Gemini 2.5 Pro による回答と解説( 令和 2 年度(2020 年度)事例 Ⅲ)
目次は画面右上の「On this page」をタップしてください。
第 1 問(配点 20 点)
設問文
C 社の ⒜ 強みと ⒝ 弱みを、それぞれ 40 字以内で述べよ。
回答例
- (a) 強み(33 字):ステンレス製品の高い溶接・研磨技術と設計から据付までの一貫対応力。
- (b) 弱み(34 字):生産計画や工数見積もりの標準化が未確立で、納期遅延が頻発している点。
解説
(a) 強み
問題文の該当箇所
- 「特に鏡面仕上げなどステンレス製品の表面品質にこだわり、溶接技術や研磨技術を高めることに努力した」
- 「特殊加工と仕上げ品質が要求されるステンレス製モニュメント製品の受注活動を始めた」
- 「設計から製作、据付工事までを受注する企業になった」
答案作成の根拠 与件文から、C 社は創業以来ステンレス製品の加工技術、特に溶接・研磨技術を磨き、それが装飾性の高いビル建築用製品や、特殊加工が求められるモニュメント製品の受注につながっていることがわかる。これが C 社の核となる技術的強みである。また、顧客の要望に応える形で設計部門を強化し、設計から製作、据付までを一貫して手がける体制を構築したことも、顧客に対する提供価値を高める強みといえる。この 2 点を集約して解答とした。
使用した経営学の知識
- コア・コンピタンス: 企業の中核となる強み。C 社における「高いステンレス加工技術」がこれに該当する。
- バリューチェーン: 価値連鎖。C 社は「設計 → 製作 → 据付」というバリューチェーンを自社で一貫して提供できる体制を構築しており、これが競争優位性となっている。
(b) 弱み
問題文の該当箇所
- 「納期の遅延が生じ C 社の大きな悩みとなっている」
- 「C 社の製品については基準となる工程順序や工数見積もりなどの標準化が確立しているとはいえない」
答案作成の根拠 与件文には、C 社の「大きな悩み」として「納期遅延」が明確に記述されている。その根本原因を探ると、製造現場において「基準となる工程順序や工数見積もりなどの標準化が確立しているとはいえない」という生産管理上の問題点が指摘されている。この管理体制の不備が、結果として納期遅延という経営課題を引き起こしていると判断し、これを C 社の弱みとして記述した。他にも工場の狭隘化や作業チーム間の技術力格差なども弱みであるが、最も根源的な問題は管理体制の未整備である。
使用した経営学の知識
- 生産管理: 生産活動を効率的に行うための管理手法。C 社は工程管理や作業管理の基本となる「標準化(作業標準、時間標準)」が確立しておらず、生産統制が有効に機能していない状態にある。
第 2 問(配点 40 点)
設問文
C 社の大きな悩みとなっている納期遅延について、以下の設問に答えよ。
(設問 1)
C 社の営業部門で生じている ⒜ 問題点と ⒝ その対応策について、それぞれ 60 字以内で述べよ。
回答例
- (a) 問題点(60 字):顧客との仕様調整・図面承認に時間を要し、製造期間を圧迫している点。製作開始後も打ち合わせが発生し、手戻りの原因となる点。
- (b) 対応策(59 字):3 次元 CAD を導入し顧客との合意形成を迅速化し、作業前倒しを強化する。製造部門と連携し、製作上の問題を早期に解決する。
解説
問題文の該当箇所
- 「製作前プロセスに時間を要して製作期間を十分に確保できないこと」
- 「仕様変更や図面変更などによって顧客とのやり取りが多く発生する」
- 「モニュメント製品では、造形物のイメージの合わせに時間を要する場合が多く、図面承認後の製作段階でも打ち合わせが必要な場合がある」
答案作成の根拠(a) 問題点: 納期遅延の原因として、営業部門が担当する「製作前プロセス」に時間がかかりすぎ、製造部門の期間を圧迫していることが挙げられる。特に、顧客との仕様のすり合わせや図面承認が長期化し、さらに製作開始後にも打ち合わせや仕様変更が発生している。これが手戻りを生み、さらなる遅延につながっていると分析した。
(b) 対応策: 問題点である「合意形成の長期化」と「手戻り」を解決する必要がある。立体的で複雑な形状を持つモニュメント製品のイメージ共有には、現行の 2 次元 CAD では限界がある。そこで、視覚的に理解しやすい3 次元 CADの導入が有効である。これにより、顧客との合意形成を迅速化し、設計段階で問題を洗い出すフロントローディングが可能になる。また、設計段階から製造部門を巻き込むことで、製作上の課題を早期に抽出し、後工程での手戻りを防止する。
使用した経営学の知識
- フロントローディング: 開発・設計の初期段階に業務を前倒しで集中的に行い、後工程での仕様変更や手戻りを減らす手法。3 次元 CAD の活用はこれを促進する。
- コンカレント・エンジニアリング: 設計部門と生産技術部門など、関連部署が同時並行で業務を進める手法。営業(設計)と製造の連携強化がこれにあたる。
(設問 2)
C 社の製造部門で生じている ⒜ 問題点と ⒝ その対応策について、それぞれ 60 字以内で述べよ。
回答例
- (a) 問題点(60 字):工数見積等の標準化が未確立な点。チーム間の技術力格差や工場の狭隘化により手待ちや運搬、打ち合わせ等の不稼働時間が多い点。
- (b) 対応策(60 字):作業手順の標準化により、生産計画の精度を向上させる。OJT による多能工化で技術力を平準化し、5S 徹底で作業効率を高める。
解説
問題文の該当箇所
- 「基準となる工程順序や工数見積もりなどの標準化が確立しているとはいえない」
- 「各作業チームの技術力には差があり」
- 「加工物の大型化によって狭隘な状態が進み、作業途中の加工物の移動などを強いられている」
- 不稼働の作業内容:「材料・工具運搬」「歩行」「打ち合わせ」
答案作成の根拠(a) 問題点: 製造部門における納期遅延の原因は多岐にわたる。まず、生産計画の前提となる工数見積もり等の「標準化」ができていないこと。次に、熟練度に依存した生産体制による「技術力の格差」。そして、工場の物理的な問題である「狭隘化」。これらが複合し、作業者の稼働調査で明らかになった「運搬・歩行・打ち合わせ」といった非効率な作業(不稼働)を多発させている。これらを体系的に整理し、問題点として記述した。
(b) 対応策: 抽出した問題点に直接対応する策を述べる。
- 標準化の欠如に対して: 作業手順を標準化し、それに基づき標準時間を設定する。これにより、精度の高い生産計画の立案が可能になる。
- 技術力の格差に対して: 熟練技術者から若手への OJT や計画的な研修(OFF-JT)を通じて、技術の伝承と多能工化を進め、チーム間の技術レベルを平準化する。
- 工場の狭隘化・不稼働に対して: 整理・整頓・清掃・清潔・躾を徹底する「5S 活動」は、運搬や歩行といったムダを削減する第一歩である。これにより作業スペースを確保し、効率的な工場レイアウトの基礎を築く。
使用した経営学の知識
- IE(インダストリアル・エンジニアリング): 作業研究(方法研究、作業測定)を通じて、生産プロセスの効率化を図る学問。作業標準や標準時間の設定は IE の基本である。
- 多能工化: 一人の作業者が複数の工程や作業をこなせるようにする人材育成の手法。生産の柔軟性を高め、属人化を防ぐ。
- 5S: 製造業やサービス業における職場環境維持・改善のスローガン。「整理、整頓、清掃、清潔、躾」の 5 つを指し、生産性向上や安全確保の基本となる活動。
第 3 問(配点 20 点)
設問文
C 社社長は、納期遅延対策として社内の IT 化を考えている。C 社の IT 活用について、中小企業診断士としてどのように助言するか、120 字以内で述べよ。
回答例(104 字)
全社の情報共有基盤を整備する。営業部門は 3 次元 CAD で設計情報を一元化し製造部門と共有する。製造部門は生産管理システムで工程ごとの負荷や進捗状況を可視化する。これにより部門間連携を強化し、納期遵守を実現する。
解説
問題文の該当箇所
- 「製作プロセスを含む業務プロセス全体の見直しを進めている。また、その対策の支援システムとして IT 化も検討している」
- 「作業者間の「打ち合わせ」、営業部担当者などとの打ち合わせのための「不在」が多く発生していた」
- 「基準となる工程順序や工数見積もりなどの標準化が確立しているとはいえない」
答案作成の根拠 C 社の IT 化の目的は「納期遅延の根絶」の支援である。納期遅延の原因は、営業(設計)と製造の各部門に跨っている。特に、部門間の情報共有不足が「打ち合わせ」の多発を招き、非効率を生んでいる。 したがって、助言としては、部門最適ではなく全体最適の視点から、全社的な情報共有基盤の構築をまず提案する。 その上で、具体的な IT ツールとして、第 2 問の分析で有効と判断したものを挙げる。
- 営業部門: 3 次元 CADを導入し、顧客との合意形成を迅速化すると同時に、その設計情報(部品表:BOM など)を製造部門が直接活用できるデータとして一元管理する。
- 製造部門: 生産管理システムを導入し、標準化されたデータに基づき、各工程の負荷や作業の進捗状況をリアルタイムで「見える化」する。 これらの IT ツールが連携することで、部門間の情報伝達がスムーズになり、打ち合わせが削減され、精度の高い生産計画と進捗管理が可能となり、納期遵守につながる、という論理構成で助言をまとめた。
使用した経営学の知識
- 生産管理システム: 生産計画、工程管理、資材管理、原価管理などを統合的に行う情報システム。進捗の可視化や負荷の平準化に貢献する。
- CAD/CAM/CAE 連携: 設計(CAD)データを生産(CAM)や解析(CAE)に連携させることで、開発リードタイムの短縮と品質向上を図る。3 次元 CAD データの活用は、この連携の第一歩となる。
- 情報一元管理: 情報を一か所に集約して管理・共有すること。部門間の認識齟齬を防ぎ、意思決定を迅速化する。
第 4 問(配点 20 点)
設問文
C 社社長は、付加価値の高いモニュメント製品事業の拡大を戦略に位置付けている。モニュメント製品事業の充実、拡大をどのように行うべきか、中小企業診断士として 120 字以内で助言せよ。
回答例(108 字)
納期遵守体制を構築し、既存顧客であるデザイナーとの関係を強化して安定受注を図る。同時に、高い技術力と一貫対応力を強みとして、Web サイトや展示会で実績を PR し、ゼネコンや設計事務所、地方自治体等の新規顧客を開拓する。
解説
問題文の該当箇所
- 「付加価値の高いモニュメント製品事業の拡大を戦略に位置付けている」
- 「モニュメント製品は受注量が減少したこともあったが、近年の都市型建築の増加に伴い製作依頼が増加している」
- 「主な顧客は、...モニュメント製品についてはデザイナーである」
答案作成の根拠 モニュメント製品事業の「充実」と「拡大」という 2 つの方向性で助言を構成する。
事業の充実(既存顧客の深耕): まず、足元を固めることが重要である。現在の主な顧客は「デザイナー」であり、彼らとの関係性が事業の基盤である。しかし、C 社は納期遅延という大きな問題を抱えている。この状態で新規開拓を進めても、顧客満足を得られず失敗する可能性が高い。したがって、第 2 問・第 3 問で検討したような納期遵守体制の構築を最優先課題とし、それを実現することで既存顧客であるデザイナーからの信頼を高め、リピート受注や紹介による安定的な受注基盤を「充実」させることを提案する。
事業の拡大(新規顧客の開拓): 安定した基盤の上で、次なる成長を目指す。モニュメントは「都市型建築の増加に伴い製作依頼が増加」しており、市場機会は存在する。現在の顧客であるデザイナー経由だけでなく、建築プロジェクトの主体であるゼネコンや設計事務所、公共事業を発注する地方自治体などへ直接アプローチすることで、新たな販路を「拡大」する。その際のアピールポイントは、第 1 問で分析した C 社の強みである「高い技術力(溶接・研磨)」と「設計から据付までの一貫対応力」である。これらの強みをWeb サイトや建築関連の展示会などで具体的に PR し、新規顧客を獲得していく戦略を助言する。
使用した経営学の知識
- アンゾフの成長マトリクス: 企業の成長戦略を「市場」と「製品」の 2 軸で分類するフレームワーク。本解答では、「市場浸透(既存市場 × 既存製品)」によって事業基盤を固め(充実)、その上で「市場開拓(新規市場 × 既存製品)」によって事業を拡大する、という段階的な成長戦略を提案している。
- マーケティング・コミュニケーション: 企業の製品やサービスの価値をターゲット顧客に伝え、購買を促進するための活動。Web サイトや展示会での PR がこれにあたる。