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平成 25 年度(2013 年度)事例 Ⅰ 解答解説

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第 1 問(配点 35 点)

設問文

A 社は、ここ数年で急速に事業を拡大させている。以下の設問に答えよ.

設問 1

A 社のこれまでの成長を支えた、健康食品の通信販売事業を長期的に継続させていくために必要な施策として、新商品の企画や新規顧客の開拓以外に、どのような点に留意して事業を組み立てることが必要であるか。80 字以内で答えよ.

回答例 (78 字)

既存顧客との関係性強化と顧客生涯価値の向上に留意する。オペレーターが顧客の不安に寄り添い、満足度を高め、主力商品の継続購入を促すことで事業基盤を安定させる。

解説

  • 問題文の該当箇所

    • 「売上のほとんどを骨・関節サポート向けサプリメントが占めており、次世代を担うような新商品が登場しているわけではない。」
    • 「団塊シニアを中心とする中高年層に健康の維持・増進向けのサプリメント市場が成長するかもしれないと考えていた」
    • 「本社の近隣に 100 名近いオペレーターからなるコールセンターを構える」
    • 「顧客に直接対応するコールセンターのオペレーター業務は、非正規社員とはいえ直接採用し、売上規模の伸びに応じて増員を行っている。」
  • 答案作成の根拠 設問では「新商品の企画や新規顧客の開拓以外」の施策が問われている。これは、経営戦略のフレームワークであるアンゾフの成長マトリクスにおける「市場浸透戦略」に該当し、既存顧客との関係を深め、既存商品の売上を伸ばす方向性での解答が求められる。 A 社は売上のほとんどを単一商品に依存しており、この顧客基盤が離反すれば経営は大きく傾くという脆弱性を抱えている。一方で、直接顧客と対話するコールセンターは同社の強みである。 したがって、事業を長期的に継続させるためには、この強みを活かして既存顧客との関係性を強化し、一人ひとりの顧客から生涯にわたって得られる利益の総額である顧客生涯価値(LTV)を向上させることが不可欠である。オペレーターが顧客の不安に寄り添う親身な対応で満足度を高め、継続購入を促すことが、事業基盤の安定に直結する。

  • 使用した経営学の知識

    • 顧客生涯価値(LTV: Life Time Value): 一人の顧客が取引期間を通じて企業にもたらす利益の総額である。一般的に新規顧客の獲得コストは既存顧客の維持コストより高いとされ、LTV の最大化は持続的成長の鍵となる。
    • CRM(Customer Relationship Management:顧客関係管理): 顧客との良好な関係を構築・維持し、LTV を最大化するための経営戦略である。A 社においては、オペレーターによる顧客対応が CRM 活動の中核を担う。
    • アンゾフの成長マトリクス: 事業の成長戦略を「製品」と「市場」の 2 軸で分類するフレームワークである。「市場浸透戦略」(既存市場 × 既存製品)は、本設問で求められている施策の方向性と合致する。

設問 2

A 社は、急速な事業拡大にもかかわらず、正規社員の数を大幅に増員せずに成長を実現してきた。今後もその体制を維持していく上で、どのような点に留意すべきか。中小企業診断士として、100 字以内で助言せよ.

回答例 (100 字)

正規社員の役割を広告、企画などのコア業務と、非正規社員や外部委託先の管理業務に特化させる点に留意する。業務を標準化し非正規社員へ権限を委譲することで、少数精鋭体制を維持しつつ組織全体の生産性を高める。

解説

  • 問題文の該当箇所

    • 「正規社員 26 名、非正規社員 109 名」
    • 「急速な事業拡大にもかかわらず、正規社員の数を大幅に増やしているわけではない。」
    • 「商品の梱包・発送などの業務も外注し始めた。」
    • 「宣伝広告については、広告代理店任せにするのではなく、これまで蓄積してきたノウハウを駆使して A 社が主導的に行っている。」
    • 「コールセンターのオペレーター業務は、非正規社員とはいえ直接採用し、売上規模の伸びに応じて増員を行っている。」
  • 答案作成の根拠 A 社は、少数精鋭の正規社員、多数の非正規社員、そして外部委託を組み合わせることで、効率的な経営を実現してきた。この体制を維持するには、それぞれの役割分担をより明確にし、全体の生産性を高める仕組みを構築する必要がある。 正規社員は、会社の競争力の源泉である「広告宣伝のノウハウ」や「商品企画」、そして組織の大部分を占める「非正規社員の管理」といったコア業務に集中すべきである。 一方で、非正規社員が担う定型的な業務は、マニュアル化や標準化を進めることで、正規社員の監督がなくとも効率的に遂行できるようにすべきである。これにより、正規社員はより付加価値の高い業務に専念でき、少数精鋭の体制を維持したまま成長を続けることが可能になる。

  • 使用した経営学の知識

    • コア・コンピタンス経営: 企業が持つ、他社には真似できない核となる強み(A 社では広告宣伝ノウハウなど)に経営資源を集中投下する考え方である。コアでない業務はアウトソーシングする。
    • エンパワーメント(権限委譲): 部下や下位組織に業務の権限を委譲することで、彼らの自律性を高め、迅速な意思決定を促し、上司はより重要な業務に集中できるようになる。

第 2 問(配点 35 点)

設問文

A 社の従業員の大半を占める非正規社員の管理について、以下の設問に答えよ.

設問 1

A 社は、同業他社と比べて時給が多少高くても、勤務経験がある中高年層の主婦をオペレーターとして採用している。それには、どのような理由が考えられるか。80 字以内で答えよ.

回答例 (79 字)

理由は、オペレーターが主要顧客の中高年層と同世代であり同じ目線で健康上の悩みに共感し、親身な対応で安心と信頼を与え、顧客満足度を高めることができるからである。

解説

  • 問題文の該当箇所

    • 「団塊シニアを中心とする中高年層に健康の維持・増進向けのサプリメント市場が成長する」
    • 「勤務経験がある中高年層の主婦をオペレーターとして採用している」
    • 「電話や FAX による注文の受付、商品に関する問い合わせの対応」
  • 答案作成の根拠 A 社の顧客は、健康に不安を抱える中高年層である。彼らが電話で問い合わせをする際、単なる事務的な応答ではなく、自身の悩みを理解し、共感してくれる相手を求めていると考えられる。 そこで、同じく中高年層で、社会経験や人生経験が豊富な主婦をオペレーターとして採用することで、顧客は「自分と同じような人が対応してくれている」という安心感を抱く。製品に関する質問だけでなく、それに付随する健康上の不安に対しても、実感を伴った親身な対応が期待できる。この共感に基づくコミュニケーションが顧客満足度を向上させ、競合他社との差別化要因となり、リピート購入に繋がると考えられる。

  • 使用した経営学の知識

    • 顧客満足(CS:Customer Satisfaction): 顧客の期待を上回る製品やサービスを提供することで得られる満足度のことである。高い CS は、顧客ロイヤルティやリピート購入率の向上に繋がる。ここでは、オペレーターの共感力が CS 向上の鍵となる。
    • ターゲティング: A 社は顧客層を中高年層に絞っており、そのターゲット層に合わせた人材(オペレーター)を配置することで、コミュニケーションの質を高めている。

設問 2

A 社のオペレーターの離職率は、同業他社と比べて低水準を保っている。今後その水準を維持するために、賃金制度以外にどのような具体的施策を講じるべきか。中小企業診断士として、100 字以内で助言せよ.

回答例 (98 字)

顧客からの感謝の声を共有する仕組みや、オペレーターへの表彰制度を導入し、仕事の社会的意義と貢献を実感させる。また、オペレーターからの業務改善提案を積極的に吸い上げ、経営に参加している意識を高める。

解説

  • 問題文の該当箇所

    • 「オペレーターの離職率は、5 パーセント程度と業界内では低水準である。」
    • 「賃金制度以外にどのような具体的施策を講じるべきか。」
    • 「顧客に直接対応するコールセンターのオペレーター業務」
  • 答案作成の根拠 設問では「賃金制度以外」の施策、つまり非金銭的なインセンティブが問われている。現在の低い離職率を維持するためには、オペレーターが「働きがい」を感じられる環境を整備することが重要である。 第一に、顧客から直接感謝されるというオペレーター業務の特性を活かし、その喜びを組織全体で共有したり、優れた応対を表彰したりすることで、自己の仕事への誇りや貢献実感(承認欲求)を満たすことができる。 第二に、日々顧客と接しているオペレーターは、業務上の課題や改善点に最も気づきやすい立場にいる。彼らの意見を吸い上げる提案制度などを設け、実際に業務に反映させることで、「自分たちが会社を良くしている」という経営への参画意識が芽生え、モチベーション向上に繋がる。

  • 使用した経営学の知識

    • ハーズバーグの二要因理論: 仕事の満足に関わる要因(動機付け要因)と、不満に関わる要因(衛生要因)を分けて考える理論である。賃金は不満を防ぐ「衛生要因」であるが、満足度を高め、モチベーションを上げるのは「動機付け要因」である「承認」「仕事そのもの」「責任」「達成」などである。本解答は、この動機付け要因に焦点を当てている。
    • 職務充実: 従業員に与える仕事の内容を質的に高め、計画や評価にも関与させることで、仕事への満足度や責任感を高める手法である。業務改善提案制度はこれに該当する。

第 3 問(配点 15 点)

設問文

A 社では、最近になって大学新卒の正規社員を採用し始めた。従来、中途採用しか行っていなかった同社が新卒正規社員を採用するようになった理由として、どのようなことが考えられるか。80 字以内で答えよ.

回答例 (78 字)

理由は、企業の持続的成長のため、将来の幹部候補を長期育成する必要があるため。また、新しい発想で組織を活性化し、事業の硬直化を防ぎ、変革を推進するためである。

解説

  • 問題文の該当箇所

    • 「最近になって大学新卒の正規社員を採用し始めた。」
    • 「従来、中途採用しか行っていなかった」
    • 「正規社員の数を大幅に増やしているわけではない」(少数精鋭)
    • 「売上のほとんどを骨・関節サポート向けサプリメントが占めており、次世代を担うような新商品が登場しているわけではない。」
  • 答案作成の根拠 中途採用は即戦力として有効であるが、特定のスキルや経験に偏りがちで、前職の文化を引きずる可能性がある。A 社は急成長を遂げたものの、事業ポートフォリオが単一商品に依存するという硬直性も見られる。 このような状況で新卒採用を始める理由として、2 つの側面が考えられる。

    1. 将来の幹部育成(サクセッションプラン): A 社の理念や文化を深く理解した人材を、ゼロから長期的に育成し、将来の経営を任せられる幹部候補としたいという狙いである。
    2. 組織の活性化と変革: 中途採用者とは異なる、社会経験のない新卒の柔軟な発想や新しい価値観を組織に取り込むことで、内部からの変革を促し、新商品開発の停滞など、現在の経営課題を打破する起爆剤としての役割を期待していると考えられる。
  • 使用した経営学の知識

    • サクセッションプラン(後継者育成計画): 企業の将来を担う経営者や幹部を、計画的に育成していくための仕組みである。新卒採用は、その最も初期の段階と位置づけられる。
    • 組織活性化: 組織内のコミュニケーションを活発にし、新しいアイデアや挑戦が生まれやすい風土を作ることである。異質な人材(この場合は新卒)の投入は、そのための有効な手段の一つである。

第 4 問(配点 15 点)

設問文

A 社では、ICT の専門業者に委託して構築した顧客データベースを活用している。しかし、そこで得られた情報は必ずしも新商品開発に直接結びついていない。そうした状況が生じる理由について、80 字以内で答えよ.

(76 字)

理由は、購買データと顧客の声を統合分析し商品開発に活かす仕組みが未整備な上、正規社員が日常業務に追われ、分析に時間を割けない体制であることが挙げられる。

解説

  • 問題文の該当箇所

    • 「ICT の専門業者に委託して構築した顧客データベースを活用している。」
    • 「そこで得られた情報は必ずしも新商品開発に直接結びついていない。」
    • 「コールセンターを構える」「顧客に直接対応する」
    • 「正規社員 26 名」「毎年 2〜3 名程度の正規社員を中途採用してきたに過ぎない」
  • 答案作成の根拠 A 社には 2 種類の顧客情報が存在する。一つは ICT 業者が構築した DB に蓄積される「購買日、頻度、金額」などの定量データである。もう一つは、コールセンターのオペレーターが日々顧客との対話で得ている「こんな商品が欲しい」「ここに不満がある」といった生の定性データである。 新商品開発のヒントは、後者の定性データにこそ多く含まれていると考えられる。しかし、DB が新商品開発に結びついていない状況は、これら 2 つのデータが統合・分析され、商品企画部門にフィードバックされる「仕組み」が機能していないことを示唆する。 また、その背景には組織的な要因も考えられる。少数精鋭の正規社員は、広告宣伝や業績管理などの日常業務に追われ、膨大な情報を分析し、新商品のアイデアに昇華させるための時間的・人的リソースが不足している可能性が高いと推測される。

  • 使用した経営学の知識

    • ナレッジマネジメント: 企業が持つ知識(ナレッジ)を組織全体で共有し、有効活用することで、企業全体の生産性を高める経営手法である。コールセンターに蓄積される顧客の声(暗黙知)を、商品開発に活かせる形式知へと変換・共有するプロセスが欠けている状態である。
    • CRM(顧客関係管理): CRM の目的は、収集した顧客情報を分析し、マーケティング活動や商品開発に活かすことである。A 社はデータ収集(DB 構築)の段階に留まり、分析・活用の段階に進めていないことが課題である。

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