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平成 29 年度(2017 年度)事例 Ⅱ 回答と解説

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第 1 問(配点 20 点)

設問文

B 社について、現在の(a)自社の強みと(b)競合の状況をそれぞれ 60 字以内で説明せよ。

回答例

  • (a) 強み(56 字):井戸端会議で築いた顧客との強固な関係と、そこから得られる詳細な顧客情報を基にした、丁寧なコンサルティング接客力。
  • (b) 競合の状況(56 字):大型スーパーは品揃えが限定的で専門的な説明ができない。百貨店は遠方で、地域の顧客が求める商品を提供できていない。

解説

(a) 自社の強み

  • 問題文の該当箇所

    • 「B 社のこだわりは接客にある。睡眠状況を聞きながら商品を薦めるという、現社長が始めた接客は、多くの顧客の信頼を得ている。」
    • 「休憩コーナーで井戸端会議をし始めた。次第に人の輪が広がり」「交流を深めた。」
    • 「井戸端会議は B 社が潜在的な顧客ニーズを収集する場でもあった。」
    • 「日頃の交流を通じて、顧客の好みをよく把握している副社長が品揃えを厳選した。」
    • 「B 社にとってシルバー世代に関する店内の顧客台帳や現社長達の頭の中にある情報は貴重な無形資産」
  • 答案作成の根拠 与件文から、B 社の強みは単なる商品知識や品揃えではなく、顧客一人ひとりと深く関わることで築き上げた「関係性」と、そこから得られる「情報」にあると読み取れる。特に「井戸端会議」は、顧客との関係性構築とニーズ収集を同時に実現する B 社独自の中核的な仕組みとなっている。この関係性と情報を基にした「コンサルティング接客」が、顧客からの高い信頼につながっている。これらの要素を組み合わせて、B 社の本質的な強みを記述した。

  • 使用した経営学の知識

    • SWOT 分析: 企業の内部環境である「強み (Strengths)」を特定するフレームワーク。B 社の持つ人的資産(接客スキル、関係構築力)や情報資産(詳細な顧客情報)が強みとして分析できる。
    • CRM (Customer Relationship Management): 顧客との良好な関係を築き、維持することで、企業の収益向上を目指す経営手法。B 社の「井戸端会議」や詳細な顧客情報の管理は、CRM の実践例といえる。
    • コンサルティングセールス: 商品を売るだけでなく、顧客の課題やニーズをヒアリングし、専門的な知識で解決策を提案する販売手法。

(b) 競合の状況

  • 問題文の該当箇所

    • 「収益悪化の主要因は 1980 年に出店した幹線道路沿いにある大型スーパーである。」
    • 「大型スーパーの寝具売場を視察した。視察を通じて、高品質な商品が少ないこと、従業員がほとんどおらず、十分な説明もできないことが分かった。」
    • 「『買い物のために県庁所在地の百貨店まで出かけたのに、欲しいものがなかったときは体力的、精神的につらい』ということが話題になり、多くのメンバーがその意見に賛同した。」
  • 答案作成の根拠 与件文では、競合として「大型スーパー」と「県庁所在地の百貨店」が挙げられている。それぞれの弱点を明確に指摘することが求められる。大型スーパーについては、「品揃え(高品質品がない)」と「接客(説明不足)」に課題がある。百貨店については、物理的な距離が遠いことに加え、「品揃えが顧客ニーズと合致していない」という問題点が示唆されている。これらの競合の弱みが、B 社が地域で存在価値を発揮できる要因となっているため、その状況を的確にまとめた。

  • 使用した経営学の知識

    • 3C 分析: 顧客 (Customer)、競合 (Competitor)、自社 (Company) の 3 つの視点から事業環境を分析するフレームワーク。本設問は競合 (Competitor) の分析に該当する。
    • 競争戦略: 競合との差別化を図るための戦略。B 社は、価格や規模で劣る大型スーパーに対し、専門性や接客といった「差別化集中戦略」で対抗している。競合の弱点を分析することは、自社の戦略を明確にする上で不可欠である。

第 2 問(配点 25 点)

設問文

B 社はボランタリー・チェーン本部から新たに婦人用ハンドバッグの予約会の開催を打診された。B 社は現在のデータベースを活用しながら、この予約会を成功させようと考えている。そのためには、どのような施策を行うべきか。120 字以内で助言せよ。

回答例(120 字)

データベースの購買履歴や嗜好情報を基に、ハンドバッグへの関心が高い優良顧客を厳選する。副社長が個別に電話で案内し、顧客が所有する婦人服とのコーディネートを写真付き DM で提案する。これにより関心を喚起し、予約会への参加と高い成約率を実現する。

解説

  • 問題文の該当箇所

    • 「B 社は現在のデータベースを活用しながら、この予約会を成功させようと考えている。」
    • 「データベースはリピーターである重要顧客からなる 100 件強の小規模なものであるが、1 件の情報は非常に詳細なものとなった。」
    • 「副社長が記録した寝具や婦人服の購買履歴と記憶した好み」
  • 答案作成の根拠 設問では「データベースの活用」が絶対条件である。このデータベースには「婦人服の購買履歴」や「好み」といった、極めてパーソナルで詳細な情報が含まれている。これを最大限に活用することが施策の根幹となる。

    したがって、単なる一斉告知ではなく、① データベース情報から最も見込みの高い優良顧客を 厳選(ターゲティング) し、②B 社の強みである副社長を介した 人的なアプローチ(個別電話) と、③ 顧客が「自分事」として捉えざるを得ない 個別提案(所有する服とのコーディネート提案) を組み合わせた。この一連の施策により、単に参加を促すだけでなく、来店時の高い成約率までを視野に入れた、精度の高い販売戦略を構築した。

  • 使用した経営学の知識

    • CRM (Customer Relationship Management): 顧客情報を一元管理し、顧客一人ひとりに合わせたアプローチを行うことで、顧客ロイヤルティを高める経営手法である。詳細なデータベースの活用と副社長による個別対応は、まさに CRM の実践といえる。
    • データベースマーケティング: 顧客データベースを分析・活用して、効果的なマーケティング活動を展開する手法である。今回のターゲット抽出と個別アプローチは、その典型例である。
    • One to One マーケティング: 顧客一人ひとりの属性や購買履歴に合わせて、個別最適化された対応を行うマーケティング手法。「所有する服とのコーディネート提案」は、この思想に合致する。
    • クロスセル: ある商品を購入した顧客に対し、関連性の高い別の商品を提案・販売する手法である(婦人服購入者へのハンドバッグ提案が該当)。

第 3 問(配点 30 点)

設問文

地域内の中小建築業と連携しながら、シルバー世代の顧客生涯価値を高めるための施策について、120 字以内で助言せよ。

回答例 (116 字)

中小建築業と提携し、介護リフォームサービスを顧客に提供する。建築業者が改修を、B 社は利用者の身体状況や動線に合わせた介護ベッド等を提案・販売する。設置からアフターフォローまで一貫して担い、長期的な信頼関係を築き、顧客生涯価値を高める

解説

  • 問題文の該当箇所

    • 「地域内の中小建築業と連携しながら、シルバー世代の顧客生涯価値を高めるための施策」
    • 「介護のための改装も増加している。」
    • 「シルバー世代の顧客の多くはやがて介護をされる側の立場となり、確実に減少する。」
    • B 社の品揃え:「介護ベッド」
  • 答案作成の根拠 本設問は「中小建築業との連携」と「シルバー世代の顧客生涯価値(LTV)向上」という 2 つの要件を満たす施策を求めている。与件文から、X 市では「介護リフォーム需要」が高まっており、B 社の主要顧客である「シルバー世代」がまさにその対象となることは明白である。また、B 社は「介護ベッド」という直接的な解決策(ソリューション)となりうる製品を取り扱っている。

    これらの点を結びつけ、建築業者が住宅という 「ハコ(空間)」 の専門家、B 社が寝室環境という 「ナカミ(機能)」 の専門家として連携するビジネスモデルを構築した。単なる相互紹介に留まらず、利用者の状態に合わせた最適な製品の提案から、設置、さらにはアフターフォローまでを一貫して担うことで、顧客の負担を軽減し、高い付加価値と信頼を提供する。これにより、一度きりの取引で終わらせず、寝具の定期的な交換といった継続的な関係を築き、LTV を最大化することが可能となる。

  • 使用した経営学の知識

    • LTV (Life Time Value / 顧客生涯価値): 一人の顧客が取引期間全体を通じて企業にもたらす利益の総額を示す指標である。高齢化に伴う「介護」という新たなニーズに対応することで、高単価商材の販売と継続的な関係構築を実現し、LTV 向上を図る。
    • アライアンス(戦略的提携): 複数の企業が互いの経営資源(専門知識、顧客基盤等)を有効活用し、協力して事業機会の創出を図ることである。本件は、専門性が異なる「異業種連携」の好例である。
    • ソリューション営業: 単に商品を販売するのではなく、顧客が直面する課題やニーズに対し、製品やサービスを組み合わせた包括的な解決策を提案する営業スタイルである。「快適で安全な介護環境の構築」という顧客の課題に対し、建築業者と一体となってソリューションを提供する。

第 4 問(配点 25 点)

設問文

B 社は今後、シルバー世代以外のどのセグメントをメイン・ターゲットにし、どのような施策を行うべきか。図を参考に、120 字以内で助言せよ。

回答例(118 字)

人口構成比の高い 30 代の子育て世代を主な標的とする。保育士経験のある次期社長の専門性を活かし、快眠教室を顧客接点の核に据える。子供の寝具提案に加え、入園準備用品の相談・販売を強化し、親世代の快眠ニーズも捉え、家族単位での顧客化を目指す。

解説

  • 問題文の該当箇所

    • 「図 現在の X 市と全国の年齢別人口構成比」:30 代の構成比が全国より高い。
    • 「シルバー世代以外のどのセグメントをメイン・ターゲットに」
    • 「次期社長は保育士の勤務経験があり、保育園ごとの昼寝用布団、手作りで用意する手さげカバンのサイズなどに関するルールを詳しく知っていた。」
    • 「『親と子の快眠教室』という月 1 回のイベントを開催し」「教室の参加者は、後日顧客として来店するようになりつつある。」
  • 答案作成の根拠 本設問は、シルバー世代に代わる新たなターゲットセグメントの設定と、それに対する具体的施策を問うものである。まず、外部環境分析として与件文の 「図」 を参照すると、X 市は全国平均に比べ 30 代の人口構成比が高い ことが客観的事実として読み取れる。この層は与件文中の「子育て世代」と合致し、市場規模の観点からターゲットとして魅力的である。

    次に、内部環境分析として B 社の経営資源に目を向けると、 「次期社長の保育士経験」 という、他社が容易に模倣できない独自の強みが存在する。この専門性は、子育て世代特有の悩み(寝かしつけ、入園準備など)に直接応えることができる強力な武器となる。

    したがって、これら外部環境の機会と内部環境の強みを掛け合わせ、ターゲットを「30 代の子育て世代」と設定。施策としては、既に成功の兆しがある「親と子の快眠教室」を顧客との関係構築の場とし、そこから次期社長の専門知識を活かした個別相談や商品販売へとつなげる。さらに、子供の寝具だけでなく親自身の睡眠に関するニーズも喚起することで、 家族全体を顧客として囲い込み 、長期的な収益基盤を構築する戦略を導き出した。

  • 使用した経営学の知識

    • STP 分析: 市場を細分化(Segmentation)し、狙うべき市場を定め(Targeting)、自社の立ち位置を明確にする(Positioning)分析手法である。本件では、人口動態(図)と自社の強みから「30 代の子育て世代」をターゲットとして選定するプロセスが該当する。
    • リソース・ベースト・ビュー (RBV): 企業が持つ独自の経営資源(リソース)こそが競争優位の源泉であるとする経営戦略論である。「次期社長の保育士経験」という人的資源を核に戦略を組み立てる視点がこれにあたる。
    • コト消費: 商品(モノ)の所有だけでなく、サービスや体験を通じて得られる価値を重視する消費傾向である。「快眠教室」や「入園準備相談会」といった体験価値の提供は、顧客エンゲージメントを高める上で有効である。

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