Gemini 2.5 Pro による回答と解説( 令和元年度(2019 年度)事例 Ⅲ)
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第 1 問(配点 20 点)
設問文
C 社の事業変遷を理解した上で、C 社の強みを 80 字以内で述べよ。
回答例(65 字)
ベテラン技能者による高い熱処理技術を核に、顧客ニーズに応え機械加工へ展開した一貫生産体制と、大手自動車部品メーカー X 社からの信頼。
解説
問題文の該当箇所
- 「金属熱処理とは、…特殊な技術の蓄積が必要である。」
- 「金属熱処理技能検定試験に合格し技能士資格をもつベテラン作業者を中心に作業が行われ品質が保持されている。」
- 「熱処理加工だけでなく、その前工程である部品の機械加工も含めた依頼があり、設計部門と機械加工部門をもった。」
- 「自動車部品メーカー X 社との出会いがあり、自動車部品の熱処理を始めた。…C 社売上高に占める X 社の割合は約 20%までになっている。」
答案作成の根拠 与件文の事業変遷から、C 社の強みを多角的に抽出する。
- 中核技術: 創業以来の事業であり、技能士資格を持つベテランが品質を支える「金属熱処理技術」が中核的な強みである。
- 事業展開力: 顧客の依頼に応える形で、前工程の「機械加工」へ事業を拡大し、設計から熱処理までの一貫生産体制を構築した対応力も強みである。
- 顧客からの信頼: 大手である X 社との取引を拡大し、売上の 20%を占める主要顧客となっている事実は、C 社の技術力と対応力が高く評価されている証であり、これも強みと言える。 これらを指定文字数内で統合し、C 社の強みを簡潔に表現する。
使用した経営学の知識
- SWOT 分析: 企業の内部環境を分析し、強み(Strength)を特定する。C 社の場合、① 高い技術力、② 一貫生産体制、③ 大手企業との信頼関係が強みとして挙げられる。
- コア・コンピタンス: 企業の中核的な競争優位の源泉。C 社にとっては、長年の経験と技能者に支えられた「熱処理技術」がこれに該当し、事業拡大の基盤となっている。
第 2 問(配点 20 点)
設問文
自動車部品メーカー X 社からの機械加工の受託生産に応じる場合、C 社における生産面での効果とリスクを 100 字以内で述べよ。
回答例(74 字)
効果は量産ノウハウ獲得、生産性向上と売上拡大。リスクは X 社への依存度上昇や、量産とかんばん方式に対応できず、既存の多品種少量生産との混乱を招くこと。
解説
問題文の該当箇所
- 効果: 「C 社では初めての本格的量産機械加工になる」「機械加工部門の生産量は現在の約 2 倍になると予想され」「後工程引取方式を両社間の管理方式として運用」
- リスク: 「C 社売上高に占める X 社の割合は約 20%までになっている」(これがさらに上昇する)、「多品種少量の受注ロット生産に対応」「C 社内で生産管理の見直しが必要になる」「その他の加工品については従来同様の生産計画立案と差立方法で運用する計画である。」
答案作成の根拠 X 社からの新規受託が C 社の生産面に与える影響を、プラス面(効果)とマイナス面(リスク)の両方から分析する。
- 効果:
- 売上拡大: 機械加工部門の生産量が約 2 倍になるため、直接的な売上増加が見込める。
- ノウハウ獲得: C 社にとって「初めての本格的量産」であり、これにより量産に対応する生産管理や品質管理のノウハウを蓄積できる。
- 生産性向上: X 社が導入を提案する「後工程引取方式(かんばん方式)」は、在庫削減や生産効率化に繋がり、生産性向上が期待できる。
- リスク:
- 依存度上昇: X 社への売上比率がさらに高まり、X 社の業績変動が C 社の経営に直結するリスクが増大する。
- 生産現場の混乱: 従来の「多品種少量生産」と新規の「量産」という異なる生産方式が工場内に混在する。特に、従来通りの生産管理を続ける部分とかんばん方式を導入する部分とで管理が複雑化し、現場の混乱を招くリスクがある。
- 効果:
使用した経営学の知識
- SWOT 分析: 新規事業がもたらす機会(Opportunity)と脅威(Threat)を分析する。売上拡大やノウハウ獲得は機会、依存度上昇や現場の混乱は脅威にあたる。
- 生産方式: 従来の「受注ロット生産」と、新たに導入される「量産(かんばん方式)」の違いを理解し、両者が混在することによるマネジメント上の課題を指摘する。
第 3 問(配点 40 点)
設問文
X 社から求められている新規受託生産の実現に向けた C 社の対応について、以下の設問に答えよ。
(設問 1)
C 社社長の新工場計画についての方針に基づいて、生産性を高める量産加工のための新工場の在り方について 120 字以内で述べよ。
回答例(113 字)
品種群ごとの工程順に NC 工作機械等を配置したセル生産方式の採用。これにより、生産の整流化を図る。更に作業標準化とマニュアル化で属人性を排し、多能工を育成することで、将来の多品種量産にも対応可能な高生産性・省人化工場を実現する。
解説
問題文の該当箇所
- 「X 社の受託生産部品だけの生産をする専用機化・専用ライン化にするのではなく、将来的には X 社向け自動車部品以外の量産の機械加工ができる新工場にする。」(汎用性)
- 「これまでの作業者のスキルに頼った加工品質の維持ではなく、作業標準化を進める。」(脱・属人性)
- 「一人当たり生産性を極限まで高めるよう作業設計、工程レイアウト設計などの工程計画を進め、最適な新規設備の選定を行う。」(高生産性)
- 「近年の人材採用難に対応して、新工場要員の採用は最小限にとどめ、作業方法の教育を実施し、早期の工場稼働を目指す。」(省人化・教育)
答案作成の根拠 社長が示す 4 つの方針を、具体的な工場の姿に落とし込む。
- レイアウトと設備(方針 1, 3): X 社向け 10 種類の部品や将来の他社製品に柔軟に対応するため、専用ラインではなく、類似の加工工程を持つ部品グループごとに設備をまとめ、モノの流れを整流化するセル生産方式が適している。設備は自動化が進み、段取り替えが容易なNC 工作機械などを導入する。
- 作業と人(方針 2, 4): 熟練技能への依存から脱却するため、作業の標準化とマニュアル化を徹底する。これにより、品質が安定し、未経験者でも教育しやすくなる。少ない人員で効率的に生産できるよう、一人の作業者が複数の機械や工程を担当できる多能工化を推進する。 これらの要素を組み合わせることで、社長の求める「高生産性」「省人化」「汎用性」「脱・属人性」を同時に満たす新工場の在り方を提示できる。
使用した経営学の知識
- 工場レイアウト: 機能別レイアウト、製品別レイアウト、セル生産方式の特徴を理解し、多品種量産に適したセル生産方式を提案する。
- 生産技術: 自動化・省力化に寄与するNC(数値制御)工作機械の有効性を指摘する。
- 人的資源管理: 作業標準化、マニュアル化、多能工化といった手法を用いて、生産性の向上と人材育成を両立させる方法を提案する。
(設問 2)
X 社と C 社間で外注かんばんを使った後工程引取方式の構築と運用を進めるために、これまで受注ロット生産体制であった C 社では生産管理上どのような検討が必要なのか、140 字以内で述べよ。
回答例(135 字)
①3 ヶ月内示に基づく生産能力計画と、外注かんばんによる日々の生産指示への移行。② かんばんの即時引き取りに対応するための完成品在庫基準の設定と管理方法の確立。③ 確定指示から 3 日の短納期に応えるため、段取り時間短縮などにより、機械加工と熱処理を通した生産リードタイムの短縮。
解説
問題文の該当箇所
- 「これまで受注ロット生産体制であった」
- 「後工程引取方式を両社間の管理方式として運用」
- 「3 カ月前に部品ごとの納品予定内示があり、1 カ月ごとに見直しが行われ、納品 3 日前に X 社から C 社に届く外注かんばんによって納品が確定する」
- 「C 社内で生産管理の見直しが必要になる」
答案作成の根拠 「後工程引取方式(かんばん方式)」を、従来の「受注ロット生産」体制の C 社に導入するために必要な生産管理上の変更点を検討する。
- 生産計画の変更: 月次計画中心から、内示情報と確定情報(かんばん)を組み合わせた計画への移行が必要。3 ヶ月内示で大枠の能力計画を立て、3 日前の確定かんばん情報で日々の生産指示を行う仕組みを構築する必要がある。
- 在庫管理の変更: かんばんによる引き取りに即時対応するには、一定量の完成品在庫(ストア在庫)が不可欠。従来の受注分のみの在庫管理から、適切な完成品在庫量を設定し、それを維持管理する方式へ変更する必要がある。
- 生産リードタイムの短縮: 「納品 3 日前」の確定指示に対応するには、受注から納品までの時間を大幅に短縮しなければならない。特に、機械加工と熱処理の両工程にまたがるリードタイムを短縮することが必須。そのための具体的な施策として、段取り時間の短縮や工程間の連携強化が求められる。
使用した経営学の知識
- トヨタ生産方式(TPS): その中核であるジャストインタイム(JIT)と、それを実現する道具であるかんばん方式の仕組みを理解していることが前提となる。
- 生産計画・統制: 内示情報に基づく**基準生産計画(MPS)**の考え方や、日々の生産指示・統制の重要性を指摘する。
- 在庫管理: 後工程引取方式における**完成品ストア(バッファ在庫)**の役割と、その管理の必要性を説明する。
- リードタイム短縮: **SMED(シングル段取り)**に代表される段取り改善など、リードタイムを短縮するための具体的な生産改善手法の知識が求められる。
第 4 問(配点 20 点)
設問文
新工場が稼働した後の C 社の戦略について、120 字以内で述べよ。
回答例(107 字)
新工場で確立した量産加工技術と、中核事業である熱処理技術を組み合わせた一貫生産体制を訴求する。これを武器に X 社以外の自動車部品や既存の産業機械分野で新規顧客を開拓し、特定顧客への依存度を低減して経営の安定化を図る。
解説
問題文の該当箇所
- 「将来的には X 社向け自動車部品以外の量産の機械加工ができる新工場にする。」
- 「金属熱処理および機械加工を営む。」
- 「C 社売上高に占める X 社の割合は約 20%までになっている。」(これが今回の受託でさらに上昇する)
答案作成の根拠 新工場稼働後の C 社の状況を踏まえ、持続的成長に向けた戦略を立案する。
- 現状分析: 新工場稼働により、C 社は「量産技術」という新たな能力を獲得する。一方で、X 社への売上依存度はさらに高まり、経営リスクが増大している。
- 活用すべき強み: 新たに得た「量産技術」と、元来の強みである「熱処理技術」、そして両者を組み合わせた「一貫生産体制」が、今後の競争優位の源泉となる。
- 戦略の方向性: この強化された一貫生産体制を武器に、新規顧客を開拓し、X 社への依存度を低減させるべきである。
- ターゲット市場: 新工場の汎用性を活かし、まずは量産ノウハウが直接的に通用する「X 社以外の自動車部品メーカー」が有望なターゲットとなる。また、創業以来の関係がある「産業機械・建設機械」分野にも、量産案件を求めてアプローチすることで、事業の柱を複数構築する。 この論理展開に基づき、強みを活かしてリスクを低減し、経営基盤を安定化させるという一貫した戦略を提案する。
使用した経営学の知識
- 成長戦略(アンゾフの成長マトリクス): 新工場で獲得した能力(新製品・サービス)を、既存市場(産業機械)や新規市場(他自動車メーカー)に展開する「市場開拓戦略」や「製品開発戦略」の視点を用いる。
- 事業ポートフォリオ・マネジメント: 特定の顧客(X 社)への依存度が高い状態は、事業ポートフォリオが偏っておりリスクが高い。顧客層を多様化させることで、ポートフォリオのバランスを取り、経営の安定化を図るという考え方。
- マーケティング戦略: 自社の強み(一貫生産体制、量産技術)を明確にし、それを評価してくれるターゲット市場を選定し、アプローチするという一連のプロセスを提言する。