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令和 5 年度(2023 年度)事例 Ⅳ 回答と解説

第 1 問(配点 20 点)

設問文

D 社の 2 期間の財務諸表を用いて経営分析を行い、令和 3 年度と比較して悪化したと考えられる財務指標を 2 つ(①②)、改善したと考えられる財務指標を 1 つ(③)取り上げ、それぞれについて、名称を(a)欄に、令和 4 年度の財務指標の値を(b)欄に記入せよ。解答に当たっては、(b)欄の値は小数点第 3 位を四捨入して、小数点第 2 位まで表示すること。また、(b)欄のカッコ内に単位を明記すること。

(設問 1)

回答例

(a) 名称(b) 令和 4 年度の値
売上高販管費率50.07 (%)
固定資産回転率23.05 (回)
自己資本比率77.56 (%)

解説

  • 問題文の該当箇所
    令和 3 年度および令和 4 年度の貸借対照表および損益計算書である。

  • 答案作成の根拠

    1. 悪化した指標 ① 売上高販管費率
      収益性の悪化要因を特定するため、売上高総利益率と売上高販管費率を比較した。

      • 売上高総利益率:令和 3 年度 62.29% → 令和 4 年度 61.66%(0.63 ポイント悪化)

      • 売上高販管費率:令和 3 年度 45.30% → 令和 4 年度 50.07%(4.77 ポイント悪化)
        売上高販管費率の方が悪化幅が大きく、収益性低下の主因であることが明確である。これは与件文の「人件費等の削減は行わない方針」とも整合する。

      • 計算式:販売費及び一般管理費 ÷ 売上高 × 100

      • 令和 4 年度:2,277,050 ÷ 4,547,908 × 100 ≒ 50.07 (%)

        収益性分析のコツ

        収益性が悪い原因は、主に「原価が高い」「販管費が高い」「金利負担が高い」の 3 つが考えられます。

        試験では、これらの原因のうちどれが該当するのかを的確に指摘する能力が問われます。

        例えば、与件文に「地元産の新鮮な食材にこだわったメニュー」といった記述があれば、設問 1 で売上高総利益率を指標として採用し、設問 2 では「食材へのこだわりが原価を押し上げ、収益性を低くしている」のように記述することが考えられます。

        そのため、収益性の分析では、原因に応じて以下の指標を採用すると良いでしょう。

        • 原価が高い場合:売上高総利益率(または売上高原価率)
        • 販管費が高い場合:売上高販管費率
        • 金利負担が高い場合:売上高営業外費用率
    2. 悪化した指標 ② 固定資産回転率
      効率性の悪化要因を特定するため、棚卸資産回転率と固定資産回転率を比較した。

      • 棚卸資産回転率:令和 3 年度 2.30 回 → 令和 4 年度 2.35 回(改善)

      • 固定資産回転率:令和 3 年度 31.00 回 → 令和 4 年度 23.05 回(大幅悪化)
        固定資産回転率の悪化が顕著であり、売上高の大幅減少が主要因である。資産効率の低下を直接示す指標である。

      • 計算式:売上高 ÷ 固定資産

      • 令和 4 年度:4,547,908 ÷ 197,354 ≒ 23.05 (回)

        効率性分析のコツ

        効率性の分析では、企業が保有する資産をどれだけ効率的に売上につなげているかを評価します。
        特に二次試験では、棚卸資産回転率有形固定資産回転率を比較することで、在庫管理や設備活用の状況を的確に把握することが重要です。

        例えば、棚卸資産回転率が低い場合は「在庫が滞留している」、有形固定資産回転率が低い場合は「設備投資に対して売上が伸びていない」可能性が考えられます。
        与件文に「倉庫に在庫が積み上がっている」や「設備が老朽化して稼働率が低下している」などの記述があれば、該当する指標を選び、その数値変化と関連付けて記述すると説得力が増します。

        そのため、効率性の分析では、以下のように比較して着眼点を明確にすると良いでしょう。

        • 棚卸資産回転率:在庫管理の効率性を示す(低い場合は在庫滞留)
        • 有形固定資産回転率:設備活用の効率性を示す(低い場合は遊休資産や稼働率低下)

        両指標を比較し、どちらがより効率性低下の主因となっているかを判断して指摘することが重要です。

    3. 改善した指標 ③ 自己資本比率
      企業の安全性を示す指標であり、当期純利益計上による利益剰余金増加と、借入金返済による負債減少により改善している。

      • 計算式:自己資本 ÷ 総資本 × 100

      • 令和 3 年度:1,989,272 ÷ 2,863,166 × 100 ≒ 69.48 (%)

      • 令和 4 年度:2,307,233 ÷ 2,974,899 × 100 ≒ 77.56 (%)

        安全性分析のコツ

        安全性の分析では、企業が短期的・長期的に債務を返済できる能力を評価します。
        二次試験では、短期安全性を測る流動比率当座比率と、長期安全性を測る自己資本比率負債比率の 4 指標が採用されることが多いです。

        例えば、流動比率や当座比率が低下している場合は「短期的な支払能力が低下している」、自己資本比率が低下している場合は「財務の安定性が弱まっている」、負債比率が上昇している場合は「他人資本依存度が高まっている」といった解釈が可能です。
        与件文に「資金繰りが厳しい」「借入依存が高まっている」などの記述があれば、これらの指標と関連付けて原因や影響を示すと説得力が増します。

        そのため、安全性の分析では以下の 4 指標を使い分けると良いでしょう。

        • 流動比率:短期安全性(全流動資産による支払能力)
        • 当座比率:短期安全性(即時換金可能な資産による支払能力)
        • 自己資本比率:長期安全性(自己資本の割合による安定性)
        • 負債比率:長期安全性(他人資本依存度)

        短期と長期の両面から、どの指標の変化が安全性低下の主因となっているかを明確にして指摘することが重要です。

  • 使用した経営学の知識
    財務分析:収益性・効率性・安全性の各観点から企業の経営状態を分析する手法である。指標を分解することにより、問題の根本原因をより深く特定することが可能である。


(設問 2)

設問 1 で解答した悪化したと考えられる 2 つの財務指標のうちの 1 つを取り上げ、悪化した原因を 80 字以内で述べよ。

回答例(80 字)

  • 財務指標:売上高販管費率

悪化原因は、競争激化による売上高の大幅な減少に対し、人件費を削減しない方針のため販管費が比例して減少しなかったことで、売上高に占める販管費の割合が上昇したため。

解説

  • 問題文の該当箇所
    「同業他社との競争激化により販売が低迷」および「当面は人件費等の削減は行わない方針である」。

  • 答案作成の根拠
    設問 1 において特定したとおり、収益性悪化の主因は販管費の負担増である。
    売上高の減少と人件費を削減しない方針という、分母の減少と分子の硬直化が同時に起きたため、売上高販管費率は上昇した。
    この関係は与件文の記述に直接対応しており、論理的に説明できる。

  • 使用した経営学の知識

    • コストの価格下方硬直性:売上が減少しても、人件費などの固定的経費は短期的に削減しにくい特性を持つ。このため、売上高に占める割合が増加しやすく、収益を圧迫する要因となる。
    • 損益計算書(P/L)の構造理解:売上高と販売費及び一般管理費の関係を把握することで、比率悪化の原因を明確に分析できる。

第 2 問(配点 30 点)

(設問 1)

D 社の 2 期間の財務データから CVP 分析を行い、D 社の収益性の分析を行う。 原価予測は営業利益の段階まで行い、2 期間で変動費率は一定と仮定する。

以上の仮定に基づいて D 社の 2 期間の財務データを用いて、(1)変動費率および(2)固定費を求め、(3)令和 4 年度の損益分岐点売上高を計算せよ。また、(4)求めた損益分岐点売上高を前提に、令和 3 年度と令和 4 年度で損益分岐点比率がどれだけ変動したかを計算せよ。損益分岐点比率が低下した場合は、△ を数値の前につけること。

解答に当たっては、変動費率は小数点第 3 位を四捨五入して、小数点第 2 位まで表示すること。また、固定費および損益分岐点売上高は、小数点第 2 位まで表示した変動費率で計算し、千円未満を四捨五入して表示すること。

回答例

(1) 変動費率63.31 (%)

(2) 固定費1,141,590 (千円)

(3) 令和 4 年度の損益分岐点売上高3,111,448 (千円)

(4) 損益分岐点比率の変動14.73 (%)

解説

  • 答案作成の根拠

    1. (1) 変動費率

      • 変動費率を a、固定費を FC とし、以下の連立方程式を立てて解きます。
        • 令和 3 年: 5,796,105 × (1 - a) - FC = 985,017 …①
        • 令和 4 年: 4,547,908 × (1 - a) - FC = 527,037 …②
      • ① 式から ② 式を引くと、
        • (5,796,105 - 4,547,908) × (1 - a) = 985,017 - 527,037
        • 1,248,197 × (1 - a) = 457,980
        • a = (1,248,197 - 457,980) ÷ 1,248,197 = 0.63308...
        • a ≒ 0.6331
      • したがって、変動費率は 63.31% となります。
    2. (2) 固定費

      • 変動費率 63.31%(0.6331)を ② 式に代入して計算した結果に基づき、
        • 4,547,908 × (1 - 0.6331) - FC = 527,037
        • FC = 1,141,590.4452 ≒ 1,141,590(千円)
    3. (3) 令和 4 年度の損益分岐点売上高

      • 変動費率 0.6331 と(2)の固定費 1,141,590.4452 千円を用いて計算します。
        • 損益分岐点売上高 = 固定費 ÷ (1 - 変動費率)
        • = 1,141,590.4452 ÷ (1 - 0.6331) = 1,141,590.4452 ÷ 0.3669 ≒ 3111448.47424
        • 千円未満を四捨五入して 3,111,448 (千円)
    4. (4) 損益分岐点比率の変動

      • (3)で算出した損益分岐点売上高 3,111,447 千円を用いて計算します。
        • 損益分岐点比率 = 損益分岐点売上高 ÷ 実際の売上高 × 100
        • 令和 4 年度: 3,111,448 ÷ 4,547,908 × 100 ≒ 68.4149283583%
        • 令和 3 年度: 3,111,448 ÷ 5,796,105 × 100 ≒ 53.6817052141%
        • 変動 = 68.4149283583% - 53.6817052141% = 14.7332231442 ≒ 14.73% (悪化)
  • 使用した経営学の知識

    • CVP 分析(損益分岐点分析): 費用を変動費と固定費に分解し、利益と売上高、コストの関係を分析する手法。
    • 連立方程式: 2 つの期間のデータから、2 つの未知数(変動費率、固定費)を精密に算出する数学的手法。

(設問 2)

D 社のサプリメントの製品系列では、W 製品、X 製品、Y 製品の 3 種類の製品を扱っている。各製品別の損益状況を損益計算書の形式で示すと、次のとおりである。ここで、この 3 製品のうち、X 製品は営業利益が赤字に陥っているので、その販売を中止すべきかどうか検討している。

製品別損益計算書(単位:万円)

製品W 製品X 製品Y 製品合計
売上高80,000100,00010,000190,000
変動費56,00080,0006,000142,000
限界利益24,00020,0004,00048,000
固定費
個別固定費10,00015,0001,50026,500
共通費8,00010,0001,00019,000
18,00025,0002,50045,500
営業利益6,000△5,0001,5002,500

X 製品の販売を中止しても X 製品に代わる有利な取り扱い製品はないが、その場合には X 製品の販売によって X 製品の個別固定費の 80%が回避可能であるとともに、X 製品と部分的に重複した効能を有する Y 製品に一部の需要が移動すると予想される。

(1)このとき、X 製品の販売を中止すべきか否かについて、カッコ内の「ある」か「ない」に〇を付けて答えるとともに、20 字以内で理由を説明せよ。さらに、(2)X 製品の販売を中止した場合に、現状の営業利益合計 2,500 万円を下回らないためには、需要の移動による Y 製品の売上高の増加額は最低いくら必要か。計算過程を示して答えよ。なお、割り切れない場合には、万円未満を四捨五入すること。

回答例

(1)

  • X 製品の販売を中止すべきでは( ない )。
  • 理由:販売中止により営業利益が赤字になるため。(20 字)

(2)

【計算過程】

1. X 製品の販売中止による営業利益の減少額を計算する。

  • 固定費:15,000 万円 × 20% + 10000 = 13,000 万円
  • 利益減少額: △5,000 万円 - △13,000 万円 = 8,000 万円

2. Y 製品の限界利益率を計算する。

  • 限界利益率: 限界利益 4,000 万円 ÷ 売上高 10,000 万円 = 0.4

3. 利益減少額を補うために必要な Y 製品の売上増加額を計算する。

  • 必要な売上増加額: 利益減少額 8,000 万円 ÷ 限界利益率 0.4 = 20,000 万円

【答】20,000 (万円)


解説

  • 問題文の該当箇所

    • 製品別損益計算書
    • 「X 製品の個別固定費の 80%が回避可能」
  • 答案作成の根拠

    • (1) 意思決定: この意思決定は、X 製品の販売を中止した場合に、会社全体の利益がどう変化するかを分析することが重要です。X 製品単体では営業赤字ですが、販売を中止すると、固定費の一部は残ってしまいます。その結果、会社全体の営業利益が現在よりも減少するため、販売は中止すべきではありません。

    • (2) 売上増加額の計算: 計算は、差額原価収益分析のアプローチで行います。これは、X 製品を販売継続する場合と中止する場合の損益を比較し、その差額(利益減少額)を算出する方法です。

      1. X 製品を中止した場合の損失を計算する X 製品の売上と変動費、そして回避可能な固定費はゼロになります。しかし、回避できない固定費は引き続き発生します。

        • 回避できない個別固定費: 15,000 万円 × (1 - 80%) = 3,000 万円
        • 共通費(全額残る): 10,000 万円
        • 販売中止後の損失: 3,000 万円 + 10,000 万円 = △13,000 万円
      2. 利益の差額(利益減少額)を計算する 現在の X 製品の営業損失(△5,000 万円)と、中止した場合の損失(△13,000 万円)を比較します。

        • 利益減少額: (現在の損失 △5,000 万円) - (中止後の損失 △13,000 万円) = 8,000 万円 これは、X 製品を中止すると会社全体の営業利益が8,000 万円減少することを意味します。
      3. Y 製品で補うべき売上高を計算する この 8,000 万円の利益減少を Y 製品の限界利益で補う必要があります。Y 製品の限界利益率(0.4)を用いて、必要な売上高を算出します。

  • 使用した経営学の知識

    • 限界利益アプローチ 📈: 売上から変動費を差し引いた利益。事業が固定費をどれだけカバーし、最終的な利益に貢献しているかを測る指標です。
    • 差額原価収益分析: 複数の選択肢(この場合は「X を継続する」か「X を中止する」か)を選んだ場合の収益と費用の差額に着目して、最も有利な案を選択する分析手法です。今回ご提示の計算過程は、この考え方に基づいています。

(設問 3)

D 社では、売上高を基準に共通費を製品別に配賦している。この会計処理の妥当性について、あなたの考えを 80 字以内で述べよ。

回答例(79 字)

妥当ではない。売上高基準の配賦は、各製品が共通費を発生させる因果関係を正確に反映しない。製品別の収益性を歪め、利益管理や価格設定など重要な意思決定を誤らせる。

解説

  • 問題文の該当箇所
    • 「売上高を基準に共通費を製品別に配賦している」
  • 答案作成の根拠
    • 共通費は、特定の製品に直接紐づけられない間接的なコストである。これを売上高という一律の基準で配賦すると、本来コストをあまり消費していない製品に過大な費用が割り振られたり、その逆が起きたりする。
    • 例えば、共通費に多くの広告費が含まれる場合、広告を集中投下した製品により多くの費用を配賦すべきだが、売上高基準ではその因果関係が無視される。
    • このような不正確な原価計算は、各製品の真の収益性を覆い隠し、「赤字だから撤退」といった誤った経営判断につながるリスクがある。
  • 使用した経営学の知識
    • 原価計算における配賦基準: 配賦基準は、負担能力基準(売上高など)、因果関係基準、便益基準などがある。このうち、最も論理的で意思決定に有用とされるのが因果関係基準である。
    • 活動基準原価計算(ABC): より精緻にコストの因果関係を追跡し、配賦の恣意性を排除しようとする原価計算手法。この問題は、伝統的な配賦方法の問題点を問うている。

第 3 問(配点 30 点)

設問文

D 社は、研究開発を行ってきた男性向けアンチエイジング製品の生産に関わる設備投資を行うか否かについて検討している。 以下の資料に基づいて各設問に答えよ。解答に当たっては、計算途中では端数処理は行わず、解答の最終段階で万円未満を四捨五入すること。また、計算結果がマイナスの場合には、△ を数値の前につけること。


(設問 1)

(1)年間販売量が 10,000 個の場合と、(2)5,000 個の場合の正味現在価値を求めよ。

(1)については、計算過程も示すこと。そのうえで、(3)当該設備投資の正味現在価値の期待値を計算し、投資の可否について、カッコ内の「ある」「ない」に ○ を付けて答えよ。

回答例

(1) 年間販売量が 10,000 個の場合の正味現在価値(NPV)

【計算過程】(単位:万円)

NPV = −11,000 + (3,320−800)×0.926 + 3,320×(0.857+0.794+0.735) + (3,320+800+770)×0.681
= −11,000 + 2,520×0.926 + 3,320×2.386 + 4,890×0.681
= −11,000 + 2,331.52 + 7,919.52 + 3,328.09
= −11,000 + 13,579.13
= 2585.13 ≒ 2,585(万円)

(2) 年間販売量が 5,000 個の場合の正味現在価値

  • △5,702 (万円)

(3) 当該設備投資の正味現在価値の期待値と投資の可否

  • 【期待値】99 (万円)
  • 【投資の可否】投資実行に価値が( ある )

解説

  • 答案作成の根拠

    • (1) NPV (10,000 個): 各年度の税引後キャッシュフローを算出し、所定の割引率で現在価値に割り引き、初期投資額を差し引く。5 年目には運転資本の全額回収と設備の売却収入を加算することを忘れない。

      1. 前提計算

        • 減価償却費:11,000 ÷ 5 = 2,200
        • 各年度の税引後営業 CF:
          (売上 10,000 − 変動費 4,000 − 固定費 2,200 − 減価償却費 2,200) × (1 − 0.3) + 減価償却費 2,200
          = (1,600 × 0.7) + 2,200 = 3,320
        • 初年度の正味運転資本投資(増加):△800
        • 5 年度の正味運転資本回収:+800
        • 5 年度の設備売却に伴う税引後 CF:11,000 × 0.1 × (1 − 0.3) = 770
      2. 各年度の CF

        • 1 年目:3,320 − 800 = 2,520
        • 2〜4 年目:3,320
        • 5 年目:3,320 + 800 + 770 = 4,890
      3. NPV 計算

        • NPV = −11,000 + 2,520 × 0.926 + 3,320 × (0.857 + 0.794 + 0.735) + 4,890 × 0.681
        • NPV = 2585.13 ≒ 2,585(万円)

      【答】2,585(万円)

    • (2) NPV (5,000 個): (1)と同様に計算する。

      1. 前提計算

        • 減価償却費:11,000 ÷ 5 = 2,200
        • 各年度の税引後営業 CF:
          (売上 5,000 − 変動費 2,000 − 固定費 2,200 − 減価償却費 2,200) × (1 − 0.3) + 2,200
          = (−1,400 × 0.7) + 2,200 = 1,220
        • 初年度の正味運転資本投資(増加):△400
        • 5 年度の正味運転資本回収:+400
        • 5 年度の設備売却に伴う税引後 CF:11,000 × 0.1 × (1 − 0.3) = 770
      2. 各年度の CF

        • 1 年目:1,220 − 400 = 820
        • 2〜4 年目:1,220
        • 5 年目:1,220 + 400 + 770 = 2,390
      3. NPV 計算(割引係数:1 年目 0.926、2 年目 0.857、3 年目 0.794、4 年目 0.735、5 年目 0.681)

        • NPV = −11,000 + 820 × 0.926 + 1,220 × (0.857 + 0.794 + 0.735) + 2,390 × 0.681
        • NPV = −5,702.17 ≒ −5,702(万円)

      【答】−5,702(万円)

    • (3) 期待値と意思決定: 各ケースの NPV に、それぞれの発生確率を掛けて合計する。

      • 期待値 = (2,585 × 0.7) + (-5,702 × 0.3) = 98.9 → 99 万円
      • NPV の期待値がプラスであるため、リスクを考慮した上で、この投資は経済的に見て実行する価値があると判断する。
  • 使用した経営学の知識

    • 正味現在価値(NPV)法: 投資から得られる将来キャッシュフローの現在価値合計から、初期投資額を差し引いて投資の価値を評価する手法。NPV > 0 ならば投資すべきとされる。
    • 期待値: 不確実性下での意思決定において、各結果にその発生確率を乗じて合計したもの。プロジェクトの平均的な価値を示す。

(設問 2)

  • (1)初年度末に 2 年度以降の販売量が 10,000 個になるか 5,000 個になるか明らかになると予想される。このとき、設備投資の実行タイミングを 1 年遅らせる場合の当該設備投資の正味現在価値はいくらか、計算過程を示して答えよ。1 年遅らせる場合、初年度の固定費は回避可能である。また、2 年度期首の正味運転資本の残高はゼロであり、その後は資料における残高と同様である。なお、1 年遅らせる場合、設備の耐用年数は 4 年になるが、その残存価額および処分価額は変化しないものとする。
  • (2)上記(1)の計算結果により、当該設備投資を初年度期首に実行すべきか、2 年度期首に実行すべきかについて、根拠となる数値を示しながら 50 字以内で説明せよ。

回答例

  • (1):620(万円)
  • 【計算過程】

NPV(10,000 個) = (−11,000)×0.926 + 2,685×0.857 + 3,485×(0.794 + 0.735) + 5,055×0.681 = 886.065 ≒ 886(万円)

NPV (5,000 個) = (−11,000)×0.926 + 985×0.857 + 1,385×(0.794 + 0.735) + 2,555×0.681 = -5,484.235 ≒ −5,484(万円)〔採算割れ → 投資しない〕

期待 NPV = 886×0.7 + 0×0.3 = 620.2 ≒ 620 (万円)

  • (2)(49 字):2 年度期首に実行する。理由は販売量が予想できる方が期待正味現在価値が 521 万円高くなるためである。

解説

計算手順

(1) 設備投資を 1 年遅らせた場合の正味現在価値(NPV)〔年間販売量 10,000 個〕

  1. 前提計算

    • 減価償却費:11,000 ÷ 4 = 2,750
    • 各年度の税引後営業 CF:
      (売上 10,000 − 変動費 4,000 − 固定費 2,200 − 減価償却費 2,750) × (1 − 0.3) + 2,750
      = (1,050 × 0.7) + 2,750 = 3,485
    • 2 年度の正味運転資本投資(増加):△800
    • 5 年度の正味運転資本回収:+800
    • 5 年度の設備売却に伴う税引後 CF:11,000 × 0.1 × (1 − 0.3) = 770
  2. 各年度の CF

    • 初年度:−11,000
    • 2 年度:3,485 − 800 = 2,685
    • 3,4 年度3,485
    • 5 年度:3,485 + 800 + 770 = 5,055
  3. NPV 計算(割引係数:1 年目 0.926、2 年目 0.857、3 年目 0.794、4 年目 0.735、5 年目 0.681)

    • NPV = (−11,000)×0.926 + 2,685×0.857 + 3,485×(0.794 + 0.735) + 5,055×0.681

    • NPV = 886.065 ≒ 886(万円)

      【答】886(万円)

(2) 設備投資を 1 年遅らせた場合の正味現在価値(NPV)〔年間販売量 5,000 個〕

  1. 前提計算

    • 減価償却費:11,000 ÷ 4 = 2,750
    • 各年度の税引後営業 CF:
      (売上 5,000 − 変動費 2,000 − 固定費 2,200 − 減価償却費 2,750) × (1 − 0.3) + 2,750
      = (−1,950 × 0.7) + 2,750 = 1,385
    • 2 年度の正味運転資本投資(増加):△400
    • 5 年度の正味運転資本回収:+400
    • 5 年度の設備売却に伴う税引後 CF:11,000 × 0.1 × (1 − 0.3) = 770
  2. 各年度の CF

    • 初年度:−11,000
    • 2 年度:1,385 − 400 = 985
    • 3,4 年度1,385
    • 5 年度:1,385 + 400 + 770 = 2,555
  3. NPV 計算(割引係数:1 年目 0.926、2 年目 0.857、3 年目 0.794、4 年目 0.735、5 年目 0.681)

    • NPV = (−11,000)×0.926 + 985×0.857 + 1,385×(0.794 + 0.735) + 2,555×0.681
    • NPV = -5,484.235 ≒ -5,484(万円)

【答】-5,484(万円)

(3) 期待 NPV の計算

年間販売量 5,000 個の場合は採算割れのため、投資しない

期待 NPV = 886×0.7 + 0x0.3 = 620.2 ≒ 620(万円)

  • 答案作成の根拠
    • (1) 1 年遅延オプションの価値評価: これは「リアルオプション」の考え方を用いる問題。1 年待つことで、不確実な情報(需要が 1 万個か 5 千個か)が明らかになるという「待つことの価値」を評価する。
      • 重要な点: 需要が 5,000 個と判明した場合、プロジェクトの NPV はマイナスになるため、D 社は合理的に投資を実行しない。この「下方リスクを回避できる」点がオプション価値の源泉となる。
      • 計算は、①10,000 個の場合のプロジェクト価値を t=1 時点で算出し、② それに発生確率 0.7 を掛け、③t=0 時点の価値に割り戻す、という手順で行う。
    • (2) 意思決定: 2 つの選択肢(① 今すぐ投資する、②1 年待って判断する)の価値を比較する。
      • ① 今すぐ投資する場合の価値: (設問 1-3) NPV 期待値 = 99 万円
      • ②1 年待つ場合の価値: (設問 2-1) 620 万円
      • (②) > (①) であるため、より価値の高い「1 年待つ」選択肢が合理的であると結論付ける。
  • 使用した経営学の知識
    • リアルオプション: 設備投資などの事業プロジェクトに内在する「柔軟性(オプション)」を評価する考え方。不確実性が高い状況で特に有効。「延期オプション」「放棄オプション」「拡張オプション」などがある。本問は延期オプションの価値評価に相当する。

第 4 問(配点 20 点)

(設問 1)

D 社は、基礎化粧品などの企画・開発・販売に特化しており、OEM 生産によって委託先に製品の生産を委託している。OEM 生産の財務的利点について 50 字以内で述べよ。

回答例(49 字)

設備投資による固定費増や金利負担を回避できる点。低い損益分岐点と高い自己資本比率の維持に貢献する。

解説

  • 答案作成の根拠

    1. 損益面への貢献:低い損益分岐点の維持 自社工場への設備投資は、 減価償却費(固定費) と、資金調達に伴う 支払利息(金利負担) という 2 種類の費用を発生させます。OEM 生産は、この設備投資自体を不要にすることで、これらの費用の発生を根本から回避します。 固定費が低く抑えられると、 損益分岐点 も低く維持できます。これにより、D 社は売上が減少した際でも赤字に陥りにくく、経営の安定性が高まります。

    2. 財務体質面への貢献:高い自己資本比率の維持 設備投資を回避できるということは、そのための 借入金(負債) が不要になることを意味します。負債を抑制できるため、自己資本の割合が相対的に高くなり、 高い自己資本比率 の維持に直接繋がります。 第 1 問の分析で D 社の強みとした高い自己資本比率は、この OEM 生産という事業モデルによって支えられていると言えます。

  • 使用した経営学の知識

    • 損益分岐点分析(CVP 分析): 固定費を低く抑えることが、企業の収益安定性(低い損-益分岐点)にどう貢献するかを説明する理論的根拠です。
    • 資本構成(Capital Structure): 企業の資金調達における負債と自己資本のバランスです。OEM 生産は、負債を必要としない「低負債・高自己資本」の強固な資本構成を可能にします。
    • 財務安全性分析: 高い自己資本比率は、企業の長期的な支払い能力と倒産リスクの低さを示す指標であり、OEM 生産がその基盤を支えています。

(設問 2)

D 社が新たな製品分野として男性向けアンチエイジング製品を開発し販売することは、財務的にどのような利点があるかについて 50 字以内で述べよ。

回答例(47 字)

新規売上で固定的販管費を吸収し、高い売上高販管費比率を改善、収益性を向上させる点。

解説

  • 問題文の該当箇所

    • 「競争激化により販売が低迷」
    • 「男性向けアンチエイジング製品を新たな挑戦として開発」
  • 答案作成の根拠

    • 第 1 問の分析で明らかになった D 社の財務課題は、売上低迷により売上高販管費率が悪化していることです。これは、売上が減少しても人件費などの固定的販管費は減少しにくいために起こります。
    • この状況で新製品を投入する財務的利点は、新たな売上高を獲得できる点にあります。
    • 追加された売上は、既存の固定的販管費を吸収する(カバーする)効果を持ちます。数式 販管費 ÷ 売上高 の分母である「売上高」が増加するため、結果として売上高販管費率が改善し、会社全体の利益率向上に直接的に繋がります。
  • 使用した経営学の知識

    • 営業レバレッジ(Operating Leverage): 固定費を利用することで、売上高の増加がそれを上回る率の利益増加をもたらす効果のことです。D 社は固定的販管費が高いため、このレバレッジが効きやすい状態にあります。新規売上の獲得は、この効果をプラスに働かせ、収益性を大きく改善させる可能性があります。
    • CVP 分析(損益分岐点分析): 売上、費用(固定費・変動費)、利益の関係を分析する手法です。新製品による売上増が、固定費をカバーして利益をいかに押し上げるかを説明する理論的根拠となります。

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