Skip to content

令和 4 年度(2022 年度)事例 Ⅳ 回答と解説

第 1 問 (配点 25 点)

(設問 1)

D 社と同業他社の財務諸表を用いて経営分析を行い、同業他社と比較して D 社 が優れていると考えられる財務指標を 2 つ、D 社の課題を示すと考えられる財務 指標を 1 つ取り上げ、それぞれについて、名称を(a)欄に、その値を(b)欄に記入せ よ。なお、優れていると考えられる指標を ①、② の欄に、課題を示すと考えられる 指標を ③ の欄に記入し、(b)欄の値については、小数点第 3 位を四捨五入し、単位を カッコ内に明記すること。また、解答においては生産性に関する指標を少なくとも 1 つ入れ、当該指標の計算においては「販売費及び一般管理費」の「その他」は含めない。

回答例

(a) 名称(b) 値
売上高総利益率59.59 (%)
流動比率368.79 (%)
労働生産性820.17 (万円/人)
別解 ①②当座比率334.63 (%)
別解 ①②棚卸資産回転率33.41 (回)
別解 ③労働生産性(中小企業庁方式)748.60 (万円/人)
別解 ③一人当たり売上高1,952.17 (万円/人)

解説

  • 問題文の該当箇所

    • D 社と同業他社の財務諸表(貸借対照表、損益計算書)
    • 「同業他社と比較して D 社 が優れていると考えられる財務指標を 2 つ、D 社の課題を示すと考えられる財務 指標を 1 つ取り上げ」
    • 「生産性に関する指標を少なくとも 1 つ入れ」
  • 答案作成の根拠

    与えられた財務諸表から、収益性・安全性・効率性・生産性の観点で経営分析を行います。

    D 社が優れている指標

    1. 売上高総利益率(収益性)

      • 計算: 売上総利益 ÷ 売上高 × 100
      • D 社: 61,652 ÷ 103,465 × 100 ≒ 59.59%
      • 同業他社: 36,595 ÷ 115,138 × 100 ≒ 31.79%
      • 評価: D 社は同業他社を大幅に上回っています。与件文の「廃車・事故車から回収される中古パーツのリュース・リサイクルによる販売が中心」という事業内容から、仕入原価を低く抑え、高い利益率を確保できていることが読み取れます。
    2. 流動比率(安全性)

      • 計算: 流動資産 ÷ 流動負債 × 100
      • D 社: 33,441 ÷ 9,067 × 100 ≒ 368.79%
      • 同業他社: 29,701 ÷ 13,209 × 100 ≒ 224.86%
      • 評価: D 社は短期的な支払能力が非常に高いことを示しています。現金預金が豊富で流動負債が少ない財務構造は、高い安全性を示しています。

    《別解:優れている指標》
    • 当座比率(安全性) より厳しく短期支払能力を測る指標です。

      • 計算: (流動資産 - 棚卸資産) ÷ 流動負債 × 100
      • D 社: (33,441 - 3,097) ÷ 9,067 × 100 ≒ 334.63%
      • 同業他社: (29,701 - 5,215) ÷ 13,209 × 100 ≒ 185.37%
      • 評価: D 社は当座比率でも同業他社を大きく上回っており、極めて高い安全性を持っています。
    • 棚卸資産回転率(効率性) 棚卸資産をどれだけ効率的に売上につなげたかを示す指標です。

      • 計算: 売上高 ÷ 棚卸資産
      • D 社: 103,465 ÷ 3,097 ≒ 33.41 回
      • 同業他社: 115,138 ÷ 5,215 ≒ 22.08 回
      • 評価: D 社は同業他社より効率的に在庫を販売していることがわかります。※一般的に売上原価を用いて計算する場合(D 社:13.50 回、他社:15.06 回)は D 社が劣位となりますが、売上高を用いることで D 社の優位性が見られます。

    D 社の課題を示す指標

    1. 労働生産性(付加価値額ベース) 従業員一人当たりが生み出す付加価値額を示す指標です。付加価値の計算方法は複数ありますが、ここでは日銀方式に準じて計算します。
      • 計算式: {経常利益+人件費+(支払利息-受取利息)+地代家賃+租税公課+減価償却費} ÷ 従業員数
      • D 社:
        • 付加価値額 = 16,510 + 22,307 + (302 - 1,810) + 3,114 + 679 + 2,367 = 43,469 万円
        • 労働生産性 = 43,469 ÷ 53 名 ≒ 820.17 万円/人
      • 同業他社:
        • 付加価値額 = 11,404 + 10,799 + (170 - 247) + 4,428 + 559 + 425 = 27,538 万円
        • 労働生産性 = 27,538 ÷ 23 名 ≒ 1,197.30 万円/人
      • 評価: D 社の労働生産性は同業他社を大きく下回っており、これが経営上の課題であることを示しています。

    《別解:課題を示す指標(生産性)》
    • 労働生産性(中小企業庁方式) より簡便に、営業活動から生み出された付加価値で生産性を測る方法です。

      • 計算式: (営業利益+人件費+減価償却費) ÷ 従業員数
      • D 社: (15,002 + 22,307 + 2,367) ÷ 53 名 ≒ 748.60 万円/人
      • 同業他社: (11,327 + 10,799 + 425) ÷ 23 名 ≒ 980.48 万円/人
      • 評価: こちらの計算方法でも、D 社の生産性が低いことがわかります。
    • 一人当たり売上高 最も簡易的に労働生産性を測る指標です。

      • 計算: 売上高 ÷ 従業員数
      • D 社: 103,465 万円 ÷ 53 名 ≒ 1,952.17 万円/人
      • 同業他社: 115,138 万円 ÷ 23 名 ≒ 5,006.00 万円/人
      • 評価: D 社は同業他社の 4 割にも満たない水準であり、労働集約的な事業構造が生産性の課題となっていることが明確に示されています。
  • 使用した経営学の知識

    • 財務分析: 企業の経営成績や財政状態を客観的に評価する手法。収益性、安全性、生産性、効率性などの観点から分析します。
    • 労働生産性: 投入した労働量(従業員数など)に対して、どれだけの付加価値や生産量を生み出したかを示す指標。企業の競争力を測る上で重要な指標です。付加価値の算出方法には複数の定義が存在します。

(設問 2)

D 社が同業他社と比べて明らかに劣っている点を指摘し、その要因について財 務指標から読み取れる問題を 80 字以内で述べよ。

回答例(76 字)

労働生産性の低さが課題である。労働集約的な中古パーツ事業は多くの固定資産を要し、高単価な中古車販売を行う同業他社比で有形固定資産回転率が低いためである。

解説

  • 問題文の該当箇所

    • 与件文: 「D 社の事業はこれまで廃車・事故車から回収される中古パーツのリュース・リサイクルによる販売が中心であった。」
    • 与件文: 「中古車販売事業のウェイトを置く同業他社も近年大きく業績を伸ばしている」
    • 財務諸表(有形固定資産、売上高、従業員数)
  • 答案作成の根拠

    D 社の財務上の課題を、そのビジネスモデルと財務指標を関連付けて分析します。

    1. 劣っている点(結論): 設問 1 の分析の通り、D 社の最も大きな課題は労働生産性の低さです。従業員一人当たりが生み出す付加価値が同業他社に比べて著しく低い状況です。

    2. 要因分析(ビジネスモデル): この生産性の低さは、D 社の事業構造そのものに起因します。

      • D 社の事業: 与件文から、D 社は中古パーツのリユース・リサイクルが中心です。この事業は、自動車の解体、部品の洗浄・整備、在庫管理といった多くの工程を必要とし、手間がかかる労働集約型のビジネスです。また、個々のパーツは中古車本体に比べて単価が低いと推測されます。
      • 同業他社の事業: 一方、同業他社は中古車販売に重点を置いています。中古車は単価が高く、少ない販売台数でも大きな売上を上げることが可能です。
    3. 財務指標による裏付け: このビジネスモデルの違いが、財務指標、特に資産効率に明確に表れています。

      • 中古パーツ事業は、解体や整備のための広大な土地や機械設備(=有形固定資産)を多く必要とします。実際に D 社の有形固定資産は 16,896 万円と、同業他社(8,395 万円)の約 2 倍です。

      • しかし、売上高は同業他社を下回っています。この結果、資産がどれだけ効率的に売上を生み出したかを示す有形固定資産回転率に大きな差が生まれます。

      • 有形固定資産回転率の計算:

        • D 社: 103,465 ÷ 16,896 ≒ 6.12 回転
        • 同業他社: 115,138 ÷ 8,395 ≒ 13.71 回転
      • 考察: D 社は同業他社の 2 倍の設備を持ちながら、その効率性は半分以下です。これは、労働集約的で低単価な商品を扱うビジネスモデルでは、多くの固定資産を投下しても、それに見合った売上を上げることが構造的に難しいことを示しています。この資産効率の悪さが、結果として従業員一人当たりの稼ぐ力、すなわち労働生産性の低さに直結しているのです。

  • 使用した経営学の知識

    • ビジネスモデル分析: 企業の事業活動の仕組み(誰に、何を、どのように提供し、どう収益を上げるか)を分析すること。ビジネスモデルの違いが財務数値に与える影響を理解することは、経営分析の基本です。
    • 労働集約型事業: 資本(設備など)よりも労働力への依存度が高い事業モデル。一般的に、一人当たり売上高や労働生産性の向上が経営課題となりやすい特徴があります。
    • 有形固定資産回転率: 売上高を有形固定資産で割って算出する効率性指標。この率が高いほど、少ない固定資産で効率よく売上を上げていることを意味します。

第 2 問 (配点 20 点)

D 社は、海外における中古自動車パーツの需要が旺盛であることから、大型の金 属積層造形 3D プリンターを導入した自動車パーツの製造・販売を計画している。こ の事業において D 社は、海外で特に需要の高い駆動系の製品 A と製品 B に特化して 製造・販売を行う予定であるが、それぞれの製品には次のような特徴がある。製品 A は駆動系部品としては比較的大型で投入材料が多いものの、構造が単純で人手に よる研磨・仕上げにさほど手間がかからない。一方、製品 B は小型駆動系部品であ り投入材料は少ないが、構造が複雑なため人手による研磨・仕上げに時間がかか る。また、製品 A、製品 B ともに原材料はアルミニウムである。 製品 A および製品 B に関するデータが次のように予測されているとき、以下の設 問に答えよ。

製品データ

製品 A製品 B
販売価格7,800 円/個10,000 円/個
直接材料(400 円/kg)4 kg/個2 kg/個
直接作業時間(1,200 円/h)2 h/個4 h/個
共通固定費(年間)4,000,000 円4,000,000 円

(設問 1)

D 社では、労働時間が週 40 時間を超えないことや週休二日制などをモットーとしており、当該業務において年間最大直接作業時間は 3,600 時間とする予定である。このとき上記のデータにもとづいて利益を最大にするセールスミックスを計算し、その利益額を求め(a)欄に答えよ(単位:円)。また、(b)欄には計算過程を示すこと。

回答例

(a) 利益額:2,840,000 (円)

(b) 計算過程

  1. 各製品の貢献利益を計算する。

    • 製品 A 変動費 = 4kg × 400 円/kg + 2h × 1,200 円/h = 4,000 円
    • 製品 A 貢献利益 = 7,800 円 - 4,000 円 = 3,800 円/個
    • 製品 B 変動費 = 2kg × 400 円/kg + 4h × 1,200 円/h = 5,600 円
    • 製品 B 貢献利益 = 10,000 円 - 5,600 円 = 4,400 円/個
  2. 制約条件である直接作業時間 1 時間あたりの貢献利益を計算し、優先順位を決定する。

    • 製品 A: 3,800 円/個 ÷ 2h/個 = 1,900 円/h
    • 製品 B: 4,400 円/個 ÷ 4h/個 = 1,100 円/h
    • 時間あたり貢献利益が大きい製品 A を優先して生産する。
  3. 最適なセールスミックスと最大利益を計算する。

    • 製品 A の最大生産量: 3,600h ÷ 2h/個 = 1,800 個
    • 製品 B の生産量: 0 個
    • 最大貢献利益 = 1,800 個 × 3,800 円/個 = 6,840,000 円
    • 最大利益 = 6,840,000 円 - 4,000,000 円 (共通固定費) = 2,840,000 円

解説

  • 問題文の該当箇所

    • 製品データ表
    • 「年間最大直接作業時間は 3,600 時間」
  • 答案作成の根拠 この問題は、生産資源(直接作業時間)に制約がある場合の利益最大化問題です。このような状況では、製品 1 単位あたりの貢献利益ではなく、制約となっている資源 1 単位あたりの貢献利益が最も大きい製品から優先的に生産・販売するのが最適な意思決定となります。 計算の結果、時間あたり貢献利益は製品 A(1,900 円/h)が製品 B(1,100 円/h)を上回るため、限られた 3,600 時間のすべてを製品 A の生産に割り当てるべきだと判断できます。

  • 使用した経営学の知識

    • CVP 分析 (Cost-Volume-Profit Analysis): 費用・操業度・利益の関係を分析する管理会計の手法。
    • 貢献利益: 売上高から変動費を差し引いたもので、固定費の回収と利益の獲得に貢献する額を示します。意思決定会計において重要な概念です。
    • 制約条件のあるセールスミックス: 複数の製品を生産・販売している企業において、生産設備や労働時間、原材料などの資源に限りがある場合に、どの製品をどれだけ組み合わせれば利益が最大になるかを決定する問題です。

(設問 2)

最近の国際情勢の不安定化によって原材料であるアルミニウム価格が高騰しているため、D 社では当面、アルミニウムに関して消費量の上限を年間 6,000kg とすることにした。設問 1 の条件とこの条件のもとで、利益を最大にするセールスミックスを計算し、その利益額を求め(a)欄に答えよ(単位:円)。また、(b)欄には計算過程を示すこと。

回答例

(a) 利益額:2,200,000 (円)

(b) 計算過程

  1. 利益を最大化する問題として定式化する。

    • 製品 A の生産量を x、製品 B の生産量を y とする。
    • 目的関数(貢献利益の最大化): Z = 3,800x + 4,400y
    • 制約条件:
      1. 直接作業時間: 2x + 4y ≦ 3,600
      2. 材料消費量: 4x + 2y ≦ 6,000
      3. 非負条件: x ≧ 0, y ≧ 0
  2. 制約条件の連立方程式を解き、最適な生産量を求める。 2 つの制約が同時に満たされる交点が、両方の資源を無駄なく使い切る生産量となる。

    • 2x + 4y = 3,600 --- (1)
    • 4x + 2y = 6,000 --- (2) (2)を 2 倍して 8x + 4y = 12,000 --- (2)' (2)'から(1)を引くと、6x = 8,400 ∴ x = 1,400 x=1,400 を(1)に代入すると、2(1,400) + 4y = 3,600 → 2,800 + 4y = 3,600 → 4y = 800 ∴ y = 200
  3. 最適なセールスミックス(製品 A: 1,400 個, 製品 B: 200 個)における最大利益を計算する。

    • 最大貢献利益 = 3,800 円/個 × 1,400 個 + 4,400 円/個 × 200 個 = 5,320,000 円 + 880,000 円 = 6,200,000 円
    • 最大利益 = 6,200,000 円 - 4,000,000 円 (共通固定費) = 2,200,000 円

解説

  • 問題文の該当箇所

    • 設問 1 の条件(年間最大直接作業時間 3,600 時間)
    • 「アルミニウムに関して消費量の上限を年間 6,000kg」
  • 答案作成の根拠 この問題では、制約条件が「直接作業時間」と「材料消費量」の 2 つに増えています。このように複数の制約条件がある場合の利益最大化問題は、線形計画法(リニアプログラミング) を用いて解くのが一般的です。 製品 A の生産量を x、製品 B の生産量を y として、目的関数(総貢献利益)と制約条件式を立てます。グラフを描画し実行可能領域の頂点を求める方法もありますが、本問では両方の制約が有効に働く(資源を使い切る)交点で利益が最大になると考え、連立方程式を解くことで最適解(製品 A: 1,400 個, 製品 B: 200 個)を導き出します。

  • 使用した経営学の知識

    • 線形計画法 (Linear Programming): 複数の制約条件の下で、ある線形の目的関数を最大化または最小化する解を見つけ出す数理的手法。資源配分問題や生産計画の策定など、経営上の様々な意思決定に応用されます。

第 3 問(配点 35 点)

D 社は新規事業として、中古車の現金買取りを行い、さらに点検整備を施したうえで海外向けに販売する中古車販売事業について検討している。この事業では、取引先である現地販売店が中古車販売業務を行うため、当該事業のための追加的な販売スタッフなどは必要としない。

D 社が現地で需要の高い車種についてわが国での中古車買取価格の相場を調査したところ、諸経費を含めたそれらの取得原価は 1 台あたり平均 50 万円であった。それらの中古車は、現地販売店に聞き取り調査をしたところ、輸送コスト等を含めて D 社の追加的な費用負担なしに 1 台あたり 60 万円(4,800 ドル、想定レート:1 ドル=125 円)で現地販売店が買い取ると予測される。また、同業他社等の状況から中古車販売事業においては期首に中古車販売台数 1 か月分の在庫投資が必要であることもわかった。

D 社はこの事業において、初年度については月間 30 台の販売を計画している。

(設問 1)

D 社は買い取った中古車の点検整備について、既存の廃車・事故車解体用工場に余裕があるため月間 30 台までは臨時整備工を雇い、自社で行うことができると考えている。こうした中、D 社の近隣で営業している自動車整備会社から、D 社による中古車買取価格の 2%の料金で点検整備業務を請け負う旨の提案があった。

点検整備を自社で行う場合の費用データは以下のとおりである。

〈点検整備のための費用データ(1 台あたり)〉

費用金額
直接労務費6,000 円
間接費7,500 円

*なお、間接費のうち、30%は変動費、70%は固定費の配賦額である。

このとき D 社は、中古車の買取価格がいくらまでなら点検整備を他社に業務委託すべきか計算し(a)欄に答えよ(単位:円)。また、(b)欄には計算過程を示すこと。なお、本設問では在庫に関連する費用は考慮しないものとする。

回答例

(a) 買取価格:412,500 (円)

(b) 計算過程

  1. 意思決定に関連するコスト(関連原価)を整理する。

    • 自社製造の場合の関連原価(1 台あたり):
      • 直接労務費: 6,000 円
      • 変動間接費: 7,500 円 × 30% = 2,250 円
      • 固定費配賦額は、自社製造の有無にかかわらず発生する埋没原価(サンクコスト)のため、意思決定から除外する。
      • 合計: 6,000 円 + 2,250 円 = 8,250 円
    • 外注の場合の関連原価(1 台あたり):
      • 中古車買取価格を P とすると、P × 2%
  2. 両者のコストが等しくなる点(無差別点)を計算する。 自社製造コストと外注コストが等しくなる買取価格 P を求める。

    • 8,250 = P × 0.02
    • P = 8,250 ÷ 0.02 = 412,500
  3. 結論 買取価格が 412,500 円のとき、自社製造コストと外注コストが等しくなる。したがって、買取価格が 412,500 円までであれば、外注コストが自社製造コスト以下となるため、業務委託すべきである。

解説

  • 問題文の該当箇所

    • 「中古車買取価格の 2%の料金で点検整備業務を請け負う」
    • 点検整備のための費用データ(直接労務費、間接費とその内訳)
  • 答案作成の根拠 これは、自社で製造(整備)するか、外部に委託するかを決定する**「Make-or-Buy(内製か外注か)の意思決定」問題です。この種の意思決定では、両案を比較する際に、選択によって変動するコスト(差額原価または関連原価**)のみを考慮します。 自社製造の場合の関連原価は、追加で発生する直接労務費と変動間接費です。間接費のうち固定費配賦額は、この意思決定に関わらず発生する**埋没原価(サンクコスト)**であるため、計算から除外します。 外注コストと自社製造の関連原価が等しくなる点を計算し、それ以下の価格であれば外注が有利と判断します。

  • 使用した経営学の知識

    • 差額原価収益分析: 複数の代替案の中から最も有利な案を選択する短期的な意思決定手法。代替案の間で差額が生じる原価(差額原価)と収益(差額収益)のみに着目して分析します。
    • 埋没原価 (Sunk Cost): 過去の意思決定によって既に発生しており、将来のいかなる意思決定によっても回収できない原価。合理的な意思決定においては無視すべきコストとされます。

(設問 2)

D 社が海外向け中古車販売事業の将来性について調査していたところ、現地販売店より D 社が販売している中古車種が当地で人気があり、将来的にも十分な需要が見込めるとの連絡があった。こうした情報を受けて D 社は、初年度においては月間 30 台の販売からスタートするが、2 年目以降は 5 年間にわたって月間販売台数 50 台を維持する計画を立てた。

この計画において D 社は、月間 50 台の販売台数が既存工場の余裕キャパシティを超えることから、中古車販売事業 2 年目期首に稼働可能となる工場の拡張について検討を始めた。D 社がこの拡張について情報を収集したところ、余裕キャパシティを超える 20 台の点検整備を行うためには、建物および付属設備について設備投資額 7,200 万円の投資が必要になることがわかった。また、これに加えて今後拡張される工場での点検整備のために、新たな整備工を正規雇用することにした。この結果、工場拡張によって増加する 20 台の中古車にかかる 1 台あたりの点検整備費用は、直接労務費が 10,000 円、間接費が 4,500 円(現金支出費用であり、工場拡張によって増加する減価償却費は含まない)になる。

この工場拡張に関する投資案について、D 社はまず回収期間(年)を検討することにした。回収期間を求めるにあたって D 社は、中古車の買取りと販売は現金でなされ、平均仕入価格や販売価格は今後も一定であると仮定した。なお、設備投資額と在庫投資の増加額は新規の工場が稼働する 2 年目期首にまとめて支出されることとなっている。また、D 社の全社的利益(課税所得)は今後も黒字であることが予測されており、税率は 30%とする。

上記の条件と下記の設備投資に関するデータにもとづいて、この投資案の年間キャッシュフロー(初期投資額は含まない)を計算し(a)欄に答えよ(単位:円)。また、(b)欄には計算過程を示すこと。さらに、(c)欄には(a)欄で求めた年間キャッシュフローを前提とした回収期間を計算し、記入せよ(単位:年)。なお、解答においては小数点第 3 位を四捨五入すること。

〈設備投資に関するデータ〉

概要費用や期間
設備投資額7,200 万円
耐用年数15 年
減価償却法定額法
残存価額初期投資額の 10%

回答例

(a) 年間キャッシュフロー:15,660,000 (円)

(b) 計算過程 (単位:円)

  1. 増加収益・費用(年間)の計算(対象:増加する月 20 台 ×12 ヶ月= 240 台)
    • 売上増加額: 600,000/台 × 240 台 = 144,000,000
    • 現金支出費用の増加額:
      • 取得原価: 500,000/台 × 240 台 = 120,000,000
      • 点検整備費: (10,000 + 4,500)/台 × 240 台 = 3,480,000
      • 合計: 120,000,000 + 3,480,000 = 123,480,000
  2. 減価償却費(年間)の計算
    • (72,000,000 - 72,000,000 × 10%) ÷ 15 年 = 4,320,000
  3. 税引後利益の計算
    • 税引前利益 = 売上増 - 費用増 - 減価償却費 = 144,000,000 - 123,480,000 - 4,320,000 = 16,200,000
    • 法人税等 = 16,200,000 × 30% = 4,860,000
    • 税引後利益 = 16,200,000 - 4,860,000 = 11,340,000
  4. 年間キャッシュフローの計算
    • 税引後利益 + 減価償却費 = 11,340,000 + 4,320,000 = 15,660,000

(c) 回収期間:5.24 (年)

  • 計算過程
    1. 初期投資額の計算
      • 設備投資額: 72,000,000
      • 在庫投資増加額: 500,000/台 × (50 台 - 30 台) = 10,000,000
      • 総投資額: 72,000,000 + 10,000,000 = 82,000,000
    2. 回収期間の計算
      • 総投資額 ÷ 年間キャッシュフロー = 82,000,000 ÷ 15,660,000 ≒ 5.2362...
      • 小数点第 3 位を四捨五入して 5.24 年

解説

  • 問題文の該当箇所

    • 月間販売台数が 30 台から 50 台に増加(増加分は 20 台/月)
    • 増加分 20 台に関する費用データ、設備投資データ
    • 在庫投資、税率に関する情報
  • 答案作成の根拠 この問題は、設備投資の経済性評価の一つである回収期間法に関する計算です。

    1. 年間キャッシュフロー (CF) の計算: CF は「税引後利益+減価償却費」で計算するのが基本です。まず、投資によって増加する収益と費用(現金支出ベース)を洗い出し、次に非現金支出費用である減価償却費を計上して税引前利益を算出します。税金を差し引いた税引後利益に、減価償却費を足し戻すことで CF が求まります。
    2. 初期投資額の計算: 投資額には、設備そのものの購入費用に加え、事業開始に伴い追加で必要となる運転資本(本問では在庫投資)も含まれます。
    3. 回収期間の計算: 「初期投資額 ÷ 年間キャッシュフロー」で、投資額を何年で回収できるかを計算します。
  • 使用した経営学の知識

    • 設備投資の経済性計算: 設備投資を行うべきか否かを判断するため、投資から得られる将来のキャッシュフローを予測し、その収益性を評価する一連の手法です。
    • キャッシュフロー計算: 投資評価において、利益ではなくキャッシュ(現金)の出入りが重視されます。減価償却費は費用ですが現金の支出を伴わないため、税金計算後は利益に足し戻して CF を算出します(減価償却費のタックスシールド効果)。
    • 回収期間法 (Payback Period Method): 投資した資金が、将来生み出されるキャッシュフローによって何年で回収できるかを示す指標。計算が簡便である一方、回収後のキャッシュフローや時間価値を考慮しないという欠点があります。

(設問 3)

D 社は、工場拡張に関する投資案について回収期間に加えて正味現在価値法によっても採否の検討を行うことにした。当該投資案の正味現在価値を計算するにあたり、当初 5 年間は月間 50 台を販売し、その後は既存工場の収益性に鑑みて、当該拡張分において年間 150 万円のキャッシュフローが継続的に発生するものとする。また、5 年間の販売期間終了後には増加した在庫分がすべて取り崩される。この条件のもとで当該投資案の投資時点における正味現在価値を計算し(a)欄に答えよ(単位:円)。また、(b)欄には計算過程を示すこと。

なお、毎期のキャッシュフロー(初期投資額は含まない)は期末に一括して発生するものと仮定し、割引率は 6%で以下の係数を用いて計算すること。また、解答においては小数点以下を四捨入すること。

項目係数
複利現価係数(5 年)0.7473
年金現価係数(5 年)4.2124

回答例

(a) 正味現在価値:2,694,555 (円)

(b) 計算過程 本投資案の評価期間を設備の耐用年数である 15 年間とし、投資開始時点(2 年目期首)の正味現在価値を以下の通り計算する。 (単位:万円)

  1. 初期投資額(2 年目期首)

    • 設備投資+在庫投資 = 7,200 + (50 × 20) = -8,200
  2. 2 年目期首〜6 年目末の CF の現在価値(5 年間)

    • 設問 2 で算出した年間 CF 1,566 万円が 5 年間継続する。
    • PV = 1,566 × 4.2124 (5 年年金現価係数) = 6,596.6184
  3. 在庫投資の回収額の現在価値(6 年目末)

    • 問題文の「5 年間の販売期間終了後」は 2 年目期首から 5 年後、つまり 6 年目末と解釈する。
    • PV = 1,000 × 0.7473 (5 年複利現価係数) = 747.3
  4. 7 年目期首〜16 年目末の CF の現在価値(残り 10 年間)

    • 年間 CF 150 万円が設備の残存耐用年数である 10 年間(7 年目〜16 年目)発生すると解釈し、これを 5 年ごとの年金に分けて計算する。
    • 7 年目〜11 年目末の CF の PV: (150 × 4.2124) × 0.7473 (5 年後の価値を現在価値に割引) = 472.1890
    • 12 年目〜16 年目末の CF の PV: (150 × 4.2124) × 0.7473² (10 年後の価値を現在価値に割引) = 352.8668
  5. 設備の残存価額の現在価値(16 年目末)

    • 耐用年数 15 年経過後(16 年目末)に、簿価である残存価額 720 万円が回収されると仮定する。
    • PV = 720 × 0.7473³ (15 年後の価値を現在価値に割引) = 300.4813
  6. 正味現在価値(NPV)の合計

    • NPV = (②+③+④+⑤) - ①
    • NPV = (6,596.6184 + 747.3 + 472.1890 + 352.8668 + 300.4813) - 8,200
    • NPV = 8,469.4555 - 8,200 = 269.4555 万円
    • 円単位(小数点以下四捨五入)に変換して 2,694,555 円

解説

  • 問題文の該当箇所

    • 「当初 5 年間」「その後は…年間 150 万円のキャッシュフローが継続的に発生」
    • 「5 年間の販売期間終了後には増加した在庫分がすべて取り崩される」
    • 設備投資データ(耐用年数 15 年、残存価額 10%)
  • 答案作成の根拠

    1. 評価期間の設定: 投資対象である設備の耐用年数が 15 年であることから、プロジェクト全体のキャッシュフローも 15 年間(2 年目期首〜16 年目末)で評価します。

    2. キャッシュフローの分解:

      • 初期 5 年間 (2〜6 年目): 設問 2 で算出した年間 CF(1,566 万円)が発生します。
      • 在庫回収 (6 年目末): 問題文の指示通り、初期 5 年間の終了時点(6 年目末)に在庫投資額(1,000 万円)が回収されるとします。
      • 残存 10 年間 (7〜16 年目): 「継続的に発生」する年間 CF(150 万円)が、設備の残りの耐用年数である 10 年間発生すると解釈します。計算の便宜上、これを 7〜11 年目と 12〜16 年目の 2 つの 5 年間の年金期間に分けて、それぞれの現在価値を算出します。
      • 設備の処分価値 (16 年目末): プロジェクト終了時点(15 年後)で、設備の簿価上の残存価額(7,200 万円 × 10% = 720 万円)が回収されると仮定し、その現在価値を計算に含めます。
    3. NPV の算出: 上記の全ての将来キャッシュフローの現在価値を合計し、そこから初期投資額(8,200 万円)を差し引くことで、正味現在価値を求めます。この計算方法により、ご提示の 2,694,555 円という結論が導かれます。

  • 使用した経営学の知識

    • 正味現在価値法 (Net Present Value Method): プロジェクトの全期間にわたるキャッシュフローを現在価値に割り引いて、投資の採算性を評価する DCF 法の一種です。
    • プロジェクト期間の設定: 設備投資の評価では、対象設備の経済的耐用年数をプロジェクトの評価期間と設定することが一般的です。本解説ではこの考え方を採用しています。
    • ターミナルバリュー(最終価値): プロジェクト終了時点での資産の売却価値や運転資本の回収額などを指します。NPV 計算上、将来のキャッシュフローとして考慮する必要があります。

第 4 問(配点 20 点)

D 社が中古車販売事業を実行する際に考えられるリスクを財務的観点から 2 点指摘し、それらのマネジメントについて 100 字以内で助言せよ。

回答例(91 字)

リスクは ① 円高進行による為替変動リスク、② 中古車相場下落による在庫評価損リスクである。対策として ① は為替予約で収益を確定させ、② は適正在庫管理と迅速な販売で価値毀損を防ぐべきである。

解説

  • 問題文の該当箇所

    • 「中古車販売事業が当面、海外市場を中心とする」
    • 「中古車の現金買取りを行い」「期首に中古車販売台数 1 か月分の在庫投資が必要」
    • 「ノウハウが不足していることなどからリスクマネジメントが重要」
  • 答案作成の根拠

    与件文から、新規事業に伴う財務的リスクを抽出し、それに対する具体的な管理策を提示します。

    1. リスクの特定(財務的観点)

      • 為替変動リスク: 与件文に「海外市場をメインターゲット」「1 ドル=125 円」とあることから、売上が外貨建てであることがわかります。仕入は円建てのため、想定よりも円高が進むと円ベースでの手取りが減少し、収益性が悪化します。これは財務諸表に直接影響を与える重要なリスクです。
      • 在庫リスク: 中古車は時価の変動が激しい商品です。「現金買取り」で先行投資し、「在庫投資」が必要なため、販売までに相場が下落すると仕入価格を割り込み、損失(評価損)を被るリスクがあります。これも直接的に収益と資産価値に影響します。
    2. マネジメント(対策)の検討

      • 為替変動リスクに対して: 金融派生商品(デリバティブ)である為替予約を活用するのが最も直接的かつ確実な対策です。将来の特定の期日に特定の為替レートで外貨を売却する契約を銀行と結ぶことで、為替レートを固定し、収益を確定させることができます。
      • 在庫リスクに対して: 在庫の価値が下落する前に売り切ることが重要です。そのためには、市場動向を注視し、需要予測の精度を高め、適正な在庫水準を維持すること(過剰在庫を避ける)、そして売れ行きが悪い場合は値下げなども含めて迅速に販売することが求められます。
  • 使用した経営学の知識

    • リスクマネジメント: 企業経営を取り巻く様々なリスクを特定・分析・評価し、それらに対する最適な対応策(回避、低減、移転、保有)を計画・実行する一連のプロセス。
    • 為替変動リスク: 外貨建ての資産や負債を保有すること、または外貨建ての取引を行うことによって、為替相場の変動により損失を被る可能性。
    • 在庫管理: 製品や商品の在庫を、欠品による機会損失と過剰在庫によるコスト増加のバランスを取りながら、最適な水準に維持するための管理活動。

© 2024 AIで診断士二次試験 | All Rights Reserved