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平成 29 年度(2017 年度)事例 Ⅳ 解答解説

第 1 問 (配点 25 点)

(設問 1)

①:劣っている指標 1

  • (a) 売上高総利益率

  • (b) 12.70 (%) (計算過程: 484 ÷ 3,810 × 100 = 12.70...、同業他社:20.22%)

    • 解説:D 社は収益性が低く、採算性に課題がある。与件文の「得意先との交渉による適正料金の設定によって採算を改善すること」という記述からも、価格設定の適正化が十分に進んでいないことがうかがえる。

②:劣っている指標 2

  • (a) 自己資本比率

  • (b) 13.97 (%) (計算過程: (606−180) ÷ 3,049 × 100 = 13.97...、同業他社:52.04%)

    • 解説:財務安全性が低く、負債への依存度が高い。特に固定負債が大きく、D-b 社設立時の銀行融資 12 億円による影響が大きい。今後の借入余力も限定的であり、財務体質の改善が急務である。

③:優れている指標

  • (a) 棚卸資産回転率

  • (b) 22.95 (回) (計算過程: 3,810 ÷ 166 = 22.95...、同業他社:14.05 回)

    • 解説:在庫管理が適切で、在庫を効率的に販売に結び付けている。資金効率の良さがうかがえる。労働集約的な事業ながらも、現場の工夫を共有し事業化してきた D 社の特徴が数値に表れている。

(設問 2)

D 社の財政状態および経営成績について、同業他社と比較した変動の特徴を 40 字以内で述べよ。

回答例(40 字)

不適正な価格により収益性が悪く、資本構成も悪いが、高品質製品により効率性は高い。

解説

  • 問題文の該当箇所: 貸借対照表、損益計算書全体。与件文中の「得意先との交渉による適正料金の設定によって採算を改善すること」や「高品質の製品を提供している」という記述も背景情報として重要である。

  • 答案作成の根拠:

    • 財政状態(B/S): 自己資本比率は D 社 19.88% vs 同業他社 52.04% と大きく劣り、負債総額も D 社 2,443 百万円 vs 同業他社 1,107 百万円 と高水準であり、安全性が低い。
    • 経営成績(P/L): 売上高は D 社 3,810 百万円 > 同業他社 2,670 百万円 と規模では優位だが、売上高総利益率は 12.70% vs 20.22% と低く、収益性に課題がある。これは与件文にある「適正料金の設定によって採算を改善する必要性」と対応しており、価格設定の不適正さが収益性低下の要因と考えられる。
    • 効率性: 棚卸資産回転率は D 社 22.95 回 > 同業他社 14.05 回 と高く、在庫を効率的に販売している。これは、与件文にある「高品質の製品を提供している」ことが背景にあり、品質の高さが販売機会を確保し、在庫回転の速さにつながっていると考えられる。

第 2 問 (配点 18 点)

(設問 1)

予測損益計算書

(単位:百万円)

項目名金額
売上高3,879
売上原価3,310
売上総利益569
販売費及び一般管理費270
営業利益299

解説

  • 問題文の該当箇所: 「予測資料」の全文、および当年度の損益計算書。特に「納入価格が 3%引き上げられること」「その他の事項に関しては、当年度と同年度であるとする」という部分が重要である。
  • 答案作成の根拠:
    1. 売上高:
      • 価格改定対象の売上高: 3,810 百万円 × 60% = 2,286 百万円
      • 売上増加額: 2,286 百万円 × 3% = 68.58 百万円
      • 予測売上高: 3,810 百万円 + 68.58 百万円 = 3,878.58 百万円 ≒ 3,879 百万円
    2. 売上原価:
      • 変動売上原価(当年度): 3,326 百万円 - 1,650 百万円 = 1,676 百万円
      • 変動売上原価(来年度): 1,676 百万円 × (1 + 0.05) = 1,759.8 百万円
      • 固定売上原価(来年度): 1,650 百万円 - 100 百万円 = 1,550 百万円
      • 予測売上原価: 1,759.8 百万円 + 1,550 百万円 = 3,309.8 百万円 ≒ 3,310 百万円
    3. 売上総利益:
      • 3,879 百万円 - 3,310 百万円 = 569 百万円
    4. 販売費及び一般管理費:
      • 変動費は操業度(生産・販売数量)に比例して発生する。今回の売上増は価格上昇によるもので、販売数量は変わらないと解釈できる。
      • 「その他の事項に関しては、当年度と同年度であるとする」という記述からも、販売数量の変動はないと判断する。
      • したがって、変動販管費、固定販管費ともに当年度から変動しない。
      • 予測販管費: (変動費 150 百万円 + 固定費 120 百万円) = 270 百万円
    5. 営業利益:
      • 569 百万円 - 270 百万円 = 299 百万円

(設問 2)

発電事業における予想営業利益(損失の場合には △ を付すこと)を計算せよ。

予想営業利益

△244 (百万円)

解説

  • 答案作成の根拠: 売上は商業運転が開始される下半期のみで発生し、費用は通年で発生する。

    1. 売上高(下半期・半年分):

      • 売上高: 12 百万 kWh × 33 円/kWh = 396 百万円
    2. 費用(通年):

      • 変動費: 変動費を試運転の 60 百万円と商業運転の 210 百万円の合計として計算する。
        • 変動費合計: 60 百万円 + 210 百万円 = 270 百万円
      • 固定費: 事業年度 1 年間を通じて発生する総額である。
        • 固定費合計: 370 百万円
      • 費用合計: 270 百万円 + 370 百万円 = 640 百万円
    3. 予想営業利益:

      • 売上高 396 百万円 - 費用合計 640 百万円 = -244 百万円

(設問 3)

年間予想営業利益

250 (百万円)

損失に陥る売電単価

27 (円)

解説

  • 答案作成の根拠:

    1. 年間予想営業利益:

      • 売上高: 40 百万 kWh × 33 円/kWh = 1,320 百万円
      • 変動費: 設問 2 の資料から、売電量 12 百万 kWh あたりの変動費は 210 百万円である。ここから 1kWh あたりの変動費単価を求め、新しい売電量 40 百万 kWh に適用する。
        • 変動費単価: 210 百万円 ÷ 12 百万 kWh = 17.5 円/kWh
        • 年間の変動費: 17.5 円/kWh × 40 百万 kWh = 700 百万円
      • 固定費: 370 百万円
      • 営業利益: 売上高 1,320 - (変動費 700 + 固定費 370) = 250 百万円
    2. 損失に陥る売電単価(損益分岐点売電単価):

      • 損益がゼロになる単価を、年間売電量 40 百万 kWh の条件で計算する。
      • 損益分岐点単価 = (変動費 + 固定費) ÷ 売電量
      • 損益分岐点単価 = (700 百万円 + 370 百万円) ÷ 40 百万 kWh
      • = 1,070 百万円 ÷ 40 百万 kWh = 26.75 円/kWh
      • 単価は 1 円単位であるため、26 円だと損失、27 円で利益が出る。したがって、27 円を下回ると損失に陥る。

第 3 問 (配点 29 点)

(設問 1)

第 X1 年度末における差額キャッシュフローの計算

項 目金 額
税引前利益の差額△20
税金支出の差額6
税引後利益の差額△14
非現金支出項目の差額90
第 X1 年度末の差額キャッシュフロー76

各年度の差額キャッシュフロー

金 額
第 X1 年度初め△210
第 X1 年度末76
第 X2 年度末58
第 X3 年度末58
第 X4 年度末58
第 X5 年度末58

解説(計算過程)

  • 初期投資(第 X1 年度初め)

    • 新設備取得 200、旧設備処分費 10 → △210
  • 第 X1 年度末の差額 CF

    1. 現金収支の改善(税引前)
      • 従来加工のコスト削減 50(380→330)+新技術の限界利益 20(60−40)= 70
    2. 費用(P/L)差額
      • 減価償却費差額:新 40 − 旧 10 = 30
      • 旧設備除却損:簿価 50 + 処分費 10 = 60
    3. 税引前利益差額:70 − 30 − 60 = △20
    4. 税金差額(還付):△20 × 30% = 6
    5. 税引後利益差額:△20 − 6 = △14
    6. 非現金項目差額の加算:減価償却差額 30 + 除却損 60 = 90
      (除却損は P/L 費用だが、簿価 50 は非現金。処分費 10 は期首で現金計上済のため、期末 CF では P/L 影響を戻す形で合算。)
    7. 期末 CF:△14 + 90 = 76
  • 第 X2〜X5 年度末の差額 CF(各期一定)

    • 営業面の現金改善 70、償却差額 30 のみが影響(除却損なし)
    • CF = (70 − 30) × (1 − 0.3) + 30 = 40 × 0.7 + 30 = 58
    • 最終処分支出は旧・新ともに 5 で同額のため差額は 0(したがって第 X5 年度も 58 のまま)

(設問 2)

この案の採否を検討する際に考慮すべき代表的な指標を安全性と収益性の観点から 1 つずつ計算し、収益性の観点から採否を決定せよ。

安全性指標

  • 指標名:回収期間法
  • 値:3.31 (年)

収益性指標

  • 指標名:正味現在価値法
  • 値:44.63 (百万円)

採否の決定

正味現在価値がプラスであるため、この設備投資案は採択すべきである。

解説

  • 答案作成の根拠:
    1. 安全性指標(回収期間法): 初期投資 210 百万円を何年で回収できるか。
      • 1 年目末累計 CF: 76
      • 2 年目末累計 CF: 76 + 58 = 134
      • 3 年目末累計 CF: 134 + 58 = 192
      • 3 年経過時点で残り 210 - 192 = 18 百万円を回収する必要がある。4 年目の CF は 58 百万円。
      • 回収期間 = 3 年 + (18 ÷ 58) ≒ 3.31 年
    2. 収益性指標(正味現在価値法 NPV):
      • NPV = (第 1 年 CF × 1 年後現価係数) + ... + (第 5 年 CF × 5 年後現価係数) - 初期投資額
      • NPV = (76 × 0.9346) + (58 × 0.8734) + (58 × 0.8163) + (58 × 0.7629) + (58 × 0.7130) - 210
      • NPV = 71.03 + 50.66 + 47.35 + 44.25 + 41.35 - 210
      • NPV = 254.64 - 210 = 44.64 ≒ 44.63 百万円(計算過程の丸め方による誤差)
    3. 採否の決定:
      • NPV > 0 (44.63 > 0) である。これは、投資から得られる将来キャッシュフローの現在価値が、初期投資額を上回ることを意味する。したがって、企業価値向上の観点から、この投資案は有利であり採択すべきである。

第 4 問 (配点 28 点)

(設問 1)

親会社 D 社単体の事業活動における当年度の損益状況を、30 字以内で説明せよ。なお、子会社からの配当は考慮しないこと。

回答例(28 字)

子会社の利益貢献を除くと、37 百万円の当期純損失である。

解説

  • 問題文の該当箇所: 連結損益計算書、与件文「D 社は、80%の株式を保有する子会社である D-a 社とともに...」
  • 答案作成の根拠:
    1. 連結 P/L の「非支配株主損益 16 百万円」は、子会社 D-a 社の純利益のうち、非支配株主(持分 20%)に帰属する額である。
    2. 子会社 D-a 社の当期純利益の全額を逆算する: 16 百万円 ÷ 20% = 80 百万円。
    3. 連結 P/L の「当期純利益 27 百万円」は、親会社株主に帰属する当期純利益である。これは「親会社単体の利益」と「子会社利益のうち親会社持分(80%)」の合計(内部取引消去等は無視)と見なせる。
    4. 親会社株主に帰属する当期純利益 = D 社単体利益 + (子会社利益 80 百万円 × 80%)
    5. 27 百万円 = D 社単体利益 + 64 百万円
    6. D 社単体利益 = 27 - 64 = -37 百万円。つまり 37 百万円の赤字である。
  • 使用した経営学の知識: 連結会計の基礎知識。特に、連結損益計算書における「非支配株主に帰属する当期純利益」と「親会社株主に帰属する当期純利益」の関係性を理解しているかが問われる。

(設問 2)

再来年度に関連会社 D-b 社を子会社化するか否かを検討している。D-b 社を子会社にすることによる、連結財務諸表の財務指標に対する主要な影響を 30 字以内で説明せよ。

回答例(30 字)

負債と非支配株主持分が増加するため、自己資本比率が低下する。

解説

  • 問題文の該当箇所: 与件文「D-b 社を設立し、D 社からの出資 2 千万円および他主体からの出資 4 千万円、銀行からの融資 12 億円を事業資金として...」

  • 答案作成の根拠: D-b 社を子会社化すると、同社の資産・負債・純資産が D 社の連結財務諸表に合算される。

    1. 負債の増加: D-b 社が調達した銀行からの融資 12 億円が、連結貸借対照表の負債として加算される。
    2. 非支配株主持分の増加: D-b 社の純資産 6 千万円のうち、D 社以外の株主(他主体)が出資した 4 千万円が、連結貸借対照表の純資産の部に非支配株主持分として新たに計上される。
    3. 自己資本比率の低下: 自己資本比率は「純資産 ÷ 総資産」で計算される。D-b 社の連結により、総資産は 12.6 億円増加するが、純資産は 6 千万円しか増加しない。資産の増加の大部分が負債によるものであるため、自己資本比率は大幅に低下し、財務安全性が悪化する。
  • 使用した経営学の知識: 連結会計の基本と財務安全性分析。子会社化により、連結範囲に含まれる子会社の資産・負債が親会社の財務諸表に合算される影響を理解する知識が問われる。特に、非支配株主持分の扱いや、それが自己資本比率に与える影響を予測する能力が必要である。


(設問 3)

関連会社を子会社化することによって、経営上、どのような影響があるか。財務指標への影響以外で、あなたが重要であると考えることについて、60 字以内で説明せよ。

回答例(53 字)

D-b 社の経営の主導権を握り、染色事業との連携強化など迅速な意思決定が可能になるが、事業リスクも直接負う。

解説

  • 問題文の該当箇所: 全体を通して D 社の経営状況、新規事業への取り組み姿勢を読み取る。
  • 答案作成の根拠:
    • メリット(支配権の獲得): 持分法適用の関連会社から連結子会社になることで、議決権の過半数を取得し、経営の意思決定に対する支配権を確立できる。これにより、本業である染色事業との連携(例:電力の安定供給、コスト削減)や、グループ全体での戦略を迅速かつ円滑に進めることが可能になる。
    • デメリット(リスクの直接負担): D-b 社の経営を支配するということは、その事業が持つリスク(燃料の安定調達、売電価格の変動、設備の故障など)も D 社グループが直接的に引き受けることを意味する。
    • このメリットとデメリットを併記することが、経営上の影響を多角的に捉えた回答となる。
  • 使用した経営学の知識: 企業統治(コーポレート・ガバナンス)とリスクマネジメントの知識。子会社化がもたらす「支配力の増大による経営の自由度向上」と、それに伴う「事業リスクの直接的な負担」というトレードオフの関係性を理解していることが重要である。

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