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平成 26 年度(2014 年度) 事例 Ⅰ
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# 平成 26 年度(2014 年度) 事例 Ⅰ
## 与件文
A 社は、資本金 2,000 万円、売上高約 3 億 5 千万円、従業員数 40 名(正規社員 25 名、非正規社員 15 名)の精密ガラス加工メーカーである。1970 年代半ばの創業から今日に至るまで、A 社社長が代表取締役として陣頭指揮をとっている。現在、A 社の取り扱っている主力製品は、試薬検査などに使用する理化学分析用試験管、医療機関などで使用されているレーザー装置、光ファイバーなどに用いるガラス管である。売上のおよそ半分を OEM 生産の理化学分析用試験管事業が占め、残りの半分をレーザー装置事業とガラス管事業でそれぞれ同程度を売り上げている。
現在、A 社の組織は、生産、研究開発を中心にした機能別組織である。営業担当者は 1 名で、取引先との窓口業務にあたっている。研究開発部門には、研究室と開発室に計 6 名の社員が所属しており、工学博士号をもつ社員もいる。研究開発部門は、新製品開発や新技術開発のほか、製造装置の開発、レーザー装置の開発・販売を担当している。生産部門は、製造第 1 課、第 2 課、品質管理課の 3 つの課で構成されている。第 1 課は主に試験管製造を、第 2 課がガラス管など試験管以外の精密ガラス加工製品の製造を担当し、近年昇進した中途採用者がそれぞれの課の課長を務めている。そして、人事・経理などを総務部が担当している。
A 社が開発・製造している製品に関連する精密ガラス加工技術は、われわれが通常イメージするようなグラスや置物、工芸品を製造する職人的な工芸技術ではなく、絶縁性、透過性、外圧の統制などガラスの持つ特性を最大限活用する高度な加工技術である。かつてテレビに使われていたブラウン管や真空管、放電管なども、精密ガラス加工技術をベースにした関連製品である。
真空成形加工、特殊ランプ加工、ガス加工、延伸加工などの精密ガラス加工技術を活用した A 社が取り扱う製品の開発・製造には、ガラス加工技術の知識や熟練技能だけでなく、物理学や化学に関する専門的な知識も不可欠である。A 社社長が精密ガラス加工に必要な基礎技術や知識を習得し会社を立ち上げることができたのは、高校卒業後に 10 年ほど中堅ガラス加工メーカーに勤務し、そこで大手電機メーカーの研究所や大学の研究機関との共同開発のプロジェクトに深くかかわってきたからである。その時に培った人間関係や研究開発に関する技術や経験が、創業から今日に至るまで、A 社の経営基盤を成している。
精密ガラス加工技術を必要とする製品分野は、技術革新のスピードが速く、製品ライフサイクルが短い。そのため、サプライヤーは、新しい技術や新しい製品を取引先に提案することができなければ取引を継続させていくことは難しい。
小さな工場を借り、サラリーマン時代の人間関係を通じて、大学などの研究機関から頼まれる単発的な仕事をひとりだけでこなす体制でスタートした A 社も、取引先の要望を超えるアイデアを提案することによって存続と成長を実現してきた。その成長スピードは決して速いとはいえないが、精密ガラス加工技術の関連技術を広げながら、今日の研究開発型企業へと発展を遂げてきた。
創業から 10 年余り、依頼に応じて開発・製造した製品の多くは、技術革新や代替品の登場によって 2〜3 年で注文がなくなり、なかなか主力製品に育たなかった。A 社にとって成長に向けた最初のターニング・ポイントは、レーザー用放電管の開発であった。大学や大手企業の研究機関から依頼を受けて開発・製造に取り組んできたそれまでの製品とは異なって、A 社社長のアイデアではじめて自社開発に着手したレーザー用放電管事業はひとつの柱となった。その後 10 年の時を経て、レーザー用放電管事業はレーザー装置そのものの製品化にもつながり、売上は大きく伸張することになる。
もうひとつのターニング・ポイントは、レーザー用放電管開発と前後して、現在の主力製品となる理化学分析用試験管の OEM 生産を化学用分析機器メーカーから依頼されたことであった。もっとも、この事業が A 社の利益に大きく貢献するようになったのは、5 年ほど前からである。というのも、製造依頼があった当初、分析用試験管の市場規模はまだ小さく、生産量も少なかったし、製造プロセスの多くが手作業であったことに加えて外注した製造設備を使っていたために、良品率が 40%以下と著しく低かったためである。その後、試験管の需要増に伴って受注量も増えて A 社の売上は少しずつ伸張したが、良品率が低く利益増にはなかなか結びつかなかった。試験管市場の成長を確信していた A 社社長は、そうした事態を打破するために製造設備の内製化を決意し、段階的に製造設備の改良・開発に取り組み始めた。着手から 5 年以上の年月がかかったものの製造設備の内製化を進めたことによって、製造プロセスの自動化を実現するなど量産体制を完成させた結果、良品率は 60%程度まで改善した。その後、理化学分析用試験管の品質も向上し、よりコンパクトになったにもかかわらず、良品率 60%前後を維持してきた。ここ数年、さらに高精度の分析が可能な製品へと進化を遂げたこともあって高い製造技術が求められるようになっているが、良品率は 90%を超えるまでに向上している。
これらのターニング・ポイントを経る中で、A 社社長は、以前にも増して、研究開発力の強化なくして事業の成長も存続も望めないことを痛感するようになった。それまでも、社内で解決できない技術的な問題や、新製品や新規技術に関連する問題が生じた場合には、顧問を務める関連分野の専門家である大学教授や研究機関の研究者からアドバイスを受けてきた。工学博士号をもった社員を 5 年ほど前から採用し社内に研究室を開設したのも、研究開発力をより強化し、新たな事業分野を開拓するためである。その成果こそいまだ未知数であるが、精密ガラス加工技術を応用した新製品の芽が確実に育ちつつある。さらに、近年、新たに大学院卒の博士号取得見込者を採用し、研究開発力強化に積極的に取り組んでいる。
とはいえ、A 社のような売上も利益も少ない規模の小さな中小企業が研究開発型企業として生き残るためには、必要な研究開発費を捻出することがもうひとつの重要な経営課題である。レーザー用放電管の自主開発に取り組んだ時代の A 社の売上高は 1 億円にも満たず、社員数も 10 名に過ぎなかった。そのような企業規模で新規事業のための多額の研究開発資金を捻出することは難しかった。A 社が現在進めている新規事業の資金は、大部分が公的助成金によって賄われている。研究開発型中小企業にとって、官公庁の助成金の獲得は極めて重要な資金調達の手段なのである。
## 設問文
### 第 1 問(配点 20 点)
A 社は、小規模ながら大学や企業の研究機関と共同開発した独創的な技術を武器に事業を展開しようとする研究開発型中小企業である。わが国でも、近年、そうしたタイプの企業が増えつつあるが、その背景には、どのような経営環境の変化があると考えられるか。120 字以内で答えよ。
### 第 2 問(配点 20 点)
A 社は、創業期、大学や企業の研究機関の依頼に応じて製品を提供してきた。しかし、当時の製品の多くが A 社の主力製品に育たなかったのは、精密加工技術を用いた取引先の製品自体のライフサイクルが短かったこと以外に、どのような理由が考えられるか。100 字以内で答えよ。
### 第 3 問(配点 20 点)
2 度のターニング・ポイントを経て、A 社は安定的成長を確保することができるようになった。新しい事業の柱ができた結果、A 社にとって組織管理上の新たな課題が生じた。それは、どのような課題であると考えられるか。100 字以内で答えよ。
### 第 4 問(配点 20 点)
A 社の主力製品である試験管の良品率は、製造設備を内製化した後、60%まで改善したが、その後しばらく大幅な改善は見られず横ばいで推移した。ところが近年、良品率が 60%から 90%へと大幅に改善している。その要因として、どのようなことが考えられるか。100 字以内で答えよ。
### 第 5 問(配点 20 点)
A 社は、若干名の博士号取得者や博士号取得見込者を採用している。採用した高度な専門知識をもつ人材を長期的に勤務させていくためには、どのような管理施策をとるべきか。中小企業診断士として 100 字以内で助言せよ。
## 出題の趣旨
### 第 1 問(配点 20 点)
研究開発型企業として事業を展開している A 社のような中小企業が増加している今日の経営環境の変化に関する基本的理解力・分析力を問う問題である。
### 第 2 問(配点 20 点)
精密ガラス加工メーカーである A 社と A 社をサプライヤーとして採用している取引先との関係に焦点をおいて、創業期から A 社が長期間にわたって主力製品を確立することができなかった理由に関する基本的理解力・分析力を問う問題である。
### 第 3 問(配点 20 点)
2 度のターニング・ポイントを経て研究開発型企業へと成長を遂げてきた A 社が、事業領域の拡大に伴って、いかなる組織管理上の課題に直面することになったのかに関する分析力・課題発見力を問う問題である。
### 第 4 問(配点 20 点)
A 社の現在の主力製品である OEM 製品の理化学分析用試験管の量産体制において、過去と比較して、近年その良品率が著しく改善されている理由に関する分析力・原因究明力を問う問題である。
### 第 5 問(配点 20 点)
研究開発型中小企業としての強みを強化するために採用した、専門性の高い研究職従業員のモラールおよびモチベーションを高め、継続的に雇用していくための方策に関する助言能力を問う問題である。
# 平成 26 年度(2014 年度)事例 Ⅰ 回答と解説
## 第 1 問(配点 20 点)
### 設問文
A 社は、小規模ながら大学や企業の研究機関と共同開発した独創的な技術を武器に事業を展開しようとする研究開発型中小企業である。わが国でも、近年、そうしたタイプの企業が増えつつあるが、その背景には、どのような経営環境の変化があると考えられるか。120 字以内で答えよ。
### 回答例 (110 字)
**技術革新の加速と製品ライフサイクルの短縮化を背景に、大企業が研究開発で自前主義から転換し、外部の専門技術を求めるオープンイノベーションが浸透したこと。また、国が中小企業の研究開発を支援する公的助成金制度を充実させたこと。**
### 解説
- **問題文の該当箇所**
- 「A 社は、…大学や企業の研究機関と共同開発した独創的な技術を武器に事業を展開しようとする研究開発型中小企業である。」
- 「精密ガラス加工技術を必要とする製品分野は、技術革新のスピードが速く、製品ライフサイクルが短い。」
- 「A 社が現在進めている新規事業の資金は、大部分が公的助成金によって賄われている。」
- **答案作成の根拠**
本問は、A 社のような研究開発型中小企業が増加している経営環境の変化を問うている。与件文から読み取れる外部環境の変化と A 社の対応を結びつけて解答を構成する。
1. **市場環境の変化**: 「技術革新のスピードが速く、製品ライフサイクルが短い」という記述から、企業は迅速な製品開発を求められていることがわかる。この環境下で、大企業はすべての技術を自社で開発する「自前主義」が困難になり、外部の技術やアイデアを積極的に活用する「オープンイノベーション」へとシフトしている。これにより、A 社のような高い専門技術を持つ中小企業に事業機会が生まれる。
2. **公的支援**: 「新規事業の資金は、大部分が公的助成金によって賄われている」とあるように、国や公的機関が中小企業の研究開発を資金面で支援する制度を充実させている。これも、体力に劣る中小企業が研究開発に取り組みやすくなった要因である。
以上 2 点を統合し、研究開発型中小企業の増加背景を説明する。
- **使用した経営学の知識**
- **オープンイノベーション**: 自社の研究開発だけでなく、大学や他社など外部の技術やアイデアを積極的に活用し、革新的な製品やサービスを創出する経営戦略。製品ライフサイクルの短縮化や技術の高度化・複雑化を背景に広まった。
- **製品ライフサイクル**: 製品が市場に投入されてから、やがて需要がなくなり姿を消すまでの一連の流れ(導入期、成長期、成熟期、衰退期)。技術革新が速い分野ではこのサイクルが短くなる傾向がある。
## 第 2 問(配点 20 点)
### 設問文
A 社は、創業期、大学や企業の研究機関の依頼に応じて製品を提供してきた。しかし、当時の製品の多くが A 社の主力製品に育たなかったのは、精密加工技術を用いた取引先の製品自体のライフサイクルが短かったこと以外に、どのような理由が考えられるか。100 字以内で答えよ。
### 回答例 (100 字)
**創業期は大学等の依頼に応じる受動的な事業活動が中心で、自社の技術シーズを市場ニーズに結びつける製品企画力や提案力が不足していた。そのため、単発的な受注に留まり、継続的な取引関係を構築できなかったため。**
### 解説
- **問題文の該当箇所**
- 「大学などの研究機関から頼まれる単発的な仕事をひとりだけでこなす体制でスタートした」
- 「依頼に応じて開発・製造した製品の多くは、技術革新や代替品の登場によって 2〜3 年で注文がなくなった」
- 「取引先の要望を超えるアイデアを提案することによって存続と成長を実現してきた」
- **答案作成の根拠**
本問は、創業期の A 社が主力製品を確立できなかった理由を、取引先の製品ライフサイクルの短さ”以外”で問うている。A 社側の内部要因、特に事業姿勢や能力に着目する。
1. **受動的な事業姿勢**: 与件文には「依頼に応じて」「頼まれる単発的な仕事」とあり、創業期は取引先の要望に応えるだけの受動的な下請け的立場であったことがわかる。自ら市場や顧客を開拓し、製品を企画する動きがなかった。
2. **企画・提案力の不足**: A 社が成長できた要因として「取引先の要望を超えるアイデアを提案すること」が挙げられている。裏を返せば、創業期にはこの能力が不足しており、言われたものを作るだけだったため、取引先の都合に左右され、継続的な事業の柱を築けなかったと考えられる。
これらの理由から、自社の強みである技術力(シーズ)を、継続的に売上を生み出す製品(ニーズ)へと転換させるマーケティングや企画提案機能が弱かったことが、主力製品を確立できなかった根本的な原因だと結論付けられる。
- **使用した経営学の知識**
- **シーズ指向とニーズ指向**: 技術シーズ(自社が持つ技術)を起点に製品開発を行うのがシーズ指向、市場や顧客のニーズ(要望)を起点にするのがニーズ指向。理想は両者のバランスだが、創業期の A 社は外部のシーズ活用依頼に応えるのみで、自ら市場ニーズを探求する活動が弱かった。
- **下請け依存のリスク**: 特定の取引先からの受注に依存すると、その取引先の業績や方針転換に経営が大きく左右されるリスクがある。
## 第 3 問(配点 20 点)
### 設問文
2 度のターニング・ポイントを経て、A 社は安定的成長を確保することができるようになった。新しい事業の柱ができた結果、A 社にとって組織管理上の新たな課題が生じた。それは、どのような課題であると考えられるか。100 字以内で答えよ。
### 回答例 (99 字)
**課題は OEM 生産の量産事業と自社開発の研究開発型事業という性質の異なる二つの事業組織が併存し、効率重視と創造重視の各組織に応じた目標設定や資源配分、部門間連携・調整が困難になった現状を改善すること。**
### 解説
- **問題文の該当箇所**
- 「売上のおよそ半分を OEM 生産の理化学分析用試験管事業が占め、残りの半分をレーザー装置事業とガラス管事業でそれぞれ同程度を売り上げている。」
- 組織が「生産、研究開発を中心にした機能別組織」であること。
- 2 つのターニングポイント: ① レーザー用放電管の「自社開発」、② 試験管の「OEM 生産」。
- **答案作成の根拠**
本問は、事業が多角化したことによる「組織管理上」の課題を問うている。A 社の事業ポートフォリオと組織構造のミスマッチに着目する。
1. **事業の異質性**: A 社は 2 つのターニングポイントを経て、大きく分けて 2 つの性質が異なる事業を持つに至った。
- **OEM 試験管事業**: 顧客の仕様に基づき、効率的に大量生産し、コストと品質を管理することが求められる「効率性重視」の事業。
- **レーザー装置事業**: 自社アイデアに基づき、新技術・新製品を開発する「創造性・革新性重視」の事業。
2. **機能別組織の限界**: A 社の組織は、研究開発、生産、営業といった機能ごとに編成された「機能別組織」である。この組織形態は、単一事業や製品ラインが少ない場合には効率的だが、上記のように性質の異なる複数の事業を抱えると、全社一律の管理が難しくなる。例えば、コスト管理を厳しくすれば研究開発の自由度が下がり、研究開発に多額の投資をすれば量産事業の利益が圧迫されるといったコンフリクトが生じやすい。
したがって、異質な事業ごとの戦略策定、最適な資源配分、業績評価、そして事業部間の連携を、現在の機能別組織でいかにマネジメントしていくかが新たな組織管理上の課題となる。
- **使用した経営学の知識**
- **組織構造論(コンティンジェンシー理論)**: 企業を取り巻く環境や戦略に適した組織構造が存在するという考え方。事業の多角化が進むと、機能別組織から、各事業が独立した権限を持つ「事業部制組織」へと移行することが合理的とされる場合が多い。
- **機能別組織**: 職能(生産、販売、開発など)に基づいて部門を編成する組織形態。専門性の追求や規模の経済が働きやすい一方、部門間の壁(セクショナリズム)が生じやすく、環境変化への迅速な対応が難しいとされる。
## 第 4 問(配点 20 点)
### 設問文
A 社の主力製品である試験管の良品率は、製造設備を内製化した後、60%まで改善したが、その後しばらく大幅な改善は見られず横ばいで推移した。ところが近年、良品率が 60%から 90%へと大幅に改善している。その要因として、どのようなことが考えられるか。100 字以内で答えよ。
### 回答例 (95 字)
**製品の高精度化要求に対し、研究開発部門の専門知識、中途採用の課長がもたらした外部知見、生産現場のノウハウが融合した。部門が連携し製造プロセスや内製設備を高度に分析・改良したためと考えられる。**
### 解説
- **問題文の該当箇所**
- 「ここ数年、さらに高精度の分析が可能な製品へと進化を遂げたこともあって高い製造技術が求められるようになっているが、良品率は 90%を超えるまでに向上している。」
- 「研究開発部門は、…製造装置の開発…を担当している。」
- 「工学博士号をもった社員を 5 年ほど前から採用し社内に研究室を開設」
- 「生産部門は、…近年昇進した中途採用者がそれぞれの課の課長を務めている。」
- **答案作成の根拠**
本問は、良品率が 60%から 90%へ飛躍的に向上した要因を問うものである。「設備の内製化」だけでは 60%で横ばいであったことから、それ以降に加わった別の要因、特に組織的な変化に着目する必要がある。
1. **外的要因(きっかけ)**: 「高精度の分析が可能な製品へと進化」し、「高い製造技術が求められる」ようになったことが、抜本的な改善に取り組む直接のきっかけとなった。
2. **内的要因(組織能力の向上と融合)**: 高い要求に応えられた背景には、A 社内部の複数の能力が向上し、それらが融合したことがある。
- **研究開発部門の貢献**: 博士号取得者の採用により、科学的アプローチに基づく高度な分析・問題解決能力が強化された。
- **生産部門の貢献**: 長年の操業による製造ノウハウの蓄積に加え、「近年昇進した中途採用者」が課長に就任した。これにより、社内の慣習にとらわれない**外部の知見**や新たな管理手法が導入され、現場の改善活動が活性化されたと考えられる。
- **部門間連携による相乗効果**: これら性質の異なる知見(研究開発部門の**専門知識**、生産現場の**経験的ノウハウ**、中途採用課長の**外部知見**)が「高精度化」という共通目標の下で連携・融合した。これにより、従来の延長線上にはないプロセスの抜本的な見直しや設備の高度化が実現し、良品率の飛躍的な向上につながったと結論付けられる。
- **使用した経営学の知識**
- **組織能力(ケイパビリティ)**: 企業の競争優位の源泉となる組織的な能力である。本件では、研究開発能力と生産技術能力に加え、中途採用による外部知見の導入が組み合わさり、組織全体の問題解決能力が質的に向上した事例と解釈できる。
- **ダイバーシティ**: 多様な人材(専門性、経験、価値観など)が組織に在籍することで、新たなアイデアやイノベーションが生まれやすくなるという考え方。専門性の高い研究者と現場の熟練技能者、そして外部の視点を持つ管理職という多様な人材の協働が、ブレークスルーを生んだ要因である。
## 第 5 問(配点 20 点)
### 設問文
A 社は、若干名の博士号取得者や博士号取得見込者を採用している。採用した高度な専門知識をもつ人材を長期的に勤務させていくためには、どのような管理施策をとるべきか。中小企業診断士として 100 字以内で助言せよ。
### 回答例 (100 字)
**挑戦的な研究開発テーマと業務遂行における裁量権を与えること。また、専門性を評価するキャリアパスや処遇制度を整備するとともに、学会参加や外部研究者との交流を奨励し、専門家として成長できる機会を提供する。**
### 解説
- **問題文の該当箇所**
- 「工学博士号をもった社員を 5 年ほど前から採用し社内に研究室を開設したのも、研究開発力をより強化し、新たな事業分野を開拓するためである。」
- 「精密ガラス加工技術を応用した新製品の芽が確実に育ちつつある。」
- **答案作成の根拠**
本問は、高度専門人材(博士号取得者など)の定着(リテンション)施策について、中小企業診断士として助言を求めるものである。彼らのモチベーションの源泉が何かを考える必要がある。
1. **仕事そのものによる動機付け(内発的動機付け)**: 高度専門人材は、金銭的報酬以上に、自身の専門性を活かせる挑戦的な仕事や、知的好奇心を満たせる環境を重視する傾向が強い。「新たな事業分野を開拓」「新製品の芽」といった記述から、彼らに裁量権を与え、やりがいのある研究テーマを任せることが重要である。
2. **評価・処遇**: 彼らの専門性や市場価値に見合った評価・処遇制度が必要である。管理職を目指すキャリアパスだけでなく、専門性を極めることで処遇が向上する「専門職制度(フェローシップなど)」の導入が有効である。
3. **成長機会**: 専門家は、常に最新の知識や技術を学び続ける必要がある。社内にとどまらず、学会への参加や外部の研究者とのネットワーク構築を企業が支援・奨励することで、彼らの成長意欲を満たし、組織への貢献度も高まる。
これらの施策を組み合わせ、専門人材が「この会社で働き続けたい」と思えるような魅力的な環境を整備することを助言する。
- **使用した経営学の知識**
- **モチベーション理論(二要因理論、内発的動機付け)**: ハーズバーグの二要因理論では、仕事の達成感、承認、責任、成長といった「動機付け要因」が満足度を高め、意欲を引き出すとされる。高度専門人材には、こうした内発的な動機付けが特に有効である。
- **人的資源管理(HRM)**: 従業員を経営資源と捉え、その能力を最大限に引き出し、企業目標の達成と従業員の満足度向上を両立させるための管理手法。本問では、専門職に対するキャリアパス設計、評価制度、能力開発が具体的な施策となる。
## AI への指示
あなたは、中小企業診断士二次試験の採点官です。二次試験は上位 18%しか合格できない難関試験です。そのため、上位 10%に入れるように厳しく添削してください。
**評価の基本方針**
- **模範解答は絶対的な正解ではなく、あくまで高得点答案の一例として扱います。**
- あなたの解答の評価は、第一に**与件文の記述と設問要求に忠実であるか**、第二に**中小企業診断士としての一貫した論理が展開できているか**を最優先の基準とします。
- 模範解答とは異なる切り口や着眼点であっても、それが与件文に根拠を持ち、論理的に妥当であれば、その**独自の価値を積極的に評価**してください。
- 模範解答は、比較対象として「こういう切り口・要素もある」という**視点を提供するもの**として活用し、あなたの解答との優劣を単純に比較するのではなく、多角的な分析のために使用してください。
上記の基本方針に基づき、以下の入力情報と評価基準に従って、**60 点の合格ラインを安定して超えることを目的とした現実的な視点**で私の解答を添削してください。**加点できそうなポイントと、失点を防ぐべきポイント**をバランス良く指摘してください。
評価は点数ではなく、下記の**ABCDEF 評価基準**に沿って行ってください。
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### ABCDEF 評価基準
- **A 評価 (完璧 / 80 点以上):** 設問要求を完全に満たし、複数の重要な根拠を的確に網羅している。論理構成が極めて明快で、非の打ちどころがないレベル。
- **B 評価 (高得点レベル / 70 点〜79 点):** 設問要求に的確に応え、重要な根拠を複数盛り込んでいる。論理構成が明快な、上位合格答案レベル。
- **C 評価 (合格レベル / 60 点〜69 点):** 設問の主要な要求を満たしており、大きな論理的破綻がない。安定して合格点をクリアできるレベル。
- **D 評価 (合格ボーダーライン / 55 点〜59 点):** 解答の方向性は合っているが、根拠の不足や論理の飛躍が散見される。合否が分かれるレベル。
- **E 評価 (要改善レベル / 50 点〜54 点):** 解答の方向性に部分的な誤りがあるか、根拠が著しく不足している。合格には改善が必要なレベル。
- **F 評価 (不合格レベル / 49 点以下):** 設問の意図の誤解や、与件文の無視など、根本的な改善が必要なレベル。
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### 入力情報
与件文、設問文、出題の趣旨、解説、あなたの回答を参照してください。
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### 出力項目
以下の形式で、詳細なフィードバックをお願いします。
冒頭で `ABCDEF 評価基準`の定義を説明します。
**1. 設問ごとの添削**
**模範解答(比較参考用)**
`回答例と解説`の回答例を出力してください。
**あなたの回答**
模範回答との比較用にあなたの回答を掲載してください。
- **評価:** この設問の評価を **A / B / C / D / E / F** で端的に示してください。
- **フィードバック:**
- **① 設問解釈と方向性:** 設問の意図を正しく捉えられているか。解答の方向性は適切か。模範解答とは違う切り口だが、与件文・設問要求に照らして有効か、といった視点で評価してください。
- **② 与件文の活用:** 解答の根拠として、与件文中のどの SWOT 情報を、どの程度効果的に使えているか。根拠の抽出漏れや解釈の間違いはないか。
- **③ 知識と論理構成:** 診断士としての経営知識を適切に応用できているか。「A だから B になる」という因果関係は明確で、論理に飛躍はないか。模範解答とは異なる論理展開でも、それが妥当であれば評価してください。
- **④ 具体性と表現:** 抽象論に終始せず、企業の状況に合わせた具体的な記述ができているか。冗長な表現や不適切な言葉遣いはないか。
- **改善提案:**どうすれば A・B 評価の解答に近づけるか、**「どの与件文のこの部分を使い、このように論理を展開すべきだった」**というように、具体的かつ実践的な改善案を提示してください。あなたの解答の優れた点を活かす形での改善案も歓迎します。
**2. 総評**
- **総合評価:** 全ての設問を考慮した最終評価を **A / B / C / D / E / F** で示してください。
- **全体を通しての強み:** 今後の学習でも活かすべき、あなたの解答の良い点を挙げてください。(模範解答にない独自の視点など)
- **全体を通しての課題:** 合格のために、最も優先的に改善すべき点を指摘してください。
- **合格に向けたアドバイス:** 今後の学習方針について、具体的なアドバイスをお願いします。
## あなたの回答
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