のような BtoB 企業では、特定のターゲットに直接アプローチするプッシュ戦略(技術提案)と、広く技術力を認知させるプル戦略(ウェブサイト、展示会)を併用することが極めて有効である。
- 人的資源管理(HRM): 外部からの人材採用だけでなく、内部の優秀な人材(技術者)を育成し、新たな役割(セールスエンジニア)を与えることで組織能力を向上させるという、戦略的な人的資源活用の考え方である。