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令和 4 年度(2022 年度)事例 Ⅲ 回答と解説
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第 1 問(配点 20 点)
設問文
2020 年以降今日までの外部経営環境の変化の中で、C 社の販売面、生産面の課題を 80 字以内で述べよ。
回答例(80 字)
販売面の課題は、既存の業務用市場への依存から脱却し新たな市場を開拓すること。生産面の課題は、小ロット生産に対応できる体制へ移行し、過剰な製品在庫を削減すること。
解説
問題文の該当箇所
- 「2020 年からの新型コロナウイルス感染拡大による…影響を受けて(受注量が)減少している。」
- 「最近は発注元の在庫量削減方針によって発注ロットサイズが減少している。ただ C 社では…確定受注量以外は C 社内で在庫している。」
答案作成の根拠 診断士試験では「問題(現状の悪い状態)」と「課題(解決すべき方向性・テーマ)」を区別して捉えることが重要です。
- 販売面の課題設定: 与件文には、コロナ禍で主要顧客である業務用市場の需要が減少し、売上が低迷しているという問題が記述されています。この問題を解決するための方向性、すなわち課題は、特定の市場に依存する経営体質から脱却し、新たな販路を確保することで売上の安定化を図る「新規市場の開拓」となります。
- 生産面の課題設定: 与件文には、顧客の小ロット発注に対応できず、従来のロットサイズで生産を続けた結果、過剰な在庫を抱えているという問題が記述されています。この問題を解決するための方向性、すなわち課題は、顧客ニーズの変化に柔軟に対応できる「小ロット生産体制の構築」と、それによる「在庫の削減」です。
使用した経営学の知識
- 成長戦略(アンゾフの成長マトリクス): 販売面の課題は、既存市場の深耕だけでなく、新たな市場を開拓する必要性を示唆しており、「市場開拓戦略」の方向性を示しています。
- リーン生産方式: 生産面の課題は、顧客の要求に応じて必要なものを必要なだけ生産する体制への転換を意味します。これは、ムダ(この場合は作りすぎのムダ=過剰在庫)を徹底的に排除するリーン生産やジャストインタイム(JIT)の考え方に基づいています。
第 2 問(配点 20 点)
設問文
C 社のプレス加工製品の新規受注では、新規引合いから量産製品初回納品まで長期化することがある。しかし、プレス加工製品では短納期生産が一般化している。C 社が新規受注の短納期化を図るための課題とその対応策を 120 字以内で述べよ。
回答例(113 字)
課題は、金型設計業務を効率化し製作リードタイムを短縮することである。対応策は、① 営業に設計担当者が同行して顧客と直接仕様摺合せを行い手戻りを防止する、② プレスと板金の設計担当を分離・専門化し、業務の混乱を防ぎ効率を向上させる。
解説
問題文の該当箇所
- (プロセス図において、顧客とのやり取りを「営業課」が担当している点)
- 「発注元との仕様確認が遅くなることや、発注元からの設計変更、仕様変更の要請があり、設計期間が長くなることもある。」
- 「また設計課では、個別受注の板金加工製品の製品設計も担当するため、設計業務の混乱が生じ金型製作期間全体に影響することもしばしば生じている。」
答案作成の根拠
- 課題設定: 納期長期化の問題の根本原因が「金型設計」工程にあるため、課題を 「金型設計業務の効率化によるリードタイム短縮」 と設定します。
- 対応策の立案:
- 対応策 ①: 「仕様確認の遅延や設計変更」は、営業担当者から設計担当者への情報伝達の過程で、抜け漏れや誤解が生じていることが一因と考えられます。そこで、専門知識を持つ設計担当者が営業担当者に同行し、顧客との仕様確認の場に直接参加します。これにより、技術的な観点からその場で質疑応答や実現可能性の判断ができ、顧客の真意を正確に汲み取ることが可能となります。結果として、仕様確定の精度とスピードが向上し、後工程での手戻りを抜本的に防止できます。
- 対応策 ②: 「設計課の業務混乱」に対しては、前回同様、性質の異なる業務を担当分離することで専門性を高め、業務効率を向上させる策が有効です。
使用した経営学の知識
- コンカレント・エンジニアリング: 設計・開発・生産準備など、本来は後工程の担当者や部門を、設計の初期段階から参加させることで、開発全体のリードタイム短縮や品質向上を図る手法です。設計担当者が初期の顧客折衝に参加することは、この考え方を実践するものです。
- 組織の専門化: 業務を専門性に応じて分担することで、効率性と習熟度を高める組織設計の原則。対応策 ② の根拠となります。
第 3 問(配点 20 点)
設問文
C 社の販売先である業務用食器・什器卸売企業からの発注ロットサイズが減少している。また、検討しているホームセンター X 社の新規取引でも、1 回の発注ロットサイズはさらに小ロットになる。このような顧客企業の発注方法の変化に対応すべき C 社の生産面の対応策を 120 字以内で述べよ。
回答例(111 字)
対応策は、① 段取り作業の内外段取り化や協業化で段取り時間を短縮する。② プレスから仕上まで全工程を同期させ、受注量に応じた週次生産計画を立案する。③ 週次計画に連動した資材発注に見直し、サプライヤーとの連携で短納期調達を行う。
解説
問題文の該当箇所
- 「(X 社は)納期は発注日から 7 日後の設定である。」
- 「前月月末までに『月度生産計画』を作成して『資材発注』する。」
- 「プレス加工製品の生産計画は『プレス加工』の計画だけが立案され…」
- 「基準日程によって設定しているロットサイズで加工を続け…」
- 「長時間の段取作業を一人で行っている。」
答案作成の根拠 小ロット・短納期(7 日間)発注に対応できていないという問題に対し、生産の物理的制約、計画手法、そして資材調達の 3 つの側面から、抜本的な対応策を立案します。
- 対応策 ①(ボトルネックの解消): 小ロット生産を物理的に可能にするため、ボトルネックであるプレス加工の段取り時間短縮が最優先です。SMED の考え方に基づく内外段取り化や協業化により、段取り時間を圧縮します。
- 対応策 ②(生産計画の高度化): X 社の週次発注に対応するため、月次計画だけでなく週次生産計画を導入します。また、プレス工程だけでなく製品仕上までの全工程を同期させ、社内都合の基準日程を廃止し実受注量に基づいた計画に切り替えることで、仕掛品や製品在庫を削減します。
- 対応策 ③(調達リードタイムの短縮): 納期 7 日間を遵守するには、生産リードタイムだけでなく調達リードタイムの短縮も不可欠です。従来の月次発注では全く間に合わないため、週次生産計画に連動した資材発注へと変更します。さらに、主要資材についてはサプライヤーと緊密に連携し、内示情報を共有するなどして短納期での調達を実現します。
使用した経営学の知識
- SMED (Single Minute Exchange of Die): 対応策 ① の理論的根拠です。
- 生産計画と管理 (PPC): 対応策 ② は、生産計画の対象範囲、基準、サイクルを見直し、より市場の需要に追従する形に高度化するアプローチです。
- サプライチェーンマネジメント (SCM): 対応策 ③ は、自社内だけでなくサプライヤーまで含めたサプライチェーン全体でリードタイム短縮と在庫削減を目指す考え方です。サプライヤーとの情報共有や連携強化が鍵となります。
第 4 問(配点 20 点)
設問文
C 社社長は、ホームセンター X 社との新規取引を契機として、生産業務の情報の交換と共有についてデジタル化を進め、生産業務のスピードアップを図りたいと考えている。C 社で優先すべきデジタル化の内容と、そのための社内活動はどのように進めるべきか、120 字以内で述べよ。
回答例(117 字)
内容は ① 設計の 3D CAD 化で手戻りを防ぎ、② 生産管理システムの導入で設計から在庫までの情報を一元管理し共有する。活動は社長主導の推進チームを組成し、業務改革を推進すると共に、デジタル人材の育成計画を策定し、OJT 等で技能伝承を進める。
解説
問題文の該当箇所
- 「情報の交換と共有はいまだに紙ベースで行われている。」
- 「『金型設計』は、設計課が 2 次元 CAD を活用し担当している。」
- 「『金型組立』、『金型仕上』は、…ベテラン技能者が担当しているが、高齢化している。…若手の養成を検討している。」
答案作成の根拠 生産業務のスピードアップという目的を達成するため、具体的なデジタル化の内容と、それを成功させるための社内活動(組織・人材面)をセットで提案します。
- デジタル化の内容:
- ①3D CAD 化: 2 次元 CAD では完成品のイメージ共有が難しく、手戻りの原因となります。3D CAD を導入することで、設計段階での顧客とのイメージ共有が容易になり、後工程での干渉チェックなども可能になるため、手戻りを防止しリードタイム短縮に貢献します。
- ② 情報の一元管理: 紙ベースの情報共有が業務停滞の原因です。設計情報、生産計画、進捗、在庫などの情報を一元管理する生産管理システムを導入し、全社でリアルタイムに共有することがスピードアップの根幹となります。
- 社内活動(進め方):
- 推進体制: システム導入は全社的な業務改革を伴うため、社長がリーダーシップを発揮し、各部門からメンバーを選出した推進チームを組成することが不可欠です。
- 人材育成: デジタルツールを導入しても使いこなせる人材がいなければ意味がありません。若手を中心にデジタル人材の育成計画を策定する必要があります。また、3D データはベテラン技能者のノウハウ(技能)を形式知化し、若手に伝承するための有効なツールにもなります。OJT などを通じて、デジタルツールを活用した技能伝承を計画的に進めるべきです。
- デジタル化の内容:
使用した経営学の知識
- CAD/CAM/CAE: 3D CAD の導入は、後工程の CAM(製造)や CAE(解析)との連携も視野に入れた、製品開発プロセス全体の効率化に繋がります。
- ナレッジマネジメント/技能伝承: ベテランが持つ暗黙知(経験や勘)を、3D データなどの形式知に変換し、組織全体で共有・活用することはナレッジマネジメントの重要なテーマです。これは、事業承継における技能伝承の課題解決にも直結します。
- プロジェクトマネジメント: システム導入を成功させるための推進体制の構築は、プロジェクトマネジメントの考え方に基づいています。
第 5 問(配点 20 点)
設問文
C 社社長が積極的に取り組みたいと考えているホームセンター X 社との新規取引に応えることは、C 社の今後の戦略にどのような可能性を持つのか、中小企業診断士として 100 字以内で助言せよ。
回答例(100 字)
業務用市場依存から脱却し、成長性の高いアウトドアという BtoC 市場へ進出でき経営が安定する。また、小ロット・短納期生産への対応による生産性向上で、 PB 商品の企画提案や自社ブランド開発の可能性も拓ける。
解説
問題文の該当箇所
- 「X 社では、コロナ禍の 2020 年以降も売上が順調に推移しているが、その要因の一つとしてアウトドア商品売上の貢献がある。」
- 「生産、物流など現在のサプライチェーンの維持が難しくなっている。また今後も海外生産委託商品の仕入れ価格の高騰が懸念されることから、生産委託先を C 社へ変更する」
- 「C 社社長は、当該事業の市場成長性と自社の強みを考慮して戦略とビジネスプロセスを見直し、積極的にこの事業に取り組むこととした。」
- 「C 社社長は、今後高価格な製品に拡大することも期待している。」
答案作成の根拠
- 市場・顧客の多角化: C 社は現在、コロナ禍で需要が落ち込んでいる業務用市場に大きく依存している。X 社との取引は、成長市場であるアウトドア市場(BtoC)への新規参入を意味し、特定の市場への依存度を下げ、経営基盤を安定化させる(事業ポートフォリオの改善)。
- 生産能力・体質の強化: X 社が要求する小ロット・短納期生産に対応する過程で、C 社は生産プロセスの見直し(段取り改善、生産計画の高度化、デジタル化など)を迫られる。これは、会社全体の生産性向上につながり、既存事業にも好影響を与える。
- 新たな事業展開の可能性: 当初は X 社の PB 商品の受託生産(OEM)から始まるが、C 社の強みである金型技術や提案力を活かせば、将来的には製品の共同開発や企画提案(ODM)へ発展する可能性がある。さらに、BtoC 市場での経験を積むことで、自社ブランド製品を開発・販売するという新たな戦略の道筋も見えてくる。これは、下請けからの脱却と収益性向上につながる大きな可能性を秘めている。
使用した経営学の知識
- 成長戦略 (アンゾフの成長マトリクス): この新規取引は、既存の技術(プレス加工)を活かして新しい市場(アウトドア市場)に参入する「市場開拓戦略」にあたる。
- OEM (Original Equipment Manufacturer) / ODM (Original Design Manufacturer): 当初は発注元の設計に基づいて生産する OEM だが、C 社の提案力を活かすことで、設計・開発から請け負う ODM へと事業モデルを進化させ、付加価値を高める可能性がある。
- コア・コンピタンス: C 社の「難易度の高い金型製作技術」というコア・コンピタンスを、新たな市場で活用することで、持続的競争優位を築くことができる。