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令和 2 年度(2020 年度)事例 Ⅳ 回答と解説
第 1 問(配点 25 点)
(設問 1)
D 社および同業他社の当期の財務諸表を用いて比率分析を行い、同業他社と比較した場合の D 社の財務指標のうち、① 優れていると思われるものを 1 つ、② 劣っていると思われるものを2つ取り上げ、それぞれについて、名称を(a)欄に、計算した値を(b)欄に記入せよ。(b)欄については、最も適切と思われる単位をカッコ内に明記するとともに、小数点第 3 位を四捨五入した数値を示すこと。
回答例 【パターン A:バランス重視型】
(設問 1)
(a) 名称 | (b) 計算した値 | |
---|---|---|
① 優れている指標 | 売上高総利益率 | 26.39 (%) |
② 劣っている指標 | 有形固定資産回転率 | 5.30 (回) |
② 劣っている指標 | 自己資本比率 | 15.82 (%) |
解説
① 優れている指標:売上高総利益率 (収益性)
- D 社: 1,202 ÷ 4,555 = 26.39%
- 同業他社: 566 ÷ 3,468 = 16.32%
- 本業である戸建住宅事業において、高い付加価値を確保できていることを示唆しています。
② 劣っている指標:有形固定資産回転率 (効率性)
- D 社: 4,555 ÷ 860 = 5.30 回
- 同業他社: 3,468 ÷ 255 = 13.60 回
- 同業他社に比べ、有形固定資産から効率的に売上を生み出せていません。これは主に、収益性の低い飲食事業の店舗等に多額の資金が投下されていることが原因と考えられます。
② 劣っている指標:自己資本比率 (安全性)
- D 社: 608 ÷ 3,844 = 15.82%
- 同業他社: 2,311 ÷ 3,495 = 66.12%
- 借入金への依存度が極めて高く、財務基盤が脆弱です。飲食事業への投資などが負債を増加させている要因と推測されます。
(設問 2)
回答例 (48 字)
高い売上総利益率を誇るが、飲食事業等の有形固定資産の投資効率と借入依存度の高い財務安全性が課題。
回答例【パターン B:与件文重視型】
(設問 1)
(a) 名称 | (b) 計算した値 | |
---|---|---|
① 優れている指標 | 売上高総利益率 | 26.39 (%) |
② 劣っている指標 | 売上高販管費率 | 24.24 (%) |
② 劣っている指標 | 当座比率 | 28.74 (%) |
解説
① 優れている指標:売上高総利益率 (収益性)
- D 社: 1,202 ÷ 4,555 = 26.39%
- 同業他社: 566 ÷ 3,468 = 16.32%
- 戸建住宅事業における基本的な収益力は、同業他社より優れていることを示しています。
② 劣っている指標:売上高販管費率 (収益性)
- D 社: 1,104 ÷ 4,555 = 24.24%
- 同業他社: 429 ÷ 3,468 = 12.37%
- 与件文の「丁寧な顧客対応のための費用負担が重い」という記述を裏付ける指標です。高い売上総利益を販管費で大きく削ってしまっている構造が読み取れます。
② 劣っている指標:当座比率 (安全性)
- D 社: (707 + 36) ÷ 2,585 = 28.74%
- 同業他社: (1,243 + 121) ÷ 1,069 = 127.60%
- 短期借入金が多い一方で、すぐに現金化できる当座資産が少なく、短期的な支払い能力が著しく低い危険な状態にあることを示しています。
(設問 2)
回答例 (48 字)
高い売上総利益率だが、手厚い顧客対応等の販管費が収益を圧迫し、短期的な支払い能力にも懸念がある。
第 2 問(配点 30 点)
(設問 1)
ステーキ店の当期の売上高は 60 百万円、変動費は 39 百万円、固定費は 28 百万円であった。変動費率は、売上高 70 百万円までは当期の水準と変わらず、70 百万円を超えた分については 60%になる。また、固定費は売上高にかかわらず一定とする。その場合の損益分岐点売上高を求めよ。(a)欄に計算過程を示し、計算した値を(b)欄に記入すること。
回答例
(a) 計算過程
- 当期の変動費率を求める。 変動費率 = 39 百万円 ÷ 60 百万円 = 0.65
- 売上高 70 百万円時点での利益を計算する。 この時点では変動費率は 0.65 のままである。 利益 = 70 百万円 - (70 百万円 × 0.65) - 28 百万円 = -3.5 百万円 この時点では赤字のため、損益分岐点売上高は 70 百万円を超える。
- 70 百万円を超えてから損益分岐点に達するまでの追加売上高を求める。 70 百万円超過分の限界利益率は 1 - 0.60 = 0.40 である。 ステップ 2 の赤字 3.5 百万円を、この限界利益で補填すればよい。 追加売上高 = 3.5 百万円 ÷ 0.40 = 8.75 百万円
- 損益分岐点売上高を計算する。 損益分岐点売上高 = 70 百万円 + 8.75 百万円 = 78.75 百万円
(b) 計算した値
78.75 (百万円)
解説
問題文の該当箇所
- 「ステーキ店の当期の売上高は 60 百万円、変動費は 39 百万円、固定費は 28 百万円であった。変動費率は、売上高 70 百万円までは当期の水準と変わらず、70 百万円を超えた分については 60%になる。」
答案作成の根拠 売上高の水準によって変動費率が変化する、いわゆる「非線形 CVP 分析」の問題です。 まず、変動費率が変化する売上高 70 百万円時点での利益を計算します。この時点で赤字(-3.5 百万円)であるため、損益分岐点はさらに売上を伸ばした先にあることがわかります。 次に、この赤字額 3.5 百万円を、70 百万円を超えた部分の売上から得られる限界利益(売上高 - 変動費)で回収するために、いくら追加で売り上げる必要があるかを計算します。70 百万円超過分の変動費率は 60% なので、限界利益率は 40% (1-0.6) となります。 必要な追加売上高は 3.5 百万円 ÷ 0.4 = 8.75 百万円と計算できます。 したがって、全体の損益分岐点売上高は、基準となる 70 百万円に、この追加売上高 8.75 百万円を加えて 78.75 百万円となります。
使用した経営学の知識
- CVP 分析 (Cost-Volume-Profit Analysis): 費用(Cost)、操業度(Volume)、利益(Profit)の関係を分析する手法。損益分岐点分析はその代表的なものです。
- 損益分岐点売上高: 売上高と総費用が等しくなり、利益がゼロになる点の売上高。公式は
固定費 ÷ (1 - 変動費率)
または固定費 ÷ 限界利益率
。本問のように条件が変化する場合は、段階的に計算する必要があります。
(設問 2)
このステーキ店(同店に関連して所有する資産の帳簿価額は 35 百万円である)への対応を検討することとした。D 社の取りうる選択肢は、① 広告宣伝を実施したうえでそのままステーキ店の営業を続ける、② よりカジュアルなレストランへの業態転換をする、③ 即時閉店して所有する資産を売却処分する、という3つである。(中略)以上を基に、D 社が次期期首に行うべき意思決定について、キャッシュ・フローの正味現在価値に基づいて検討することとした。① の場合の正味現在価値を(a)欄に、② の場合の正味現在価値を(b)欄に、③ つの選択肢のうち最適な意思決定の番号を(c)欄に、それぞれ記入せよ。
回答例
はい、承知いたしました。 初回の出力結果(期末払い計算)を、ご指摘の正しい結果(期首払い計算)である 92.81 百万円 となるように修正します。
回答例
(a) 選択肢 ① の正味現在価値
(i) 計算過程
広告料は「毎年 4 月 1 日」に支払われるため、各期間の期首に発生するキャッシュ・フローとして計算します。
効果が出る場合(確率 70%)の NPV
- 営業 CF の現在価値 (5 年間・期末発生):
35百万円 × (0.926 + 0.857 + 0.794 + 0.735 + 0.681) = 139.755百万円
- 広告料の現在価値 (5 年間・期首発生):
5百万円 × (1 + 0.926 + 0.857 + 0.794 + 0.735) = -21.56百万円
- 資産処分 CF の現在価値 (5 年目末):
24百万円 × 0.681 = 16.344百万円
- この場合の NPV =
139.755 - 21.56 + 16.344 = 134.539百万円
- 営業 CF の現在価値 (5 年間・期末発生):
効果が出ない場合(確率 30%)の NPV
- 営業 CF の現在価値 (3 年間・期末発生):
-5百万円 × (0.926 + 0.857 + 0.794) = -12.885百万円
- 広告料の現在価値 (3 年間・期首発生):
5百万円 × (1 + 0.926 + 0.857) = -13.915百万円
- 資産処分 CF の現在価値 (3 年目末):
28百万円 × 0.794 = 22.232百万円
- この場合の NPV =
-12.885 - 13.915 + 22.232 = -4.568百万円
- 営業 CF の現在価値 (3 年間・期末発生):
期待値の計算
- 期待 NPV =
(134.539 × 0.7) + (-4.568 × 0.3)
= 94.1773 - 1.3704 = 92.8069
≒ 92.81 百万円
- 期待 NPV =
(ii) 計算結果92.81 (百万円)
(b) 選択肢 ② の正味現在価値
(i) 計算過程
- 順調な場合(確率 40%)の NPV
- 初期投資: -30 百万円
- CF: 1 年目 12.5、2 ~ 5 年目 25、5 年目資産処分 27
- NPV = 12.5×0.926 + 25×0.857 + 25×0.794 + 25×0.735 + 25×0.681 + 27×0.681 - 30 = 11.575 + 21.425 + 19.85 + 18.375 + 17.025 + 18.387 - 30 = 106.637 - 30 = 76.637 百万円
- 不調な場合(確率 60%)の NPV
- 初期投資: -30 百万円
- CF: 1 年目 7.5、2 ~ 5 年目 15、5 年目資産処分 27
- NPV = 7.5×0.926 + 15×0.857 + 15×0.794 + 15×0.735 + 15×0.681 + 27×0.681 - 30 = 6.945 + 12.855 + 11.91 + 11.025 + 10.215 + 18.387 - 30 = 71.337 - 30 = 41.337 百万円
- 期待値の計算
- 期待 NPV = 76.637 × 0.4 + 41.337 × 0.6 = 30.6548 + 24.8022 = 55.457 ≒ 55.46 百万円
(ii) 計算結果55.46 (百万円)
(c) 最適な意思決定
①
解説
問題文の該当箇所
- 第 2 問設問 2 の選択肢 ①、②、③ に関する記述全体。
- 割引率 8% と現価係数の表。
答案作成の根拠 各選択肢の期待正味現在価値(NPV)を計算し、最も価値が高くなる案を選択します。
選択肢 ①(営業継続): 2 つのシナリオ(効果あり/なし)それぞれの NPV を計算し、発生確率で加重平均して期待値を求めます。各年のキャッシュ・フローは「税引後営業 CF」から「広告料」を差し引いて計算します。
- 期待 NPV = 92.81 百万円
選択肢 ②(業態転換): こちらも 2 つのシナリオ(順調/不調)で NPV を計算し、期待値を求めます。期首の改装費用 30 百万円がマイナスのキャッシュ・フロー(初期投資)となります。1 年目は半年営業のため、営業 CF は半額になる点に注意が必要です。
- 期待 NPV = 55.46 百万円
選択肢 ③(即時閉店): 次期期首(現在)に 30 百万円のキャッシュ・インがあるため、NPV はそのまま 30 百万円となります。
比較と結論:
- NPV(①) = 92.81 百万円
- NPV(②) = 55.46 百万円
- NPV(③) = 30.00 百万円 NPV が最も大きい 選択肢 ① が、D 社にとって財務的に最も有利な意思決定となります。
使用した経営学の知識
- 正味現在価値 (NPV: Net Present Value): 投資によって将来生み出されるキャッシュ・フローの現在価値の合計から、初期投資額を差し引いたもの。NPV がプラスであれば投資価値があり、複数の投資案がある場合は NPV が最も大きい案を選択するのが合理的な意思決定とされます。
- 期待値: 不確実性のある状況下で、各事象から得られる結果とその発生確率を掛け合わせ、それらを合計した平均値。本問のように将来のキャッシュ・フローが不確実な場合、期待値を用いることでリスクを考慮した評価が可能になります。
第 3 問(配点 20 点)
D 社は、リフォーム事業の拡充のため、これまで同社のリフォーム作業において作業補助を依頼していた E 社の買収を検討している。当期末の E 社の貸借対照表によれば、資産合計は 550 百万円、負債合計は 350 百万円である。また、E 社の当期純損失は 16 百万円であった。
(設問 1)
D 社が E 社の資産および負債の時価評価を行った結果、資産の時価合計は 500 百万円、負債の時価合計は 350 百万円と算定された。D 社は 50 百万円を銀行借り入れ(年利 4%、期間 10 年)し、その資金を対価として E 社を買収することを検討している。買収が成立した場合、E 社の純資産額と買収価格の差異に関して D 社が行うべき会計処理を 40 字以内で説明せよ。
回答例(40 字)
純資産時価と買収対価の差額 100 百万円を、負ののれん発生益として特別利益に計上する。
解説
問題文の該当箇所
- 「E 社の資産および負債の時価評価を行った結果、資産の時価合計は 500 百万円、負債の時価合計は 350 百万円と算定された。」
- 「D 社は 50 百万円を...対価として E 社を買収することを検討している。」
答案作成の根拠
- 被買収企業の純資産時価の算定: E 社の純資産時価 = 資産の時価 500 百万円 - 負債の時価 350 百万円 = 150 百万円
- のれん(または負ののれん)の算定: 差額 = 純資産時価 150 百万円 - 買収対価 50 百万円 = 100 百万円
- 会計処理の判断: 買収対価が受け入れる純資産の時価を下回る場合、その差額は「負ののれん」となります。負ののれんは、割安な価格で企業を買収できたことを示すものであり、原則として、その発生した事業年度の特別利益(負ののれん発生益)として一括で計上します。
使用した経営学の知識
- 企業結合会計: 企業買収(M&A)などにおける会計処理の基準です。
- のれん: 買収対価が、被買収企業の純資産時価を超える場合の差額。ブランド力や技術力など、貸借対照表に計上されない無形の価値を表し、資産として計上後、一定期間で償却されます。
- 負ののれん: 本問のケースのように、買収対価が被買収企業の純資産時価を下回る場合の差額。会計上は、発生事業年度の利益(特別利益)として処理されます。
(設問 2)
この買収のリスクについて、買収前に中小企業診断士として相談を受けた場合、どのような助言をするか、60 字以内で述べよ。
回答例(58 字)
E 社は赤字企業であり、事業シナジーが創出できなければ、収益を圧迫する。簿外債務等の潜在的リスクにも注意が必要である。
解説
問題文の該当箇所
- 「E 社の当期純損失は 16 百万円であった。」
- 「D 社は、リフォーム事業の拡充のため...E 社の買収を検討している。」
答案作成の根拠 中小企業診断士として、財務情報と買収の目的に基づき、潜在的なリスクを多角的に指摘する必要があります。
- 財務リスク: E 社は当期純損失 16 百万円の赤字企業です。買収後に経営改善が図れず赤字が継続すれば、D 社全体の収益性を悪化させる直接的なリスクとなります。
- 事業シナジーのリスク: 買収目的は「リフォーム事業の拡充」です。しかし、組織文化の違いや従業員のモチベーション低下などにより、期待していた連携(シナジー効果)が生まれず、投資が失敗に終わるリスクがあります。
- デューデリジェンスのリスク: 時価評価は行っていますが、帳簿に現れない偶発債務(訴訟、保証など)が後から発覚する可能性があります。これらのリスクを包括的に指摘します。
これらのリスクの中から、最も根源的である「赤字企業であること」と、買収で一般的に留意すべき「シナジー」と「簿外債務」を盛り込み、60 字で簡潔に助言します。
使用した経営学の知識
- M&A (Mergers and Acquisitions): 企業の合併・買収の総称。成長戦略の一つですが、多くのリスクを伴います。
- シナジー効果: 複数の事業や企業が統合することで、それぞれが単独で活動するよりも大きな成果を生み出す効果。M&A の成功を左右する重要な要素です。
- デューデリジェンス (Due Diligence): M&A を行う際に、買収対象企業の価値やリスクを詳細に調査すること。財務、法務、事業など多岐にわたります。
第 4 問(配点 25 点)
D 社の報告セグメントに関する当期の情報(一部)は以下のとおりである。(中略)D 社では、戸建住宅事業における顧客満足度の向上に向けて、VR(仮想現実)を用い、設計した図面を基に、完成予定の様子を顧客が確認できる仕組みを次期期首に導入することが検討されている。ソフトウェアは 400 百万円で外部から購入し、5 年間の定額法で減価償却する。必要な資金 400 百万円は銀行借り入れ(年利 4%、期間 5 年)によって調達する予定である。このソフトウェア導入により、戸建住宅事業の売上高が毎年 92 百万円上昇することが見込まれている。以下の設問に答えよ。
(設問 1)
(a)戸建住宅事業および(b)D 社全体について、当期の ROI をそれぞれ計算せよ。 解答は、%で表示し、小数点第 3 位を四捨五入すること。
回答例
(a) 戸建住宅事業の当期 ROI4.31 (%)
(b) D 社全体の当期 ROI2.55 (%)
解説
問題文の該当箇所
- 報告セグメントに関する情報(表)
- 与件文の「取締役の業績は各事業セグメントの当期 ROI(投下資本営業利益率)によって評価されている」「各セグメントに属する期末資産の適正な金額を用いている」
答案作成の根拠 ROI (Return on Investment) は、投下した資本に対してどれだけの利益を上げたかを示す指標です。本問では「投下資本営業利益率」と定義されており、
セグメント利益 ÷ セグメント資産
で計算します。- (a) 戸建住宅事業 ROI
- ROI = セグメント利益 146 百万円 ÷ セグメント資産 3,385 百万円 = 0.04313... ≒ 4.31 %
- (b) D 社全体 ROI
- ROI = 合計セグメント利益 98 百万円 ÷ 合計セグメント資産 3,844 百万円 = 0.02549... ≒ 2.55 %
- (a) 戸建住宅事業 ROI
使用した経営学の知識
- ROI (Return on Investment / 投下資本利益率): 事業の収益性を評価する指標。
利益 ÷ 投下資本
で計算されます。事業部制組織などで、各事業部の業績を評価・比較する際に用いられます。
- ROI (Return on Investment / 投下資本利益率): 事業の収益性を評価する指標。
(設問 2)
各事業セグメントの売上高、セグメント利益およびセグメント資産のうち、このソフトウェア導入に関係しない部分の値が次期においても一定であると仮定する。このソフトウェアを導入した場合の次期における戸建住宅事業の ROI を計算せよ。解答は、%で表示し、小数点第 3 位を四捨五入すること。
回答例
4.18 (%)
解説
問題文の該当箇所
- VR 導入に関する記述全体。
- 報告セグメントに関する情報(表)。
答案作成の根拠 VR 導入後の次期の戸建住宅事業のセグメント利益(分子)とセグメント資産(分母)を予測し、ROI を計算します。
次期のセグメント利益(分子)の計算
- 既存事業の利益: 146 百万円 (前期から一定)
- VR による売上増: +92 百万円
- VR ソフトウェアの減価償却費: - (400 百万円 ÷ 5 年) = -80 百万円
- 次期利益 = 146 + 92 - 80 = 158 百万円 ※支払利息は営業外費用のため、営業利益ベースであるセグメント利益の計算には含めません。この計算は前回と同様です。
次期末のセグメント資産(分母)の計算 この問題では、期中の事業活動による資産の増減を期末資産に反映させる必要があると解釈します。
- 当期末の資産(=次期期首の資産): 3,385 百万円
- ソフトウェアの取得による資産増: +400 百万円
- ソフトウェアの減価償却による資産減: -80 百万円
- 売上増加に伴う資産(現金・売掛金等)の増加: +92 百万円
- 支払利息による資産(現金等)の減少: -16 百万円 (借入金 400 百万円 × 年利 4%)
- 次期末資産 = 3,385 + 400 - 80 + 92 - 16 = 3,781 百万円
次期の ROI の計算
- ROI = 次期利益 158 百万円 ÷ 次期末資産 3,781 百万円 = 0.041787... ≒ 4.18 %
使用した経営学の知識
- 設備投資の評価: 新規投資が業績指標(本問では ROI)に与える影響を予測する計算です。
- ROI (投下資本利益率) の計算において、分母となる「投下資本(セグメント資産)」の算定が重要となります。本問のように期中に大きな投資や事業活動の変化がある場合、その影響(資産の取得、減価償却、事業活動に伴う運転資本や現金の増減)を期末の資産額に反映させて計算することが求められます。
(設問 3)
取締役に対する業績評価の方法について、中小企業診断士として助言を求められた。現在の業績評価の方法における問題点を ⒜ 欄に、その改善案を ⒝ 欄に、それぞれ 20 字以内で述べよ。
回答例
(a) 問題点長期的な投資を抑制する可能性がある点。(19 字)
(b) 改善案残余利益(RI)を業績評価に導入する。(19 字)
解説
問題文の該当箇所
- 「取締役の業績は各事業セグメントの当期 ROI(投下資本営業利益率)によって評価されている。」
- 設問 2 の計算結果。
答案作成の根拠
(a) 問題点 設問 2 の結果、売上と利益の増加が見込める有益な VR 投資を実行すると、戸建住宅事業の ROI は 4.31% から 4.18% へと低下します。このように、ROI を業績評価指標にすると、たとえ企業全体にとってプラスの投資であっても、自部門の ROI を低下させる投資を事業部長(取締役)が躊躇してしまうという問題が生じます。特に、分母(投下資本)が大きくなる大規模・長期的な投資が抑制されがちです。
(b) 改善案 ROI の上記の問題点を克服する指標として**残余利益(RI: Residual Income)**が挙げられます。
- 残余利益 = 営業利益 - (投下資本 × 資本コスト率) 残余利益は、資本コストを上回る利益の「絶対額」を評価します。そのため、事業部の ROI を下げてしまう投資であっても、その投資が生み出す利益が資本コストを上回っていれば、残余利益は増加します。これにより、有益な投資を促進する効果が期待できます。文字数制限を踏まえ、この改善策を端的に提案します。
使用した経営学の知識
- 事業部長の業績評価: 事業部制組織において、各事業部長のパフォーマンスを適切に測定し、全社的な目標と各事業部の目標を一致させる(目標の整合性)ための仕組み。
- ROI の欠点: ROI は率で評価するため、① 利益の絶対額を無視する、② 長期的な投資を抑制するバイアスがかかる、といった問題点が知られています。
- 残余利益 (RI): ROI の欠点を補うための業績評価指標。投資の絶対額を評価するため、全社的な観点から有益な投資案を正しく評価し、投資を促進するインセンティブとなります。EVA®(経済的付加価値)も同様の考え方に基づく指標です。