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平成 27 年度(2015 年度)事例 Ⅳ 解答解説
第 1 問(配点 28 点)
(設問 1)
①:優れている指標
- (a) 有形固定資産回転率
- (b) 5.00 (回) (計算過程: 2,150 ÷ 430 = 5.00、同業他社:4.67 回)
- 解説:D 社は限られた有形固定資産で効率的に売上を上げており、設備投資効率が高い。小規模ながらも設備を有効活用し、生産能力を高めている点が評価できる。
②:課題となる指標 1
- (a) 売上高営業外費用率
- (b) 1.12 (%) (計算過程: 24 ÷ 2,150 × 100 = 1.12、同業他社:0.46%)
- 解説:D 社は支払利息が多く金利負担が重い。借入金依存度が高く、営業外費用が収益を圧迫している。財務体質の強化が必要である。
③:課題となる指標 2
- (a) 自己資本比率
- (b) 22.12 (%) (計算過程: 250 ÷ 1,130 × 100 = 22.12、同業他社:50.39%)
- 解説:D 社は自己資本比率が低く、長期的な安全性に課題がある。借入金への依存が高く、景気変動や受注減少時に資金繰りが悪化するリスクを抱えている。
(設問 2)
D 社の財政状態および経営成績について、同業他社と比較した場合の特徴を 60 字以内で述べよ。
回答例(51 字)
有形固定資産の効率性は高いが、自己資本比率が低く借入金への依存度が高い。支払利息が収益を圧迫している。
解説
設問 1 で分析した指標を基に、D 社の特徴を要約する。
- 経営成績の強み: 有形固定資産回転率の高さから「有形固定資産の効率性は高い」と評価できる。
- 財政状態の課題: 自己資本比率の低さから、財務基盤が脆弱であることがわかる。これは「借入金への依存度が高い」ことの裏返しでもある。
- 収益性の課題: 売上高営業外費用率の高さ(支払利息負担の大きさ)から「支払利息が収益を圧迫している」と指摘できる。
- これら設問 1 で導き出した強み 1 点と課題 2 点を簡潔にまとめることで、D 社の財政状態と経営成績の特徴を的確に表現できる。
第 2 問(配点 34 点)
(設問 1)
以下の損益予測に基づいて、第 ×3 期の予測損益計算書を完成させよ。なお、利益に対する税率は 30%とし、損失の場合には税金は発生しないものとする。
損益計算書
(単位:百万円)
| 売上高 | 1,935 |
| 売上原価 | 1,695 |
| 売上総利益 | 240 |
| 販売費及び一般管理費 | 300 |
| 営業損益 | △60 |
| 営業外収益 | 13 |
| 営業外費用 | 24 |
| 経常損益 | △71 |
| 特別利益 | 0 |
| 特別損失 | 0 |
| 税引前当期純損益 | △71 |
| 法人税等 | 0 |
| 当期純損益 | △71 |
解説
問題文の該当箇所
- 「第 ×3 期の売上高は、X 社からの受注減少によって第 ×2 期と比較して 10%減少」
- 「売上原価に含まれる固定費は 1,020 百万円、販売費及び一般管理費に含まれる固定費は 120 百万円」
- 「利益に対する税率は 30%とし、損失の場合には税金は発生しない」
答案作成の根拠
変動費率と固定費の算定(第 ×2 期ベース)
- 変動費(売上原価):1,770 - 1,020 = 750 百万円
- 変動費(販管費):320 - 120 = 200 百万円
- 変動費合計:750 + 200 = 950 百万円
- 変動費率:950 ÷ 2,150 = 0.44186...
- 固定費合計:1,020 + 120 = 1,140 百万円
第 ×3 期の予測損益計算書の作成
- 売上高: 2,150 × (1 - 0.1) = 1,935
- 売上原価:
- 変動費:1,935 × (750 ÷ 2,150) = 675
- 固定費:1,020
- 合計:675 + 1,020 = 1,695
- 売上総利益: 1,935 - 1,695 = 240
- 販売費及び一般管理費:
- 変動費:1,935 × (200 ÷ 2,150) = 180
- 固定費:120
- 合計:180 + 120 = 300
- 営業損益: 240 - 300 = △60(営業損失)
- 経常損益: △60 + 13 - 24 = △71(経常損失)
- 税引前当期純損益: △71
- 法人税等: 損失のため 0
- 当期純損益: △71
(設問 2)
設問 1 の予測損益計算書から明らかなる傾向を(a)欄に 40 字以内で、そのような傾向が生じる原因を(b)欄に 60 字以内で述べよ。
(a) 明らかなる傾向(40 字)
売上高の減少により営業利益、経常利益ともに赤字に転落し、収益性が大幅に悪化する。
(b) そのような傾向が生じる原因(55 字)
売上高に比して固定費の割合が高いため、売上減少時に利益が大幅に減少し、営業損失を計上する構造となっているため。
解説
問題文の該当箇所
- 設問 1 で作成した予測損益計算書
- 与件文「受注状況を見ると、...需要変動や...生産数量の変動が大きくなっている」
答案作成の根拠
- (a) 傾向: 設問 1 で作成した予測 PL を見ると、営業損益と経常損益がともにマイナス(赤字)になっている。これは、前期(第 ×2 期)の黒字から大きく悪化していることを示しており、「赤字転落」や「収益性の大幅な悪化」が明確な傾向である。
- (b) 原因: 売上高が 10%減少したのに対し、営業利益は 60 百万円の黒字から 60 百万円の赤字へと 120 百万円も減少している。これは、売上が減っても固定費(1,140 百万円)は減らないため、売上減少の影響が利益に大きく響く「経営レバレッジが高い」財務構造であることを意味する。この「固定費の割合の高さ(費用構造の硬直性)」が赤字転落の根本原因である。
(設問 3)
(1) 第 ×3 期において 100 百万円の経常利益を達成するために必要となる売上高
(a) 金額
2,241(百万円)
(b) 計算過程
貢献利益率 = 1 - (変動費 950 ÷ 売上高 2,150) = 0.5581...
必要売上高 = (固定費 1,140 + 目標経常利益 100 + 営業外費用 24 - 営業外収益 13) ÷ 貢献利益率 = 1,251 ÷ 0.5581... ≒ 2,241.38...
(百万円未満を四捨五入)
(2) 第 ×3 期において 100 百万円の経常利益を達成するために固定費の削減を検討している。必要な固定費削減を行った場合、経常利益がゼロとなる損益分岐点売上高
(a) 金額
1,756(百万円)
(b) 計算過程
① 必要な固定費削減額 = 目標経常利益 100 - 予測経常損失(△71) = 171
② 削減後の固定費 = 1,140 - 171 = 969
③ 損益分岐点売上高 = (削減後固定費 969 + 営業外費用 24 - 営業外収益 13) ÷ 貢献利益率 = 980 ÷ 0.5581... ≒ 1,755.8...
(百万円未満を四捨五入)
解説
問題文の該当箇所
- 設問 1 で作成した予測損益計算書およびその計算過程
答案作成の根拠
- (1) 目標利益達成売上高の公式
(固定費 + 目標利益) ÷ 貢献利益率を用いる。本問では「経常利益」が目標なので、分母に営業外損益(支払利息 24 - 受取利息 13 = 11)を加える必要がある。 - (2) 二段階の計算が必要である。
- まず、売上高が予測通り 1,935 百万円のままで経常利益 100 百万円を達成するために、いくら固定費を削減すべきか計算する。予測では 71 百万円の損失なので、100 百万円の利益を出すには
100 - (-71) = 171百万円の利益改善、すなわち 171 百万円の固定費削減が必要である。 - 次に、この削減後の固定費
1,140 - 171 = 969百万円をベースに、経常利益がゼロとなる損益分岐点売上高を計算する。公式は(1)と同様だが、目標利益がゼロになる。
- まず、売上高が予測通り 1,935 百万円のままで経常利益 100 百万円を達成するために、いくら固定費を削減すべきか計算する。予測では 71 百万円の損失なので、100 百万円の利益を出すには
- (1) 目標利益達成売上高の公式
第 3 問(配点 26 点)
(設問 1)
ケース 1
- 第 ×3 期:19(百万円)
- 第 ×4 期:24(百万円)
- 第 ×5 期:24(百万円)
ケース 2
- 第 ×3 期:22(百万円)
- 第 ×4 期:27(百万円)
- 第 ×5 期:27(百万円)
解説
問題文の該当箇所
- プロジェクト Z の損益予測、機械設備 g の情報
- ケース 1:「税引前当期純利益がゼロ」
- ケース 2:「税引前当期純損失が 10 百万円」
答案作成の根拠 キャッシュ・フローは
税引後利益 + 減価償却費または(現金収入 - 現金支出) × (1 - 税率) + 減価償却費 × 税率で計算する。ここでは、プロジェクト実施による「税金の増減」を考慮する考え方が重要である。ケース 1: プロジェクト Z の利益(20)がそのまま課税対象となる。
- CF = (現金収入 100 - 現金支出 70) - (税引前利益 20 × 税率 0.3) = 30 - 6 = 24 百万円
ケース 2: 他の事業で 10 百万円の損失が出ているため、プロジェクト Z の利益 20 と損益通算され、課税対象は
20 - 10 = 10百万円となる。- プロジェクト Z がなければ法人税は 0 円である。
- プロジェクト Z を実施することで、全社の税金が
10 × 0.3 = 3百万円発生する。 - したがって、プロジェクト Z が生み出すキャッシュ・フローは、税引前キャッシュ・フローから、この増分税額を差し引いたものになる。
- CF = (現金収入 100 - 現金支出 70) - 増分税額 3 = 27 百万円
(設問 2)
両プロジェクトの正味現在価値を計算して(a)欄に記入し、採用すべきプロジェクトについて(b)欄に ○ 印を付けよ。なお、計算においてはかねてより同社が採用している資本コスト 10%を適用し、プロジェクト以外の事業活動からの税引前当期純利益はゼロであるとする。解答にあたっては、金額単位を百万円とし、小数点第 2 位を四捨五入すること。
(a) 正味現在価値
| 正味現在価値(百万円) | |
|---|---|
| プロジェクト Z | 35.1 |
| プロジェクト E | 64.8 |
(b) 採用すべきプロジェクト
| 採用 | |
|---|---|
| プロジェクト Z | |
| プロジェクト E | 〇 |
解説
問題文の該当箇所
- 両プロジェクトの投資額、損益予測
- 「資本コスト 10%」「プロジェクト以外の事業活動からの税引前当期純利益はゼロ」
答案作成の根拠 各プロジェクトの各期のキャッシュ・フローを算出し、資本コスト 10%で現在価値に割り引いて合計し、初期投資額を差し引いて NPV を計算する。
- プロジェクト Z の CF
- 初期投資: -20
- 第 3 期 CF: 24 (設問 1 ケース 1) - 5 (追加投資) = 19
- 第 4 期 CF: 24
- 第 5 期 CF: 24
- NPV = -20 + 19×0.9091 + 24×0.8264 + 24×0.7513 = -20 + 17.27 + 19.83 + 18.03 ≒ 35.1 百万円
- プロジェクト E の CF
- 機械 h の減価償却費 = 80 ÷ 5 年 = 16
- 初期投資: -90
- 第 3 期:
- 税引前利益 = 100-70-10(機 g)-16(機 h) = 4
- CF = (100-70) - (4×0.3) - 20(追加投資) = 30 - 1.2 - 20 = 8.8
- 第 4 期:
- 税引前利益 = 250-150-10-16 = 74
- CF = (250-150) - (74×0.3) = 100 - 22.2 = 77.8
- 第 5 期:
- CF = 77.8 + 32(機械 h 売却) = 109.8
- NPV = -90 + 8.8×0.9091 + 77.8×0.8264 + 109.8×0.7513 = -90 + 8.00 + 64.30 + 82.49 ≒ 64.8 百万円
- 結論: NPV(E) > NPV(Z)であるため、経済合理性の観点からプロジェクト E を採用すべきである。
- プロジェクト Z の CF
(設問 3)
設問 2 においては正味現在価値によってプロジェクトの収益性を評価したが、D 社の財務状況に鑑みて、プロジェクトの流動性を検討すべきである。適切なプロジェクトの評価指標を計算し、両プロジェクトについて比較せよ。
回答例
流動性の評価指標として回収期間法を用いる。Z 案の回収期間は約 1.04 年、E 案は約 2.03 年となる。投資資金を早期に回収できるという流動性の観点からは、Z 案が優れている。
解説
問題文の該当箇所
- 「D 社の財務状況に鑑みて、プロジェクトの流動性を検討すべき」
- 第 1 問で明らかになった D 社の低い流動比率(短期支払能力の低さ)
答案作成の根拠
- 指標の選択: 「流動性」を評価する指標として、投資額を何年で回収できるかを示す回収期間法が最も適切である。
- 計算:
- プロジェクト Z: 投資額は期首 20 と 3 期末 5 の合計 25。
- 3 期末までの CF は 24。投資を回収しきれない。
- 4 期末までの累計 CF は 24+24=48。3 期と 4 期の間で回収できる。
- 回収期間 = 1 年 + (残投資額 25-24) / 4 期 CF 24 = 1 + 1/24 ≒ 1.04 年
- プロジェクト E: 投資額は期首 90 と 3 期末 20 の合計 110。
- 3 期末 CF は 28.8、4 期末までの累計 CF は 28.8+77.8=106.6。まだ回収できない。
- 5 期末までの累計 CF は 106.6+109.8=216.4。4 期と 5 期の間で回収できる。
- 回収期間 = 2 年 + (残投資額 110-106.6) / 5 期 CF 109.8 = 2 + 3.4/109.8 ≒ 2.03 年
- プロジェクト Z: 投資額は期首 20 と 3 期末 5 の合計 25。
- 比較: 回収期間が短いほど、投下資本を早く回収でき流動性が高いと評価される。Z 案(1.04 年)は E 案(2.03 年)より短いため、流動性の観点では Z 案が優位である。
第 4 問(配点 12 点)
(設問 1)
X 社のような大口取引先の存在は、D 社にとってメリットもあるがデメリットもある。どのようなデメリットがあるか、30 字以内で述べよ。
回答例(24 字)
価格交渉力が弱く、受注動向に経営が左右される点。
解説
問題文の該当箇所
- 「D 社の売上高全体の 7 割程度を占めている」
- 「主要取引先の X 社は部品調達の一部を海外企業に求めることを決定しており、そのため、来期の受注数量が減少すると予想している」
答案作成の根拠 与件文に示されている通り、売上の大部分を単一の取引先に依存すると、その取引先の方針転換(海外調達への切り替えなど)が自社の経営に致命的な影響を及ぼす。これは、取引先に対して交渉力が弱い立場に置かれ、一方的な価格引き下げ要求や発注削減を受け入れざるを得なくなるリスクが高いことを意味する。この「交渉力の弱さ」と「経営の不安定化」が最大のデメリットである。
使用した経営学の知識
- ポーターの 5 つの力分析: 業界の競争環境を分析するフレームワーク。その中の一つ「買い手の交渉力」に該当する。特定の大口顧客への依存度が高いと、買い手の交渉力が強まり、企業の収益性が圧迫されるリスクが高まる。
(設問 2)
設問 1 におけるデメリットを解消するための対策として、環境関連製品の製造・販売をすることの意義を 30 字以内で述べよ。
回答例(25 字)
特定取引先への依存度を下げ、経営リスクを分散する。
解説
問題文の該当箇所
- 「これまでの取扱製品とは異なる需要動向を示す環境関連製品の製造・販売を計画」
答案作成の根拠 設問 1 で挙げた「特定取引先への依存」というデメリットを解消するためには、取引先や事業分野を増やすことが有効である。環境関連製品は、既存の自動車部品とは「異なる需要動向を示す」とされているため、X 社の業績や方針に左右されない新たな収益の柱を育てることにつながる。これにより、X 社への依存度を低減し、経営全体のリスクを分散させることができる。
使用した経営学の知識
- 事業ポートフォリオ・マネジメント: 企業が複数の事業をどのように組み合わせ、経営資源を配分するかを管理する手法。新たな事業に進出することは、製品や市場の多角化を通じて、特定事業への過度な依存から脱却し、全社的なリスクを低減する効果(リスク分散効果)がある。