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平成 24 年度(2012 年度)事例 Ⅱ 回答と解説
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第 1 問(配点 10 点)
設問文
B 社が経営再建のためにターゲット・セグメントごとに展開した製品戦略の概要を 100 字以内で説明せよ.
回答例(80 字)
①X 市内消費者には甘みのある味わい、② 全国消費者には芋の香りを抑えた味わい、③ 県内消費者にはロック向けの味わいの製品を開発し、各市場セグメントの嗜好に対応した。
解説
問題文の該当箇所
- 「既存製品をリニューアルし、原材料である芋の香りを残しつつ、X 市内消費者の嗜好に合わせてやや甘みのある味わいに変更した。」
- 「Y 社の全国的な市場調査に基づき、芋の香りを抑えた全国向け新製品が開発され」
- 「県内では徐々にロック(氷割り)で焼酎が飲まれ始めているという市場調査結果に基づき、ロック向けの製品が開発され」
答案作成の根拠 B 社は経営再建の過程で、販路ごとに異なるニーズを捉え、製品戦略を展開した。
- X 市内市場: 伝統的な飲み方を好む地元消費者向けに、既存製品をリニューアルし「やや甘みのある味わい」で対応した。
- 全国市場: 大手メーカー Y 社との提携を通じて、芋焼酎に馴染みの薄い消費者もターゲットとし、「芋の香りを抑えた」新製品を開発した。
- 県内市場: 酒販店 Z 社との提携を通じて、新たな飲用スタイルである「ロック」に着目し、それに適した製品を開発した。 これらの 3 つのターゲット・セグメントと、それぞれに対応する製品の特性を整理し、100 字以内で簡潔にまとめる。
使用した経営学の知識
- 市場セグメンテーション(Market Segmentation): 市場を地理的変数(X 市内、県内、全国)や行動変数(飲み方)、心理的変数(嗜好)によって細分化している。
- ターゲティング(Targeting): 細分化した市場の中から、自社の強みが活かせる市場セグメント(X 市内、県内、全国)を選定している。
- 製品戦略(Product Strategy): 各ターゲット・セグメントの異なるニーズに合わせて、製品の味やコンセプト(甘み、香り抑制、ロック向け)を最適化(プロダクト・ディファレンシエーション)している。
第 2 問(配点 30 点)
設問文
B 社は提携により新たな販路を獲得し、経営再建を成し遂げた。一方、この提携は提携先企業にとってもメリットがあったため成功したといえる。B 社の提携先企業にとってのメリットについて、次の設問に答えよ.
(設問 1)
B 社が行った垂直的な提携は、提携先企業にとってどのようなメリットがあったと考えられるか。100 字以内で答えよ.
回答例(83 字)
高品質なプライベートブランド製品の開発により、スーパー等の競合他社との差別化を実現した。さらに、ロック向けという訴求が支持され、来店目的となり集客力の向上に繋がった。
解説
問題文の該当箇所
- 「Z 社は、急成長していたスーパーマーケットや競合のディスカウントストアに対抗するため、プライベートブランドの開発を検討していた」
- 「ロック向けの製品が開発され、県内消費者から支持を得た」
- 「該当商品の来店目的として声が寄せられている」
答案作成の根拠 本設問は、B 社と垂直的な関係にある酒販店 Z 社にとっての提携メリットを問うている。Z 社の課題は、スーパーやディスカウントストアとの価格競争であった。この課題に対し、B 社との提携は以下のメリットをもたらした。
- 差別化: B 社の「伝統的製法」による高品質なプライベートブランド(PB)製品を持つことで、他店では購入できない価値を提供し、価格競争から脱却できた。
- 集客力向上: 「ロック向け」という明確なコンセプトが消費者に支持され、その商品を目当てに来店する顧客が増加し、店舗の集客力向上に直接貢献した。 これらの点を整理し、Z 社の課題解決という文脈で記述する。
使用した経営学の知識
- 垂直的提携: メーカー(B 社)と流通業者(Z 社)という、サプライチェーン上の異なる段階に位置する企業間の提携。
- プライベートブランド(PB)戦略: 流通業者が自ら企画・開発する独自ブランド商品。他社製品との差別化、利益率の向上、顧客の囲い込み(ストア・ロイヤルティ向上)を目的とする。
- チャネル戦略: Z 社にとって、B 社との提携は、競争優位性を確立するための重要な商品調達戦略の一環である。
第 2 問(設問 2)
B 社が行った水平的な提携は、提携先企業にとってどのようなメリットがあったと考えられるか。100 字以内で答えよ.
回答例(81 字)
自社に欠けていた高品質な芋焼酎を製品ラインナップに加え、弱点を補完できた。これにより、全国の飲食店店主から高い評価を受け、飲食店市場向けの営業成績向上に繋がった。
解説
問題文の該当箇所
- 「Y 社は当時、清酒と甲類焼酎をメインに販売していたが、製品ラインアップには有力な乙類焼酎、特に高品質の芋焼酎が欠けていた。」
- 「Y 社との共同開発製品は、全国の飲食店の店主から高い評価を受け、Y 社内では飲食店市場向け営業成績向上の要因の一つとされている。」
答案作成の根拠 本設問は、B 社と水平的な関係にある大手酒造メーカー Y 社にとっての提携メリットを問うている。Y 社の課題は、製品ラインナップにおける「高品質な芋焼酎の欠如」であった。B 社との提携は、この課題に対して以下のメリットをもたらした。
- 製品ラインナップの強化: B 社の伝統的製法による高品質な芋焼酎を自社ブランドとして販売することで、製品ポートフォリオの弱点を補完し、総合的な競争力を高めることができた。
- 新規市場での売上拡大: 特に本格焼酎の需要が高い飲食店市場において、高い評価を受ける製品を得たことで、当該市場での営業成績を向上させることができた。 これらの点を整理し、Y 社の課題解決と事業拡大への貢献という視点で記述する。
使用した経営学の知識
- 水平的提携: 酒造メーカー同士という、同業種・同一段階に位置する企業間の提携。
- 製品ラインナップ戦略: 企業が提供する製品群の幅や深さを管理する戦略。Y 社は B 社との提携により、手薄だった芋焼酎カテゴリーを強化した。
- OEM(Original Equipment Manufacturer): B 社が製品を製造し、Y 社が販売者として自社ブランドで販売する形態。これにより Y 社は、製造設備への投資なしに新製品を獲得できる。
第 3 問(配点 30 点)
設問文
B 社が取り組んだコーズリレーテッド・マーケティングについて、次の設問に答えよ.
設問 1
B 社が行ったコーズリレーテッド・マーケティングの概要を 80 字以内で整理せよ.
回答例(70 字)
X 市内向け製品の売上の一部を、商工会議所が主催する、水害で被災した商店街のイベントや新規出店支援事業に寄付し、地域の復興を支援する取り組み。
解説
問題文の該当箇所
- 「X 市の大きな課題の 1 つは、2000 年代中頃に洪水で大規模被害を受けた商店街の復興」
- 「B 社はこの商店街の復興を自社課題の 1 つとし、X 市内向け製品売上の一部を、商工会議所主催の商店街イベントや新規出店支援事業に寄付している。」
答案作成の根拠 本設問は、B 社が行っているコーズリレーテッド・マーケティングの概要を整理するものである。与件文から、① 誰が(B 社が)、② 何を財源に(X 市内向け製品の売上の一部を)、③ 誰に(商工会議所を通じて)、④ 何のために(被災した商店街の復興支援として)、⑤ 何をしたか(イベントや新規出店支援事業へ寄付した)という要素を抜き出して、80 字以内で簡潔にまとめる。
使用した経営学の知識
- コーズリレーテッド・マーケティング(Cause-Related Marketing: CRM): 特定の製品の売上の一部を、社会的な課題(コーズ)の解決のために寄付するなど、企業のマーケティング活動と社会貢献活動を結びつける手法。
- CSR(企業の社会的責任): 企業が利益追求だけでなく、地域社会や環境などのステークホルダーに対して責任を果たし、社会と共に発展していくべきであるという考え方。B 社の活動は CSR の一環でもある。
設問 2
B 社の売上はコーズリレーテッド・マーケティングの効果により再び拡大しつつある。コーズリレーテッド・マーケティングが B 社の売上拡大に結びついた理由を考察し、80 字以内で答えよ.
回答例(73 字)
商店街の復興支援という地域貢献活動が X 市民の共感を呼び、B 社への支持と信頼を高めた。これにより、企業ブランドイメージが向上し、製品購買に繋がった。
解説
問題文の該当箇所
- 「B 社の売上はコーズリレーテッド・マーケティングの効果により再び拡大しつつある。」
- 「社長は、地域に根ざした企業ブランドの強化を目指し、地元 X 市にフォーカスしたマーケティングを開始している。」
- 「X 市の経済低迷や人口減少は、X 市地域と B 社双方にとって共通の問題である。」
答案作成の根拠 設問文の「売上が再び拡大しつつある」という前提に基づき、その理由を考察する。コーズリレーテッド・マーケティングが売上向上に繋がるメカニズムは以下の通り。
- 共感と支持の獲得: 地域共通の課題である「商店街の復興」に B 社が取り組むことで、地元 X 市民からの共感を得る。
- ブランドイメージ向上: 「地域に貢献する企業」というポジティブなイメージが定着し、B 社への信頼や愛着(ブランド・ロイヤルティ)が高まる。
- 購買行動への転換: 消費者は、同じような製品を買うならば、地域に貢献している B 社の製品を選ぼうという動機が働き、それが売上拡大に結びつく。 この因果関係を論理的に説明する。
使用した経営学の知識
- ブランド・イメージ: 消費者が特定のブランドに対して抱く心的なイメージや連想。CRM は、このブランド・イメージを向上させる効果がある。
- ブランド・ロイヤルティ: 特定のブランドに対する消費者の忠誠心。ロイヤルティが高い顧客は、そのブランドを継続的に購入する傾向がある。
- リレーションシップ・マーケティング: 顧客や地域社会といったステークホルダーと良好で長期的な関係を築くことを重視するマーケティング。
第 4 問(配点 30 点)
設問文
地域における企業ブランドの強化に向け、有効と考えられる B 社のマーケティング・アクションを 2 つ提案し、それぞれについて 80 字以内で答えよ。ただし、各アクションの実行により期待される効果についても併せて述べること.
回答例
- 提案 1(78 字):伝統製法を学べる工場見学や杜氏と語る会を開催する。これにより、伝統へのこだわりを直接伝え、顧客のロイヤルティを高め、熱心なファンを育成する効果が期待できる。
- 提案 2(76 字):X 市の商店街飲食店と連携し、B 社焼酎に合う地元食材の新メニューを共同開発する。これにより、地域経済の活性化に貢献し、相互送客による売上増加が期待できる。
解説
問題文の該当箇所
- 「伝統的な製法」に加え、市場に対するユニークな企業ブランド価値のデザインが課題」
- 「地域に根ざした企業ブランドの強化を目指し、地元 X 市にフォーカスしたマーケティングを開始している。」
- 「ほとんどの商店主は商店街の衰退が買物難民や周辺地域の衰退につながると考え、廃業せず新たに盛り上げる努力を続けている。」
答案作成の根拠 本設問は、5 代目社長が目指す「地域における企業ブランドの強化」に資する、具体的なマーケティング・アクションの提案を求めるものである。B 社の強み(伝統的製法、地域密着)と X 市の状況(商店街の復興努力)を組み合わせ、実現可能で効果的な施策を 2 つ立案する。
提案 1 の根拠:
- アクション: B 社の最大の強みである「伝統的製法」を顧客が直接体験できる機会を提供する。杜氏という専門家の存在もブランド価値を高める要素となる。
- 期待される効果: 製品の背景にある物語やこだわりを伝えることで、価格以外の価値を訴求し、顧客との情緒的な結びつきを強化する(ファン化、ロイヤルティ向上)。これは「ユニークな企業ブランド価値のデザイン」という課題にも対応する。
- 使用した経営学の知識: 経験価値マーケティング、リレーションシップ・マーケティング
提案 2 の根拠:
- アクション: B 社が支援している商店街と、より一歩踏み込んだ連携を行う。飲食店と共同で、地域の資源(B 社焼酎、地元食材)を活かしたメニューを開発する。
- 期待される効果: 商店街の活性化に直接貢献する姿勢を示すことで、地域貢献企業としてのブランドイメージをさらに強化できる。また、B 社と飲食店の双方に送客効果が生まれ、Win-Win の関係を構築し、地域内での経済循環を促進する。
- 使用した経営学の知識: 地域マーケティング、コラボレーション・マーケティング、共生マーケティング