Gemini 2.5 Pro による回答と解説( 平成 26 年度(2014 年度)事例 Ⅰ)
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第 1 問(配点 20 点)
設問文
A 社は、小規模ながら大学や企業の研究機関と共同開発した独創的な技術を武器に事業を展開しようとする研究開発型中小企業である。わが国でも、近年、そうしたタイプの企業が増えつつあるが、その背景には、どのような経営環境の変化があると考えられるか。120 字以内で答えよ。
回答例 (110 字)
技術革新の加速と製品ライフサイクルの短縮化を背景に、大企業が研究開発で自前主義から転換し、外部の専門技術を求めるオープンイノベーションが浸透したこと。また、国が中小企業の研究開発を支援する公的助成金制度を充実させたこと。
解説
問題文の該当箇所
- 「A 社は、…大学や企業の研究機関と共同開発した独創的な技術を武器に事業を展開しようとする研究開発型中小企業である。」
- 「精密ガラス加工技術を必要とする製品分野は、技術革新のスピードが速く、製品ライフサイクルが短い。」
- 「A 社が現在進めている新規事業の資金は、大部分が公的助成金によって賄われている。」
答案作成の根拠 本問は、A 社のような研究開発型中小企業が増加している経営環境の変化を問うている。与件文から読み取れる外部環境の変化と A 社の対応を結びつけて解答を構成する。
市場環境の変化: 「技術革新のスピードが速く、製品ライフサイクルが短い」という記述から、企業は迅速な製品開発を求められていることがわかる。この環境下で、大企業はすべての技術を自社で開発する「自前主義」が困難になり、外部の技術やアイデアを積極的に活用する「オープンイノベーション」へとシフトしている。これにより、A 社のような高い専門技術を持つ中小企業に事業機会が生まれる。
公的支援: 「新規事業の資金は、大部分が公的助成金によって賄われている」とあるように、国や公的機関が中小企業の研究開発を資金面で支援する制度を充実させている。これも、体力に劣る中小企業が研究開発に取り組みやすくなった要因である。
以上 2 点を統合し、研究開発型中小企業の増加背景を説明する。
使用した経営学の知識
- オープンイノベーション: 自社の研究開発だけでなく、大学や他社など外部の技術やアイデアを積極的に活用し、革新的な製品やサービスを創出する経営戦略。製品ライフサイクルの短縮化や技術の高度化・複雑化を背景に広まった。
- 製品ライフサイクル: 製品が市場に投入されてから、やがて需要がなくなり姿を消すまでの一連の流れ(導入期、成長期、成熟期、衰退期)。技術革新が速い分野ではこのサイクルが短くなる傾向がある。
第 2 問(配点 20 点)
設問文
回答例 (100 字)
創業期は大学等の依頼に応じる受動的な事業活動が中心で、自社の技術シーズを市場ニーズに結びつける製品企画力や提案力が不足していた。そのため、単発的な受注に留まり、継続的な取引関係を構築できなかったため。
解説
問題文の該当箇所
- 「大学などの研究機関から頼まれる単発的な仕事をひとりだけでこなす体制でスタートした」
- 「依頼に応じて開発・製造した製品の多くは、技術革新や代替品の登場によって 2〜3 年で注文がなくなった」
- 「取引先の要望を超えるアイデアを提案することによって存続と成長を実現してきた」
答案作成の根拠 本問は、創業期の A 社が主力製品を確立できなかった理由を、取引先の製品ライフサイクルの短さ”以外”で問うている。A 社側の内部要因、特に事業姿勢や能力に着目する。
受動的な事業姿勢: 与件文には「依頼に応じて」「頼まれる単発的な仕事」とあり、創業期は取引先の要望に応えるだけの受動的な下請け的立場であったことがわかる。自ら市場や顧客を開拓し、製品を企画する動きがなかった。
企画・提案力の不足: A 社が成長できた要因として「取引先の要望を超えるアイデアを提案すること」が挙げられている。裏を返せば、創業期にはこの能力が不足しており、言われたものを作るだけだったため、取引先の都合に左右され、継続的な事業の柱を築けなかったと考えられる。
これらの理由から、自社の強みである技術力(シーズ)を、継続的に売上を生み出す製品(ニーズ)へと転換させるマーケティングや企画提案機能が弱かったことが、主力製品を確立できなかった根本的な原因だと結論付けられる。
使用した経営学の知識
- シーズ指向とニーズ指向: 技術シーズ(自社が持つ技術)を起点に製品開発を行うのがシーズ指向、市場や顧客のニーズ(要望)を起点にするのがニーズ指向。理想は両者のバランスだが、創業期の A 社は外部のシーズ活用依頼に応えるのみで、自ら市場ニーズを探求する活動が弱かった。
- 下請け依存のリスク: 特定の取引先からの受注に依存すると、その取引先の業績や方針転換に経営が大きく左右されるリスクがある。
第 3 問(配点 20 点)
設問文
回答例 (106 字)
OEM 生産の量産事業と、自社開発の研究開発型事業という性質の異なる事業が併存したこと。そのため、効率性を重視する事業と創造性を重視する事業のそれぞれに合わせた目標設定や資源配分、部門間の連携・調整が困難になった。
解説
問題文の該当箇所
- 「売上のおよそ半分を OEM 生産の理化学分析用試験管事業が占め、残りの半分をレーザー装置事業とガラス管事業でそれぞれ同程度を売り上げている。」
- 組織が「生産、研究開発を中心にした機能別組織」であること。
- 2 つのターニングポイント: ① レーザー用放電管の「自社開発」、② 試験管の「OEM 生産」。
答案作成の根拠 本問は、事業が多角化したことによる「組織管理上」の課題を問うている。A 社の事業ポートフォリオと組織構造のミスマッチに着目する。
事業の異質性: A 社は 2 つのターニングポイントを経て、大きく分けて 2 つの性質が異なる事業を持つに至った。
- OEM 試験管事業: 顧客の仕様に基づき、効率的に大量生産し、コストと品質を管理することが求められる「効率性重視」の事業。
- レーザー装置事業: 自社アイデアに基づき、新技術・新製品を開発する「創造性・革新性重視」の事業。
機能別組織の限界: A 社の組織は、研究開発、生産、営業といった機能ごとに編成された「機能別組織」である。この組織形態は、単一事業や製品ラインが少ない場合には効率的だが、上記のように性質の異なる複数の事業を抱えると、全社一律の管理が難しくなる。例えば、コスト管理を厳しくすれば研究開発の自由度が下がり、研究開発に多額の投資をすれば量産事業の利益が圧迫されるといったコンフリクトが生じやすい。
したがって、異質な事業ごとの戦略策定、最適な資源配分、業績評価、そして事業部間の連携を、現在の機能別組織でいかにマネジメントしていくかが新たな組織管理上の課題となる。
使用した経営学の知識
- 組織構造論(コンティンジェンシー理論): 企業を取り巻く環境や戦略に適した組織構造が存在するという考え方。事業の多角化が進むと、機能別組織から、各事業が独立した権限を持つ「事業部制組織」へと移行することが合理的とされる場合が多い。
- 機能別組織: 職能(生産、販売、開発など)に基づいて部門を編成する組織形態。専門性の追求や規模の経済が働きやすい一方、部門間の壁(セクショナリズム)が生じやすく、環境変化への迅速な対応が難しいとされる。
第 4 問(配点 20 点)
設問文
回答例 (103 字)
製品の高精度化という新たな要求に対し、研究開発部門が持つ専門知識と、生産部門に蓄積された製造ノウハウが融合したこと。両部門が連携して、製造プロセスや内製設備の高度な分析・改良に取り組んだ結果だと考えられる。
解説
問題文の該当箇所
- 「ここ数年、さらに高精度の分析が可能な製品へと進化を遂げたこともあって高い製造技術が求められるようになっているが、良品率は 90%を超えるまでに向上している。」
- 「研究開発部門は、…製造装置の開発…を担当している。」
- 「工学博士号をもった社員を 5 年ほど前から採用し社内に研究室を開設」
- 「生産部門は、…近年昇進した中途採用者がそれぞれの課の課長を務めている。」
答案作成の根拠 本問は、良品率が 60%から 90%へ飛躍的に向上した要因を問うている。「設備の内製化」だけでは 60%で頭打ちだったことから、それ以降に加わった別の要因を探す必要がある。
外的要因(きっかけ): 「高精度の分析が可能な製品へと進化」し、「高い製造技術が求められる」ようになったことが、改善に取り組む直接的なきっかけとなった。
内的要因(能力向上): この高い要求に応えられた背景には、A 社内部の組織能力の向上があったと考えられる。
- 研究開発部門の貢献: 研究開発部門は「製造装置の開発」を担当しており、5 年前から博士号取得者を採用して研究室を設置するなど、技術的な分析能力や問題解決能力が向上していた。
- 生産部門の貢献: 設備内製化後、長年にわたり生産現場で改善が繰り返され、製造に関する知見やノウハウが蓄積されていた。また、「近年昇進した」課長が現場の改善活動を牽引した可能性も考えられる。
これら 2 つの部門が持つ能力が、「高精度化」という共通の目標に向かって結集し、部門間で連携して科学的なアプローチ(分析・解析)と現場の知見を組み合わせたことで、従来の延長線上にはない抜本的なプロセス改善が実現し、良品率の大幅な向上につながったと推測できる。
使用した経営学の知識
- 組織能力(ケイパビリティ): 企業が持つ組織的な強み。個人のスキルだけでなく、部門間の連携や知識共有の仕組みなども含まれる。本件では、研究開発能力と生産技術能力が連携することで、より高度な組織能力が発揮された例と言える。
- 学習曲線効果(経験曲線効果): 生産量の累積によって習熟度が高まり、品質向上やコストダウンが進む現象。60%までの改善は学習曲線効果によるものだが、90%への飛躍は、単なる習熟だけでなく、研究開発部門との連携によるブレークスルーがあったことを示唆する。
第 5 問(配点 20 点)
設問文
回答例 (104 字)
挑戦的な研究開発テーマと業務遂行における裁量権を与えること。また、専門性を評価するキャリアパスや処遇制度を整備するとともに、学会参加や外部研究者との交流を奨励し、専門家として成長できる機会を提供すべきである。
解説
問題文の該当箇所
- 「工学博士号をもった社員を 5 年ほど前から採用し社内に研究室を開設したのも、研究開発力をより強化し、新たな事業分野を開拓するためである。」
- 「精密ガラス加工技術を応用した新製品の芽が確実に育ちつつある。」
答案作成の根拠 本問は、高度専門人材(博士号取得者など)の定着(リテンション)施策について、中小企業診断士として助言を求めるものである。彼らのモチベーションの源泉が何かを考える必要がある。
仕事そのものによる動機付け(内発的動機付け): 高度専門人材は、金銭的報酬以上に、自身の専門性を活かせる挑戦的な仕事や、知的好奇心を満たせる環境を重視する傾向が強い。「新たな事業分野を開拓」「新製品の芽」といった記述から、彼らに裁量権を与え、やりがいのある研究テーマを任せることが重要である。
評価・処遇: 彼らの専門性や市場価値に見合った評価・処遇制度が必要である。管理職を目指すキャリアパスだけでなく、専門性を極めることで処遇が向上する「専門職制度(フェローシップなど)」の導入が有効である。
成長機会: 専門家は、常に最新の知識や技術を学び続ける必要がある。社内にとどまらず、学会への参加や外部の研究者とのネットワーク構築を企業が支援・奨励することで、彼らの成長意欲を満たし、組織への貢献度も高まる。
これらの施策を組み合わせ、専門人材が「この会社で働き続けたい」と思えるような魅力的な環境を整備することを助言する。
使用した経営学の知識
- モチベーション理論(二要因理論、内発的動機付け): ハーズバーグの二要因理論では、仕事の達成感、承認、責任、成長といった「動機付け要因」が満足度を高め、意欲を引き出すとされる。高度専門人材には、こうした内発的な動機付けが特に有効である。
- 人的資源管理(HRM): 従業員を経営資源と捉え、その能力を最大限に引き出し、企業目標の達成と従業員の満足度向上を両立させるための管理手法。本問では、専門職に対するキャリアパス設計、評価制度、能力開発が具体的な施策となる。