Skip to content

平成 24 年度 事例 Ⅳ 解答解説

第 1 問(配点 40 点)

(設問 1)

(単位:千円)

(a) 初年度(b) 2 年目
売上高391,000414,000
売上原価95,200100,800
売上総利益295,800313,200
販売費・一般管理費277,070279,730
営業利益 (損失)18,73033,470
営業外収益00
営業外費用24,36024,360
経常利益 (損失)△ 5,6309,110

解説

各項目の計算過程は以下の通りである(単位:千円)。

  1. 売上高

    • (a) 初年度:客単価 23,000 円 × 17,000 名 = 391,000
    • (b) 2 年目:客単価 23,000 円 × 18,000 名 = 414,000
  2. 売上原価(変動費)

    • 今年度の変動売上原価(食材費他)は 92,400、宿泊者数 16,500 名。
    • 宿泊者 1 名あたりの変動売上原価:92,400 / 16,500 名 = 5.6
    • (a) 初年度:5.6 × 17,000 名 = 95,200
    • (b) 2 年目:5.6 × 18,000 名 = 100,800
  3. 販売費・一般管理費

    • 変動販管費
      • 今年度の変動販管費は 43,890、宿泊者数 16,500 名。
      • 宿泊者 1 名あたりの変動販管費:43,890 / 16,500 名 = 2.66
      • (a) 初年度:2.66 × 17,000 名 = 45,220
      • (b) 2 年目:2.66 × 18,000 名 = 47,880
    • 固定費
      • 今年度の固定費合計:207,200
      • 設備保守点検・修繕費増:10,000 × 20% = 2,000
      • 水道光熱費増:40,000 × 10% = 4,000
      • 広告宣伝費増:6,500 × 10% = 650
      • 新規減価償却費:180,000 / 10 年 = 18,000
      • 改修後の固定費合計:207,200 + 2,000 + 4,000 + 650 + 18,000 = 231,850
    • 販管費合計
      • (a) 初年度:45,220 (変動) + 231,850 (固定) = 277,070
      • (b) 2 年目:47,880 (変動) + 231,850 (固定) = 279,730
  4. 営業外費用

    • 既存の支払利息:17,960
    • 既存のその他営業外費用:19,160 - 17,960 = 1,200
    • 新規借入:180,000 (投資) - 50,000 (預金) = 130,000
    • 新規支払利息:130,000 × 4% = 5,200
    • 合計:17,960 + 1,200 + 5,200 = 24,360
    • ※(a)(b)ともに同額。
  5. 経常利益 (損失)

    • (a) 初年度:18,730 (営業利益) - 24,360 (営業外費用) = △ 5,630
    • (b) 2 年目:33,470 (営業利益) - 24,360 (営業外費用) = 9,110

(設問 2)

①:経営指標

  • (a) 売上高経常常利益率
  • (b) 2.20 % (計算過程:9,110 ÷ 414,000 x 100、今年度:△9.74 %)

②:経営指標

  • (a) 総資本経常常利益率
  • (b) 1.29 % (計算過程:9,110 ÷ 706,355 x 100、今年度:△5.61 %)

③:経営指標

  • (a) 有形固定資産回転率
  • (b) 0.69 回 (計算過程:414,000 ÷ 597,900、今年度:0.65 回)

解説

  • 指標選定の視点 D 旅館の課題は、老朽化した旧館による競争力低下と 2 年連続の赤字転落である。今回の改修投資(180,000 千円)が、この根本的な収益性改善に寄与したかを多角的に示すため、収益性の結果を示す指標(①, ②)と、投資効率(=収益性改善の要因)を示す指標(③)を選定する。比較対象は「今年度(改修前)」とする。

  • 各指標の解説

    1. 売上高経常利益率:改修 2 年目(2.20%)は、今年度(△9.74%)の赤字状態から大幅に改善した。これは、客単価上昇(20 千円$\to2316.5\to$18 千人)により、本業の収益性が向上したことを示すものである。
    2. 総資本経常利益率:改修 2 年目(1.29%)は、今年度(△5.61%)から黒字転換した。投資のために借入金(130,000 千円)を増やし総資本が増加したものの、それを上回る利益改善を実現し、資本効率が改善したことを示している。
    3. 有形固定資産回転率:改修 2 年目(0.69 回)は、今年度(0.65 回)より上昇した。これは、180,000 千円の設備投資(固定資産増加)が、売上増加(330,000 千円$\to$414,000 千円)に効率的に結びついた(=収益性改善の要因となった)ことを示すものである。

(設問 3)

  • CF1:ΔEBIT1=32,220 → CF1=32,220×(1−0.4)+18,000=37,332
  • CF2:ΔEBIT2=46,960 → CF2=46,960×(1−0.4)+18,000=46,176
  • PV 算式:PV=CF2× 年金現価係数(10 年,6%)−(CF2−CF1)× 現価係数(1 年,6%)
  • PV 数値:PV=46,176×7.360−(46,176−37,332)×0.943=331,515(千円)
  • NPV:=331,515− 初期投資 180,000=151,515(千円)
  • 結論:NPV>0 ゆえ投資案は採択すべきである(151,515 千円)。

解説

NPV の計算には、投資を行わなかった場合(現状維持)と、投資を行った場合の「増分(インクリメンタル)キャッシュフロー」を用いる。

  1. 初期投資 (IC):180,000 千円

  2. 増分営業キャッシュフロー (ΔOCF) の計算

    • ΔOCF = (ΔEBIT × (1 - 税率)) + (Δ 減価償却費 × 税率)

    • または、ΔOCF = ΔNOPAT + Δ 減価償却費

    • (ΔEBIT = 増分営業利益、ΔNOPAT = 増分税引後営業利益)

    • (a) 初年度 (T=1)

      • Δ 売上高:391,000 (案) - 330,000 (現) = 61,000
      • Δ 売上原価:95,200 (案) - 92,400 (現) = 2,800
      • Δ 販管費:277,070 (案) - 251,090 (現) = 25,980
      • Δ 営業利益 (ΔEBIT):61,000 - 2,800 - 25,980 = 32,220
      • ΔNOPAT:32,220 × (1 - 0.4) = 19,332
      • Δ 減価償却費(新規投資分):18,000
      • ΔOCF (a):19,332 + 18,000 = 37,332
    • (b) 2 年目〜10 年目 (T=2〜10)

      • Δ 売上高:414,000 (案) - 330,000 (現) = 84,000
      • Δ 売上原価:100,800 (案) - 92,400 (現) = 8,400
      • Δ 販管費:279,730 (案) - 251,090 (現) = 28,640
      • Δ 営業利益 (ΔEBIT):84,000 - 8,400 - 28,640 = 46,960
      • ΔNOPAT:46,960 × (1 - 0.4) = 28,176
      • Δ 減価償却費(新規投資分):18,000
      • ΔOCF (b):28,176 + 18,000 = 46,176
  3. NPV の計算(割引率 6%)

    • T=1〜10 まで CF(b) = 46,176 が続くと仮定し、T=1 の差額を調整する方法で計算する。
    • NPV = (CF(b) × 10 年年金現価係数) - ( (CF(b) - CF(a)) × 1 年現価係数 ) - 初期投資
    • NPV = (46,176 × 7.360) - ( (46,176 - 37,332) × 0.943 ) - 180,000
    • NPV = 339,855.36 - ( 8,844 × 0.943 ) - 180,000
    • NPV = 339,855.36 - 8,339.892 - 180,000
    • NPV = 151,515.468 → 151,515 千円

第 2 問(配点 30 点)

(設問 1)

  • 予想売上:20,000 円 ×15,000 名=300,000(千円)
  • 変動費率:=(5,600+2,110+550)÷20,000=0.413
  • 固定費:=119,300+25,400+{62,500×(1−0.3)}=188,450(千円)
  • BEP:=固定費 ÷(1−0.413)=188,450÷0.587=321,039(千円)
  • 比率:=321,039÷300,000×100=107.01(%)
  • 結論:損益分岐点比率は107.01%(現状数量では黒字化困難)。

解説

  1. 予想売上高

    • 客単価 20,000 円 × 15,000 名 = 300,000 千円
  2. 変動費率 (V/S)

    • 変動費は客数に比例すると仮定する(第 1 問の分析に基づく)。
    • 1 名あたり変動費:(変動売上原価 5.6 + 変動販管費 2.66) = 8.26 千円
    • 変動費合計:15,000 名 × 8.26 = 123,900 千円
    • 変動費率:123,900 / 300,000 = 0.413 (41.3%)
    • (参考)限界利益率 (m):1 - 0.413 = 0.587
  3. 固定費 (F)

    • 人件費(119,300)と減価償却費(25,400)を除く固定費が 30%減少。
    • 除く固定費:207,200 (今年度合計) - 119,300 - 25,400 = 62,500
    • 減少額:62,500 × 0.3 = 18,750
    • 改善後の固定費 (F):207,200 - 18,750 = 188,450 千円
  4. 損益分岐点売上高 (BEP)

    • BEP = F / m = 188,450 / 0.587 = 321,039.18...
    • (千円未満四捨五入)→ 321,039 千円
  5. 損益分岐点比率

    • 比率 = BEP / 予想売上高 × 100
    • 比率 = 321,039 / 300,000 × 100 = 107.013...% → 107.01 (%)

(設問 2)

  • 目標売上:=300,000×0.90=270,000(千円)
  • 限界利益率:=1−0.413=0.587
  • 目標固定費:=270,000×0.587=158,490(千円)
  • 現行固定費:=188,450(千円)
  • 削減額:=188,450−158,490=29,960(千円)
  • 結論:固定費29,960 千円の削減が必要である。

解説

  1. 目標損益分岐点売上高 (目標 BEP)

    • 予想売上高 300,000 × 90% = 270,000 千円
  2. 目標固定費 (F')

    • 限界利益率 (m) = 0.587(設問 1 と同様)
    • 目標 BEP = F' / m
    • 270,000 = F' / 0.587
    • F' = 270,000 × 0.587 = 158,490 千円
  3. 固定費削減額

    • 現在の固定費 (F):188,450 千円(設問 1 より)
    • 目標の固定費 (F'):158,490 千円
    • 削減額:188,450 - 158,490 = 29,960 千円

第 3 問(配点 30 点)

(設問 1)

  • 調整 EBIT:=△13,490+16,000=2,510(千円)
  • FCF:=EBIT(1− 税率)+償却=2,510×0.6+25,400=26,906(千円)
  • WACC:=0.8×0.04×0.6+0.2×0.05=0.0292(2.92%)
  • 企業価値:=FCF÷WACC=26,906÷0.0292=921,438(千円)
  • 前提:永続一定 FCF(g=0)、千円未満四捨五入
  • 結論:企業価値は921,438 千円である。

解説

ゼロ成長永久モデル(V = FCF / WACC)を用いて計算する。

  1. フリーキャッシュフロー (FCF) の計算

    • FCF = NOPAT + 減価償却費 - 投資 - Δ 運転資本
    • 前提:CF は今年度水準が継続。ゼロ成長(g=0)と仮定。
    • この場合、資産維持のための投資(=減価償却費)が必要だが、設問の前提(予備校解)では投資ゼロ(投資 = 0)と仮定して計算する。
    • FCF = NOPAT + 減価償却費
      • 修正後営業利益 (EBIT)
    • 今年度営業損失:△13,490
    • オーナー給与加算:+16,000
    • 修正後 EBIT:2,510
    • NOPAT:2,510 × (1 - 0.4) = 1,506
    • FCF:1,506 (NOPAT) + 25,400 (減価償却費) = 26,906 千円
  2. WACC (加重平均資本コスト) の計算

    • B/S 簿価を使用する。
    • 負債 (D):458,300 (流動負債+固定負債)
    • 純資産 (E):114,575
    • 総資本 (D+E):572,875
    • 負債コスト (Kd):4%、株主資本コスト (Ke):5%、税率 (t):40%
      • WACC = D/(D+E) × Kd(1-t) + E/(D+E) × Ke
    • WACC = (458,300 / 572,875) × 0.04 × (1 - 0.4) + (114,575 / 572,875) × 0.05
    • WACC = (0.8) × (0.024) + (0.2) × (0.05)
    • WACC = 0.0192 + 0.01 = 0.0292 (2.92%)
  3. 企業価値 (V) の計算

    • V = FCF / WACC
    • V = 26,906 / 0.0292 = 921,438.35...
    • (千円未満四捨五入)→ 921,438 千円

(設問 2)(200 字)

承継先には、従業員や同業他社などが考えられる。 留意点は従業員へ承継する場合は、事前に経営全般に関する知識の付与や経営参画等の後継者教育を行うこと、所有と経営を一致させるための株式取得資金の支援を行うことである。同業他社などへ承継する場合は、企業風土や経営方針を理解してもらうため事前に役員等として経営参画させることが望ましい。 いずれも、従業員、取引先、金融機関など関係者の理解を得ることが必要である。

解説

  • 承継先:親族がいないため、内部(従業員)承継か、外部(M&A)承継となる。
  • 留意点(従業員承継):最大の課題は「経営能力」と「資金力」である。したがって、早期の教育と、株式買い取り資金の(金融機関等からの)調達支援が論点となる。
  • 留意点(外部承継):最大の課題は「企業文化・雇用の維持」である。D 旅館の強み(細やかなサービス)を維持するため、経営方針の整合性や、従業員のモチベーション維持(雇用維持)が論点となる。
  • 共通の留意点:事業承継はステークホルダー(従業員、取引先、金融機関)への影響が大きいため、円滑な移行にはこれらの関係者の理解と協力が不可欠である。

© 2024 AIで中小企業診断士二次試験 | All Rights Reserved