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令和 4 年度(2022 年度)事例 Ⅳ 解答解説
第 1 問 (配点 25 点)
(設問 1)
①:優れている指標
- (a) 売上高総利益率
- (b) 59.59 (%) (計算過程: 61,652 ÷ 103,465
100 = 59.585...)
②:優れている指標
- (a) 流動比率
- (b) 368.79 (%) (計算過程: 33,441 ÷ 9,067
100 = 368.787...)
③:課題を示す指標
- (a) 労働生産性
- (b) 820.17 (万円/人) (計算過程: 付加価値額 43,469 万円 ÷ 53 人 = 820.169...) ( 日銀方式 ※付加価値額=経常利益+人件費+支払利息-受取利息+地代家賃+租税公課+減価償却費)
別解:優れている指標 (安全性)
- (a) 当座比率
- (b) 334.66 (%)
- 計算:
- D 社: (流動資産 33,441 - 棚卸資産 3,097) ÷ 流動負債 9,067
100 = 334.66... - 同業他社: (29,701 - 5,215) ÷ 13,209
100 = 185.37...
- D 社: (流動資産 33,441 - 棚卸資産 3,097) ÷ 流動負債 9,067
- 評価: 流動比率よりも厳しく短期支払能力を測る当座比率においても、D 社は同業他社を圧倒しており、極めて高い安全性を示している。
別解:優れている指標 (効率性)
- (a) 棚卸資産回転率
- (b) 33.41 (回)
- 計算:
- D 社: 売上高 103,465 ÷ 棚卸資産 3,097 = 33.408...
- 同業他社: 売上高 115,138 ÷ 棚卸資産 5,215 = 22.078...
- 評価: 売上高を基準にすると、D 社は同業他社より効率的に在庫を販売に繋げていると評価できる。
別解:課題を示す指標
- (a) 労働生産性
- (b) 748.60 (万円/人)
- 計算:
- 付加価値額 = 営業利益 + 人件費 + 減価償却費
- D 社: (15,002 + 22,307 + 2,367) = 39,676 万円
- 労働生産性 = 39,676 万円 ÷ 53 人 = 748.603...
- 同業他社: (11,327 + 10,799 + 425) = 22,551 万円
- 労働生産性 = 22,551 万円 ÷ 23 人 = 980.478...
- 評価: より簡便な 中小企業庁方式 で計算した場合でも、D 社の労働生産性は同業他社を下回っており、課題であることがわかる。
- (a) 一人当たり売上高
- (b) 1,952.17 (万円/人)
- 計算:
- D 社: 売上高 103,465 万円 ÷ 53 人 = 1,952.169...
- 同業他社: 売上高 115,138 万円 ÷ 23 人 = 5,006.00...
- 評価: 最も簡易的な生産性指標である一人当たり売上高で比較すると、D 社は同業他社の 4 割にも満たない水準である。これは、設問 2 で分析した「労働集約型」のビジネスモデルが要因であり、生産性が低いという課題を明確に示している。
(設問 2)
D 社が同業他社と比べて明らかに劣っている点を指摘し、その要因について財 務指標から読み取れる問題を 80 字以内で述べよ。
回答例(76 字)
労働生産性の低さが課題である。労働集約的な中古パーツ事業は多くの固定資産を要し、高単価な中古車販売を行う同業他社比で有形固定資産回転率が低いためである。
解説
問題文の該当箇所
- 与件文: 「D 社の事業はこれまで廃車・事故車から回収される中古パーツのリュース・リサイクルによる販売が中心であった。」
- 与件文: 「中古車販売事業のウェイトを置く同業他社も近年大きく業績を伸ばしている」
- 財務諸表(有形固定資産、売上高、従業員数)
答案作成の根拠
D 社の財務上の課題を、そのビジネスモデルと財務指標を関連付けて分析する。
劣っている点(結論): 設問 1 の分析の通り、D 社の最も大きな課題は労働生産性の低さである。従業員一人当たりが生み出す付加価値が同業他社に比べて著しく低い状況である。
要因分析(ビジネスモデル): この生産性の低さは、D 社の事業構造そのものに起因する。
- D 社の事業: 与件文から、D 社は中古パーツのリユース・リサイクルが中心である。この事業は、自動車の解体、部品の洗浄・整備、在庫管理といった多くの工程を必要とし、手間がかかる労働集約型のビジネスである。また、個々のパーツは中古車本体に比べて単価が低いと推測される。
- 同業他社の事業: 一方、同業他社は中古車販売に重点を置いている。中古車は単価が高く、少ない販売台数でも大きな売上を上げることが可能である。
財務指標による裏付け: このビジネスモデルの違いが、財務指標、特に資産効率に明確に表れている。
中古パーツ事業は、解体や整備のための広大な土地や機械設備(=有形固定資産)を多く必要とする。実際に D 社の有形固定資産は 16,896 万円と、同業他社(8,395 万円)の約 2 倍である。
しかし、売上高は同業他社を下回っている。この結果、資産がどれだけ効率的に売上を生み出したかを示す有形固定資産回転率に大きな差が生まれる。
有形固定資産回転率の計算:
- D 社: 103,465 ÷ 16,896 ≒ 6.12 回転
- 同業他社: 115,138 ÷ 8,395 ≒ 13.71 回転
考察: D 社は同業他社の 2 倍の設備を持ちながら、その効率性は半分以下である。これは、労働集約的で低単価な商品を扱うビジネスモデルでは、多くの固定資産を投下しても、それに見合った売上を上げることが構造的に難しいことを示している。この資産効率の悪さが、結果として従業員一人当たりの稼ぐ力、すなわち労働生産性の低さに直結しているのである。
使用した経営学の知識
- ビジネスモデル分析: 企業の事業活動の仕組み(誰に、何を、どのように提供し、どう収益を上げるか)を分析すること。ビジネスモデルの違いが財務数値に与える影響を理解することは、経営分析の基本である。
- 労働集約型事業: 資本(設備など)よりも労働力への依存度が高い事業モデル。一般的に、一人当たり売上高や労働生産性の向上が経営課題となりやすい特徴がある。
- 有形固定資産回転率: 売上高を有形固定資産で割って算出する効率性指標。この率が高いほど、少ない固定資産で効率よく売上を上げていることを意味する。
第 2 問 (配点 20 点)
(設問 1)
D 社では、労働時間が週 40 時間を超えないことや週休二日制などをモットーとしており、当該業務において年間最大直接作業時間は 3,600 時間とする予定である。このとき上記のデータにもとづいて利益を最大にするセールスミックスを計算し、その利益額を求め(a)欄に答えよ(単位:円)。また、(b)欄には計算過程を示すこと。
(a)利益額:
2,840,000 (円)
(b) 計算過程(答案用紙用)
- 製品 A の貢献利益= 7,800-(4×400 + 2×1,200)= 3,800 円
- 製品 B の貢献利益= 10,000-(2×400 + 4×1,200)= 4,400 円
- 時間当たり貢献利益は A = 1,900 円、B = 1,100 円で A を優先。
- 3,600h÷2 = 1,800 個生産し、貢献利益= 1,800×3,800 = 6,840,000 円。
- 最大利益= 6,840,000-4,000,000 = 2,840,000 円。
(b) 計算過程(解説用)
各製品の貢献利益を計算する。
- 製品 A 変動費 = 4kg × 400 円/kg + 2h × 1,200 円/h = 4,000 円
- 製品 A 貢献利益 = 7,800 円 - 4,000 円 = 3,800 円/個
- 製品 B 変動費 = 2kg × 400 円/kg + 4h × 1,200 円/h = 5,600 円
- 製品 B 貢献利益 = 10,000 円 - 5,600 円 = 4,400 円/個
制約条件である直接作業時間 1 時間あたりの貢献利益を計算し、優先順位を決定する。
- 製品 A: 3,800 円/個 ÷ 2h/個 = 1,900 円/h
- 製品 B: 4,400 円/個 ÷ 4h/個 = 1,100 円/h
- 時間あたり貢献利益が大きい製品 A を優先して生産する。
最適なセールスミックスと最大利益を計算する。
- 製品 A の最大生産量: 3,600h ÷ 2h/個 = 1,800 個
- 製品 B の生産量: 0 個
- 最大貢献利益 = 1,800 個 × 3,800 円/個 = 6,840,000 円
- 最大利益 = 6,840,000 円 - 4,000,000 円 (共通固定費) = 2,840,000 円
(設問 2)
最近の国際情勢の不安定化によって原材料であるアルミニウム価格が高騰しているため、D 社では当面、アルミニウムに関して消費量の上限を年間 6,000kg とすることにした。設問 1 の条件とこの条件のもとで、利益を最大にするセールスミックスを計算し、その利益額を求め(a)欄に答えよ(単位:円)。また、(b)欄には計算過程を示すこと。
(a) 利益額
2,200,000 (円)
(b) 計算過程(答案用紙用)
- Z = 3,800x + 4,400y を最大化、制約:2x + 4y≦3,600、4x + 2y≦6,000、x,y≧0。
- 連立(2x + 4y = 3,600, 4x + 2y = 6,000)より y = 200、x = 1,400。
- 可行域内での最適点は交点(x,y)=(1,400,200)。
- 最大貢献利益= 3,800×1,400 + 4,400×200 = 6,200,000 円。
- 最大利益= 6,200,000-4,000,000 = 2,200,000 円。
(b) 計算過程(解説用)
利益を最大化する問題として定式化する。
- 製品 A の生産量を x、製品 B の生産量を y とする。
- 目的関数(貢献利益の最大化): Z = 3,800x + 4,400y
- 制約条件:
- 直接作業時間: 2x + 4y ≦ 3,600
- 材料消費量: 4x + 2y ≦ 6,000
- 非負条件: x ≧ 0, y ≧ 0
制約条件の連立方程式を解き、最適な生産量を求める。 2 つの制約が同時に満たされる交点が、両方の資源を無駄なく使い切る生産量となる。
- 2x + 4y = 3,600 --- (1)
- 4x + 2y = 6,000 --- (2) (2)を 2 倍して 8x + 4y = 12,000 --- (2)' (2)'から(1)を引くと、6x = 8,400 ∴ x = 1,400 x=1,400 を(1)に代入すると、2(1,400) + 4y = 3,600 → 2,800 + 4y = 3,600 → 4y = 800 ∴ y = 200
最適なセールスミックス(製品 A: 1,400 個, 製品 B: 200 個)における最大利益を計算する。
- 最大貢献利益 = 3,800 円/個 × 1,400 個 + 4,400 円/個 × 200 個 = 5,320,000 円 + 880,000 円 = 6,200,000 円
- 最大利益 = 6,200,000 円 - 4,000,000 円 (共通固定費) = 2,200,000 円
第 3 問(配点 35 点)
(設問 1)
D 社は、中古車の買取価格がいくらまでなら点検整備を他社に業務委託すべきか計算し(a)欄に答えよ(単位:円)。また、(b)欄には計算過程を示すこと。なお、本設問では在庫に関連する費用は考慮しないものとする。
回答例
(a) 買取価格
412,500 (円)
(b) 計算過程(答案用紙用)
- 関連原価(内製)= 6,000 + 7,500×30%= 8,250 円(固定費配賦は埋没原価として除外)。
- 関連原価(外注)= 0.02P。
- 無差別点:8,250 = 0.02P → P = 412,500 円。
- 結論:P≤412,500 円なら外注の方が安く業務委託を選択。
- P > 412,500 円なら自社製造が有利。
(b) 計算過程(解説用)
意思決定に関連するコスト(関連原価)を整理する。
- 自社製造の場合の関連原価(1 台あたり):
- 直接労務費: 6,000 円
- 変動間接費: 7,500 円 × 30% = 2,250 円
- 固定費配賦額は、自社製造の有無にかかわらず発生する埋没原価(サンクコスト)のため、意思決定から除外する。
- 合計: 6,000 円 + 2,250 円 = 8,250 円
- 外注の場合の関連原価(1 台あたり):
- 中古車買取価格を P とすると、P × 2%
- 自社製造の場合の関連原価(1 台あたり):
両者のコストが等しくなる点(無差別点)を計算する。 自社製造コストと外注コストが等しくなる買取価格 P を求める。
- 8,250 = P × 0.02
- P = 8,250 ÷ 0.02 = 412,500
結論 買取価格が 412,500 円のとき、自社製造コストと外注コストが等しくなる。したがって、買取価格が 412,500 円までであれば、外注コストが自社製造コスト以下となるため、業務委託すべきである。
(設問 2)
この投資案の年間キャッシュフロー(初期投資額は含まない)を計算し(a)欄に答えよ(単位:円)。また、(b)欄には計算過程を示すこと。さらに、(c)欄には(a)欄で求めた年間キャッシュフローを前提とした回収期間を計算し、記入せよ(単位:年)。なお、解答においては小数点第 3 位を四捨五入すること。
回答例
(a) 年間キャッシュフロー
15,660,000 (円)
(b) 計算過程(答案用紙用)
- 売上増= 600,000×240 = 144,000,000
- 費用増= 500,000×240 +(10,000 + 4,500)×240 = 123,480,000
- 減価償却費=(72,000,000-10%×72,000,000)÷15 = 4,320,000
- 税引後利益= 144,000,000-123,480,000-4,320,000 = 16,200,000→ 税 30%= 4,860,000→11,340,000
- 年間 CF =税引後利益 11,340,000 +減価償却費 4,320,000 = 15,660,000
(b) 計算過程(解説用)
(単位:円)
- 増加収益・費用(年間)の計算(対象:増加する月 20 台 ×12 ヶ月= 240 台)
- 売上増加額: 600,000/台 × 240 台 = 144,000,000
- 現金支出費用の増加額:
- 取得原価: 500,000/台 × 240 台 = 120,000,000
- 点検整備費: (10,000 + 4,500)/台 × 240 台 = 3,480,000
- 合計: 120,000,000 + 3,480,000 = 123,480,000
- 減価償却費(年間)の計算
- (72,000,000 - 72,000,000 × 10%) ÷ 15 年 = 4,320,000
- 税引後利益の計算
- 税引前利益 = 売上増 - 費用増 - 減価償却費 = 144,000,000 - 123,480,000 - 4,320,000 = 16,200,000
- 法人税等 = 16,200,000 × 30% = 4,860,000
- 税引後利益 = 16,200,000 - 4,860,000 = 11,340,000
- 年間キャッシュフローの計算
- 税引後利益 + 減価償却費 = 11,340,000 + 4,320,000 = 15,660,000
(c) 回収期間
5.24 (年)
- 計算過程(解説用)
- 初期投資額の計算
- 設備投資額: 72,000,000
- 在庫投資増加額: 500,000/台 × (50 台 - 30 台) = 10,000,000
- 総投資額: 72,000,000 + 10,000,000 = 82,000,000
- 回収期間の計算
- 総投資額 ÷ 年間キャッシュフロー = 82,000,000 ÷ 15,660,000 ≒ 5.2362...
- 小数点第 3 位を四捨五入して 5.24 年
- 初期投資額の計算
(設問 3)
当該投資案の投資時点における正味現在価値を計算し(a)欄に答えよ(単位:円)。また、(b)欄には計算過程を示すこと。
回答例
(a) 正味現在価値
2,694,555 (円)
(b) 計算過程(答案用紙用)
- 初期投資(2 年目期首)= −8,200(万円)
- 2〜6 年 CF の現在価値= 1,566×4.2124 = 6,596.6184、在庫回収 PV = 1,000×0.7473 = 747.3
- 7〜11 年 CF PV =(150×4.2124)×0.7473 = 472.1890、12〜16 年 CF PV =…×0.7473² = 352.8668、残存価額 PV = 720×0.7473³ = 300.4813
- PV 合計= 6,596.6184 + 747.3 + 472.1890 + 352.8668 + 300.4813 = 8,469.4555(万円)
- NPV = 8,469.4555−8,200 = 269.4555(万円)= 2,694,555 円
(b) 計算過程(解説用)
本投資案の評価期間を設備の耐用年数である 15 年間とし、投資開始時点(2 年目期首)の正味現在価値を以下の通り計算する。 (単位:万円)
初期投資額(2 年目期首)
- 設備投資+在庫投資 = 7,200 + (50 × 20) = -8,200
2 年目期首〜6 年目末の CF の現在価値(5 年間)
- 設問 2 で算出した年間 CF 1,566 万円が 5 年間継続する。
- PV = 1,566 × 4.2124 (5 年年金現価係数) = 6,596.6184
在庫投資の回収額の現在価値(6 年目末)
- 問題文の「5 年間の販売期間終了後」は 2 年目期首から 5 年後、つまり 6 年目末と解釈する。
- PV = 1,000 × 0.7473 (5 年複利現価係数) = 747.3
7 年目期首〜16 年目末の CF の現在価値(残り 10 年間)
- 年間 CF 150 万円が設備の残存耐用年数である 10 年間(7 年目〜16 年目)発生すると解釈し、これを 5 年ごとの年金に分けて計算する。
- 7 年目〜11 年目末の CF の PV: (150 × 4.2124) × 0.7473 (5 年後の価値を現在価値に割引) = 472.1890
- 12 年目〜16 年目末の CF の PV: (150 × 4.2124) × 0.7473² (10 年後の価値を現在価値に割引) = 352.8668
設備の残存価額の現在価値(16 年目末)
- 耐用年数 15 年経過後(16 年目末)に、簿価である残存価額 720 万円が回収されると仮定する。
- PV = 720 × 0.7473³ (15 年後の価値を現在価値に割引) = 300.4813
正味現在価値(NPV)の合計
- NPV = (②+③+④+⑤) - ①
- NPV = (6,596.6184 + 747.3 + 472.1890 + 352.8668 + 300.4813) - 8,200
- NPV = 8,469.4555 - 8,200 = 269.4555 万円
- 円単位(小数点以下四捨五入)に変換して 2,694,555 円
第 4 問(配点 20 点)
D 社が中古車販売事業を実行する際に考えられるリスクを財務的観点から 2 点指摘し、それらのマネジメントについて 100 字以内で助言せよ。
回答例(91 字)
リスクは ① 円高進行による為替変動リスク、② 中古車相場下落による在庫評価損リスクである。対策として ① は為替予約で収益を確定させ、② は適正在庫管理と迅速な販売で価値毀損を防ぐべきである。
解説
問題文の該当箇所
- 「中古車販売事業が当面、海外市場を中心とする」
- 「中古車の現金買取りを行い」「期首に中古車販売台数 1 か月分の在庫投資が必要」
- 「ノウハウが不足していることなどからリスクマネジメントが重要」
答案作成の根拠
与件文から、新規事業に伴う財務的リスクを抽出し、それに対する具体的な管理策を提示する。
リスクの特定(財務的観点)
- 為替変動リスク: 与件文に「海外市場をメインターゲット」「1 ドル=125 円」とあることから、売上が外貨建てであることがわかる。仕入は円建てのため、想定よりも円高が進むと円ベースでの手取りが減少し、収益性が悪化する。これは財務諸表に直接影響を与える重要なリスクである。
- 在庫リスク: 中古車は時価の変動が激しい商品である。「現金買取り」で先行投資し、「在庫投資」が必要なため、販売までに相場が下落すると仕入価格を割り込み、損失(評価損)を被るリスクがある。これも直接的に収益と資産価値に影響する。
マネジメント(対策)の検討
- 為替変動リスクに対して: 金融派生商品(デリバティブ)である為替予約を活用するのが最も直接的かつ確実な対策である。将来の特定の期日に特定の為替レートで外貨を売却する契約を銀行と結ぶことで、為替レートを固定し、収益を確定させることができる。
- 在庫リスクに対して: 在庫の価値が下落する前に売り切ることが重要である。そのためには、市場動向を注視し、需要予測の精度を高め、適正な在庫水準を維持すること(過剰在庫を避ける)、そして売れ行きが悪い場合は値下げなども含めて迅速に販売することが求められる。
使用した経営学の知識
- リスクマネジメント: 企業経営を取り巻く様々なリスクを特定・分析・評価し、それらに対する最適な対応策(回避、低減、移転、保有)を計画・実行する一連のプロセス。
- 為替変動リスク: 外貨建ての資産や負債を保有すること、または外貨建ての取引を行うことによって、為替相場の変動により損失を被る可能性。
- 在庫管理: 製品や商品の在庫を、欠品による機会損失と過剰在庫によるコスト増加のバランスを取りながら、最適な水準に維持するための管理活動。