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平成 24 年度(2012 年度)事例 Ⅱ 解答解説
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第 1 問(配点 10 点)
設問文
B 社が経営再建のためにターゲット・セグメントごとに展開した製品戦略の概要を 100 字以内で説明せよ.
回答例(99 字)
X 市には甘みのある製品、県内にはロック向け製品、全国には芋の香りを抑えた製品を開発した。伝統製法へのこだわりを訴求しつつ、各市場の消費者の嗜好や飲用方法に合わせた製品を提供することで販路を拡大した。
解説
問題文の該当箇所
- 「杜氏の助言をもとに既存製品をリニューアルし、原材料である芋の香りを残しつつ、X 市内消費者の嗜好に合わせてやや甘みのある味わいに変更した。」
- 「Y 社の全国的な市場調査に基づき、芋の香りを抑えた全国向け新製品が開発され」
- 「ロック向けの製品が開発され、県内消費者から支持を得た。」
答案作成の根拠 B 社が経営再建の過程で行った製品戦略について、① 地元 X 市、② 県内、③ 全国という 3 つのターゲット・セグメントを抽出し、それぞれに対してどのような製品を開発・投入したかをまとめる必要がある。
- 地元 X 市向け: 既存製品をリニューアルし、「やや甘みのある味わい」に変更した。
- 県内向け: 酒販店 Z 社との提携で、市場調査に基づき「ロック向け」のプライベートブランド製品を開発した。
- 全国向け: 大手酒造メーカー Y 社との提携で、全国的な市場調査に基づき「芋の香りを抑えた」新製品を開発した。 これらの事実を、ターゲット市場、製品の特長、そしてその背景にある消費者の嗜好や飲用スタイルへの対応という観点から整理し、指定された文字数内で簡潔に記述する。
使用した経営学の知識
- セグメンテーション(市場細分化): 市場を地理的変数(地元、県内、全国)や行動変数(飲用スタイル)、心理的変数(嗜好)によって細分化し、異なるニーズを持つグループを特定している。
- ターゲティング: 細分化したセグメントの中から、自社の強みや提携先の販路を活かせる市場を標的として選定している。
- ポジショニング(製品差別化): 各ターゲット市場のニーズに合わせて製品の味や香りを調整し、それぞれの市場で独自のポジションを築いている。これをSTP マーケティングと呼ぶ。
第 2 問(配点 30 点)
設問文
B 社は提携により新たな販路を獲得し、経営再建を成し遂げた。一方、この提携は提携先企業にとってもメリットがあったため成功したといえる。B 社の提携先企業にとってのメリットについて、次の設問に答えよ.
(設問 1)
B 社が行った垂直的な提携は、提携先企業にとってどのようなメリットがあったと考えられるか。100 字以内で答えよ.
回答例(100 字)
伝統的製法による高品質なプライベートブランド製品を開発できた点である。これにより、スーパー等の競合他社との差別化が可能となり、「ロック向け」という訴求で目的来店客を創出し、集客力を高めることができた。
解説
問題文の該当箇所
- 「Z 社は、急成長していたスーパーマーケットや競合のディスカウントストアに対抗するため、プライベートブランドの開発を検討していた」
- 「ロック向けの製品が開発され、県内消費者から支持を得た。」
- 「該当商品の来店目的として声が寄せられている。」
答案作成の根拠 本設問は、B 社(メーカー)と酒販店 Z 社(小売)という垂直的な提携における、Z 社側のメリットを問うている。Z 社は当時、スーパーやディスカウントストアとの競争激化という課題を抱えていた。この課題解決のために B 社と提携した。 メリットは以下の 2 点に集約される。
- 競合との差別化: B 社の「伝統的製法」という付加価値を持つ高品質な PB(プライベートブランド)製品を持つことで、価格競争に陥りがちなナショナルブランド製品中心の競合店との差別化を図ることができた。
- 集客力の向上: 「ロック向け」という明確なコンセプトの製品が消費者に支持され、その商品を目的として来店する顧客(目的来店客)を増やすことができた。 これらの点を、Z 社が置かれていた競争環境と課題に関連付けて記述する。
使用した経営学の知識
- 垂直的提携: サプライチェーン上の異なる段階に位置する企業間(メーカーと小売など)の協力関係のこと。
- プライベートブランド(PB): 小売業者が自ら企画・開発し、独自のブランドで販売する商品。利益率の向上や他社との差別化、顧客の囲い込みを目的とする。
- 差別化戦略: 競合他社とは異なる独自の価値を提供することで、競争優位を築く戦略。Z 社は「高品質な PB」によって差別化を図った。
第 2 問(設問 2)
B 社が行った水平的な提携は、提携先企業にとってどのようなメリットがあったと考えられるか。100 字以内で答えよ.
回答例(100 字)
伝統的製法による高品質な芋焼酎を製品ラインナップに加えられた点である。これにより手薄であった乙類焼酎市場に本格参入が可能となり、全国の飲食店からの高い評価を得て、市場での競争力と営業成績を向上させた。
解説
問題文の該当箇所
- 「Y 社は当時、清酒と甲類焼酎をメインに販売していたが、製品ラインアップには有力な乙類焼酎、特に高品質の芋焼酎が欠けていた。」
- 「Y 社との共同開発製品は、全国の飲食店の店主から高い評価を受け、Y 社内では飲食店市場向け営業成績向上の要因の一つとされている。」
答案作成の根拠 本設問は、B 社(メーカー)と大手酒造メーカー Y 社(メーカー)という水平的な提携における、Y 社側のメリットを問うている。Y 社は当時、製品ラインナップにおいて「高品質の芋焼酎」が欠けているという弱みを抱えていた。 メリットは以下の 2 点に集約される。
- 製品ラインナップの強化: B 社の「伝統的製法」による高品質な芋焼酎を自社ブランドに加えることで、製品ポートフォリオの弱点を補完し、本格焼酎ブームという市場機会を捉えることができた。
- 市場競争力の向上: 共同開発製品が特に飲食店市場で高く評価されたことで、新たな顧客層を獲得し、営業成績の向上に直接的に貢献した。 これらの点を、Y 社の経営課題(製品ラインナップの欠落)とその解決という観点から記述する。
使用した経営学の知識
- 水平的提携: 同一業種の企業間(メーカーとメーカーなど)の協力関係のこと。製品の共同開発や共同販売などがある。
- 製品ポートフォリオ・マネジメント(PPM): 企業が保有する製品や事業の組み合わせを最適化するための経営手法。Y 社は B 社との提携により、手薄だった「乙類焼酎」のカテゴリーを強化した。
- シナジー効果: 複数の企業が提携することで、それぞれが単独で活動するよりも大きな成果を生み出すこと。B 社の製造技術と Y 社の販売網・市場調査力がシナジーを生んだ。
第 3 問(配点 30 点)
設問文
B 社が取り組んだコーズリレーテッド・マーケティングについて、次の設問に答えよ.
設問 1
B 社が行ったコーズリレーテッド・マーケティングの概要を 80 字以内で整理せよ.
回答例(79 字)
大規模な水害で被害を受けた X 市の商店街復興を支援するため、X 市内向け製品の売上の一部を、商工会議所が主催する商店街のイベントや新規出店支援事業に寄付する活動。
解説
問題文の該当箇所
- 「X 市の大きな課題の 1 つは、2000 年代中頃に洪水で大規模被害を受けた商店街の復興」
- 「B 社はこの商店街の復興を自社課題の 1 つとし、X 市内向け製品売上の一部を、商工会議所主催の商店街イベントや新規出店支援事業に寄付している。」
答案作成の根拠 本設問は、B 社が行っているコーズリレーテッド・マーケティングの概要を整理するものである。与件文から、① 誰が(B 社が)、② 何を財源に(X 市内向け製品の売上の一部を)、③ 誰に(商工会議所を通じて)、④ 何のために(被災した商店街の復興支援として)、⑤ 何をしたか(イベントや新規出店支援事業へ寄付した)という要素を抜き出して、80 字以内で簡潔にまとめる。
使用した経営学の知識
- コーズリレーテッド・マーケティング(Cause-Related Marketing: CRM): 特定の製品の売上の一部を、社会的な課題(コーズ)の解決のために寄付するなど、企業のマーケティング活動と社会貢献活動を結びつける手法。
- CSR(企業の社会的責任): 企業が利益追求だけでなく、地域社会や環境などのステークホルダーに対して責任を果たし、社会と共に発展していくべきであるという考え方。B 社の活動は CSR の一環でもある。
設問 2
B 社の売上はコーズリレーテッド・マーケティングの効果により再び拡大しつつある。コーズリレーテッド・マーケティングが B 社の売上拡大に結びついた理由を考察し、80 字以内で答えよ.
回答例(78 字)
理由は商店街の復興支援という地域貢献活動が X 市民の共感を呼び、B 社への支持と信頼を高めたから。これにより、企業ブランドイメージが向上し、製品購買に繋がった。
解説
問題文の該当箇所
- 「B 社の売上はコーズリレーテッド・マーケティングの効果により再び拡大しつつある。」
- 「社長は、地域に根ざした企業ブランドの強化を目指し、地元 X 市にフォーカスしたマーケティングを開始している。」
- 「X 市の経済低迷や人口減少は、X 市地域と B 社双方にとって共通の問題である。」
答案作成の根拠 設問文の「売上が再び拡大しつつある」という前提に基づき、その理由を考察する。コーズリレーテッド・マーケティングが売上向上に繋がるメカニズムは以下の通り。
- 共感と支持の獲得: 地域共通の課題である「商店街の復興」に B 社が取り組むことで、地元 X 市民からの共感を得る。
- ブランドイメージ向上: 「地域に貢献する企業」というポジティブなイメージが定着し、B 社への信頼や愛着(ブランド・ロイヤルティ)が高まる。
- 購買行動への転換: 消費者は、同じような製品を買うならば、地域に貢献している B 社の製品を選ぼうという動機が働き、それが売上拡大に結びつく。 この因果関係を論理的に説明する。
使用した経営学の知識
- ブランド・イメージ: 消費者が特定のブランドに対して抱く心的なイメージや連想。CRM は、このブランド・イメージを向上させる効果がある。
- ブランド・ロイヤルティ: 特定のブランドに対する消費者の忠誠心。ロイヤルティが高い顧客は、そのブランドを継続的に購入する傾向がある。
- リレーションシップ・マーケティング: 顧客や地域社会といったステークホルダーと良好で長期的な関係を築くことを重視するマーケティング。
第 4 問(配点 30 点)
設問文
地域における企業ブランドの強化に向け、有効と考えられる B 社のマーケティング・アクションを 2 つ提案し、それぞれについて 80 字以内で答えよ。ただし、各アクションの実行により期待される効果についても併せて述べること.
回答例
- 提案 1(78 字):伝統製法を学べる工場見学や杜氏と語る会を開催する。これにより、伝統へのこだわりを直接伝え、顧客のロイヤルティを高め、熱心なファンを育成する効果が期待できる。
- 提案 2(76 字):X 市の商店街飲食店と連携し、B 社焼酎に合う地元食材の新メニューを共同開発する。これにより、地域経済の活性化に貢献し、相互送客による売上増加が期待できる。
解説
問題文の該当箇所
- 「伝統的な製法」に加え、市場に対するユニークな企業ブランド価値のデザインが課題」
- 「地域に根ざした企業ブランドの強化を目指し、地元 X 市にフォーカスしたマーケティングを開始している。」
- 「ほとんどの商店主は商店街の衰退が買物難民や周辺地域の衰退につながると考え、廃業せず新たに盛り上げる努力を続けている。」
答案作成の根拠 本設問は、5 代目社長が目指す「地域における企業ブランドの強化」に資する、具体的なマーケティング・アクションの提案を求めるものである。B 社の強み(伝統的製法、地域密着)と X 市の状況(商店街の復興努力)を組み合わせ、実現可能で効果的な施策を 2 つ立案する。
提案 1 の根拠:
- アクション: B 社の最大の強みである「伝統的製法」を顧客が直接体験できる機会を提供する。杜氏という専門家の存在もブランド価値を高める要素となる。
- 期待される効果: 製品の背景にある物語やこだわりを伝えることで、価格以外の価値を訴求し、顧客との情緒的な結びつきを強化する(ファン化、ロイヤルティ向上)。これは「ユニークな企業ブランド価値のデザイン」という課題にも対応する。
- 使用した経営学の知識: 経験価値マーケティング、リレーションシップ・マーケティング
提案 2 の根拠:
- アクション: B 社が支援している商店街と、より一歩踏み込んだ連携を行う。飲食店と共同で、地域の資源(B 社焼酎、地元食材)を活かしたメニューを開発する。
- 期待される効果: 商店街の活性化に直接貢献する姿勢を示すことで、地域貢献企業としてのブランドイメージをさらに強化できる。また、B 社と飲食店の双方に送客効果が生まれ、Win-Win の関係を構築し、地域内での経済循環を促進する。
- 使用した経営学の知識: 地域マーケティング、コラボレーション・マーケティング、共生マーケティング