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平成 20 年度(2008 年度) 事例 Ⅰ

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# 平成 20 年度(2008 年度) 事例 Ⅰ

## 与件文

A 社は、国際線で就航する航空会社の多くが旅客に提供している機内食(アントレー)の製造販売を主な事業とする、資本金 3,000 万円の食品加工メーカーである。現在、首都圏に 4 つの工場を所有し、正規・非正規社員あわせて約 300 名の従業員を擁して、およそ 18 億円の売上げを上げている。

1970 年代半ば、A 社は、現社長の父と叔父によって航空会社の機内食用ミニカップ入り食品を製造する食品加工メーカーとして設立された。会社設立と同時に、自宅の一角の小さな工場で、創業者の親族と近隣の主婦らをパート従業員として採用し生産を開始した。数年後、新しい国際空港が開港すると、唯一の取引先であった外国資本の航空会社の日本国内乗り入れの便数も増え供給体制強化を迫られた。そこで、A 社は、新空港近郊に第 2 工場を建設して操業を開始した。第 2 工場も第 1 工場と同様、工程のほとんどは手作業であったが、航空会社から、ミニカップ入り食品に加えてカップ入りジュースも注文されるようになって取引額は大きく伸張した。

同じ頃、ホテルの宴会に食材を提供するケータリング会社からサラダ用カット野菜の注文を受けたことで、事業基盤は固まってきた。もっとも、その後 10 年余りの A 社の成長は、航空会社とケータリング会社の事業拡大によってもたらされたもので、必ずしも自社の営業努力によるものとはいえない。

A 社が次なる事業拡大に向けて一歩踏み出したのは、創業後 15 年を経た頃からである。A 社の主力工場となった第 2 工場に隣接する土地に大型冷蔵室を備えた工場を増築すると、新たに 2 社の外国航空会社との取引も開始するようになった。当時の主力製品は、カップ入りジュース、サラダ用カット野菜とカットフルーツであった。かつて主力であったミニカップ入り食品の売上げは創業以来ほぼ横ばいで推移し、全社の売上げに占める割合は次第に縮小してきた。自宅併設のミニカップ入り食品製造の工場の規模や体制は、現在に至っても創業時とほとんど変わっていない。

1990 年代半ばになって、A 社は、創業以来の取引先である航空会社からアントレーの供給を打診されて社内で検討を加えた結果、アントレー製造をスタートさせるべく第 3 工場の建設を決定し、翌年から本格的供給を開始した。コールド・キッチンと呼ばれるジュースやサラダなどの食材加工に比べて、本格的な調理(ホット・キッチン)を必要とするアントレーを供給するためには、グリルや釜などの設備はもとより、提供する食材のメニューや味、盛りつけ、異物混入対策などの面での品質の高さが求められるようになったことはいうまでもない。また、急速冷凍した食品やチルド(冷蔵)加工した食品の保管・輸送などの温度帯管理に加えて、早朝・深夜にかかわらず航空機の発着時間に合わせてアントレーを確実に配送する体制を確保することも不可欠な条件であった。第 3 工場は、第 2 工場と比較にならないほど大規模になり、食品加工、輸送、管理スタッフなどを含めて従業員数(非正規社員を含む)も 250 名までになった。

さらに、客の嗜好や季節に合わせて、メニューの改訂を定期的に行うことも求められるようになった。航空会社のニーズを充足するためには有能な料理長の存在が不可欠であり、A 社でも有名レストランのシェフを長年経験し、料理界でその名をよく知られている人材を料理長として迎えた。

関西地区に新しく国際空港が開港し日本国内に乗り入れる便数がますます増加するようになると、ジュースやサラダだけを供給してきた航空会社からもアントレーの供給を依頼され、A 社の生産量は大きく伸張した。その結果、5〜6 年ほど前から第 3 工場も手狭になり始めた。そこで、A 社は、規模や設備の面で第 3 工場を上回る近代的な第 4 工場を建設し、第 3 工場から生産の全量移管を行った。現在、第 3 工場は稼働しておらず休眠状態である。こうして 2007 年に最新の製造設備を備えて、3 交代 24 時間稼働体制で操業を開始した第 4 工場は、食品の安全性を確保するために、食品に係る危害を確認しそれらを防除する管理手法であるハサップ(HACCP)を導入し、その認定工場となっている。

同年、2 代目社長の叔父の後を受けて、40 歳台前半の、創業者の長男で専務取締役であった現社長が事業を引き継ぎ、「安心して召し上がっていただける商品をリーズナブルな価格で」という創業以来のモットーを継承しながら、新しい体制をスタートさせた。

創業以来、比較的順調に事業拡大を実現し業績を伸張させてきた A 社であるが、一方で、厳しい国際的価格競争の中で生き残りをかけた事業展開を余儀なくされてきた航空会社との取引では、いっそう厳しい条件を求められているのも事実である。ここ数年の A 社の業績をみると、供給量の増大に合わせて売上高こそ伸張ないしは横ばいであるものの(2006 年度前年度対比 7.9%増、2007 年度前年度対比 0.9%減)、営業利益は大幅に減少している(営業利益率:2005 年度 8.0%、2006 年度 3.7%、2007 年度 0.9%)。第 4 工場に投資した資金の返済開始を 2009 年度に控えて、このことは大きな経営課題となってきた。

新社長に就任した現社長は、二人の創業者とも相談し、すぐに経営の革新に着手した。その一つは、組織体制の変更である。アントレー事業スタートの時から手腕を振るってきた料理長を第一線から相談役に勇退させ、若いシェフを料理長として採用した。また、工場長を取締役に抜擢して、それまで料理長が掌握していた人事権、購買権などの権限を移管した。

併せて、それまで流れ作業で行っていたアントレー生産の最終段階の盛りつけプロセスにも手をつけている。「シングル・ワークステーション(SWS)」と呼ばれる A 社が採用したやり方は、担当者が一人で一つのアントレーの盛りつけを行うもので生産性の向上を図ることを目的としている。

こうしたコスト削減と生産性向上の施策を講じるとともに、現社長は、将来に向けて新しい事業の柱を構築することを目的にして、新規事業として一般消費者向けのパック食品の製造販売にも乗り出した。自社ブランド製品を立ち上げ、空港近隣や食材供給先のホテル、近隣スーパーへの納品や百貨店の食品フェアへの参加、インターネットを利用した頒布会によって一般消費市場での事業展開をスタートさせた。このビジネスが本格化し、市場規模が大きくなれば、現在休眠中の第 3 工場を再稼働させることも念頭に置いている。

## 設問文

### 第 1 問(配点 20 点)

A 社の事業の歴史的展開を踏まえた上で、現在の A 社の強みは、どのような点にあると考えられるか。A 社の強みとそれを形成してきた要因について、100 字以内で述べよ.

### 第 2 問(配点 20 点)

A 社の取引の 80%以上を占めている航空業界の近年の厳しい状況が、A 社に対しても強くコスト削減を求めることになっている。その背景を、A 社が取り扱っている商品特性の視点から、100 字以内で述べよ.

### 第 3 問(配点 20 点)

収益改善に取り組む現社長は、工場長を取締役に昇進させて権限強化を図った。それまで料理長が掌握していた権限を工場長に移管したことが、コスト削減にどのような効果を及ぼしたと考えられるか。それが及ぼす効果について、150 字以内で述べよ.

### 第 4 問(配点 20 点)

現社長が導入した「シングル・ワークステーション(SWS)」が、生産性向上に効果を生み出す可能性と、それを効果的に機能させる上で必要な点について、150 字以内で述べよ.

### 第 5 問(配点 20 点)

一般消費市場への展開という A 社の新規事業開拓の成否について、中小企業診断士として意見を求められた。この新規事業が「成功すると思う」か「失敗すると思う」かを明確にして、その立場から、理由を 100 字以内で述べよ.

## 出題の趣旨

### 第 1 問(配点 20 点)

創業以来、長期間にわたって少数の特定の取引先との取引をベースにして事業を拡大してきたA社の強みが、どのようなもので、また、それがどのようなプロセスによって生み出されてきたかについて、中小企業の競争優位性構築に関する基本的理解と基本的分析能力を問う問題である。

### 第 2 問(配点 20 点)

コスト削減を求められるA社を取り巻く状況が、どのような経営環境の要因によって生じているのか、取扱製品の特性から、中小企業の事業に及ぼす経営環境特性に関する基本的理解と基本的分析能力を問う問題である。

### 第 3 問(配点 20 点)

A社の料理長と工場長の人事異動が生み出したコスト削減効果について、中小企業の組織体制の変更によるパワー関係の変化が及ぼす影響に関して、中小企業診断士として分析する基本能力を問う問題である。

### 第 4 問(配点 20 点)

A社が導入した「シングル・ワークステーション(SWS)」の生産性向上に及ぼす効果と、それを有効に機能させる上で必要な施策について、中小企業診断士として必要な分析能力と助言能力とを問う問題である。

### 第 5 問(配点 20 点)

A社が展開する新規事業の将来の成功の可否について、成否いずれかの立場から、その理由に関して、中小企業診断士としての分析能力と助言能力とを問う問題である。

# 平成 20 年度(2008 年度)事例 Ⅰ 回答と解説

## 第 1 問(配点 20 点)

### 設問文

A 社の事業の歴史的展開を踏まえた上で、現在の A 社の強みは、どのような点にあると考えられるか。A 社の強みとそれを形成してきた要因について、100 字以内で述べよ.

### 回答例(98 字)

**強みは、航空会社の高度な要求に応える企画・開発力と機内食の製造・供給力である。要因は、主要取引先との長期的関係の中で、その要求に応じ設備投資や人材確保、HACCP 導入などを継続してきたことである。**

### 解説

- **問題文の該当箇所**

  - 「有名レストランのシェフを長年経験し、料理界でその名をよく知られている人材を料理長として迎えた」
  - 「早朝・深夜にかかわらず航空機の発着時間に合わせてアントレーを確実に配送する体制」
  - 「食品の安全性を確保するために、食品に係る危害を確認しそれらを防除する管理手法であるハサップ(HACCP)を導入し、その認定工場となっている」
  - 「創業以来の取引先である航空会社からアントレーの供給を打診され」
  - 「(取引先の)事業拡大によってもたらされたもので、必ずしも自社の営業努力によるものとはいえない」

- **答案作成の根拠**
  設問は A 社の「現在の強み」と「それを形成してきた要因」を問うています。
  現在の A 社の主力事業は航空会社向けのアントレー(機内食)製造販売です。与件文から、A 社がこの事業において、① 有名シェフを招聘し、メニュー改訂に対応する**企画・開発力**、②HACCP 認定工場での**高品質・安全な製造能力**、③ 航空機の発着に合わせた**確実な配送体制**、といった高度な能力を有していることが読み取れます。これらが A 社の現在の**強み**です。
  次に、これらの強みが「どのように形成されたか」という要因については、A 社の歴史的展開に注目します。A 社の成長は、自社の営業努力というよりは、創業以来の取引先である航空会社の事業拡大や高度化する要求に「応える」形で、工場増設、設備投資、人材確保、管理体制の構築などを逐次行ってきた結果です。
  したがって、「主要取引先との長期的関係の中で、その要求に応え続けたこと」が強みの形成要因であると結論付けられます。

- **使用した経営学の知識**
  - **コア・コンピタンス**: 企業の競争優位の源泉となる、他社が模倣しにくい独自のスキルや技術の集合体。A 社の場合、高品質な機内食を安定的に供給する一連の能力がこれに該当します。
  - **リレーションシップ・マーケティング**: 特定の顧客との長期的な関係を重視し、信頼関係を構築・維持することで、継続的な取引を確保するマーケティング手法。A 社の成長プロセスは、この考え方に基づいています。

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## 第 2 問(配点 20 点)

### 設問文

A 社の取引の 80%以上を占めている航空業界の近年の厳しい状況が、A 社に対しても強くコスト削減を求めることになっている。その背景を、A 社が取り扱っている商品特性の視点から、100 字以内で述べよ.

### 回答例(98 字)

**A 社の機内食は、航空サービスを構成する中間財である。航空業界では価格競争が激化しており、コスト削減が急務となっているため、コスト項目である機内食に対して、厳しい価格引き下げ圧力がかかっている。**

### 解説

- **問題文の該当箇所**

  - 「国際線で就航する航空会社の多くが旅客に提供している機内食(アントレー)の製造販売」
  - 「厳しい国際的価格競争の中で生き残りをかけた事業展開を余儀なくされてきた航空会社との取引では、いっそう厳しい条件を求められている」

- **答案作成の根拠**
  設問は、航空会社から厳しいコスト削減要求を受ける背景を「A 社が取り扱っている商品特性」の視点から説明することを求めています。
  まず、A 社の**商品特性**を定義します。機内食は、それ自体が独立して販売される最終製品ではなく、航空会社の輸送サービスに付随して提供される **中間財(または構成品)** です。旅客は「航空券」を購入しており、機内食はその価格に含まれるサービスの一部に過ぎません。
  次に、買い手である航空業界の状況を見ると、「厳しい国際的価格競争」に晒されています。これは、LCC の台頭などによる航空運賃の引き下げ競争を意味します。航空会社にとって、運賃競争を勝ち抜くには、燃料費や人件費と並んで、機内食のようなサービス費用も **コスト削減の対象** となります。
  したがって、「航空会社のサービスを構成するコスト項目である」という商品特性が、航空業界の価格競争激化という外部環境と相まって、A 社への強い価格引き下げ圧力の背景となっている、という論理で回答を構成します。

- **使用した経営学の知識**
  - **ファイブフォース分析**: 業界の競争環境を分析するフレームワーク。本件では「買い手の交渉力」が非常に強い状況にあります。航空会社という大口顧客が価格決定権を握っており、A 社は厳しい価格要求を飲まざるを得ない構造になっています。
  - **BtoB(Business-to-Business)取引**: 企業間取引の特性。A 社の取引は典型的な BtoB であり、顧客(航空会社)の事業環境(価格競争)が、A 社の経営に直接的な影響を及ぼします。

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## 第 3 問(配点 20 点)

### 設問文

収益改善に取り組む現社長は、工場長を取締役に昇進させて権限強化を図った。それまで料理長が掌握していた権限を工場長に移管したことが、コスト削減にどのような効果を及ぼしたと考えられるか。それが及ぼす効果について、150 字以内で述べよ.

### 回答例(150 字)

**権限移管により、品質最優先の料理長から生産効率重視の工場長へ意思決定の主軸が移る。これにより、購買面では品質を維持しつつ安価な食材調達や価格交渉で原材料費を削減する。人事面では生産性を重視した人員配置や労務管理で労務費を削減する。結果、品質とコストのバランスを最適化し、収益改善に貢献する効果がある。**

### 解説

- **問題文の該当箇所**

  - 「料理長を第一線から相談役に勇退させ、若いシェフを料理長として採用した」
  - 「工場長を取締役に抜擢して、それまで料理長が掌握していた人事権、購買権などの権限を移管した」
  - 「営業利益は大幅に減少している(営業利益率:2005 年度 8.0%、2006 年度 3.7%、2007 年度 0.9%)」

- **答案作成の根拠**
  設問は、料理長から工場長への権限移管が「コスト削減に及ぼす効果」を問うています。この組織変更の目的は、与件文の「営業利益の大幅な減少」という経営課題に対応する「収益改善」です。
  権限移管の前と後で、意思決定の基準がどう変わるかを考えます。

  - **旧体制(料理長が権限掌握)**: 「有名レストランのシェフ」であった料理長は、その専門性から **「品質」** を最優先する傾向があったと推察されます。高品質な食材の仕入れ(購買権)や、腕の良い人材の確保(人事権)において、コスト度外視の判断をしていた可能性があります。
  - **新体制(工場長が権限掌握)**: 一方、工場長の役割は、生産ライン全体の効率化、つまり **「コスト管理」****「生産性向上」** にあります。
    この視点の変化から、具体的なコスト削減効果を導き出します。

  1.  **購買権の移管効果**: 工場長は、一定の品質基準を満たす範囲で、より安価な食材を探したり、仕入先との価格交渉を強化したりすることで**原材料費**の削減を図ると考えられます。
  2.  **人事権の移管効果**: 工場長は、生産性に基づいた人員配置や採用、労務管理を行うことで**労務費**の削減を図ると考えられます。
      これらの効果を組み合わせ、「品質とコストのバランスを最適化し、収益改善に繋がる」と結論付けます。

- **使用した経営学の知識**
  - **権限委譲**: 上位者が持つ権限の一部を下位者に移すこと。本件では、社長が工場長に権限を委譲し、取締役へと昇進させることで、より経営的な視点でのコスト管理を期待しています。
  - **組織設計論**: 組織の目標を達成するために、部門や個人の役割、権限、責任をどのように配分するかという考え方。本件は、収益改善という目標達成のために、権限配分を見直した事例と言えます。

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## 第 4 問(配点 20 点)

### 設問文

現社長が導入した「シングル・ワークステーション(SWS)」が、生産性向上に効果を生み出す可能性と、それを効果的に機能させる上で必要な点について、150 字以内で述べよ.

### 回答例(149 字)

**可能性は、担当者の責任感と動機付けを高め、手待ち等のムダを削減することや多能工化が進み、生産量の変動やメニュー変更にも対応できること。機能させるには、① 盛り付け全工程を習得させる教育訓練、② 作業標準化による品質の安定、③ 個人の習熟度や生産性を公平に評価し処遇に反映させる人事制度の整備が必要である。**

### 解説

- **問題文の該当箇所**

  - 「流れ作業で行っていたアントレー生産の最終段階の盛りつけプロセスにも手をつけている」
  - 「『シングル・ワークステーション(SWS)』と呼ばれる A 社が採用したやり方は、担当者が一人で一つのアントレーの盛りつけを行うもので生産性の向上を図ることを目的としている」

- **答案作成の根拠**
  設問は、SWS(シングル・ワークステーション)の「生産性向上に効果を生み出す可能性」と「効果的に機能させる上で必要な点」の 2 点を求めています。これは「セル生産方式」のメリットと留意点を問う問題です。

  1.  **生産性向上に効果を生み出す可能性(メリット)**:

      - **心理的効果**: 従来のライン作業と異なり、一人で製品を完成させるため、仕事への**責任感**や達成感が高まり、**モチベーション向上**に繋がります。
      - **物理的効果**: ライン作業で発生しがちな工程間の**手待ち時間や仕掛品のムダを削減**できます。
      - **柔軟性の向上**: 担当者が盛り付けの全工程を担うため**「多能工化」**が進みます。これにより、生産量の増減や急なメニュー変更にも柔軟に対応しやすくなります。

  2.  **効果的に機能させる上で必要な点(留意点)**:
      - SWS を成功させるには、従業員が複数の作業をこなせるようになる必要があります。そのため、**① 全工程を習得させるための教育訓練**が不可欠です。
      - 作業が個人に任されるため、品質にバラつきが出るリスクがあります。これを防ぐために、**② 作業手順のマニュアル化といった標準化**が必要です。
      - 個人のスキルや生産性が直接成果に現れるため、その努力や成果が報われる仕組みがないとモチベーションが低下します。したがって、**③ 個人のスキルや生産性を公平に評価し、賃金などに反映させる人事評価制度**の整備が重要となります。

- **使用した経営学の知識**
  - **セル生産方式**: 流れ作業(ライン生産方式)と対比される生産方式で、一人または少数の作業者チームが製品の組み立て工程をすべて担当する方式。多品種少量生産に適しており、作業者のモチベーション向上や生産性の向上が期待できます。SWS はこれに該当します。
  - **動機付け理論(モチベーション理論)**: マズローの欲求段階説やハーズバーグの二要因理論など。SWS は、仕事の完結性や責任性を高めることで、従業員の自己実現欲求や承認欲求を満たし、内発的動機付けを高める効果(職務充実)が期待できます。
  - **スキルマップと人事評価制度**: 多能工化を計画的に進めるためには、従業員のスキルレベルを可視化する「スキルマップ」の作成が有効です。また、そのスキルや成果を処遇に結びつける人事制度が、学習意欲と生産性向上を支えます。

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## 第 5 問(配点 20 点)

### 設問文

一般消費市場への展開という A 社の新規事業開拓の成否について、中小企業診断士として意見を求められた。この新規事業が「成功すると思う」か「失敗すると思う」かを明確にして、その立場から、理由を 100 字以内で述べよ.

### 回答例(100 字)

- **失敗すると思う。**

**理由は、特定顧客への受動的対応により成長したため、BtoC に不可欠なマーケティングや営業ノウハウが欠如しているから。ブランド力も無く、競争の激しい一般消費者市場での新規販路開拓や販売促進は困難である。**

### 解説

- **問題文の該当箇所**

  - 「A 社の成長は、航空会社とケータリング会社の事業拡大によってもたらされたもので、必ずしも自社の営業努力によるものとはいえない」
  - 「新規事業として一般消費者向けのパック食品の製造販売にも乗り出した」
  - 「自社ブランド製品を立ち上げ、空港近隣や食材供給先のホテル、近隣スーパーへの納品や百貨店の食品フェアへの参加、インターネットを利用した頒布会によって一般消費市場での事業展開をスタートさせた」

- **答案作成の根拠**
  設問は、新規事業(一般消費者市場への展開)の成否について、どちらかの立場を明確にし、その理由を述べることを求めています。ここでは「失敗すると思う」立場を選択します。その最大の根拠は、A 社の **これまでの成功要因と、新規事業で求められる成功要因のギャップ** です。

  - **A 社のこれまでの成功要因**: 与件文に「必ずしも自社の営業努力によるものとはいえない」と明記されている通り、A 社は特定の BtoB 顧客の要求に応える「受動的な事業展開」で成長してきました。
  - **新規事業で求められる成功要因**: 一方、不特定多数の一般消費者を相手にする BtoC 市場では、自ら顧客ニーズを捉え、ブランドを構築し、広告宣伝や販促活動を通じて商品を売り込む**「能動的なマーケティング・営業能力」**が不可欠です。
    A 社にはこの BtoC のノウハウが決定的に不足していると考えられます。無名の「自社ブランド」を、競争の激しいスーパー、百貨店、インターネット通販といったチャネルで販売していくことは極めて困難です。高品質な製造能力という強みはありますが、それを消費者に伝え、買ってもらうための力が弱いと判断できます。
    したがって、「成功する」という楽観的な見方よりも、これまでの事業特性からくる弱点を指摘する「失敗する」という見方の方が、与件文の記述に忠実で説得力のある論拠を立てやすいです。

- **使用した経営学の知識**
  - **BtoB と BtoC マーケティングの違い**: BtoB(企業間)取引は顧客が限定的で合理的判断が重視されるのに対し、BtoC(企業対消費者)取引は顧客が不特定多数で、ブランドイメージや広告といった情緒的・心理的アプローチが重要になります。A 社はこの事業モデルの転換に対応できる組織能力を持っていない可能性が高いです。
  - **アンゾフの成長マトリクス**: 「新製品開発」「新市場開拓」「多角化」といった企業の成長戦略を分類するフレームワーク。A 社の新規事業は「新製品(一般消費者向けパック食品)」を「新市場(一般消費者市場)」に投入する**「多角化」戦略**に該当し、最もリスクが高い戦略とされています。特に、A 社の場合は既存事業との関連性が薄い非関連多角化に近く、成功のハードルはさらに高いと言えます。

## AI への指示

あなたは、中小企業診断士二次試験の採点官です。二次試験は上位 18%しか合格できない難関試験です。そのため、上位 10%に入れるように厳しく添削してください。

**評価の基本方針**

- **模範解答は絶対的な正解ではなく、あくまで高得点答案の一例として扱います。**
- あなたの解答の評価は、第一に**与件文の記述と設問要求に忠実であるか**、第二に**中小企業診断士としての一貫した論理が展開できているか**を最優先の基準とします。
- 模範解答とは異なる切り口や着眼点であっても、それが与件文に根拠を持ち、論理的に妥当であれば、その**独自の価値を積極的に評価**してください。
- 模範解答は、比較対象として「こういう切り口・要素もある」という**視点を提供するもの**として活用し、あなたの解答との優劣を単純に比較するのではなく、多角的な分析のために使用してください。

上記の基本方針に基づき、以下の入力情報と評価基準に従って、**60 点の合格ラインを安定して超えることを目的とした現実的な視点**で私の解答を添削してください。**加点できそうなポイントと、失点を防ぐべきポイント**をバランス良く指摘してください。

評価は点数ではなく、下記の**ABCDEF 評価基準**に沿って行ってください。

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### ABCDEF 評価基準

- **A 評価 (完璧 / 80 点以上):** 設問要求を完全に満たし、複数の重要な根拠を的確に網羅している。論理構成が極めて明快で、非の打ちどころがないレベル。
- **B 評価 (高得点レベル / 70 点〜79 点):** 設問要求に的確に応え、重要な根拠を複数盛り込んでいる。論理構成が明快な、上位合格答案レベル。
- **C 評価 (合格レベル / 60 点〜69 点):** 設問の主要な要求を満たしており、大きな論理的破綻がない。安定して合格点をクリアできるレベル。
- **D 評価 (合格ボーダーライン / 55 点〜59 点):** 解答の方向性は合っているが、根拠の不足や論理の飛躍が散見される。合否が分かれるレベル。
- **E 評価 (要改善レベル / 50 点〜54 点):** 解答の方向性に部分的な誤りがあるか、根拠が著しく不足している。合格には改善が必要なレベル。
- **F 評価 (不合格レベル / 49 点以下):** 設問の意図の誤解や、与件文の無視など、根本的な改善が必要なレベル。

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### 入力情報

与件文、設問文、出題の趣旨、解説、あなたの回答を参照してください。

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### 出力項目

以下の形式で、詳細なフィードバックをお願いします。

冒頭で `ABCDEF 評価基準`の定義を説明します。

**1. 設問ごとの添削**

**模範解答(比較参考用)**

`回答例と解説`の回答例を出力してください。

**あなたの回答**

模範回答との比較用にあなたの回答を掲載してください。

- **評価:** この設問の評価を **A / B / C / D / E / F** で端的に示してください。

- **フィードバック:**

- **① 設問解釈と方向性:** 設問の意図を正しく捉えられているか。解答の方向性は適切か。模範解答とは違う切り口だが、与件文・設問要求に照らして有効か、といった視点で評価してください。
- **② 与件文の活用:** 解答の根拠として、与件文中のどの SWOT 情報を、どの程度効果的に使えているか。根拠の抽出漏れや解釈の間違いはないか。
- **③ 知識と論理構成:** 診断士としての経営知識を適切に応用できているか。「A だから B になる」という因果関係は明確で、論理に飛躍はないか。模範解答とは異なる論理展開でも、それが妥当であれば評価してください。
- **④ 具体性と表現:** 抽象論に終始せず、企業の状況に合わせた具体的な記述ができているか。冗長な表現や不適切な言葉遣いはないか。
- **改善提案:**どうすれば A・B 評価の解答に近づけるか、**「どの与件文のこの部分を使い、このように論理を展開すべきだった」**というように、具体的かつ実践的な改善案を提示してください。あなたの解答の優れた点を活かす形での改善案も歓迎します。

**2. 総評**

- **総合評価:** 全ての設問を考慮した最終評価を **A / B / C / D / E / F** で示してください。
- **全体を通しての強み:** 今後の学習でも活かすべき、あなたの解答の良い点を挙げてください。(模範解答にない独自の視点など)
- **全体を通しての課題:** 合格のために、最も優先的に改善すべき点を指摘してください。
- **合格に向けたアドバイス:** 今後の学習方針について、具体的なアドバイスをお願いします。

## あなたの回答

### 第 1 問(配点 20 点)

### 第 2 問(配点 20 点)

### 第 3 問(配点 20 点)

### 第 4 問(配点 20 点)

### 第 5 問(配点 20 点)

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