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令和 5 年度(2023 年度)事例 Ⅱ 回答と解説
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第 1 問(配点 30 点)
設問文
B 社の現状について、3 C(Customer:顧客、Competitor:競合、Company:自社)分析の観点から 150 字以内で述べよ。
回答例(136 字)
顧客はメンバー募集や費用負担に悩む少年野球チームと保護者。競合は低価格な大型量販店や他球技の専門店。自社は、強みである刺繍等の加工技術や指定業者としての長年の信頼、専門的な提案力を活かし、弱みである価格競争力と ICT 活用の遅れを克服し、高付加価値で差別化を図る必要がある。
解説
問題文の該当箇所
- Customer(顧客): 「野球をやりたいという子どもの確保も各チームの課題」「買い替えの負担を理由に野球をやめてしまう子どもたちもいる」
- Competitor(競合): 「大型スポーツ用品量販店が出店」「かなり低価格で販売されているため、B 社は価格面で太刀打ちができない」
- Company(自社):
- 強み: 「刺繍でネームを入れたりする加工技術」「公立小中学校の体操服や運動靴を納品する業者として指定を受けた」「B 社は各少年野球チームから指定業者となっていた」「子どもたちの体格や技術に応じた野球用品の提案力」
- 弱み: 「価格面で太刀打ちができない」「現在は店舗紹介のホームページを設けている程度」
答案作成の根拠 ご指摘を踏まえ、B 社の強みをより具体的に記述する形で答案を修正しました。
- 顧客(Customer) は、野球用品の購入だけでなく、チーム運営上の課題(メンバー募集)や金銭的な悩み(費用負担)を抱えています。
- 競合(Competitor) は、価格で勝負する「大型量販店」と、品揃えで勝る「他球技の専門店」という脅威が存在します。
- 自社(Company) について、強みとして、与件文で B 社の歴史と技術の核として記述されている「刺繍等の加工技術」と、長年の地域密着経営で築き上げた「指定業者としての信頼」、そして専門性を示す「提案力」を明確に盛り込みました。一方、弱みである「価格競争力」と「ICT 活用の遅れ」も併記します。
- 結論として、これらの強みを最大限に活かし、弱みを克服することで、価格競争に陥らない高付加価値なサービスで差別化を図るべきである、という戦略的な方向性を示しました。
使用した経営学の知識
- 3C 分析: 自社を取り巻く環境を、Customer(顧客・市場)、Competitor(競合)、Company(自社)の 3 つの視点から分析するフレームワークです。本答案では、特に Company(自社)の分析において、SWOT 分析のS(Strength:強み) とW(Weakness:弱み) の要素を具体的かつ詳細に記述することで、B 社が取るべき戦略の輪郭をより明確にしています。
第 2 問(配点 20 点)
設問文
低学年から野球を始めた子どもは、成長やより良い用品への願望によって、ユニフォーム、バット、グラブ、スパイクといった野球用品を何度か買い替えることになるため、金銭的負担を減らしたいという保護者のニーズが存在する。B 社は、こうしたニーズにどのような販売方法で対応すべきか、プライシングの新しい流れを考慮して、100 字以内で助言せよ(ただし、割賦販売による取得は除く)。
回答例(98 字)
成長に合わせた用品交換が可能なサブスクリプションやレンタルサービスを導入する。これにより、保護者の初期投資や買い替えの金銭的負担を軽減し、野球の継続を支援することで、顧客の長期的な囲い込みを図る。
解説
問題文の該当箇所
- 「成長に伴う買い替えやより良い用品への買い替えも保護者には金銭的な負担となっており、他の習い事もあるため買い替えの負担を理由に野球をやめてしまう子どもたちもいる」
- 「用品に関する買い替えなどの多様なニーズに応えるいくつかの販売方法を導入する」
答案作成の根拠 設問では、保護者の「金銭的負担を減らしたい」というニーズに対し、「プライシングの新しい流れ」を考慮した「割賦販売以外の販売方法」を求めている。 保護者の負担は、子どもの成長に伴う「買い替え」の際に繰り返し発生する。この課題に対し、「所有」を前提としない販売方法が有効である。 「プライシングの新しい流れ」とは、モノの所有から利用(コト消費)へと価値観がシフトする中で生まれた価格戦略を指す。具体的には、サブスクリプション(定額制)モデルやレンタルが該当する。 そこで、一定の月額料金で野球用品一式を利用でき、子どもの成長に合わせて用具を交換できるサービスを提案する。これにより、保護者は高額な初期費用や買い替え費用を抑えることができ、子どもが野球を続けやすくなる。B 社にとっては、継続的な収益確保と顧客の囲い込みにつながるというメリットがある。
使用した経営学の知識
- サブスクリプションモデル: 顧客が製品やサービスを「所有」するのではなく、一定期間「利用」する権利に対して定額料金を支払うビジネスモデル。継続的な収益(リカーリングレベニュー)を生み出し、顧客との長期的な関係を構築しやすい。本問では、高額な野球用品の購入負担を軽減する解決策として最適である。
- レンタル/リース: サブスクリプションと類似するが、特定の物品を特定の期間貸し出すサービス。これも「所有から利用へ」の流れに沿った販売方法である。
第 3 問(配点 20 点)
設問文
女子の軟式野球チームはメンバーの獲得に苦しんでいる。B 社はメンバーの増員のために協力することになった。そのために B 社が取るべきプロモーションやイベントについて、100 字以内で助言せよ。
回答例(95 字)
地域のチームと共同で女子限定の野球体験会を開催。ポスターやチラシ、SNS で広く集客し、名前を刺繍したカラフルな女子向け用具の試用会を実施。特別な用具を持つ喜びと楽しさを伝え、参加を促進する。
解説
問題文の該当箇所
- 「女子の軟式野球が盛んになっているものの...女子のメンバー獲得に苦しんでいる」
- 「刺繍でネームを入れたりする加工技術を初代社長が身に付け、この技術が 2 代目社長にも継承されている」
- 「従来のポスターを貼ったりチラシを配布したりする募集活動に加え、SNS を用いた募集活動への対応も必要」
- 「女子向けの野球用品の提案力を高め、新規顧客としての女子チームの開拓を行う」
答案作成の根拠
- プロモーション(集客): チームの課題であるメンバー募集において、与件文にある「ポスターを貼ったりチラシを配布したりする募集活動」という従来の手法と、「SNS を用いた募集活動」を組み合わせた、オンライン・オフライン両面での集客を提案します。これにより、地域の様々な層の保護者へ告知を届けることができます。
- イベント(体験価値の向上): イベント内容として、B 社が初代から受け継いできた強みである「刺繍技術」を活かします。ただ用具を試すだけでなく、「名前を刺繍した特別な用具」に触れてもらうことで、女子児童に「自分だけの道具を持つ喜び」という付加価値を提供します。野球の楽しさに加え、こうした特別な体験を通じて、野球への興味関心を強く喚起し、チームへの参加を効果的に促進します。
使用した経営学の知識
- プロモーション・ミックス: 広告(ポスター・チラシ)、SNS、イベントといった複数のコミュニケーション手段を統合的に活用し、相乗効果を狙うマーケティング戦略。幅広いターゲット層に効率的にアプローチするために有効です。
- 経験価値マーケティング: 商品やサービスの機能的な価値だけでなく、顧客がそれを体験することによって得られる感情的・感覚的な価値(楽しさ、喜び、特別感など)を重視するアプローチ。本問では、「刺繍入り用具の試用」がこれにあたります。
第 4 問(配点 30 点)
設問文
B 社社長は、長期的な売上を高めるために、ホームページ、SNS、スマートフォンアプリの開発などによるオンライン・コミュニケーションを活用し、関係性の強化を図ろうと考えている。誰にどのような対応をとるべきか、150 字以内で助言せよ。
回答例(137 字)
① チーム監督には、選手のデータ管理や連絡網機能を持つアプリを提供し運営を支援する。② 選手と保護者には、HP で体格や技術に応じた推奨用具セットを紹介し、SNS では個別相談や手入れ方法を発信するなど双方向の交流を図る。これにより顧客との関係性を強化し、長期的な売上向上に繋げる。
解説
問題文の該当箇所
- 「子どもたち一人一人の体格や技術、特性に応じた商品カスタマイズの提案力をより強化する」
- 「各チームのデータ管理...スマートフォンを使って何かできないか」
- 「ホームページにどのような情報や機能を搭載すべきか、また、SNS やスマートフォンアプリの活用方法についても検討し、顧客との関係性強化を考えている」
答案作成の根拠
- 対 監督・コーチ : 監督のニーズである「チーム運営の効率化」に対し、スマートフォンアプリで「選手データ管理」や「連絡網」といった具体的な機能を提供します。これは B 社がチーム運営に不可欠なパートナーとなるための施策です。
- 対 選手・保護者 : 彼らに対しては、B 社の強みである専門的な提案力をオンラインで展開します。
- ホームページ(HP) では、一方的な情報発信の場として、「一人一人の体格や技術、特性に応じた推奨用具セット」のような専門知識をコンテンツ化します。これにより、保護者が用具を選ぶ際の不安を解消し、B 社の専門性への信頼を高めます。
- SNS では、その双方向性を活かし、DM(ダイレクトメッセージ)などでの「個別相談」に応じたり、「用具の手入れ方法」といった有益情報を発信したりすることで、顧客との継続的なコミュニケーションを図ります。 これらの具体的な施策を通じて、各顧客とのエンゲージメントを深め、関係性を強化することで、長期的な売上向上を目指します。
使用した経営学の知識
- CRM (Customer Relationship Management): 顧客関係管理。本問では、デジタルツールを用いて顧客をセグメント(監督、選手・保護者)に分け、それぞれのニーズに合わせた情報やサービス(アプリ、専門コンテンツ、個別相談)を提供することで、顧客満足度とロイヤルティを高める CRM 戦略を具体的に示しています。
- コンテンツマーケティング: 顧客にとって価値のある情報(コンテンツ)を Web サイトや SNS で発信し、見込み客を引きつけて最終的にファンとして育成していくマーケティング手法。HP での「推奨用具セット紹介」や SNS での「手入れ方法発信」がこれに該当します。