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平成 26 年度(2014 年度)事例 Ⅱ
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# 平成 26 年度(2014 年度)事例 Ⅱ
## 与件文
B 社は、資本金 1,500 万円、従業員 12 名(パートを含む)の旅行業者である。創業以来、X 市内の商店街に 1 店舗を有している。X 市は中小製造業とベッドタウンが混在する街である。現在は高齢層比率が高まっているベッドタウンの高齢化対応が地域課題の 1 つとなっている。B 社の創業は 1990 年、創業者は前社長である。前社長はもともと県内の大手旅行会社 Y 社の社員であった。史学科出身の前社長は歴史に関する豊富な知識と話術で、Y 社在籍当時から、添乗員付きパック・ツアーのガイドとしてツアー参加者から高く評価されていた。やがて Y 社の方針に縛られずにツアーを企画したいと希望するようになり、Y 社を退職し B 社を創業した。
創業当時の主力商品は前社長が得意とする、国内外の添乗員付きパック・ツアー(以下、「一般向けツアー」という。)であった。当時は知名度の低さから顧客獲得に苦戦する時期がしばらく続いたが、商工会議所主催の X 市名所巡りでガイドをボランティアで担当したことをきっかけに新規顧客の獲得に成功した。やがて高い評価が口コミで広まり X 市内を中心に顧客が増大した。顧客増大と並行して根気強く社員教育にも力を入れ、新入社員をツアーに同行させ、前社長の知識や話術を吸収させた結果、前社長が添乗するツアー以外でも高い評価を獲得し、組織として高いリピート率を得ることに成功した。創業 5 年後に調査会社を通じて実施した X 市内消費者に対する市場調査では、添乗員付きパック・ツアーの市場シェアがそれまでシェア 1 位であった Y 社を上回るに至り、2000 年頃までその地位を維持し続けた。
創業直後の 1990 年代前半は一般向けツアーで高い評価を得た B 社であったが、創業時点で既に一般向けツアーの市場は徐々に縮小しつつあった。その中にあって新商品を模索する必要に迫られていたが、1990 年代後半に企業からの要望に応じた添乗員付きの海外研修ツアー(以下、「海外研修ツアー」という。)を主力商品に加えることに成功した。きっかけは、一般向けツアーに参加した X 市内の中規模小売業チェーンの人事部長から依頼された米国の小売店視察ツアーであった。前社長は当初「小売ビジネスに役立つようなガイドはできない」と難色を示した。それに対する人事部長の反応は「視察とバス内の意見交換だけでは時間が持たない。海外で見聞を広めたいという社員の本音もある。研修の時間以外はバスでいつもの歴史の話をして欲しい」というものであった。このように始まった海外研修ツアーは社員から高い評価を得て、口コミを通じて X 市内の中小企業を中心に依頼が増加した。2000 年頃には X 市内における中小企業の海外研修ツアー市場でシェア 1 位を獲得するに至った。
このように創業からの 10 年間は順調に成長を続けてきた B 社であったが、2000 年を過ぎた頃から状況は徐々に変化し始めた。まず大手旅行会社によるパック・ツアーの低価格化、インターネット利用による宿泊先やチケットの予約の簡易化が進み、一般向けツアーの業績が悪化し始めた。さらに 2008 年 9 月のリーマンショック後には、それまでグローバル化の流れの中で海外研修を拡大させていた X 市内中小企業の研修予算が大幅にカットされ、海外研修ツアーの依頼も減少した。両商品共に X 市内市場における市場シェアで価格競争力に優る Y 社を下回り、さらに市場規模の縮小が商品販売の悪化に拍車をかける結果となった。この結果を受け、自身の経営に限界を覚えた前社長は引退し、B 社社員であった現社長に経営者の座を譲るに至った。
現社長は経営の見直しを模索し始めた。その中で、現社長はかつて高いシェア、リピート率を誇った一般向けツアーがなぜ苦戦し始めたのかを調査した。先述の低価格化、簡易化で若年層離れが起きたことは感じ取っていたが、長期に渡り B 社の顧客であった高齢層の離反について現社長は理由を理解しかねていた。かつての顧客に対する調査の結果、高齢層顧客は他社の低価格ツアーを利用したり、自分で宿泊先やチケットを予約しているわけではなく、体力的な問題でそもそも旅行に出かけづらくなっているという実態が明らかになった。一方で「行けるものなら好きだった B 社さんのツアーにまた参加したい」という声も多数寄せられた。
これらの調査結果に基づき現社長は B 社商品の見直しに着手した。一般向けツアーに関しては将来的な廃止を念頭にツアー回数を削減し始めた。また市場規模が回復する兆しが見えない海外研修ツアーも現状の取引がある企業にとどめ、新規開拓は行わない方針を決定した。一方で、現社長が開発に取り組んだのは高齢者向け介護付きツアー(以下、「介護付きツアー」という。)である。このツアーは歩行、食事、入浴、トイレなどに関して支援・介護が必要な高齢者を対象にした国内旅行限定の添乗員付きパック・ツアーである。なお、対象となる高齢者だけでなく、家族も参加でき、要支援・要介護の高齢者の場合は、旅行代金の他に支援・介護レベルによって料金が加算され、家族の場合は一般向けツアーとほぼ同額で参加ができるという商品である。まず現社長と社員 1 名の 2 名で、介護に関する資格であるホームヘルパー 2 級の資格を取得し、商品開発に着手した。はじめは要介護の高齢者を含む 1 家族の添乗から開始し、次に数組の要介護高齢者と家族によるツアーを開催し、ノウハウを蓄積していった。並行して他の社員にも関連資格の取得を奨励し、また新しい商品に適した社員を採用し、安定的な商品供給体制の準備を進めた。そして、開発着手から 1 年後の 2010 年、正式な商品として販売を開始した。当該商品の販売開始時にダイレクトメールを発送したところ、高齢となったかつての顧客から喜びの声と共に多数の参加申込書が送付された。
2014 年現在、B 社のトータルでの顧客数は 2000 年当時に比べて大幅に減少しているが、介護付きツアーは高価格商品であることから客単価は大幅に向上し、その結果、売上高や利益は 2000 年頃の水準に回復しつつある。また、X 市内消費者を対象とした直近の市場調査では、需要の動きをうまくとらえ先行して介護付きツアーを開始した企業には及ばないものの、市場シェアが迫りつつある。このように業績は回復傾向にあるとはいえ、B 社は介護付きツアーの新規顧客獲得や、導入したものの活用が進んでいない顧客データベースの活用などの課題を抱えている。現社長はこれらの課題に対するアドバイスを求めるため中小企業診断士に相談することにした。
## 設問文
### 第 1 問(配点 25 点)
#### 設問 1
B 社は創業以来、複数の商品を展開しながら今日まで存続し続けている。「2000 年時点」と「2014 年時点」のそれぞれにおける B 社の各商品が、下図のプロダクト・ポートフォリオ・マネジメントのフレームのどの分類に該当するかを当てはまる分類名とともに記述せよ。「2000 年時点」については(a)欄に 40 字以内で、「2014 年時点」については(b)欄に 60 字以内で、それぞれ記入すること。
なお「相対シェア」は、市場における自社を除く他社のうち最大手と自社のシェアの比をとったものとする。また、市場の範囲は X 市内とする。
プロダクト・ポートフォリオ・マネジメントのフレーム
このフレームは、プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント (PPM) を表しており、縦軸は「市場成長率」、横軸は「相対シェア」を示しています。
①:市場成長率が高く、相対シェアも高い(通常「スター」と呼ばれる製品カテゴリ)。
②:市場成長率が高いが、相対シェアが低い(「問題児」と呼ばれる製品カテゴリ)。
③:市場成長率は低いが、相対シェアが高い(「キャッシュカウ」と呼ばれる製品カテゴリ)。
④:市場成長率も相対シェアも低い(「負け犬」と呼ばれる製品カテゴリ)。
| | 高市場成長率 | 低市場成長率 |
| ------------ | ------------ | ------------ |
| 高相対シェア | ① | ③ |
| 低相対シェア | ② | ④ |
### 第 2 問(配点 25 点)
B 社は現在、介護付きツアーにより、一度離反した顧客を再び顧客とすることに成功しつつある。現社長は次に、介護付きツアーの新規顧客獲得を目指している。そのためのコミュニケーション戦略として、SNS サイト上で介護付きツアーの画像や動画をプライバシー侵害のない範囲で旅行記として紹介している。しかし、要支援・要介護の高齢者本人にはあまり伝わっていないことが明らかになった。この状況を勘案し、新規顧客獲得のための新たなコミュニケーション戦略を 100 字以内で述べよ。
### 第 3 問(配点 30 点)
以下の表は、顧客データベースから算出された介護付きツアーのデシル分析の結果である。これは、顧客リストからランダムに抽出された 100 世帯の 3 年分の利用実績データを集計したものである。集計は 1 世帯単位で行われている。商品は 3 泊 4 日の国内ツアーのみであり、支援・介護レベルはほぼ同一の顧客を対象としている。
#### デシル分析結果表
| デシル | 世帯数 | 客単価(円) | 世帯あたりの平均総利用金額(円) | デシル総利用金額(円) | デシル総利用金額シェア(%) |
| ------ | ------ | ------------ | -------------------------------- | ---------------------- | ---------------------------- |
| 1 | 10 | 200,500 | 781,950 | 7,819,500 | 20.7 |
| 2 | 10 | 199,900 | 590,650 | 5,906,500 | 15.6 |
| 3 | 10 | 199,800 | 469,400 | 4,694,000 | 12.4 |
| 4 | 10 | 199,900 | 359,820 | 3,598,200 | 9.5 |
| 5 | 10 | 199,900 | 259,740 | 2,597,400 | 6.9 |
| 6 | 10 | 199,800 | 238,940 | 2,389,400 | 6.3 |
| 7 | 10 | 200,000 | 235,764 | 2,357,640 | 6.2 |
| 8 | 10 | 199,800 | 232,400 | 2,324,000 | 6.2 |
| 9 | 10 | 199,800 | 225,986 | 2,259,860 | 5.9 |
| 10 | 10 | 199,800 | 217,782 | 2,177,820 | 5.8 |
#### 設問 1
デシル分析結果から、B 社の売上の構造はどのような状態にあるか、数値を用いて説明せよ。その上で現在の重要顧客層を特定し、併せて 100 字以内で述べよ。
#### 設問 2
デシル分析結果から、上位顧客と下位顧客の総利用金額の差がどのような要因によって生じているか、数値を用いて説明せよ。その結果から導かれる B 社が戦略的にターゲットとすべき顧客像と併せて 120 字以内で述べよ。
### 第 4 問(配点 20 点)
現社長は、介護付きツアーの客単価を高くすることを目指している。そのためには、どのような新商品を開発すべきか、もしくは既存商品をどのように改良すべきか。助言内容を 80 字以内で述べよ。
ただし、B 社が単独で提供し、X 市内の顧客に対して展開する商品に限定する。
## 出題の趣旨
### 第 1 問(配点 25 点)
2 時点における B 社の各商品の位置づけを、プロダクト・ポートフォリオ・マネジメントのフレームにもとづき、整理・分析する能力を問う問題である。
### 第 2 問(配点 25 点)
B 社が保有するコンテンツを活用し、新規顧客となり得る高齢者やその家族に対する、適切なメディアを通じたコミュニケーション活動を助言する能力を問う問題である。
### 第 3 問(配点 30 点)
#### 設問 1
顧客データベースを活用したデシル分析結果から、現在の B 社の売上を支える重要顧客層を特定する能力を問う問題である。
#### 設問 2
デシル分析結果から上位顧客の特徴を特定し、そこから、既存顧客に限らず今後、B 社が狙うべきターゲット顧客のイメージを抽出する能力を問う問題である。
### 第 4 問(配点 20 点)
効率的に B 社の介護付きツアーの客単価(1 世帯 1 回あたりの平均利用金額)向上を実現する、新商品開発・既存商品改良を提案する能力を問う問題である。
# 平成 26 年度(2014 年度)事例 Ⅱ 回答と解説
## 第 1 問(配点 25 点)
### 設問文
B 社は創業以来、複数の商品を展開しながら今日まで存続し続けている。「2000 年時点」と「2014 年時点」のそれぞれにおける B 社の各商品が、下図のプロダクト・ポートフォリオ・マネジメントのフレームのどの分類に該当するかを当てはまる分類名とともに記述せよ。「2000 年時点」については(a)欄に 40 字以内で、「2014 年時点」については(b)欄に 60 字以内で、それぞれ記入すること。
なお「相対シェア」は、市場における自社を除く他社のうち最大手と自社のシェアの比をとったものとする。また、市場の範囲は X 市内とする。
プロダクト・ポートフォリオ・マネジメントのフレーム
このフレームは、プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント (PPM) を表しており、縦軸は「市場成長率」、横軸は「相対シェア」を示しています。
①:市場成長率が高く、相対シェアも高い(通常「スター」と呼ばれる製品カテゴリ)。
②:市場成長率が高いが、相対シェアが低い(「問題児」と呼ばれる製品カテゴリ)。
③:市場成長率は低いが、相対シェアが高い(「キャッシュカウ」と呼ばれる製品カテゴリ)。
④:市場成長率も相対シェアも低い(「負け犬」と呼ばれる製品カテゴリ)。
| | 高市場成長率 | 低市場成長率 |
| ------------ | ------------ | ------------ |
| 高相対シェア | ① | ③ |
| 低相対シェア | ② | ④ |
### 回答例
- **(a)(25 字):一般向けツアーは金のなる木、海外研修ツアーは花形。**
- **(b)(37 字):一般向けツアーと海外研修ツアーは負け犬、介護付きツアーは問題児に該当する。**
### 解説
- **問題文の該当箇所**
- **2000 年時点**
- 一般向けツアー:「創業時点で既に一般向けツアーの市場は徐々に縮小しつつあった」「2000 年頃までその地位を維持し続けた」
- 海外研修ツアー:「グローバル化の流れの中で海外研修を拡大させていた」「2000 年頃には X 市内における中小企業の海外研修ツアー市場でシェア 1 位を獲得」
- **2014 年時点**
- 一般向けツアー:「市場シェアで価格競争力に優る Y 社を下回り」「市場規模の縮小が商品販売の悪化に拍車」
- 海外研修ツアー:「市場規模の縮小が商品販売の悪化に拍車」「市場シェアで価格競争力に優る Y 社を下回り」
- 介護付きツアー:「高齢層比率が高まっているベッドタウンの高齢化対応が地域課題」「先行して介護付きツアーを開始した企業には及ばないものの、市場シェアが迫りつつある」
- **答案作成の根拠**
プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント(PPM)のフレームワークに基づき、各商品を「市場成長率」と「相対的市場シェア」の 2 軸で評価する。
- **(a) 2000 年時点**
- **一般向けツアー**:市場は縮小(低成長率)、シェアは 1 位を維持(高シェア)しているため「金のなる木」に分類される。
- **海外研修ツアー**:市場は拡大(高成長率)、シェアは 1 位を獲得(高シェア)しているため「花形」に分類される。
- **(b) 2014 年時点**
- **一般向けツアー**:市場は縮小(低成長率)、シェアは Y 社を下回り低下(低シェア)しているため「負け犬」に分類される。
- **海外研修ツアー**:市場は縮小(低成長率)、シェアも Y 社を下回り低下(低シェア)しているため「負け犬」に分類される。
- **介護付きツアー**:高齢化により市場は成長(高成長率)、シェアは先行企業に及ばず(低シェア)であるため「問題児」に分類される。
- **使用した経営学の知識**
- **プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント(PPM)**:事業の多角化を行っている企業が、戦略的観点から各事業の位置づけを評価し、最適な資源配分を決定するためのフレームワーク。縦軸に「市場成長率」、横軸に「相対的市場シェア」をとり、事業を「花形」「金のなる木」「問題児」「負け犬」の 4 象限に分類する。
## 第 2 問(配点 25 点)
### 設問文
B 社は現在、介護付きツアーにより、一度離反した顧客を再び顧客とすることに成功しつつある。現社長は次に、介護付きツアーの新規顧客獲得を目指している。そのためのコミュニケーション戦略として、SNS サイト上で介護付きツアーの画像や動画をプライバシー侵害のない範囲で旅行記として紹介している。しかし、要支援・要介護の高齢者本人にはあまり伝わっていないことが明らかになった。この状況を勘案し、新規顧客獲得のための新たなコミュニケーション戦略を 100 字以内で述べよ。
### 回答例(91 字)
**地域の介護施設等で、強みである歴史に関する無料講座を開催する。講座内容と連動した史跡巡りツアーを企画し、高齢者やその家族に直接提案することで、知的好奇心を喚起し新規顧客の獲得を図る。**
### 解説
- **問題文の該当箇所**
与件文には、B 社の強みの源泉が「史学科出身の前社長は歴史に関する豊富な知識と話術」にあり、それが「社員教育」を通じて組織的に受け継がれていることが記されている。一方で、現状の課題として、SNS での情報発信が「要支援・要介護の高齢者本人にはあまり伝わっていない」ことが挙げられている。
- **答案作成の根拠**
SNS という画一的なデジタル媒体でのアプローチが失敗していることから、ターゲット顧客の特性に合わせた、より直接的で信頼関係を構築しやすいアナログな手法へと転換する必要がある。
そこで、B 社が創業以来培ってきた **「歴史」という独自の強み(コア・コンピタンス)** をコミュニケーション戦略の中核に据えるのである。
1. **接点の創出**: 地域の介護施設やデイサービスセンターと連携し、B 社の専門知識を活かした「歴史の出張講座」を無料で実施する。これにより、ターゲットである高齢者本人やその家族、さらにはケアマネージャーといった影響力のある専門職とも直接的な接点を持つことができる。
2. **価値提供と関係構築**: 一方的な売り込みではなく、まず知的好奇心を満たす楽しい「講座」という価値を提供することで、B 社への信頼感と親近感を醸成する。
3. **需要の喚起**: 講座で語られた歴史の舞台を実際に訪れるという体験は、参加者にとって極めて魅力的である。講座内容と連動したツアーをその場で提案することにより、「話を聞いて面白かった場所へ行ってみたい」という自然な旅行意欲を効果的に引き出すことが可能となる。
この一連の流れは、B 社の強みを最大限に活かしつつ、ターゲットに直接響く効果的な新規顧客獲得戦略である。
- **使用した経営学の知識**
- **コア・コンピタンス**: 競合他社に真似されにくい、企業独自の核となる強み。本件では「歴史に関する豊富な知識と話術」がこれに該当し、これをマーケティング活動に活用することが重要である。
- **コンテンツマーケティング**: 顧客にとって価値のあるコンテンツ(本件では歴史講座)を提供することで、見込み客の関心を引きつけ、最終的な購買に繋げるマーケティング手法である。売り込み感をなくし、自然な形で顧客との関係を構築できる。
- **ダイレクトマーケティング**: 企業が顧客と直接双方向のコミュニケーションを図る手法。本件の出張講座は、ターゲットと対面で行う極めて効果的なダイレクトマーケティング活動と言える。
## 第 3 問(配点 30 点)
### 設問文
以下の表は、顧客データベースから算出された介護付きツアーのデシル分析の結果である。これは、顧客リストからランダムに抽出された 100 世帯の 3 年分の利用実績データを集計したものである。集計は 1 世帯単位で行われている。商品は 3 泊 4 日の国内ツアーのみであり、支援・介護レベルはほぼ同一の顧客を対象としている。
#### デシル分析結果表
| デシル | 世帯数 | 客単価(円) | 世帯あたりの平均総利用金額(円) | デシル総利用金額(円) | デシル総利用金額シェア(%) |
| ------ | ------ | ------------ | -------------------------------- | ---------------------- | ---------------------------- |
| 1 | 10 | 200,500 | 781,950 | 7,819,500 | 20.7 |
| 2 | 10 | 199,900 | 590,650 | 5,906,500 | 15.6 |
| 3 | 10 | 199,800 | 469,400 | 4,694,000 | 12.4 |
| 4 | 10 | 199,900 | 359,820 | 3,598,200 | 9.5 |
| 5 | 10 | 199,900 | 259,740 | 2,597,400 | 6.9 |
| 6 | 10 | 199,800 | 238,940 | 2,389,400 | 6.3 |
| 7 | 10 | 200,000 | 235,764 | 2,357,640 | 6.2 |
| 8 | 10 | 199,800 | 232,400 | 2,324,000 | 6.2 |
| 9 | 10 | 199,800 | 225,986 | 2,259,860 | 5.9 |
| 10 | 10 | 199,800 | 217,782 | 2,177,820 | 5.8 |
### (設問 1)
デシル分析結果から、B 社の売上の構造はどのような状態にあるか、数値を用いて説明せよ。その上で現在の重要顧客層を特定し、併せて 100 字以内で述べよ。
### 回答例(95 字)
**売上は上位顧客に集中しており、デシル 1 から 3 までの上位 30%の世帯で総利用金額シェアの約 5 割を占めている。したがって、現在の重要顧客層は、このデシル 1 から 3 までの利用金額が高い顧客層である。**
### 解説
- **問題文の該当箇所**
- デシル分析結果表全体、特に「デシル総利用金額シェア(%)」の列。
- **答案作成の根拠**
デシル分析は、全顧客を購入金額の高い順に 10 等分し、各グループ(デシル)の購入金額が全体の何%を占めるかを分析する手法である。
1. **売上構造の分析**:表の「デシル総利用金額シェア(%)」を見ると、デシル 1(上位 10%)が 20.7%、デシル 2 が 15.6%、デシル 3 が 12.4%を占めている。この上位 3 つのデシル(全顧客の上位 30%)のシェアを合計すると、$20.7 + 15.6 + 12.4 = 48.7\%$ となり、売上全体の約半分を占めていることがわかる。これは、一部の優良顧客が売上の大半を支える構造であることを示している。
2. **重要顧客層の特定**:売上への貢献度が極めて高い層が重要顧客である。したがって、総利用金額シェアの約 5 割を占めるデシル 1 から 3 の顧客層が、B 社にとっての最重要顧客層であると特定できる。
- **使用した経営学の知識**
- **顧客関係管理(CRM)**:顧客との良好な関係を築き、維持することで、長期的な収益向上を目指す経営手法。CRM において顧客分析は非常に重要である。
- **デシル分析**:顧客分析手法の一つ。売上貢献度に応じて顧客をランク付けし、優良顧客の特定や販促活動の最適化に役立てる。
- **パレートの法則**:「全体の数値の大部分は、全体を構成するうちの一部の要素が生み出している」という経験則(例:売上の 8 割は 2 割の顧客が生み出す)。本件の売上構造もこれに近い形となっている。
### (設問 2)
デシル分析結果から、上位顧客と下位顧客の総利用金額の差がどのような要因によって生じているか、数値を用いて説明せよ。その結果から導かれる B 社が戦略的にターゲットとすべき顧客像と併せて 120 字以内で述べよ。
### 回答例(120 字)
**客単価は全層で約 20 万円と大差なく、上位顧客は利用頻度が高いため総利用金額が多い。したがって、ターゲットとすべきは要介護高齢者本人だけでなく、リピートの意思決定に関与する家族も含む世帯であり、彼らの満足度を高め複数回の利用を促すべきである。**
### 解説
- **問題文の該当箇所**
- デシル分析結果表の「客単価(円)」と「世帯あたりの平均総利用金額(円)」の列。
- 与件文の「家族も参加でき」という記述。
- **答案作成の根拠**
1. **差が生じる要因の分析**:デシル分析表を見ると、「客単価」はデシル 1 から 10 まで約 20 万円でほぼ差がない。一方で、「世帯あたりの平均総利用金額」はデシル 1(約 78 万円)とデシル 10(約 22 万円)で大きな差がある。「総利用金額 = 客単価 × 利用回数」であるため、客単価が一定である以上、この差は**利用回数(利用頻度)**の違いによって生じていると結論づけられる。実際に 3 年間の平均利用回数を概算すると、デシル 1 は約 3.9 回 ($781,950 \div 200,500$)、デシル 10 は約 1.1 回 ($217,782 \div 199,800$) となり、利用頻度に顕著な差がある。
2. **ターゲット顧客像の抽出**:B 社の優良顧客は「リピート利用してくれる顧客」である。介護付きツアーは高齢者本人だけでなく「家族も参加でき」、意思決定に家族の意向が強く影響すると考えられる。したがって、B 社が今後戦略的にターゲットとすべきは、高齢者本人だけでなく、リピート利用の鍵を握る**同行家族も含めた「世帯」**となる。家族の満足度を高めることが、複数回の利用につながり、優良顧客化を促進する。
- **使用した経営学の知識**
- **RFM 分析**:顧客分析手法の一つで、Recency(最終購入日)、Frequency(購入頻度)、Monetary(購入金額)の 3 つの指標で顧客を評価する。本問の分析は、特に Frequency(利用頻度)の重要性を示唆している。
- **顧客生涯価値(LTV)**:一人の顧客が取引期間を通じて企業にもたらす利益の総額。利用頻度を高めることは LTV の向上に直結する。
## 第 4 問(配点 20 点)
### 設問文
現社長は、介護付きツアーの客単価を高くすることを目指している。そのためには、どのような新商品を開発すべきか、もしくは既存商品をどのように改良すべきか。助言内容を 80 字以内で述べよ。
ただし、B 社が単独で提供し、X 市内の顧客に対して展開する商品に限定する。
### 回答例(海外旅行を提案する場合。76 字)
**介護付き海外ツアーを企画し、客室の等級選択や同行家族向けの別行動プランといった有料オプションを豊富に用意することで、一世帯あたりの客単価の最大化を図る。**
### 解説
- **問題文の該当箇所**
与件文には、B 社が過去に「海外研修ツアー」で成功した実績があること、現在は「介護付きツアー」の専門性を高めていること、そしてツアーには「家族も参加でき」ることが記されている。設問の目的は「客単価を高くすること」である。
- **答案作成の根拠**
現在の国内ツアーでは客単価が固定化しているため、まず事業の舞台を海外に移すことで、商品単価のベースを大幅に引き上げる。これは、B 社が持つ「海外ツアーのノウハウ」と「介護スキル」という 2 つの経営資源を組み合わせることで実現可能である。
さらに、単一価格の海外ツアーを提供するのではなく、**多様な有料オプション**を設ける。これにより、顧客の様々なニーズや予算に対応しつつ、さらなる単価向上を狙う。
1. **アップセリング**: 宿泊するホテルの客室をスタンダードからスイートまで選べるようにするなど、より上位で高価格な選択肢を用意する。
2. **クロスセリング**: 要介護者が休息している時間などに、同行する家族がスパやゴルフ、ショッピングなどを楽しめる別行動の体験プランを販売する。
このように、基本料金の引き上げとオプションによる追加収益の両面から、**一世帯あたりの総支払額(客単価)の最大化**を目指すことが、最も効果的な戦略となるのである。
- **使用した経営学の知識**
- **製品開発戦略**: 既存市場(介護を必要とする顧客層)に対し、新製品(オプション付き介護海外ツアー)を投入し成長を図る戦略である。自社の異なる強みを融合させ、シナジーを創出する。
- **価格戦略(プライス・ライニング)**: 商品に松・竹・梅のような段階的な価格帯を設ける手法。客室の等級選択などがこれにあたり、顧客に選択の余地を与えることで高価格帯への誘導を狙う。
- **アップセリングとクロスセリング**: 顧客単価を向上させるための販売技術である。アップセリングはより高額な商品を、クロスセリングは関連商品を提案・販売することを指し、顧客満足度を高めながら収益を拡大する上で有効である。
### 回答例(国内旅行を提案する場合。76 字)
**強みの歴史知識を活かした歴史探訪ツアーや、宿泊施設や食事の選択肢を増やす。また、同行の家族向けの体験型オプションを用意し、世帯当たりの客単価向上を図る。**
### 解説
- **問題文の該当箇所**
- 「介護付きツアーの客単価を高くすることを目指している」
- 「史学科出身の前社長は歴史に関する豊富な知識と話術で、Y 社在籍当時から、添乗員付きパック・ツアーのガイドとしてツアー参加者から高く評価されていた」「社員教育にも力を入れ、...知識や話術を吸収させた」
- 第 3 問 デシル分析結果表(客単価が約 20 万円で画一的であること)
- 「家族も参加でき」
- **答案作成の根拠**
画一的な商品提供により客単価が頭打ちになっている現状を打破し、単価を向上させることが目的である。
1. **高付加価値化による単価向上**:B 社の強みである「歴史に関する知識・話術」を活かし、他社にはないユニークな体験を提供する。例えば、特定のテーマ(城巡り、古戦場巡りなど)に絞った専門性の高い歴史探訪ツアーを開発し、高価格な商品として設定する。
2. **アップセリング戦略**:既存のツアー内で、顧客がより高価格な選択をできるようにする。具体的には、宿泊施設のグレードアップや、特別な食事プランなどを選択制で用意する。
3. **クロスセリング戦略**:第 3 問の考察から、リピート利用には家族の満足度が重要である。そこで、介護が必要な高齢者が休息している時間などに、同行家族が楽しめるアクティビティ(例:地域の工芸体験、ゴルフ、エステなど)をオプションとして販売する。これにより、世帯全体での利用金額(客単価)を引き上げる。
これらの施策は、B 社が単独で提供可能であり、X 市内の顧客に対して展開できる。
- **使用した経営学の知識**
- **製品戦略**:顧客のニーズや自社の強みに基づき、製品やサービスの開発・改良を行うこと。高付加価値製品の開発がこれにあたる。
- **価格戦略**:製品やサービスの価値に見合った価格を設定する戦略。ここでは、高付加価値化による高価格設定を目指す。
- **アップセリング/クロスセリング**:顧客単価を向上させるための販売手法。アップセリングはより高価な商品を、クロスセリングは関連商品を顧客に推奨・販売すること。
## AI への指示
あなたは、中小企業診断士二次試験の採点官です。二次試験は上位 18%しか合格できない難関試験です。そのため、上位 10%に入れるように厳しく添削してください。
**評価の基本方針**
- **模範解答は絶対的な正解ではなく、あくまで高得点答案の一例として扱います。**
- あなたの解答の評価は、第一に**与件文の記述と設問要求に忠実であるか**、第二に**中小企業診断士としての一貫した論理が展開できているか**を最優先の基準とします。
- 模範解答とは異なる切り口や着眼点であっても、それが与件文に根拠を持ち、論理的に妥当であれば、その**独自の価値を積極的に評価**してください。
- 模範解答は、比較対象として「こういう切り口・要素もある」という**視点を提供するもの**として活用し、あなたの解答との優劣を単純に比較するのではなく、多角的な分析のために使用してください。
上記の基本方針に基づき、以下の入力情報と評価基準に従って、**60 点の合格ラインを安定して超えることを目的とした現実的な視点**で私の解答を添削してください。**加点できそうなポイントと、失点を防ぐべきポイント**をバランス良く指摘してください。
評価は点数ではなく、下記の**ABCDEF 評価基準**に沿って行ってください。
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### ABCDEF 評価基準
- **A 評価 (完璧 / 80 点以上):** 設問要求を完全に満たし、複数の重要な根拠を的確に網羅している。論理構成が極めて明快で、非の打ちどころがないレベル。
- **B 評価 (高得点レベル / 70 点〜79 点):** 設問要求に的確に応え、重要な根拠を複数盛り込んでいる。論理構成が明快な、上位合格答案レベル。
- **C 評価 (合格レベル / 60 点〜69 点):** 設問の主要な要求を満たしており、大きな論理的破綻がない。安定して合格点をクリアできるレベル。
- **D 評価 (合格ボーダーライン / 55 点〜59 点):** 解答の方向性は合っているが、根拠の不足や論理の飛躍が散見される。合否が分かれるレベル。
- **E 評価 (要改善レベル / 50 点〜54 点):** 解答の方向性に部分的な誤りがあるか、根拠が著しく不足している。合格には改善が必要なレベル。
- **F 評価 (不合格レベル / 49 点以下):** 設問の意図の誤解や、与件文の無視など、根本的な改善が必要なレベル。
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### 入力情報
与件文、設問文、出題の趣旨、解説、あなたの回答を参照してください。
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### 出力項目
以下の形式で、詳細なフィードバックをお願いします。
冒頭で `ABCDEF 評価基準`の定義を説明します。
**1. 設問ごとの添削**
**模範解答(比較参考用)**
`回答例と解説`の回答例を出力してください。
**あなたの回答**
模範回答との比較用にあなたの回答を掲載してください。
- **評価:** この設問の評価を **A / B / C / D / E / F** で端的に示してください。
- **フィードバック:**
- **① 設問解釈と方向性:** 設問の意図を正しく捉えられているか。解答の方向性は適切か。模範解答とは違う切り口だが、与件文・設問要求に照らして有効か、といった視点で評価してください。
- **② 与件文の活用:** 解答の根拠として、与件文中のどの SWOT 情報を、どの程度効果的に使えているか。根拠の抽出漏れや解釈の間違いはないか。
- **③ 知識と論理構成:** 診断士としての経営知識を適切に応用できているか。「A だから B になる」という因果関係は明確で、論理に飛躍はないか。模範解答とは異なる論理展開でも、それが妥当であれば評価してください。
- **④ 具体性と表現:** 抽象論に終始せず、企業の状況に合わせた具体的な記述ができているか。冗長な表現や不適切な言葉遣いはないか。
- **改善提案:**どうすれば A・B 評価の解答に近づけるか、**「どの与件文のこの部分を使い、このように論理を展開すべきだった」**というように、具体的かつ実践的な改善案を提示してください。あなたの解答の優れた点を活かす形での改善案も歓迎します。
**2. 総評**
- **総合評価:** 全ての設問を考慮した最終評価を **A / B / C / D / E / F** で示してください。
- **全体を通しての強み:** 今後の学習でも活かすべき、あなたの解答の良い点を挙げてください。(模範解答にない独自の視点など)
- **全体を通しての課題:** 合格のために、最も優先的に改善すべき点を指摘してください。
- **合格に向けたアドバイス:** 今後の学習方針について、具体的なアドバイスをお願いします。
## あなたの回答
### 第 1 問(配点 25 点)
### 第 2 問(配点 25 点)
### 第 3 問(配点 30 点)
#### 設問 1
#### 設問 2
### 第 4 問(配点 20 点)