平成 28 年度(2016 年度) 事例 Ⅰ
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# 平成 28 年度(2016 年度) 事例 Ⅰ
## 与件文
A 社は、大正時代の半ばに現社長の祖父が創業した、資本金 4,000 万円の地方都市に本社を置く老舗印刷業者である。戦後まもなく株式会社に改組してから一族で経営を承継し、A 社社長は 5 代目である。現在の A 社の売上はおよそ 15 億円であるが、リーマンショック以降売上は減少傾向で、ここ数年利益もほとんど出ておらず、赤字経営に近い状態で推移している。A 社社長の目下の経営課題は、売上や利益を確保し、100 年近い同社の歴史を絶やさないことにある。しかし、こうした厳しい経営状況にもかかわらず、およそ 150 人前後で推移してきた従業員(非正規社員 15 人前後を含む)のリストラを A 社社長自身考えていない。A 社ではこれまでも経営理念の一つとして掲げてきた「社員は宝」のスローガンの下で、新卒社員や女性社員の採用を積極的に進め、人件費以外の部分で効率化を図ることに注力してきた。
A 社の売上の 70%程度を占めているのは、卒業式前後に生徒・学生に配布する学校アルバム事業であり、創業以来の主力製品である。現在、全国およそ 3,000 校のアルバム制作を手掛け、年間の学校アルバム製造部数は 30 万部を超えている。製版から製本までのアルバム制作の全工程を一貫して自社内で行っており、国内シェアもトップクラスである。残りの売上の 30%を占めているのは、1970 年代から取り組んできた一般印刷事業、1980 年代にスタートさせた美術印刷事業とその他新規事業である。
A 社の業績が悪化し始めたのは、2000 年代になってからのことであり、それ以前、同社の業績は右肩上がりで推移していた。1990 年代半ばの売上は、現在よりも 10 億円以上多く、経常利益率も 10%を超えていた。当時の A 社の成長を支えてきた要因の一つは、今日でも経営理念として引き継がれている人材力の強化、すなわち社員教育の成果にあったといえる。
1970 年代半ばに 3 代目社長が、他社に先駆けてオフセット印刷機を導入したのを契機にして、独自で技術開発に取り組んで印刷精度を向上させた。それによって学校アルバム事業を拡大させ、高い印刷精度が求められる美術印刷事業にも参入している。また、社員教育に力を注ぎ、企画力やデザイン力を強化・向上させたことで、他社と差別化を図ることもできるようになった。さらに、教育効果を高めるために、1980 年代半ばには、自社所有の遊休地に研修施設を建設し、新入社員研修や従業員の体験学習、小集団活動を積極的に促してきた。
1980 年代後半、将来の少子化時代の到来や OA(オフィス・オートメーション)化の進展が見込まれるようになると、順調に事業を拡大させてきた A 社でも、学校アルバム事業や印刷事業の成長の可能性に懸念を抱くようになり、事業多角化を模索し始めた。3 代目社長のリーダーシップの下で、自社企画のカレンダーやメモ帳、レターセットなどの印刷関連のオリジナル製品を開発し、商品見本市などでの販売を開始した。その一方で、自社での社員教育の成功体験や施設を活かすことを目的とした企業研修事業や、工芸教室などの教育関連事業にも参入した。また、当時の CI(コーポレート・アイデンティティ)ブームの下で、地元のコンサルティング会社と提携して、企業イメージのトータルデザインを手掛けるコンサルティング事業や自らの顧客である写真館の店舗デザインを助言するといった事業を手掛けるようになった。さらに、漫画雑誌やタウン誌を編集し発行する出版事業にも手を伸ばした。もっとも、1990 年代後半にあっても売上のおよそ 80%を学校アルバム事業が占めていることから、業績伸張の要因は、1980 年代後半に立ち上げたそれら事業ではなく、同社が学校アルバム事業を核に蓄積してきた高度な印刷技術を活用した、一般印刷や美術印刷など印刷事業の拡大にあったことがわかる。2000 年代になると、4 代目社長が他社に先駆けて進めてきたデジタル化によって、時間やコストの大幅な削減が実現された。
しかし、現社長が就任した 2003 年を前後して、印刷業界の経営環境が大きく変化した。インターネットが急速に普及し始めて、出版系の需要が大幅に減少した。加えて、印刷のデジタル化によって専門性の高い製版技術が不要になり、他業種から印刷事業への新規参入が急増するようになった。印刷業界では、新規参入企業との価格競争が激化し、1998 年以降の約 10 年間で市場規模が 2 兆円以上縮小し、少なからぬ企業がこの市場からの撤退を余儀なくされた。その厳しい状況の中で、A 社社長は 100 年の歴史を背負うことになったのである。
さらに、2008 年のリーマンショックの余波が、印刷業界を襲った。少子高齢化、価格競争の激化、景気低迷といった逆風の中で、このままでは生き残ることさえ難しいと感じた A 社社長は、経営改革を決意した。まず着手したのは、多角化した事業に分散していた経営資源を主力製品であるアルバムに集中し強化することであった。少子化の中で学校数が減少し学校アルバム市場が縮小するとともに、デジタルカメラの普及以来、それまで学校とのパイプ役を果たしていた地域の写真館の数が減少する中で事業規模を維持していくためには、アルバムの新たな市場や需要を開拓することが不可欠となった。そこで、ターゲット市場を学校だけに限るのではなく、美術館や企業、そして一般消費者のアルバム需要を掘り起こすことに力を入れる体制作りをスタートさせた。少量印刷・高品質印刷が可能な最先端のデジタル印刷機を導入して、得意としてきた美術印刷事業のさらなる強化に加え、定年退職者の記念アルバムや子供の成長記録アルバムの商品化など新規事業を立ち上げた。とはいえ、それら事業を展開するためには、これまでの学校アルバム事業と異なる営業戦略、事業運営体制が必要となる。生産現場の従業員を営業担当に配置換えするとともに、巨大な潜在市場を抱える大都市圏にも営業所を設けるなどして、営業力強化の体制作りに取り組んだ。
それと同時に、組織改革にも着手した。「営業 ⇒ 企画 ⇒ 編集 ⇒ 印刷 ⇒ 製本 ⇒ 発送」といった一連の工程を中心に学校アルバム事業に適応するよう編成してきた機能別組織体制を見直し、アルバム事業、一般印刷事業、美術印刷事業、教育関連事業など、複数の事業間に横串を刺すことによって、全社が連動し人材の流動性を確保できるような組織に改変した。
いうまでもなく、A 社の経営改革が結実するまでには時を待たなければならないが、労働人口の減少が著しい地方都市にあって 100 年の節目を迎えるためにも、さらなる経営改革の推進とともに、それを実現していく有能な人材の確保が必要であることは確かである。
## 設問文
### 第 1 問(配点 40 点)
業績が好調であった A 社の 3 代目社長の時代に進められた事業展開について、以下の設問に答えよ。
#### 設問 1
当初立ち上げた一般印刷事業などの事業展開によって A 社は成長を遂げることができた。その要因として、どのようなことが考えられるか。100 字以内で述べよ。
#### 設問 2
1990 年代後半になっても売上の大半を学校アルバム事業が占めており、A 社の 3 代目社長が推し進めた新規事業が大きな成果を上げてきたとはいえない状況であった。その要因として、どのようなことが考えられるか。100 字以内で述べよ。
### 第 2 問(配点 40 点)
A 社の現社長(5 代目)の経営改革に関連して、以下の設問に答えよ。
#### 設問 1
A 社が、新規のアルバム事業を拡大していく際に留意すべき点について、これまでの学校アルバム事業の展開との違いを考慮しながら、中小企業診断士として、どのような助言をするか。100 字以内で述べよ。
#### 設問 2
A 社では、これまで、学校アルバム事業を中核に据えた機能別組織体制を採用していたが、複数の事業間で全社的に人材の流動性を確保する組織に改変した理由を、100 字以内で述べよ。
### 第 3 問(配点 20 点)
業績低迷が続く A 社が有能な人材を確保していくためには、どういった人事施策を導入することが有効であると考えられるか。中小企業診断士として、100 字以内で助言せよ。
## 出題の趣旨
### 第 1 問(配点 40 点)
#### 設問 1
当初立ち上げた印刷事業が成長した要因について、分析する能力を問う問題である。
#### 設問 2
印刷事業関連以外の新規事業が大きな成果を上げることのできなかった要因を把握する能力を問う問題である。
### 第 2 問(配点 40 点)
#### 設問 1
学校アルバム事業との事業展開の比較を通して、新規アルバム事業の事業展開において留意すべき点を分析し、適切な助言をする能力を問う問題である。
#### 設問 2
新規事業を展開する上で、複数事業間で人材の流動性を確保する組織に改変した理由について、分析する能力を問う問題である。
### 第 3 問(配点 20 点)
業績低迷が続く地方都市の中小企業が、事業を継続していく上で必要となる人材をいかに確保していくかについて、適切な助言をする能力を問う問題である。
## あなたの回答
### 第 1 問(配点 40 点)
#### 設問 1
#### 設問 2
### 第 2 問(配点 40 点)
#### 設問 1
#### 設問 2
### 第 3 問(配点 20 点)
## AI への指示
以下の情報に基づいて、フィードバックをお願いします。
この試験問題は成績上位 10%しか合格できないのでかなり厳しく指摘して欲しいです。
1. **模範解答**
各設問に対して与件文、設問文、出題の趣旨、経営学の知識に基づき模範解答してください。
2. **フィードバック**
回答が与件文、設問文、出題の趣旨、経営学の知識に沿っているかどうか指摘してください。
与件文の単語や経営学の知識を列挙しただけで因果関係が成立していない場合や抽象的な回答があった場合は指摘してください。
3. **改善点**
どのように回答を改善すればよいか、具体的な提案をしてください。