Skip to content

令和 3 年度(2021 年度)事例 Ⅳ 回答と解説

第 1 問(配点 30 点)

(設問 1)

D 社と同業他社の財務諸表を用いて経営分析を行い、同業他社と比較して D 社が優れていると考えられる財務指標と D 社の課題を示すと考えられる財務指標を 2 つずつ取り上げ、それぞれについて、名称を( )欄に、その値を( )欄に記入せよ。 また、優れていると考えられる指標を ①、② の欄に、課題を示すと考えられる指標を ③、④ 欄に記入し、( )欄の値については、小数点第 3 位を四捨五入し、単位をカッコ内に明記すること。

No名称単位
売上高総利益率27.78%
商品回転率18.62
売上高販管費率27.46%
自己資本比率19.85%

(設問 2)

D 社の財務的特徴と課題について、同業他社と比較しながら財務指標から読み取れる点を 80 字以内で述べよ。

回答例(80 字)

地元密着により高い商品回転率と売上高総利益率を確保しているが、販管費率の高さが営業利益を圧迫している。長期借入金が多く、自己資本比率が低く財務基盤も脆弱である。


解説

  • 問題文の該当箇所

    • ご提示いただいた修正後の貸借対照表および損益計算書全体。
    • 与件文:「常に地元産の品揃えにこだわり」「輸送費や人件費の上昇」
  • 答案作成の根拠 修正後の財務諸表に基づき、指標を再計算し、D 社の経営実態を分析しました。

    • 優れている点 👍

      1. 売上高総利益率: D 社 27.78% (459,900 ÷ 1,655,500)、同業他社 25.76% (607,600 ÷ 2,358,740)。
        • ご指摘の通り、D 社の売上高総利益率は同業他社を上回っています。これは「地元産の品揃えへのこだわり」が付加価値として価格に反映され、高い利益率を確保できていることを示す最大の強みです。
      2. 商品回転率: D 社 18.62 回 (1,195,600 ÷ 64,200)、同業他社 15.62 回 (1,751,140 ÷ 112,120)。
        • こだわりの商品が顧客に支持され、効率的に販売されていることを示します。在庫管理の巧みさも D 社の強みです。
    • 課題となる点 課題

      1. 売上高販管費率: D 社 27.46% (454,600 ÷ 1,655,500)、同業他社 23.75% (560,100 ÷ 2,358,740)。
        • D 社の核心的な課題がここにあります。せっかく確保した高い売上総利益(27.78%)のほとんどを、販管費(27.46%)で使い果たしてしまっています。結果として、営業利益率はわずか 0.32%(D 社)となり、同業他社(2.01%)に大きく水をあけられています。与件文の「輸送費や人件費の上昇」が経営を圧迫している状況が明確に読み取れます。
      2. 自己資本比率: D 社 19.85% (136,000 ÷ 685,200)、同業他社 74.21%。
        • 短期・長期の借入金に大きく依存しており、財務基盤が極めて脆弱です。これは経営の安定性を揺るがす根本的な課題です。
    • 設問 2 の要約: 上記の分析から、「強みである高い商品利益が、コスト高によって消えてしまっている」という D 社の経営課題の構造を明らかにしました。この収益構造の問題と、財務基盤の脆弱性という 2 つの大きな課題を 80 字以内でまとめています。

  • 使用した経営学の知識

    • 経営分析: 財務諸表の数値を用いて、企業の財政状態や経営成績を分析する手法。
      • 効率性分析: 資産をどれだけ効率的に売上につなげているかを測る。(有形固定資産回転率など)
      • 安全性分析: 企業の支払い能力や倒産リスクを測る。(当座比率、自己資本比率など)
      • 収益性分析: 企業がどれだけ利益を上げる力があるかを測る。(売上高営業利益率など)

第 2 問(配点 30 点)

D 社はこれまで、各店舗のレジを法定耐用年数に従って 5 年ごとに更新してきたが、現在保有しているセミセルフレジ 100 台を 2022 年度期首にフルセルフレジへと取り替えることを検討している。また D 社は、この検討において取替投資を行わないという結論に至った場合には、現在使用しているセミセルフレジと取得原価および耐用期間が等しいセミセルフレジへ 2023 年度期首に更新する予定である。

現在使用中のセミセルフレジは、2018 年度期首に 1 台につき 100 万円で購入し有人レジから更新したもので、定額法で減価償却(耐用年数 5 年、残存価額 0 円)されており、2022 年度期首に取り替える場合には耐用年数を 1 年残すことになる。一方、更新を検討しているフルセルフレジは付随費用込みで 1 台当たり 210 万円の価格であるが、耐用期間が 6 年と既存レジの耐用年数より 1 年長く使用できる。D 社はフルセルフレジに更新した場合、減価償却においては法定耐用年数にかかわらず耐用期間に合わせて耐用年数 6 年、残存価額 0 円の定額法で処理する予定である。また、レジ更新に際して現在保有しているセミセルフレジは 1 台当たり 8 万円で下取りされ、フルセルフレジの代価から差し引かれることになっている。

D 社ではフルセルフレジへと更新することにより、D 社全体で人件費が毎年 2,500 万円削減されると見込んでいる。なお、D 社の全社的利益(課税所得)は今後も黒字であることが予測されており、利益に対する税率は 30 %である。

(設問 1)

D 社が 2023 年度期首でのセミセルフレジの更新ではなく、2022 年度期首にフルセルフレジへと取替投資を行った場合の、初期投資額を除いた 2022 年度中のキャッシュフローを計算し、⒜ 欄に答えよ(単位:円)。なお、⒝ 欄には計算過程を示すこと。ただし、レジの取替は 2022 年度期首に全店舗一斉更新を予定している。また、初期投資額は期首に支出し、それ以外のキャッシュフローは年度末に一括して生じるものとする。

回答例

(a) 25,600,000 円

(b) 計算過程 2022 年度の差額キャッシュフローは、① 税引後人件費削減額、② 減価償却費の差額による節税効果、③ 旧レジの除却損による節税効果の合計である。

  1. 税引後人件費削減額 2,500 万円 × (1 - 0.3) = 1,750 万円
  2. 減価償却費の差額による節税効果 (タックスシールド)
    • フルセルフレジ減価償却費: (210 万円 × 100 台) ÷ 6 年 = 3,500 万円
    • セミセルフレジ減価償却費: (100 万円 × 100 台) ÷ 5 年 = 2,000 万円
    • 節税効果: (3,500 万円 - 2,000 万円) × 0.3 = 450 万円
  3. セミセルフレジ除却損による節税効果 (タックスシールド)
    • 2022 年度期首簿価: (100 万円 × 100 台) ÷ 5 年 = 2,000 万円
    • 除却損: 簿価 2,000 万円 - (下取り額 8 万円 × 100 台) = 1,200 万円
    • 節税効果: 1,200 万円 × 0.3 = 360 万円
  4. 2022 年度キャッシュフロー合計 1,750 万円 + 450 万円 + 360 万円 = 2,560 万円

解説

  • 問題文の該当箇所

    「フルセルフレジへと更新することにより、D 社全体で人件費が毎年 2,500 万円削減される」 「フルセルフレジは...耐用年数 6 年、残存価額 0 円の定額法で処理する」 「現在使用中のセミセルフレジは...耐用年数 5 年、残存価額 0 円)されており、2022 年度期首に取り替える場合には耐用年数を 1 年残す」 「現在保有しているセミセルフレジは 1 台当たり 8 万円で下取りされ」 「利益に対する税率は 30 %」

  • 答案作成の根拠 取替投資の意思決定では、投資を実行した場合としなかった場合のキャッシュフローの**差額(増分)**を計算します。設問で問われている 2022 年度のキャッシュフローは、以下の 3 つの要素の合計から構成されます。

    1. 営業キャッシュフローの増分: 人件費削減という利益増の効果を、税引後の金額で算出します。
    2. 減価償却費のタックスシールド: 設備投資により減価償却費は変動します。フルセルフレジの減価償却費と、投資しなかった場合に計上されたはずのセミセルフレジ(旧)の減価償却費の差額に税率を乗じることで、税金支払額の変化(節税効果)を計算します。
    3. 固定資産除却損のタックスシールド: 旧設備(セミセルフレジ)を期首簿価より低い価格で売却(下取り)するため、会計上の損失が発生します。この損失は課税所得を減らすため、税金支払額を減少させる効果(節税効果)があります。
  • 使用した経営学の知識

    • 差額キャッシュフロー (Incremental Cash Flow): 投資プロジェクトの評価において、そのプロジェクトを実行することによって企業全体のキャッシュフローがどれだけ変化するか、という増分のみに着目する考え方です。
    • タックスシールド (Tax Shield): 減価償却費や除却損など、税法上損金として認められる費用項目が存在することにより、課税対象となる所得が減少し、結果として法人税の支払額が抑制される効果を指します。

(設問 2)

当該取替投資案の採否を現在価値法に従って判定せよ。計算過程も示して、計算結果とともに判定結果を答えよ。なお、割引率は 6 %であり、以下の現価係数を使用して計算すること。

年数1 年2 年3 年4 年5 年6 年
現価係数0.9430.8900.8400.7920.7470.705

回答例

【計算過程】 本投資案の採否は、正味現在価値(NPV)を算出して判定する。NPV は、投資によって生じる将来の差額キャッシュフローの現在価値合計から、差額初期投資額の現在価値合計を差し引いて計算する。

  1. 差額初期投資額の現在価値 (PV)

    • 2022 年度期首 (t=0) 支出: (210 万円 ×100 台) - (8 万円 ×100 台) = 20,200 万円
    • 2023 年度期首 (t=1) 支出回避 (収入扱い): 100 万円 ×100 台 = 10,000 万円
    • 差額初期投資額の PV = 20,200 万円 - (10,000 万円 × 0.943) = 10,770 万円
  2. 差額営業キャッシュフローの現在価値 (PV)

    • 1 年目(2022 年度): 2,560 万円 (設問 1 より)
    • 2 ~ 6 年目(2023 ~ 2027 年度): 税引後人件費削減 1,750 万円 + (フル減価償却費 3,500 万円 - 新セミ減価償却費 2,000 万円) × 0.3 = 2,200 万円
    • 営業 CF の PV = (2,560 万円 × 0.943) + (2,200 万円 × (0.890+0.840+0.792+0.747+0.705)) = 2,414.08 万円 + (2,200 万円 × 3.974) = 2,414.08 万円 + 8,742.8 万円 = 11,156.88 万円
  3. 正味現在価値 (NPV) の計算 NPV = 営業 CF の PV - 差額初期投資額の PV NPV = 11,156.88 万円 - 10,770 万円 = 386.88 万円

【判定結果】正味現在価値 (NPV) が 3,868,800 円となり正の値であるため、この取替投資案は採択すべきである。


解説

  • 答案作成の根拠 この投資意思決定は、「2022 年度にフルセルフレジへ更新する案」と、投資しない場合の「2023 年度にセミセルフレジへ更新する案(ベース案)」との比較です。現在価値法(NPV 法)では、この 2 つの案のキャッシュフローの差額を計算し、その現在価値の合計がプラスになるかどうかで採否を判断します。

    計算上の重要なポイントは、2022 年度にフルセルフレジへ投資することで、ベース案で発生したはずの「2023 年度期首のセミセルフレジへの 1 億円の投資」を回避できる点です。この回避される支出は、意思決定上、1 年後のキャッシュ・インフローとして扱われます。

    したがって、NPV は以下の差額キャッシュフローを現在価値に割り引いて計算します。

    • t=0: フルセルフレジへの正味投資額(支出)
    • t=1: 2022 年度の差額営業 CF(収入)+ 回避されるセミセルフレジ投資額(収入)
    • t=2 ~ 6: 2023 年度以降の差額営業 CF(収入)
  • 使用した経営学の知識

    • 正味現在価値法 (Net Present Value: NPV): プロジェクトが生み出す将来キャッシュフローの現在価値から、初期投資額の現在価値を差し引いた値。NPV がプラスであれば、その投資は企業の価値を高めるため採択すべきと判断されます。
    • 機会費用 (Opportunity Cost): ある選択をすることで失われる、他の選択肢を選んでいれば得られたはずの利益のこと。本問では、回避されるセミセルフレジへの投資額が機会費用(の節約)に該当します。

(設問 3)

当該取替投資案を検討する中で、D 社の主要顧客が高齢化していることやレジが有人であることのメリットなどが話題となり、フルセルフレジの普及を待って更新を行うべきとの意見があがった。今回購入予定のフルセルフレジを 1 年延期した場合の影響について調べたところ、使用期間が 1 年短くなってしまうものの基本的な性能に大きな陳腐化はなく、人件費の削減も同等の 2,500 万円が見込まれることが分かった。また、フルセルフレジの導入を遅らせることについて業者と交渉を行った結果、更新を 1 年遅らせた場合には現在保有するセミセルフレジの下取り価格が 0 円となるものの、フルセルフレジを値引きしてくれることになった。

取替投資を 1 年延期し 2023 年度期首に更新する場合、フルセルフレジが 1 台当たりいくら(付随費用込み)で購入できれば 1 年延期しない場合より有利になるか計算し、⒜ 欄に答えよ(単位:円)。なお、⒝ 欄には計算過程を示すこと。ただし、更新されるフルセルフレジは耐用年数 5 年、残存価額 0 円、定額法で減価償却する予定である。また、最終的な解答では小数点以下を切り捨てすること。

回答例

(a) 1,932,159 円

(b) 計算過程 1 年延期する案が有利になるのは、「延期案の NPV」が「即時実行案の NPV (386.88 万円)」を上回る場合である。値引き後のフルセルフレジの単価を X 万円とおき、延期案の NPV を X の式で表して不等式を解く。

  1. 1 年延期案の差額キャッシュフローと NPV の計算

    • t=1 (2023 年度期首) の差額投資額: フルセルフレジ投資額 (100X) - ベース案のセミセルフレジ投資額 (10,000 万円) = 100X - 10,000 万円

      この現在価値(PV) = (100X - 10,000) × 0.943 = 94.3X - 9,430 万円

    • t=2 ~ 6 (5 年間) の年間差額営業 CF: 耐用年数が 5 年になるため、減価償却費が変化する。

      • 税引後人件費削減: 1,750 万円

      • 減価償却費の差額タックスシールド: {(100X/5 年) - (10,000 万円/5 年)} × 0.3 = (20X - 2,000) × 0.3 = 6X - 600 万円

      • 年間 CF = 1,750 + (6X - 600) = 1,150 + 6X

        この現在価値(PV) = (1,150 + 6X) × (2 ~ 6 年目の現価係数合計 3.974) = 4,570.1 + 23.844X

    • 延期案の NPV: NPV(延期) = 営業 CF の PV - 投資額の PV

      NPV(延期) = (4,570.1 + 23.844X) - (94.3X - 9,430) = 14,000.1 - 70.456X

  2. 不等式を解く

    • NPV(延期) ≥ NPV(即時実行)

      14,000.1 - 70.456X ≥ 386.88

      13,613.22 ≥ 70.456X

      X ≦ 193.2159... (万円)

したがって、1 台あたり 1,932,159 円以下で購入できれば有利になる。


解説

  • 問題文の該当箇所

    「更新を 1 年遅らせた場合には現在保有するセミセルフレジの下取り価格が 0 円となる」 「更新されるフルセルフレジは耐用年数 5 年」

  • 答案作成の根拠 この設問は、「即時更新案」と「1 年延期更新案」のどちらが有利になるかの損益分岐点を求める問題です。有利になる条件は 「1 年延期案の NPV ≧ 即時更新案の NPV」 となります。設問 2 で計算した即時更新案の NPV (386.88 万円)を基準値とします。

    次に、求めるフルセルフレジの価格を未知数 X として、「1 年延期案」の NPV を X の数式で表現します。この際、即時案と比較して条件が変化する点(投資時期、下取り価格、耐用年数、減価償却費)を正確にキャッシュフロー計算に反映させる必要があります。

    最後に、作成した不等式 NPV(延期案) ≧ NPV(即時案) を解くことで、有利になるための価格 X の上限値を導き出します。

  • 使用した経営学の知識

    • 投資案の相互比較: 複数の代替的な投資案を評価する際、NPV などの共通の指標を用いて比較し、最も企業価値を高める案を選択します。
    • リアルオプション: 投資のタイミングを柔軟に選択できる権利を一種のオプション価値と捉える考え方です。本問は、投資を 1 年延期する(タイミングオプションを行使する)ことが、どれだけの価格メリットがあれば正当化されるかを計算しており、この考え方の基礎に触れるものです。

第 3 問(配点 20 点)

D 社は現在、新規事業として検討している魚種 X の養殖事業について短期の利益計画を策定している。 当該事業では、自治体からの補助金が活用されるため、事業を実施することによる D 社の費用は、水槽等の設備や水道光熱費、人件費のほか、稚魚の購入および餌代、薬剤などに限定される。D 社は当面スタートアップ期間として最大年間養殖量が 50,000 kg である水槽を設置することを計画しており、当該水槽で魚種 X を 50,000 kg 生産した場合の総経費は 3,000 万円である。また、この総経費に占める変動費の割合は 60 %、固定費の割合は 40 %と見積もられている。D 社がわが国における魚種 X の販売実績を調査したところ、 1 kg 当たり平均 1,200 円で販売されていることが分かった。

(設問 1 )

D 社は、当該事業をスタートするに当たり、年間 1,500 万円の利益を達成したいと考えている。この目標利益を達成するための年間販売数量を求めよ(単位:kg)。なお、魚種 X の 1 kg 当たり販売単価は 1,200 円とし、小数点以下を切り上げて解答すること。

32,143 (単位:kg)

解説

  • 問題文の該当箇所

    • 「総経費は 3,000 万円」「変動費の割合は 60 %、固定費の割合は 40 %」「1 kg 当たり平均 1,200 円で販売」「年間 1,500 万円の利益を達成したい」
  • 答案作成の根拠

    • CVP 分析(損益分岐点分析)を用いて、目標利益を達成するための売上高(販売数量)を計算する。
    1. 固定費(F): 30,000,000 円 × 40% = 12,000,000 円
    2. 変動費単価(v): (30,000,000 円 × 60%) ÷ 50,000 kg = 360 円/kg
    3. 販売単価(p): 1,200 円/kg
    4. 貢献利益単価: p - v = 1,200 円 - 360 円 = 840 円/kg
    5. 目標販売数量(Q)の計算:
      • (固定費 + 目標利益) ÷ 貢献利益単価 = Q
      • (12,000,000 円 + 15,000,000 円) ÷ 840 円/kg = 32,142.85... kg
    6. 小数点以下切り上げ: 32,143 kg
  • 使用した経営学の知識

    • CVP 分析(Cost-Volume-Profit Analysis): 費用(Cost)、販売量(Volume)、利益(Profit)の関係を分析する手法。目標利益達成売上高の算定は、その代表的な活用例の一つ。
    • 貢献利益: 売上高から変動費を差し引いた利益。固定費を回収し、事業の利益を生み出す源泉となる。

(設問 2 )

D 社は最適な養殖量を検討するため、D 社の顧客層に対して魚種 X の購買行動に関するマーケティングリサーチを行った。その結果、魚種 X の味については好評を得たものの魚種 X がわが国においてあまりなじみのないことから、それが必ずしも購買行動につながらないことが分かった。そこで D 社は魚種 X の販売に当たり、D 社の商圏においては販売数量に応じた適切な価格設定が重要であると判断し、下表のように目標販売数量に応じた魚種 X の 1 kg 当たり販売単価を設定することにした。

この販売計画のもとで、年間 1,500 万円の利益を達成するための年間販売数量を計算し、(a)欄に答えよ(単位:kg)。また、(b)欄には計算過程を示すこと。なお、最終的な解答では小数点以下を切り上げること。

表 魚種 X の販売計画

目標販売数量販売単価
0 kg ~ 20,000 kg 以下販売数量すべてを 1 kg 当たり 1,400 円で販売
20,000 kg 超~ 30,000 kg 以下販売数量すべてを 1 kg 当たり 1,240 円で販売
30,000 kg 超~ 40,000 kg 以下販売数量すべてを 1 kg 当たり 1,060 円で販売
40,000 kg 超~ 50,000 kg 以下販売数量すべてを 1 kg 当たり 860 円で販売

(a) 38,572 (単位:kg)

(b) 計算過程

目標利益 1,500 万円を達成するために必要な貢献利益の総額は、固定費 1,200 万円と合わせて 2,700 万円である。 目標販売数量を Q、販売単価を P とすると、以下の式が成り立つ。

貢献利益 = (P - 変動費単価) × Q 27,000,000 = (P - 360) × Q

この式を使い、各販売数量の区分ごとに Q を算出し、その Q が区分内の条件に適合するかを検証する。

  1. 区分 1(P = 1,400 円)

    • Q = 27,000,000 ÷ (1,400 - 360) = 25,961.5... kg
    • この数量は区分 1 の条件(20,000 kg 以下)を満たさないため、不適。
  2. 区分 2(P = 1,240 円)

    • Q = 27,000,000 ÷ (1,240 - 360) = 30,681.8... kg
    • この数量は区分 2 の条件(20,000 kg 超~ 30,000 kg 以下)を満たさないため、不適。
  3. 区分 3(P = 1,060 円)

    • Q = 27,000,000 ÷ (1,060 - 360) = 38,571.4... kg
    • この数量は区分 3 の条件(30,000 kg 超~ 40,000 kg 以下)を満たすため、適格
  4. 区分 4(P = 860 円)

    • Q = 27,000,000 ÷ (860 - 360) = 54,000 kg
    • この数量は区分 4 の条件(40,000 kg 超~ 50,000 kg 以下)を満たさないため、不適。

したがって、目標を達成する年間販売数量は 38,571.4... kg であり、小数点以下を切り上げて 38,572 kg となる。

解説

  • 問題文の該当箇所

    • 設問 1 の条件に加え、「表 魚種 X の販売計画」。
  • 答案作成の根拠

    • 販売数量によって販売単価が変動するため、どの価格帯で目標利益を達成できるかを試算する必要がある。
    • 設問 1 と同様に、目標利益を達成するために必要な「総貢献利益額」(固定費+目標利益)は 2,700 万円で不変。
    • 各価格帯の単価を「目標利益達成の公式」に代入して販売数量 Q を計算し、その結果算出された Q が、その価格帯が適用される販売数量の範囲内に収まっているかを確認する。
    • 条件を満たすものが、求めるべき販売数量となる。
  • 使用した経営学の知識

    • CVP 分析の応用: 需要と価格の関係(価格弾力性)を考慮した利益計画。販売価格が一定ではない場合の損益分岐点分析。

第 4 問(配点 20 点)

D 社は現在不採算事業となっている移動販売事業への対処として、当該事業を廃止しネット通販事業に一本化することを検討している。

(設問 1)

移動販売事業をネット通販事業に一本化することによる短期的なメリットについて、財務指標をあげながら 40 字以内で述べよ。

回答例(37 字)

不採算の移動販売事業を廃止することで、売上高販管費率が短期的に改善する点。

解説

  • 問題文の該当箇所

    • 「移動販売事業は人口減少や高齢化が進む中で現状として不採算事業となっている」

答案作成の根拠

  • 移動販売事業は「不採算」であり、この事業を廃止することで、赤字を生んでいた販管費が削減される。

  • 売上高は大きく変わらない一方で販管費が減少するため、売上高に対する販管費の比率(売上高販管費率)が短期的に改善する。

  • したがって、「財務指標をあげながら」という要求に応えるため、収益性指標の売上高販管費率を挙げることで、撤退による財務上のメリットを的確に説明できる。

  • 使用した経営学の知識

    • 事業ポートフォリオマネジメント (PPM): 企業が複数の事業を手掛けている場合に、各事業を評価し、経営資源の最適な配分を決定するフレームワーク。不採算事業からの撤退は、PPM における重要な戦略的選択肢の一つ。
    • 収益性分析: 事業撤退が企業全体の収益性に与える影響を評価する。

(設問 2)

D 社の経営陣は移動販売事業を継続することが必ずしも企業価値を低下させるとは考えていない。その理由を推測して 40 字以内で述べよ。

回答例(40 字)

高齢者の顧客接点を維持し、ブランド価値向上と他事業とのシナジーが期待できるため。

解説

  • 問題文の該当箇所

    • 「地元密着をセールスポイント」「まごころした経営スタイル」「地元への地域貢献」「顧客接点を拡大するため」「人口減少や高齢化が進む中で...店舗から自宅まで車で出向けることができない顧客を対象に」
  • 答案作成の根拠

    • 短期的な採算性(財務的価値)だけでなく、長期的な視点や非財務的な価値も考慮すると、事業継続の意義が見えてくる。
    • 顧客接点の維持: 移動販売は、高齢化が進む地域で、来店が困難な顧客(買い物弱者)との重要な接点となっている。
    • ブランド価値: 「地元密着」「地域貢献」を掲げる D 社にとって、移動販売は企業理念を体現する活動であり、企業の評判やブランドイメージを高める(非財務価値の向上)。
    • シナジー効果: 移動販売を通じて D 社へのロイヤルティが高まることで、他の事業(ネット通販やスーパー本体)の利用につながる可能性がある。
    • これらの非財務的な価値が、巡り巡って長期的な企業価値の維持・向上に貢献すると経営陣は考えていると推測できる。
  • 使用した経営学の知識

    • 企業価値: 企業の価値は、将来生み出すキャッシュフローの割引現在価値(財務的価値)だけで測られるものではなく、ブランド、顧客基盤、技術、組織文化といった無形の資産(非財務的価値)も含まれる。
    • CSR (企業の社会的責任): 企業が利益追求だけでなく、地域社会や環境への配慮といった社会的責任を果たすこと。移動販売は買い物弱者支援という CSR 活動の一環と捉えることができる。
    • シナジー効果: 事業間の相互作用によって、個々の事業が単独で活動するよりも大きな効果(1+1>2)が生まれること。

© 2024 AIで診断士二次試験 | All Rights Reserved