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令和 7 年度(2025 年度)事例 Ⅲ 解答解説
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令和 7 年度添削プロンプトリンク
令和 7 年度解答解説リンク
第 1 問(配点 20 点)
設問文
C 社の(a)強みと(b)弱みについて、それぞれ 60 字以内で述べよ。
⒜ 強み
回答例(58 字)
X 社から原紙を安定調達でき、建築用でコンクリートのはくりやすさ等が評価され、再生紙使用で循環型社会に貢献している点。
解説
- 問題文の該当箇所
- 「原紙は、現在も X 社から安定的に仕入れることができている。」
- 「建築用は、...コンクリート凝固後のはくりやすさやすべりやすさが顧客から評価されている。」
- 「C 社製品の原料紙は現在ほとんどが再生紙であり、...C 社は循環型社会の一翼を担っているともいえる。」
- 答案作成の根拠 与件文から C 社の競争優位性や機会となり得る内部・外部要因を抽出する。具体的には、① 仕入先 X 社との長年の良好な関係による「原紙の安定調達力」、② 建築用製品における「技術的な優位性(顧客からの評価)」、③ 再生紙利用による「サステナビリティ・循環型社会への貢献」が挙げられる。これらを 60 字以内にまとめる。
- 使用した経営学の知識
- SWOT 分析(強み): 企業の内部環境における長所を分析するフレームワーク。ここでは、安定した仕入れルート、特定の製品分野での技術的評価、社会的要請(サステナビリティ)への適合性を強みとして特定した。
- コア・コンピタンス: 競合他社に真似されにくい、企業の中核的な強み。X 社との関係性や建築用でのノウハウはこれに近い。
⒝ 弱み
回答例(55 字)
作業が属人化し技術承継が進まず、品質ばらつきやクレームが増加。品質管理体制や原料紙の在庫管理も不十分である点。
解説
- 問題文の該当箇所
- 「作業方法はベテラン作業者の経験に頼るものが多く、...技術やスキルの承継が課題となっている。」
- 「接着剤の塗布方法や成型機の巻き取り方法の相違による...品質のばらつきが最近問題となっており、顧客からのクレームが増加している。」
- 「クレームや不適合品発生の記録、その原因追及、再発防止までは手が回っていない。」
- 「原料紙が不足した際の原料紙待ちによる作業停滞もしばしば発生している。」
- 答案作成の根拠 与件文の「生産の現状」から、C 社が抱える内部的な問題点を抽出する。主な問題点として、① ベテラン依存による「作業の属人化と技術承継の課題」、② それに起因する「品質のばらつきとクレーム増加」、③ クレーム対応のみで「原因究明・再発防止体制の欠如」、④ 場当たり的な発注による「原料紙の欠品(在庫管理不備)」が挙げられる。これらを 60 字以内にまとめる。
- 使用した経営学の知識
- SWOT 分析(弱み): 企業の内部環境における短所を分析するフレームワーク。ここでは、生産管理(工程管理、品質管理、在庫管理)や組織(技術承継)における課題を弱みとして特定した。
- QCD (Quality, Cost, Delivery): 製造業の管理指標。C 社は品質(ばらつき、クレーム)、納期(作業停滞、残業)の両面で問題を抱えている。
第 2 問(配点 30 点)
設問文
C 社経営者は、収益性強化のため製造に関してのコストダウンに取り組む方針である。そのために特に重要と思われる課題を 2 つあげ、各課題に対しての改善策とともにそれぞれ 60 字以内で述べよ。
課題と改善策 1
回答例(59 字)
課題:機械セット時の立ち上がりロス発生。改善策:ベテランの作業を IE 手法で分析し、標準化、OJT によりロスを削減する。
解説
- 問題文の該当箇所
- 「原料紙の機械セットに際して立ち上がりロスによるムダも生じている。」
- 「作業方法はベテラン作業者の経験と勘によるものが多く、...技術やスキルの承継が必ずしもうまくいっていない」
- 答案作成の根拠 与件文には、コストダウンの直接的な対象として「立ち上がりロスによるムダ」が明記されている。この原因は、作業が「ベテラン作業者の経験と勘」に依存し、技術承継が進んでいないことにある。 改善策として、まず IE(インダストリアル・エンジニアリング)の手法(動作分析や時間研究など) を用いて、ベテランの効率的な作業を科学的に分析する。その分析結果から最も効率的でロスの少ない作業方法を「作業標準書」として確立(標準化)する。そして、その標準書を用いて OJT(On-the-Job Training) を実施し、全作業者に技術承継を進め、組織的なロス削減(コストダウン)を図る。
- 使用した経営学の知識
- IE(インダストリアル・エンジニアリング): 動作分析や時間研究といった科学的手法を用いて、最も効率的な作業方法(標準作業)を追求する技術。
- 作業標準化: 属人化を排除し、IE などで導き出された最適な作業方法を定め、全員が遵守できるようにすること。
- OJT (On-the-Job Training): 確立された標準に基づき、実際の作業を通じて技術やスキルを伝承する教育訓練手法。
課題と改善策 2
回答例(57 字)
課題:品質ばらつきによるクレームと再納品。改善策:QC サークル活動や特性要因図等で原因を究明し不良発生を抑制する。
解説
- 問題文の該当箇所
- 「品質のばらつきが最近問題となっており、顧客からのクレームが増加している。」
- 「作り直して再納品しているが、クレームや不適合品発生の記録、その原因追及、再発防止までは手が回っていない。」
- 答案作成の根拠 品質ばらつきによる「作り直し(再納品)」は、材料費、労務費、工数を直接的に浪費する重大なコスト増要因である。与件文では、この問題に対して「原因究明、再発防止」ができていないことが根本的な課題として指摘されている。 したがって、改善策としては、現場主導の「 QC サークル活動 」を導入し、 QC 七つ道具(特に「特性要因図」など) を用いて品質ばらつきの真因を科学的に究明する体制を構築することが有効である。これにより、場当たり的な対応を脱し、不良の発生そのものを抑制し、コストダウンにつなげる。
- 使用した経営学の知識
- 品質コスト(失敗コスト): クレーム対応や「作り直し」にかかるコストであり、これを削減することが直接的なコストダウンとなる。
- QC サークル活動: 現場の作業者が主体的に品質改善に取り組むボトムアップ型の小集団活動。
- QC 七つ道具(特性要因図): 品質のばらつきといった問題(特性)とその要因との関係を整理するための分析ツール。「原因究明」に直結する。
第 3 問(配点 20 点)
設問文
C 社では、繰り返し受注頻度の多い一部製品の在庫を保有して見込み生産を行うか検討してきたが、経営者は経営上のリスクに鑑み、製品在庫をもたず納期に対応できる工程管理の改善を進めることとした。それを実現するために必要な対応策について、100 字以内で助言せよ。
回答例(99 字)
毎週末の週次計画立案時に、特急受注用の余力枠を予め確保する。特急受注発生時の優先順位付けなどの計画変更ルールを明確にし、紙のメモではなくリアルタイムで指示を共有する仕組みを導入し、工程の混乱を防ぐ。
解説
問題文の該当箇所
- 「経営者は...製品在庫をもたず納期に対応できる工程管理の改善を進めることとした。」
- 「毎週末に次週の発注が確定される。」
- 「工場長が毎週末に次週の週次製造計画を作成し、ホワイトボードに記載して製造指示を行う。」
- 「特急受注が全受注件数の 1 割程度あり、紙のメモで作業担当者に指示され、そのたびに工程の混乱の要因となっている。」
答案作成の根拠
見込み生産を行わず受注生産のまま納期対応力(残業削減)を高めるためには、与件文で「混乱の要因」と指摘されている特急受注への対応力強化が鍵となる。
現状では「毎週末」に計画を作成しているが、週の途中で発生する特急受注(1 割)への対応が「紙のメモ」によって場当たり的に行われ、工程の混乱を招いている。対策として、
- ① 毎週末の計画立案時に、特急受注に対応するためのバッファ(余力枠)を生産能力にあらかじめ持たせること。
- ② 特急受注発生時の優先順位付けなど計画変更ルールを明確にすること。
- ③ 指示方法を「紙のメモ」からリアルタイムで共有できる仕組み(例:簡易な生産管理システムやデジタルサイネージ)へ変更し、工程の混乱を防ぐことが求められる。
使用した経営学の知識
- 生産計画(スケジューリング): 変動(特急受注)に対応できる柔軟な生産計画の立案である。
- 生産の柔軟性(フレキシビリティ): 特急受注などの変動に対して工程を混乱させずに対応できる能力であり、バッファ(余力)の設定はその一環である。
- 情報の可視化: ホワイトボードや紙のメモによる指示の限界を認識し、情報共有の仕組みを改善することが重要である。
第 4 問(配点 30 点)
設問文
C 社では、新事業展開として食品用や医療用の紙パイプ製品への参入を検討している。それを実現するために必要な社内の取り組みについて、120 字以内で助言せよ。
回答例(116 字)
① 食品・医療用の厳格な品質基準に対応する専任の品質保証体制を構築し、検査・記録管理、原因究明、再発防止を徹底する。② 営業が顧客の技術的要求を正確に把握し、製造と迅速に連携し、新たな仕様に対応した工程設計と標準化を行う体制を整備する。
解説
問題文の該当箇所
- 「食品用や医療用の紙パイプ製品への参入を模索している。」
- 「新たな顧客が求める厳格な品質基準に対応する必要がある。」
- 「サイズや強度などの仕様は異なり、従来製品と異なるところもある。」
- (弱み)「クレームや不適合品発生の記録、その原因追及、再発防止までは手が回っていない。」
- (弱み)「作業方法はベテラン作業者の経験と勘によるものが多く、技術やスキルの承継が必ずしもうまくいっていない。」
答案作成の根拠
新事業(食品・医療用)の成否は、与件文に明記されている「厳格な品質基準への対応」と「新たな仕様への対応」にかかっている。- 品質保証体制の構築:
現状(クレームの原因究明・再発防止が不十分)では、高度な管理が求められる新事業には対応できない。食品・医療分野の要求に応えるためには、専任組織の設置や検査・記録管理の徹底に加え、弱みである「原因究明・再発防止」のプロセスを確立することが必須である。 - 営業と製造の連携(技術営業)の強化:
「仕様が異なる」ため、顧客の専門的な要求を営業が正確に把握し、製造部門と迅速に連携させて工程設計に反映させる仕組みが必要である。さらに、現状の「経験と勘」に依存する作業方法では新仕様に対応できないため、確立した工程を「標準化」し、組織的対応力を整備することが不可欠である。
- 品質保証体制の構築:
使用した経営学の知識
- 品質マネジメントシステム(QMS): 食品や医療分野で求められる高度な品質基準(ISO 9001、HACCP、GMP など)に対応するための組織的品質保証体制である。
- 作業標準化: 新たな仕様に対応した最適な作業方法を定め、属人化を排除する取組である。
- フロントローディング: 新製品開発の初期段階(顧客要求の把握や設計段階)に資源を集中させ、後工程での手戻りや問題を未然に防ぐ考え方である。