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平成 23 年度(2011 年度)事例 Ⅱ 回答と解説
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第 1 問(配点 10 点)
設問文
意図しているかいないかにかかわらず、これまでに B メガネが採用してきた競争戦略はどのような戦略かを 50 字以内で説明せよ.
回答例(50 字)
特定の顧客層に、高付加価値な製品と個別対応サービスを提供し、長期的な関係性を構築する差別化集中戦略。
解説
問題文の該当箇所
- 「45 歳から 64 歳の年代層をメイン・ターゲットとして、既製ではなくオーダーメイドの累進・多焦点レンズを用いた眼鏡を主力商品として加工・販売を行ってきた。」
- 「付加価値の高い眼鏡をマーケティングすることにより高い収益性を確保してきた」
- 「生涯価値という考え方を早くから導入して顧客管理を行ってきた」
- 「顧客一人一人についてオリジナルで考案したカルテを作成してきた」
- 「担当者を顧客が指名するシステムを導入している」
答案作成の根拠 与件文から、B メガネは市場全体を狙うのではなく、「45 歳から 64 歳の年代層」という特定のセグメントに経営資源を集中していることがわかる。そのターゲットに対し、「オーダーメイドの累進・多焦点レンズ」という高付加価値製品と、詳細な顧客カルテに基づく「個別対応」や「担当者指名制」といった手厚いサービスを提供することで、他社との明確な違いを打ち出している。これにより、高い顧客ロイヤルティと収益性を確保している。
使用した経営学の知識 マイケル・ポーターが提唱した競争の基本戦略のうち、特定の顧客セグメントに特化し、そのセグメントのニーズに対して差別化された製品・サービスを提供する差別化集中戦略に該当する。また、顧客との長期的な関係構築を目指すリレーションシップ・マーケティングを実践している点も、この戦略を支える重要な要素である。
第 2 問(配点 25 点)
設問文
M メガネ・チェーンに対抗するために、「わが社にとってファッション性を重視した新しい戦略」が必要であると店長(社長の長男)が提案した.
(設問 1)
新戦略のターゲットは、「ファッションに関心ある」というセグメントに絞り込んだ上で、さらにどのようなターゲットにすべきかを 20 字以内で説明せよ.
回答例(20 字)
良いものを長く使いたいお洒落な中高年層。
解説
問題文の該当箇所
- 「45 歳から 64 歳の年代層をメイン・ターゲット」
- 「優れた品質と技術力」
- 「“モッタイナイ”意識のように良いものを長く使うという考え方が復活」
- 「高価格でもファッション性を求める消費者も存在する」
答案作成の根拠 新戦略のターゲットは、「ファッションに関心がある」という条件に加え、B メガネが持つ既存の強みを活かせる層であるべきだ。B メガネの強みは「高品質・高技術」であり、これは「良いものを長く使う」という価値観と親和性が高い。また、既存の主要顧客層である「45 歳から 64 歳」の知識や経験を活かせるため、全く新しい若年層よりも、ファッションに関心を持ち始めた同世代、すなわち「お洒落な中高年層」をターゲットとすることが、最も効果的かつ現実的である。
使用した経営学の知識 **市場細分化(セグメンテーション)と標的市場選定(ターゲティング)**の知識を用いる。市場を「ファッション関心度」で細分化した上で、自社の強み(品質・技術)と機会(良いものを長く使う価値観)が活かせ、かつ既存事業とのシナジーが見込めるセグメントとして「品質も重視するお洒落な中高年層」を選定する。
設問 2
新戦略の B メガネ全体にとってのメリットを (a) 欄に、デメリットを (b) 欄に、それぞれ 25 字以内で答えよ.
回答例
(a)メリット(24 字)
既存顧客とは異なる新規顧客層の開拓が可能となる。
(b)デメリット(23 字)
従業員の能力や既存のブランドイメージとの乖離。
解説
問題文の該当箇所
- (a) メリット: 「新規顧客の開拓が進まないという問題もある」「高価格でもファッション性を求める消費者も存在する」
- (b) デメリット: 「勤続年数の長い従業員はファッションや流行にあまり関心を持たず」「優れた品質と技術力によるお客様への最適な眼鏡の提供」
答案作成の根拠
- (a) メリット: B メガネの弱みは「新規顧客の開拓」が進まないことであった。これまでの「技術力」という訴求軸に「ファッション性」という新たな魅力を加えることで、今までアプローチできていなかった、品質だけでなくデザイン性も重視する新しい顧客層を獲得できる可能性が生まれる。
- (b) デメリット: B メガネの強みは従業員の高い「技術力」にある一方、「ファッションや流行にあまり関心を持たない」という弱みも存在する。新たな戦略を導入することで、従業員のスキルや知識が追いつかないリスクがある。また、「技術の B メガネ」という既存のブランドイメージと齟齬が生じ、顧客に混乱を与える可能性も考えられる。
使用した経営学の知識SWOT 分析に基づき、自社の弱み(新規顧客開拓の停滞)を克服し、機会(ファッション志向の顧客層)を活かす点がメリットとなる。一方で、自社の強み(技術力)や企業文化と、新戦略との間に生じるコンフリクトや、実行上の課題がデメリット(リスク)となる。戦略の整合性を多角的に評価する視点が求められる。
第 3 問(配点 20 点)
設問文
M メガネ・チェーンに対抗するために、市場浸透戦略を策定するにあたり、どのようなプロモーション戦略が必要かを 100 字以内で説明せよ.
回答例(84 字)
豊富な顧客情報を活用し、担当者による個別の DM やアフターサービスを強化する。また、紹介者と新規顧客双方に特典を付与する紹介制度を導入し、優良顧客による口コミを促進する。
解説
問題文の該当箇所
- 「再来客が 70%以上という非常に高いリピート率」
- 「B メガネを愛顧してくれる顧客がおり、伝道者として B メガネについての肯定的なクチコミを行い、新規顧客を紹介してくれていた」
- 「顧客データベースの構築」「担当者が手書きの手紙を添えた DM」
- 「常連客が伝道者として新規顧客を紹介してくれるケースは徐々に減少している」
- 「M メガネ・チェーンが、テレビで広告を行っている」
答案作成の根拠市場浸透戦略とは、既存市場で既存製品の売上を伸ばす戦略である。したがって、プロモーションの対象は既存顧客およびその類似層となる。競合(M メガネ)のようなマス広告ではなく、B メガネの強みである「詳細な顧客データベース」と「顧客との強い関係性」を最大限に活用すべきである。具体的には、担当者によるパーソナルなアプローチを強化してリピート率をさらに高めると同時に、減少傾向にある「紹介」を再び活性化させるためのインセンティブ制度(リファラル・マーケティング)を設けることが有効である。
使用した経営学の知識アンゾフの成長マトリクスにおける市場浸透戦略の理解が前提となる。その上で、プロモーション・ミックスの各要素(広告、販売促進、人的販売、ダイレクトマーケティング等)の中から、B メガネの強みを活かせるダイレクトマーケティング(個別 DM)と人的販売(担当者によるアプローチ)、そして販売促進(紹介制度)を組み合わせた提案を行う。
第 4 問(配点 20 点)
設問文
サービスの失敗に遭遇し、その対応に満足した顧客は、失敗を経験していない場合に比べて、今まで以上にサービスを利用することが多いといわれている。そこで、すべての B メガネの店舗において顧客のロイヤルティを高めるため、サービス・リカバリー・システムの構築を提案する。B メガネにとって効果的なサービス・リカバリー・システムの要件を 20 字以内で (a) 欄にあげ、それを 100 字以内で (b) 欄に説明せよ.
回答例
(a)(19 字)
担当者への権限移譲と情報共有の仕組み。
(b)(87 字)
顧客の不満に対し、担当者がその場で裁量権を持って迅速に対応する。クレーム内容と対応策は顧客 DB に記録・共有し、QC サークル活動等で全社的なサービス品質向上と再発防止に繋げる。
解説
問題文の該当箇所
- 「担当者を顧客が指名するシステムを導入している」
- 「従業員は視力測定に関する高い能力を有し、レンズあわせやフレームフィッティングなどについても高い技術を持っている」
- 「充実した顧客データベース」「QC サークルのような小集団活動」
- 設問文前提:「サービスの失敗に遭遇し、その対応に満足した顧客は、今まで以上にサービスを利用することが多い」
答案作成の根拠
- (a) 要件: 効果的なサービス・リカバリーには、顧客接点の最前線での迅速な対応が不可欠である。B メガネには顧客から信頼されている「担当者」がいるため、その担当者に一定の裁量権を与え、迅速な問題解決を可能にすることが最も効果的である。また、その場限りの対応で終わらせず、組織の学びとするために情報を共有する仕組みも必須となる。
- (b) 説明: 上記の要件を具体的に説明する。まず「権限移譲」により、担当者が上司の承認なしに謝罪や代替提案などを行えるようにし、顧客の待ち時間や心理的負担を軽減する(迅速性)。次に「情報共有」により、クレーム事例を全社的なナレッジとして蓄積・活用する。これにより、QC サークルでの議論を通じて根本原因を分析し、業務プロセスを改善することで、同様の失敗の再発を防ぎ、組織全体のサービス品質向上に貢献できる。
使用した経営学の知識サービス・リカバリーの概念と、その成功が顧客ロイヤルティを逆に高めるサービス・リカバリー・パラドックスの知識を用いる。効果的なサービス・リカバリーの要件として、迅速性、公平性、コミュニケーションなどが挙げられるが、B メガネの強みを活かすためには、従業員に裁量権を与える**エンパワーメント(権限移譲)**が特に重要となる。
第 5 問(配点 25 点)
設問文
B メガネが持続的競争優位性を確立するためのインターナル・マーケティングの具体的な手段について、200 字以内で説明せよ.
回答例(172 字)
① 経営理念とファッション性重視の新戦略との整合性を全社で共有する。② ファッションの専門知識やコーディネート技術向上のための外部研修や資格取得支援制度を導入・拡充する。③ 若手や長男を中心に商品企画や店舗改装の権限を委譲する。④ これらの取り組みへの貢献を人事評価に反映させ、従業員の参画意識と満足度を高め、組織として高品質なサービスを提供し続ける。
解説
問題文の該当箇所
- 経営理念:「お客様の満足、会社の永続、社員の幸福」
- 強み:「社員の幸福においては、社員の成長が会社の成長であるととらえ、社員に活躍の機会を積極的に与えてきた」「低い離職率」「高い職務満足」
- 弱み・課題:「勤続年数の長い従業員はファッションや流行にあまり関心を持たず」「若い従業員も少ない」「社長は、そろそろ地方都市の店舗で店長を務める長男に社長の座を譲るべきか悩んでいる」
答案作成の根拠 B メガネの持続的競争優位性の源泉は「人」と「組織文化」にある。これを維持・強化するためのインターナル・マーケティング施策を具体的に提案する。
- 理念・戦略の共有: 社長交代と新戦略導入という変化の時期に、改めて理念に立ち返り、新戦略が理念の実現にどう繋がるのかを全社で共有し、ベクトルを合わせる。
- 教育・能力開発: 新戦略(ファッション性重視)に対応するため、従業員の弱みであるファッション知識を補うための教育研修や資格取得支援を行う。「社員の成長」を具体的に後押しする。
- 権限移譲・動機付け: 「活躍の機会を積極的に与える」という文化に基づき、次期社長である長男や若手従業員に新戦略の推進を任せる。これは事業承継を円滑に進めると同時に、従業員のモチベーション向上に繋がる。
- 評価制度との連動: 新たな取り組みへの貢献を正当に評価する仕組みを整えることで、従業員の参画意識をさらに高め、施策の実効性を担保する。 これらの施策を通じて従業員満足(ES)を高めることが、巡り巡って顧客満足(CS)の向上と持続的な競争優位につながる。
使用した経営学の知識インターナル・マーケティングとは、「従業員を第一の顧客」と捉え、従業員の満足度(ES)を高めることでサービス品質を向上させ、顧客満足度(CS)の向上を目指す考え方である。具体的な施策として、理念の浸透、教育訓練、動機付け(評価・報酬制度)、権限移譲(エンパワーメント)などを組み合わせる。B メガネが持つ模倣困難な強み(人材・組織文化)を、VRIO 分析の観点からさらに強化し、持続的競争優位性を確立するための提案である。