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平成 20 年度(2008 年度) 事例 Ⅳ 解答解説
第 1 問(配点 30 点)
問題点の根拠を最も的確に示す経営指標を(a)欄に示し、経営指標を(b)欄に示した上で、その問題点の内容について(c)欄に 60 字以内で説明せよ。
①:問題点 1 (収益性)
- (a) 売上高総利益率
- (b) 23.64 (%) (計算過程:130 ÷ 550 × 100、同業他社:31.33 %)
- (c) 技術力は高いが、老朽化設備の修繕費(43 百万円)が原価を圧迫し、売上高総利益率が同業他社より著しく低い点。(53 字)
②:問題点 2 (効率性)
- (a) 棚卸資産回転率
- (b) 13.13 (回) (計算過程:420 ÷ 32、同業他社:21.68 回)
- (c) 棚卸資産が同業他社比で過大であり、在庫管理が非効率なため、運転資本が固定化し資金繰りを圧迫している点。(51 字)
③:問題点 3 (安全性)
- (a) 自己資本比率
- (b) 15.98 (%) (計算過程:39 ÷ 244 × 100、同業他社:33.98 %)
- (c) 借入依存度が高く自己資本比率が同業の半分以下であり、課題の設備更新に必要な資金調達が困難である点。(49 字)
解説
- 指標選定理由:
- 収益性:与件文に「高い技術力」とある一方、P/L では「営業利益 5(同業 13)」「経常利益 -3(同業 10)」と低収益である。原因を探るため売上高総利益率を見ると、同業 (31.3%) に対し D 社 (23.6%) と著しく低い。これは C/R(製造原価報告書)の「修繕費 43(同業 23)」が示すように、 老朽化設備によるコスト増(メンテナンス費用増) が原価を押し上げている問題と直結する。
- 効率性:B/S 上で D 社の「棚卸資産 32」が同業 (19) より突出して多い。売上原価(製造原価)で回転率を計算すると D 社 (13.1 回) は同業 (21.7 回) の約 6 割にとどまり、過剰在庫・非効率な在庫管理が示唆される。これは流動比率(D 社 101.0%、同業 130.4%)の低さの一因でもある。
- 安全性:与件文に「設備更新に要する資金が体力に比べて過大」とある。B/S を見ると、D 社の「負債合計 205」に対し「純資産 39」と、自己資本比率 (16.0%) が同業 (34.0%) の半分以下であり、財務基盤が極めて脆弱である。設備投資の資金調達が困難である根拠となる。
- 算定ルール:
- 売上高総利益率=売上総利益 ÷ 売上高 × 100
- 棚卸資産回転率=売上原価 ÷ 棚卸資産
- 自己資本比率=純資産合計 ÷ 負債・純資産合計 × 100
- 丸め・単位:指示に基づき、小数第 3 位を四捨五入し、小数第 2 位まで表示。
第 2 問(配点 25 点)
(設問 1)税引前営業キャッシュフローの現在価値
-1,439 万円
解説
- 割引率:10%、期間:5 年
- 売上高は各年 26,000 万円、操業費は毎年 10%増加
| 年度 | 操業費 | CF(=26,000− 操業費) |
|---|---|---|
| t1 | 22,000 | 4,000 |
| t2 | 24,200 | 1,800 |
| t3 | 26,620 | △620 |
| t4 | 29,282 | △3,282 |
| t5 | 32,210 | △6,210 |
PV(CF) = 4,000 ÷ 1.1¹ + 1,800 ÷ 1.1² + (−620) ÷ 1.1³ + (−3,282) ÷ 1.1⁴ + (−6,210) ÷ 1.1⁵ = -1439.419... = △1,439 万円(四捨五入で △1,440 万円も可)
操業費の増加率(g=0.1)が割引率(r=0.1)と等しいため、結果的に各年の現在価値がほぼ一定となり、差額はマイナスとなる。
(設問 2)経営状況と対策(49 字)
予想:操業コスト増の赤字拡大による資金繰り悪化。対策:コスト削減の推進と早期の新主力設備への更新。
解説
- 設問 1 の分析の通り、現設備を継続使用した場合、5 年間の税引前営業 CF の現在価値はマイナス(-1,439 万円)となる。
- これは、売上が一定(26,000 万円)にもかかわらず、現金支出操業費が毎年 10%増加し続け、3 年目(22 年度)には操業費(26,620 万円)が売上(26,000 万円)を超過し、赤字が拡大していくためである。
- これは与件文の「老朽化による故障が多発」「メンテナンス費用が増加」という記述とも整合する。
- したがって、赤字を生み出す現設備の使用は中止し、与件文の「メンテナンス費用の減少」「売上の増大」が期待できる新主力設備への更新(第 3 問)を早急に検討・断行すべきである。
第 3 問(配点 25 点)
(設問 1)
(a) 固定資産売却損
1,825 万円
(b) 平成 20 年度の予想税引前純利益
-1,250 万円
解説
(a) 固定資産売却損
- 取得原価:3,500
- 残存価額:350(3,500×10%)
- 減価償却費:315((3,500−350)÷10)
- 減価償却累計:1,575(315×5)
- 期首簿価:1,925(3,500−1,575)
- 売却価額:100
→ 売却損:1,825(1,925−100)
(b) 予想税引前純利益
- 基準利益:−300
- 操業費削減:+ 2,000
- 減価償却費増加:−485(旧 315→ 新 800)
- 支払利息:−640(8,000×8%)
- 売却損:−1,825
→ −1,250(−300 + 2,000−485−640−1,825)
(設問 2)負債の節税効果の現在価値
922 万円
解説
- 考え方:タックスシールド=支払利息 × 実効税率 40%。
8%で割引し、返済で利息が半減する区間を分けて現在価値を求める。
H20 ~ H22(3 年)
- 利息:8,000×8%= 640 → 節税効果:640 × 40% = 256/年
- PV:256 × 年金現価係数(3,8%)=2.5771 = 659.7376
H23 ~ H25(3 年)
- H22 末に 4,000 返済 → 利息:4,000×8%= 320 → 節税効果:320 × 40% = 128/年
- まず区間 PV:128 × 2.5771 = 329.8688
- これを3 年分割引:× 現価係数(3,8%)=0.7938 = 261.854
合計
- 659.7376 + 261.854 ≒ 921.592 → 922(万)
第 4 問(配点 20 点)
(1)資金調達を全額負債に依存した場合の問題点、(2)社長一族が経営権を維持しつつ Z 社から出資を受ける方法。
(設問 1)(60 字)
自己資本比率がさらに低下し財務安全性が悪化する。金利負担が固定費となり、赤字決算が予想される中で資金繰りが圧迫される点。
解説
- D 社の自己資本比率は 16.0%(39/244)と、同業他社 (34.0%) に比べ著しく低く、財務基盤が脆弱である(第 1 問)。
- 投資額 8,000 万円を全額負債で調達すると、負債が 2,050 万円から 2,850 万円に増加し、自己資本比率は 12.0%(39 / (244+80))へと一層低下し、倒産リスクが高まる。
- また、年間 640 万円の支払利息が固定費として発生する。第 3 問(設問 1)で H20 年度は赤字(-1,210 万円)が予想される中、この利払い負担は資金繰りをさらに悪化させる要因となる。
(設問 2)(40 字)
Z 社に対し、議決権のない種類株式(優先株式など)を発行し、引き受けてもらう方法。
解説
- Z 社から「出資を含む資本面での支援」を受ける際、通常の「普通株式」を発行すると、Z 社の持株比率に応じて議決権が移転し、社長一族の経営権が脅かされる(与件文の懸念)。
- 経営権(議決権)を維持しつつ、資本(純資産)を増強する手法として「種類株式」の発行がある。
- 例えば、配当を優先する代わりに議決権を持たない「無議決権株式」や「優先株式」を発行し、これを Z 社に引き受けてもらえば、社長一族は過半数の議決権を維持したまま、財務基盤の強化(自己資本の増強)が可能となる。