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平成 28 年度(2016 年度)事例 Ⅱ 回答と解説

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第 1 問(配点 20 点)

設問文

B 社のこれまでの製品戦略について、80 字以内で整理せよ。

回答例(77 字)

伝統製法による高品質・高価格なしょうゆを核とし、最終消費者向けに特化。健康志向等の市場需要に対し、同業他社の後追いで関連製品を拡充する製品ライン拡張戦略。

解説

  • 問題文の該当箇所

    • 「B 社は創業以来一貫して国産丸大豆を原材料とし、自社の蔵で杉桶を使ったしょうゆ醸造を続けている」
    • 「製品価格帯は、しょうゆ業界平均よりも全体的にかなり高めのゾーンに位置する」
    • 「大手メーカーの激しい低価格攻勢を受け、現在ではほとんど最終消費者向け製品に特化している」
    • 「最も販売量が多いのは減塩しょうゆ」
    • 「同業他社の動きを見ながら新製品を追加投入してきた」
    • 「第 2 に、B 社のしょうゆをベースに作られたしょうゆ関連製品である。ここには、だししょうゆ、こんぶしょうゆ…などが含まれる」
  • 答案作成の根拠 提示された答案は、B 社のこれまでの戦略を複数の要素に分解し、的確に表現したものである。

    1. 核となる事業:B 社は「伝統製法」にこだわり、「高品質・高価格」なしょうゆを製造販売している。これが事業の根幹である。
    2. 事業領域:かつて手掛けた業務用から撤退し、現在は「最終消費者向けに特化」している。これは、大手の価格競争を避けるという明確な戦略的判断に基づく。
    3. 製品拡充の動機と方法:市場には「健康志向」(減塩しょうゆの人気)や簡便化ニーズが存在する。B 社はこうした「市場需要」に対し、自ら市場を創造するのではなく、「同業他社の後追い」という形で新製品を投入し、対応してきた。
    4. 戦略の類型:基本のしょうゆに、だししょうゆ等の「関連製品を拡充」するアプローチは、経営学上「製品ライン拡張戦略」と定義できる。

    このように、答案は B 社の事業の核、戦う市場、そして製品を増やす際のスタイルを順序立てて整理し、最後にそれを戦略として定義づける構成となっている。

  • 使用した経営学の知識

    • 製品戦略:企業が市場に提供する製品やサービスに関する全体的な計画である。B 社の高品質・高価格路線はその中核をなす。
    • 製品ライン拡張:既存の製品カテゴリー内に、新たなサイズ、味、形態などの新アイテムを追加する戦略である。B 社が基本しょうゆに加え、だししょうゆや各種つゆ類を増やしてきた活動がこれに該当する。
    • 競争地位戦略(フォロワー戦略):「同業他社の後追い」という部分は、市場のリーダーを模倣・追随することでリスクを抑えつつ成長を図る「フォロワー(追随者)」の戦略的行動と解釈できる。

第 2 問(配点 30 点)

設問文

B 社の 11 代目予定者は、自分の代になってからもこれまでの製造スタイルを大切にしながら成長を追求していくつもりである。しかしながら、製品アイテムは見直すことを考えている。

(設問 1)

B 社の今後の成長に必要な製品戦略について、ターゲット層を明確にしたうえで、100 字以内で説明せよ。

回答例(99 字)

ターゲットは食や健康への関心が高い女性やシニア層。不採算品を整理し、成長が見込めるしょうゆ関連製品に注力する。伝統製法と健康志向を両立させ、彼女らの感性に訴える高付加価値な新製品を開発し成長を図る。

解説

  • 問題文の該当箇所

    • 「自分の代になってからもこれまでの製造スタイルを大切にしながら成長を追求」
    • 「製品アイテムは見直すことを考えている」「87 アイテムの回転率には今ではかなりばらつき」
    • (直営店が)「食に敏感な女性を中心に、ランチ時には大行列」
    • (直営店が)「地元食材の利用やカロリーや減塩など健康に配慮したメニューと彩り鮮やかな盛り付け」
    • (観光地に)「懐かしさを求めて女性やシニア層が連日街を訪れ」
    • 図表 2:しょうゆの出荷数量は減少傾向だが、「めん類等用つゆ」「たれ類」「しょうゆ加工品」は堅調に推移。
  • 答案作成の根拠 今後の成長戦略を考える上で、SWOT 分析の「強み」と「機会」を活かし、「弱み」を克服する方向性が求められる。

    1. ターゲット層の明確化:B 社の強みが発揮され、成功している直営店の顧客層が最も有望なターゲットである。「食に敏感な女性」や観光地を訪れる「シニア層」は、B 社の「伝統」「高品質」「健康志向」という価値を評価してくれる可能性が高い。
    2. 製品戦略の方向性:「製品アイテムは見直す」という 11 代目予定者の意向と、「回転率のばらつき」という現状から、**製品ラインの整理(プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント)**が必須である。不採算品を削減し、経営資源を集中させる必要がある。
    3. 成長分野への注力:図表 2 から、JAS 規格の「しょうゆ」市場は縮小しているが、「めん類等用つゆ」や「たれ類」といった関連製品市場は堅調である。したがって、これらのしょうゆ関連製品分野を強化することが成長につながる。
    4. コンセプト:「製造スタイルを大切にする」という方針と、ターゲット層の特性を掛け合わせ、「伝統製法」と「健康志向(減塩、無添加など)」を両立させた高付加価値な製品開発が有効と判断できる。
  • 使用した経営学の知識

    • ターゲット・マーケティング:市場を細分化(セグメンテーション)し、自社の強みを最も活かせる特定の顧客層(ターゲット)にマーケティング活動を集中させる手法。
    • プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント(PPM):複数の製品や事業を「市場成長率」と「市場シェア」で評価し、経営資源の最適な配分を決定するフレームワーク。「回転率のばらつき」がある B 社には、製品の選択と集中が求められる。

(設問 2)

(設問 1)で想定したターゲット層に訴求するための、プロモーションと販売の戦略を 80 字以内で説明せよ。

回答例(77 字)

直営店で製品を使った料理教室や試食会を開催し、具体的な利用法を提案する。また、グルメサイトや SNS で情報を発信し、百貨店や高級スーパーでの販売を強化する。

解説

  • 問題文の該当箇所

    • (設問 1 で想定したターゲット層)「食や健康への関心が高い女性やシニア層」
    • (直営店が)「観光情報誌やグルメサイトなどにも数多く取り上げられている」
    • (Z 社の取引先)「国内では百貨店や中〜高価格業態のスーパーや自然食品店」
  • 答案作成の根拠 設問 1 で設定したターゲット層に効果的にアプローチするための戦略を構築する。

    1. プロモーション戦略:ターゲット層は製品の背景にあるストーリーや具体的な利用シーンに関心が高いと考えられる。
      • 体験の提供:成功している直営店を情報発信拠点として最大限に活用する。製品を使った料理教室や試食会は、製品価値を直接体験してもらう絶好の機会となり、利用方法の提案(コト消費)にもつながる。
      • 情報発信:直営店が「グルメサイト」で成功していることから、Web を活用した情報発信は有効である。ターゲット層が多用する SNS やグルメサイトでの発信を強化し、口コミを誘発する。
    2. 販売戦略(チャネル戦略):B 社の製品は高価格帯であり、ターゲット層の購買場所と一致させる必要がある。既存の卸売業者 Z 社の販路である「百貨店」や「中〜高価格業態のスーパー」は、製品のブランドイメージとターゲット層に合致しており、引き続き重要な販売チャネルとなる。これらの店舗での販売を強化し、ターゲットとの接点を増やす。
  • 使用した経営学の知識

    • プロモーション戦略:製品やサービスの認知度を高め、購買を促進するための活動。広告、販売促進(サンプリング、イベント)、パブリシティ(PR)、人的販売などが含まれる。
    • 販売チャネル戦略:製品を顧客に届けるための経路(チャネル)を構築・管理する戦略。B 社にとっては Z 社経由の販路がこれにあたる。
    • コト消費:モノの所有だけでなく、製品やサービスから得られる体験や経験に価値を見出す消費行動。料理教室などはコト消費の提供にあたる。

第 3 問(配点 20 点)

設問文

3 年前に開業した直営店併設の飲食店は、売り上げが好調である。B 社が飲食店を直接経営することによって、どのようなメリットと効果を得られるか。売り上げが向上すること以外のメリットと効果について、100 字以内で説明せよ。

回答例(99 字)

① 顧客の嗜好やニーズを直接把握し、製品開発や改善に活かせる市場調査機能。② 製品の利用法を提示し購買を促すショールーム機能。③ 高品質なブランドイメージを発信し、メディア露出による広告効果を得られる点。

解説

  • 問題文の該当箇所

    • 「B 社が飲食店を直接経営することによって、どのようなメリットと効果を得られるか。売り上げが向上すること以外のメリットと効果について」
    • 「自社製品を麺料理のつゆやだしなどに使用」
    • 「食に敏感な女性を中心に、ランチ時には大行列ができる」
    • 「地元食材の利用やカロリーや減塩など健康に配慮したメニュー」
    • 「観光情報誌やグルメサイトなどにも数多く取り上げられている」
  • 答案作成の根拠 飲食店経営がメーカーである B 社本体に与えるシナジー効果(売上向上以外)を多角的に分析する。

    1. 市場調査機能(マーケティング・リサーチ):飲食店は最終消費者との直接的な接点である。人気メニューや顧客の反応(「食に敏感な女性」など)から、味の好み、健康への関心度、価格感応度といった生きた顧客ニーズを収集できる。この情報は、新製品開発や既存製品の改良に極めて有用なデータとなる。
    2. ショールーム機能と販売促進:飲食店で自社製品を使用することは、製品の具体的な使い方や美味しさを顧客に体験してもらう絶好の機会となる。いわば「食べられるショールーム」であり、メニューを気に入った顧客が隣接する直営店で製品を購入するという、購買への強力な動線が生まれる。
    3. ブランドイメージ向上と広告宣伝効果:飲食店が「地元食材」「健康配慮」「彩り鮮やか」といったコンセプトで評価され、「観光情報誌やグルメサイト」で紹介されることは、B 社全体のブランドイメージ(伝統的だが、現代のニーズにも応える高品質なメーカー)を向上させる。これは、費用をかけずにメディア露出を得るパブリシティ(広告宣伝)効果に他ならない。
  • 使用した経営学の知識

    • 川下統合(前方統合):メーカーが卸売や小売、さらには最終消費者に近い事業(飲食店など)へ進出すること。B 社の飲食店経営はこれにあたる。
    • シナジー効果(相乗効果):複数の事業が連携することで、それぞれが単独で活動するよりも大きな成果を生み出すこと。
    • アンテナショップ/ショールーム:製品の展示や販売、情報発信、市場調査などを目的として企業が設置する店舗。B 社の飲食店はこれらの機能を複合的に果たしている。

第 4 問(配点 30 点)

設問文

昨今の多くの中小しょうゆメーカーでは、インターネット販売を展開している。B 社もまた、新規事業として直接、最終消費者に対するインターネット販売に乗り出したいと考えている。

(設問 1)

インターネット販売を軌道に乗せるために B 社が採るべきブランド戦略を 50 字以内で提案せよ。

回答例(50 字)

Z 社との競合を避け、新ブランドを構築。歴史や伝統製法を訴求し EC 限定の高付加価値な贈答品を展開する。

解説

  • 問題文の該当箇所

    • 「新規事業として直接、最終消費者に対するインターネット販売に乗り出したい」
    • 「Z 社は、B 社がインターネット販売をすることに対して難色を示している」
    • 「創業は 1770 年」「国産丸大豆」「杉桶を使ったしょうゆ醸造」
    • (Z 社の取扱商品)「高付加価値型のこだわりの自然食品・健康食品全般」
  • 答案作成の根拠 インターネット販売の実現には、最大の障壁である既存チャネル(Z 社)との関係維持が不可欠である。Z 社が難色を示すのは、主にチャネル間の競合による価格競争やブランド価値の毀損を懸念しているためと考えられる。この課題を解決するためのブランド戦略が求められる。

    1. チャネル・コンフリクトの回避:最も直接的な解決策は、既存の流通チャネルとインターネット販売チャネルを明確に分離することである。そのために「新ブランドを構築」し、既存の B 社ブランド製品とは異なる製品ラインとして展開する。これにより、Z 社が扱う B 社製品との直接的な競合を避けることができる。
    2. ブランドコンセプト:新ブランドとはいえ、B 社の強みである「歴史や伝統製法」という背景(ストーリー)は最大限に活用すべきである。これを訴求することで、製品の信頼性と価値を高める。
    3. 製品戦略:新ブランドで展開する製品は、Z 社の販路と差別化できる「EC 限定」とし、さらに贈答用などの「高付加価値なギフト商品」に特化する。これにより、安売りイメージを払拭し、B 社全体のブランドイメージを損なうことなく、新たな顧客層にアプローチすることが可能となる。
  • 使用した経営学の知識

    • ブランド戦略:自社の製品やサービスを競合と差別化し、独自の価値を顧客に認識させるための一貫した計画である。ここでは、既存チャネルとの共存を目的とした新ブランドの構築が戦略の核となる。
    • チャネル・コンフリクト:同一メーカーの製品が、異なる販売チャネル間で競合し、対立が生じる状態を指す。新ブランドの立ち上げは、このコンフリクトを回避するための有効な手段の一つである(チャネルの棲み分け)。
    • ストーリーテリング:製品やブランドの背景にある物語を語ることで、顧客の共感や感情的な結びつきを醸成するマーケティング手法である。B 社の長い歴史と伝統製法は、ストーリーテリングの強力な資源となる。

(設問 2)

B 社のインターネット販売を利用する顧客にリピートしてもらうために、インターネット上でどのようなマーケティング・コミュニケーションを展開するべきか。80 字以内で提案せよ。

回答例(75 字)

メールマガジンや SNS で、製品を使ったレシピや蔵のこだわり、季節の情報などを定期的に発信し、顧客との継続的な関係を構築することで、ファン化を促進する。

解説

  • 問題文の該当箇所

    • 「B 社のインターネット販売を利用する顧客にリピートしてもらうために」
    • 「インターネット上でどのようなマーケティング・コミュニケーションを展開するべきか」
    • B 社の強み:「創業 1770 年」「杉桶を使ったしょうゆ醸造」
    • 飲食店の成功要因:「地元食材の利用」「彩り鮮やかな盛り付け」
  • 答案作成の根拠 インターネット販売においてリピート顧客を獲得するには、単発の売買で終わらせず、顧客との長期的な関係を築くことが不可欠である。そのためのオンライン・コミュニケーション施策を提案する。

    1. 関係性構築(CRM):B 社のようなこだわりを持つ企業にとって、顧客は単なる購入者ではなく、企業の価値観を共有する「ファン」になってもらうべき存在である。そのためには、一方的な広告ではなく、双方向で継続的なコミュニケーションが重要となる。
    2. 情報コンテンツの提供:顧客が有益だと感じる情報を提供し続けることが、関係構築の基本となる。
      • レシピ提案:製品をいかに美味しく使うかという「レシピ情報」は、顧客の満足度を高め、他の製品の購買意欲も刺激する。飲食店のメニューもヒントになる。
      • ストーリーの共有:「蔵のこだわり」「醤油づくりの工程」「季節ごとの蔵の様子」といった製造の裏側を見せるコンテンツは、B 社のブランド価値である「伝統」や「本物」への理解を深め、顧客のロイヤルティを高める。
    3. コミュニケーション手段:これらの情報を定期的に届ける手段として、「メールマガジン」や、より気軽に双方向のやり取りができる「SNS」が有効である。
  • 使用した経営学の知識

    • CRM(Customer Relationship Management):顧客関係管理。顧客との良好な関係を長期的に築き、顧客満足度とロイヤルティを高めることで、企業の収益を向上させる経営手法。
    • コンテンツマーケティング:顧客にとって価値のある情報(コンテンツ)を提供することで、見込み客を引きつけ、最終的にファンとして育成していくマーケティング手法。
    • One to One マーケティング:顧客一人ひとりの属性や購買履歴に合わせて、個別のコミュニケーションを行う手法。メールマガジンなどで応用が可能。

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