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平成 22 年度(2010 年度)事例 Ⅳ 解答解説

第 1 問(配点 40 点)

①:長所(収益性)

  • (a) 売上高営業利益率
  • (b) 5.00 (%) (計算過程:240 ÷ 4,799 × 100、同業他社:3.29 %)
  • (c) 技術開発や設備投資により高付加価値製品を実現し、リストラも奏功し、本業の収益性が同業他社より優れている。(52 文字)

②:長所(安全性)

  • (a) 自己資本比率
  • (b) 34.93 (%) (計算過程:1,277 ÷ 3,656 × 100、同業他社:32.89 %)
  • (c) 獲得した利益を内部留保し財務基盤の強化に充ててきた結果、資本構成が安定しており、長期的な安全性が高い。(51 文字)

③:短所(効率性)

  • (a) 有形固定資産回転率
  • (b) 3.73 (回) (計算過程:4,799 ÷ (359+922+7)、同業他社:3.70 回)
  • (c) 積極的な設備投資(建物・機械 922)を行ったが、生産能力に余裕があり、資産効率が同業他社(3.70 回)並みにとどまる。(59 文字)

(別解:短所)

  • (a) 流動比率
  • (b) 127.28 (%) (計算過程:1,969 ÷ 1,547 × 100、同業他社:133.43 %)
  • (c) 短期借入金が同業比で多く、流動比率が下回っている。Z 社依存のリスクもあり、短期的な支払能力に懸念がある。(52 文字)

解説

  • 指標選定理由
    1. 売上高営業利益率(収益性):与件の「高い収益性」「顧客からの信頼」を裏付ける指標として選定。
    2. 自己資本比率(安全性):与件の「利益を内部留保として」「成長してきた」結果を示す、長期安全性の代表的指標として選定。
    3. 有形固定資産回転率(効率性):与件の「積極的に技術開発と設備投資を行う」に対し、D 社の有形固定資産(1,288 百万円)は同業他社(994 百万円)より大きい。しかし与件に「現在の生産能力には余裕がある」とある通り、投資に見合う売上を上げられておらず、回転率が同業他社(3.70 回)並み(3.73 回)にとどまっている点を課題として選定。
  • 算定ルール
    • 売上高営業利益率=営業利益 ÷ 売上高 × 100
    • 自己資本比率=純資産合計 ÷ 資産合計 × 100
    • 有形固定資産回転率=売上高 ÷ 有形固定資産
    • (D 社 有形固定資産 = 359 + 922 + 7 = 1,288 百万円)
    • (同業他社 有形固定資産 = 383 + 557 + 54 = 994 百万円)
  • 丸め・単位:計算結果は小数第 3 位を四捨五入し、%、回で表示。
  • 解釈:D 社は、技術力とリストラにより本業の収益性(①)は高く、内部留保の蓄積により財務基盤(②)も安定している。しかし、積極的な設備投資の成果が売上に十分反映されておらず、過剰設備により効率性(③)が伸び悩んでいる点が課題である。

第 2 問(配点 25 点)

(設問 1)

①(20%値下げ)の損益分岐点売上高

3,279.42 (百万円)

②(30%値下げ・数量 2 倍)の損益分岐点売上高

3,825.76 (百万円)

解説

  1. 現状分析

    • 売上高 S = 2,823 百万円
    • 変動費 V = 1,129 百万円
    • 固定費 F = 1,640 百万円
    • 現状の変動費率 v = V / S = 1,129 ÷ 2,823
    • 現状の限界利益率 m = 1 - v = 1 - (1,129 / 2,823) = (2,823 - 1,129) / 2,823 = 1,694 / 2,823
  2. ケース ①(価格 0.8 倍)

    • 新価格 p' = 0.8p
    • 新変動費率 v' = (単位変動費 v_unit) / (新価格 p')
    • v' = (v_unit / p) / 0.8 = v / 0.8 = (1,129 / 2,823) / 0.8
    • v' = 1,129 / (2,823 × 0.8) = 1,129 / 2,258.4
    • 新限界利益率 m' = 1 - v' = 1 - (1,129 / 2,258.4) = (2,258.4 - 1,129) / 2,258.4 = 1,129.4 / 2,258.4
    • BEP① = F / m' = 1,640 / (1,129.4 / 2,258.4)
    • BEP① = (1,640 × 2,258.4) / 1,129.4 = 3,703,776 / 1,129.4 = 3,279.423...
    • (小数第 3 位四捨五入)→ 3,279.42 百万円
  3. ケース ②(価格 0.7 倍, 数量 2 倍)

    • 新価格 p'' = 0.7p
    • 新変動費率 v'' = v / 0.7 = (1,129 / 2,823) / 0.7
    • v'' = 1,129 / (2,823 × 0.7) = 1,129 / 1,976.1
    • 新限界利益率 m'' = 1 - v'' = 1 - (1,129 / 1,976.1) = (1,976.1 - 1,129) / 1,976.1 = 847.1 / 1,976.1
    • BEP② = F / m'' = 1,640 / (847.1 / 1,976.1)
    • BEP② = (1,640 × 1,976.1) / 847.1 = 3,240,804 / 847.1 = 3,825.763...
    • (小数第 3 位四捨五入)→ 3,825.76 百万円

(設問 2)

D 社は Z 社から提示された案のうち、どちらを受け入れるべきか、その理由とともに 60 字以内で解答せよ。

回答例(60 字)

価格 30%引き下げ案を受け入れる。20%引き下げ案では赤字になるが、前者では受注量が 2 倍になり、現状の利益を上回るため。

解説

判断の根拠として、部品 Q に関する「現状」「① 20%値下げ案」「② 30%値下げ・数量 2 倍案」の 3 パターンの営業利益を比較計算する。 固定費は 1,640 百万円で一定である。

  1. 現状の営業利益: 売上高 2,823 − 変動費 1,129 − 固定費 1,640 = 54 百万円
  2. ① 20%値下げ案の営業利益: (数量は現状維持と仮定) 新売上高 = 2,823 × 0.8 = 2,258.4 百万円 変動費 = 1,129 百万円(※数量は変わらないため) 営業利益 = 2,258.4 − 1,129 − 1,640 = -510.6 百万円
  3. ② 30%値下げ・数量 2 倍案の営業利益: 新売上高 = (2,823 × 0.7) × 2 = 3,952.2 百万円 新変動費 = 1,129 × 2 = 2,258 百万円(※数量が 2 倍になるため) 営業利益 = 3,952.2 − 2,258 − 1,640 = 54.2 百万円

比較結果: ② (54.2 百万円) > 現状 (54 百万円) > ① (-510.6 百万円)

① の案では大幅な赤字(-510.6 百万円)となってしまう。 一方、② の案では営業利益 54.2 百万円となり、現状の 54 百万円をわずかに上回る。 したがって、営業利益が最大化される ② の案を受け入れるべきである。

第 3 問(配点 20 点)

(設問 1)

(a) NPV(正味現在価値)

16.99 (百万円)

(b) 第 2 年度以降の損益分岐点売上高

3,712.67 (百万円)

解説

  1. (a) NPV の算定

    • 初期投資 I = 500 百万円 (t=0)
    • 減価償却費(増分) D = 500 ÷ 5 年 = 100 百万円/年
    • 税率 T = 40%、資本コスト r = 6%
    • ベース(ケース ②)の売上高 S'' = 3,952.2 百万円
    • ベース(ケース ②)の変動費 V'' = 2,258 百万円
    • 変動費削減額(ΔV)の計算
      • t=1:ΔV1 = V'' × 0.03 = 2,258 × 0.03 = 67.74 百万円
      • t=2-5:ΔV2-5 = V'' × 0.07 = 2,258 × 0.07 = 158.06 百万円
    • キャッシュフローの増分(NCF)の計算
      • NCF =(変動費削減額)× (1 - T) +(減価償却費増分)× T
      • NCF1 = 67.74 × (1 - 0.4) + 100 × 0.4 = 40.644 + 40 = 80.644 百万円
      • NCF2-5 = 158.06 × (1 - 0.4) + 100 × 0.4 = 94.836 + 40 = 134.836 百万円
    • 現価係数(r=6%)
      • t=1: 1 / (1.06) = 0.9434
      • t=2-5: (4 年年金係数 3.4651 + 5 年目係数 0.7473) - 1 年目係数 0.9434 = 4.2124 - 0.9434 = 3.269
    • NCF の現在価値合計 (PV)
      • PV = (80.644 × 0.9434) + (134.836 × 3.269)
      • PV = 76.071... + 440.916... = 516.987... 百万円
    • NPV = PV - I = 516.987... - 500 = 16.987...
  2. (b) 第 2 年度以降の BEP

    • 本設問では、変動費の削減を「変動費率」の削減と解釈して計算する。(※「変動費絶対額」の削減と解釈すると BEP は 3,712.91 百万円となる)
    • ベース(ケース ②)の変動費率 v'' = V'' / S'' = 2,258 / 3,952.2 = 1,129 / 1,976.1
    • 新固定費 F_new = 元の固定費 1,640 + 追加減価償却 100 = 1,740 百万円
    • 新変動費率(t=2-5) v_new = v'' × (1 - 0.07)
    • v_new = (1,129 / 1,976.1) × 0.93 = 1,049.97 / 1,976.1 = 0.53133...
    • 新限界利益率 m_new = 1 - v_new = 1 - 0.53133... = 0.46866...
    • BEP (b) = F_new / m_new = 1,740 / 0.46866... = 3,712.671...
    • (小数第 3 位四捨五入)→ 3,712.67 百万円

(設問 2)

D 社は、現状の生産方法で生産を続けるべきか、それとも設備投資を行い新たな生産方法を採用すべきか、理由を含めて 60 字以内で解答せよ。

回答例(60 字)

設備投資を行うべきである。NPV が正の値であり投資は財務的に有利である上、損益分岐点売上高も低下し収益性が改善するため。

解説

  • NPV 基準:設備投資案の NPV(正味現在価値)が 16.85 百万円(または 17.00 百万円)とプラス(NPV > 0)である。これは、投資が資本コスト(6%)を上回る価値を生み出すことを示しており、財務的に有利な投資である。
  • BEP 基準:投資前の損益分岐点売上高(ケース ②:3,825.76 百万円)と比較し、投資後の損益分岐点売上高(t=2-5:3,712.67 百万円)は低下している。これは、投資によって原価構造が改善し、より低い売上高で利益を出せるようになる(収益性が改善する)ことを意味する。
  • したがって、上記 2 つの観点から、この設備投資は実行すべきである。

第 4 問(配点 15 点)

(設問 1)

金利が上昇した場合に保有債券の市場価値にどのような影響が出るかを 20 字以内で説明せよ。

回答例(16 字)

金利が上昇すると債券価格は下落する。

解説

  • 債券の市場価値(価格)は、その債券から将来得られる利息と償還金を、市場金利(割引率)で現在価値に割り引いた合計値として計算される。
  • 市場金利が上昇すると、割引率が高くなるため、将来のキャッシュフローの現在価値は減少し、結果として債券の市場価値は下落する。

(設問 2)

設問 1 の影響を軽減するための方策を 30 字以内で提案せよ。

回答例(28 字)

資金需要時期に合わせて、残存期間の短い債券に乗り換える。

解説

  • 金利変動に対する債券価格の感応度(価格変動リスク)は、デュレーション(平均回収期間、残存期間が長いほど長くなる傾向)に比例する。
  • 金利上昇による価格下落リスクを軽減するためには、デュレーションが短い(=残存期間が短い)債券を保有することが有効である。
  • (なお、D 社の資金使途は 5 年後であり、5 年満期国債を保有することは、満期まで保有すれば金利変動リスクを回避できる「マッチング戦略」ではあるが、設問は「市場価値」への影響とその軽減策を問うているため、デュレーション短縮が解答となる。)

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