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平成 30 年度(2018 年度)事例 Ⅱ 回答と解説

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第 1 問(配点 25 点)

設問文

B 社の現状について、3C(Customer:顧客、Competitor:競合、Company:自社)分析の観点から 150 字以内で述べよ。

回答例(148 字)

顧客はビジネス客が 8 割、インバウンド客が 2 割であり、前者は減少傾向である。競合は周辺に同じ種類の旅館はないが、駅前のビジネスホテルが存在する。自社は歴史や文化を感じさせる旅館の雰囲気や市街地中心部の立地、英語に堪能な従業員が強みだが、施設の老朽化やアクセスの悪さ、プロモーション不足が弱みである。

解説

  • 問題文の該当箇所

    • 「B 社の現状について、3C(Customer:顧客、Competitor:競合、Company:自社)分析の観点から 150 字以内で述べよ。」
  • 答案作成の根拠

    • 顧客 (Customer):現状の顧客は「昔なじみのビジネス客 8 割、インバウンド客 2 割」だが、なじみ客は「高齢化が進み、減少傾向にある」。一方で、X 市全体では「インバウンド客が急増している」にもかかわらず、B 社は「この需要を享受できていない状態だ」とある。ここから、主要顧客の衰退と、成長市場である観光客(特にインバウンド)を取り込めていないという課題が読み取れる。
    • 競合 (Competitor):「X 市市街地中心部には B 社以外に宿泊施設がない」。かつて存在した同業の旅館も「10 年以上前に閉鎖している」。駅前に「チェーン系ビジネスホテルが 2 軒」あるが、B 社は中心部に立地し、独自の価値を提供しているため、直接的な競合は不在と言える。
    • 自社 (Company)
      • 強み (Strengths):「約 150 年の歴史」「市街地中心部に立地」「文化の香りに満ちた雰囲気」「海外でも名の知られた作家や芸術家の美術品」「英語に堪能な従業員」など、有形・無形の資産が豊富である。
      • 弱み (Weaknesses):「築 45 年」の宿泊棟や「手を加えていない」客室など施設の老朽化、「夕食は提供していない」、「たいしたプロモーション活動を行う必要性がなかった」、「最寄り駅から距離のある」アクセスの悪さなどが挙げられる。
  • 使用した経営学の知識

    • 3C 分析: 経営戦略の立案において、外部環境である「顧客 (Customer)」「競合 (Competitor)」と、内部環境である「自社 (Company)」の 3 つの観点から現状を分析するフレームワーク。本設問では、このフレームワークに沿って B 社の置かれた状況を整理・分析する能力が問われている。

第 2 問(配点 25 点)

設問文

B 社は今後、新規宿泊客を増加させたいと考えている。そこで、B 社のホームページや旅行サイトに B 社の建物の外観や館内設備に関する情報を掲載したが、反応がいまひとつであった。B 社はどのような自社情報を新たに掲載することによって、閲覧者の好意的な反応を獲得できるか。今後のメインターゲット層を明確にして、100 字以内で述べよ。

回答例(93 字)

メインターゲットは和の風情を求めるインバウンド客。作家を紹介しつつ芸術品や苔むした庭園、市街地中心部の立地、英語対応、日本の朝食を掲載し、当館ならではの深い文化体験と滞在価値を訴求する。

解説

  • 問題文の該当箇所

    • 「B 社はどのような自社情報を新たに掲載することによって、閲覧者の好意的な反応を獲得できるか。今後のメインターゲット層を明確にして、100 字以内で述べよ。」
  • 答案作成の根拠 本回答は、与件文に示された B 社の「弱み」ではなく「強み」に焦点を当て、最も有望な顧客層に訴求する戦略を具体化したものである。

    1. ターゲットの明確化: 与件文には「和の風情を求めるインバウンド客が急増している」とあり、B 社の持つ歴史的・文化的雰囲気と合致するため、これをメインターゲットと設定するのが最も合理的である。

    2. 訴求内容の転換: 「建物の外観や館内設備」は「築 45 年」「客室には基本的にずっと手を加えていない」という記述から B 社の弱みであり、これを訴求しても反応が薄いのは当然である。そこで、以下の与件文から読み取れるB 社ならではの強みを網羅的に訴求内容とする。

      • 芸術品・庭園・作家の紹介: 「海外でも名の知られた作家や芸術家もいる」美術品や「和の風情がある苔むした庭園」は、ターゲットに響く強力な文化的資産である。作家の背景を紹介することで物語性が生まれ、魅力が深まる。
      • 市街地中心の立地: 「官公庁街、名刹・古刹、商業地域」の「中央に立地し、これらのエリアはいずれも徒歩圏内」である点は、観光客にとって明確な利便性となる。
      • 英語対応: 「英語に堪能な従業員」の存在は、インバウンド客の言語的な不安を解消し、安心感を与える重要なサービス要素である。
      • 日本を感じさせる朝食: 「日本の朝を感じられる献立に切り替え、器にもこだわってみたところ、多くの宿泊客から喜びの声が聞かれた」とあり、これは既に成功が実証されている価値である。

    これらの要素を組み合わせることで、単なる宿泊施設ではなく、「深い文化体験」という付加価値を提供できる点をアピールする。

  • 使用した経営学の知識

    • SWOT 分析: 自社の弱み(Weaknesses:老朽化した設備)の訴求をやめ、機会(Opportunities:インバウンド客の増加)を捉えるために、自社の強み(Strengths:文化的資産、立地、人的資源、実績のある朝食)を最大限に活用する戦略的思考が基礎となる。
    • ターゲティング: 市場の中から最も自社の強みが活かせる顧客セグメント(和の風情を求めるインバウンド客)を選定し、経営資源を集中させる考え方である。効果的なプロモーションの前提となる。
    • 経験価値マーケティング: 施設や機能といった物理的価値ではなく、美術品鑑賞や日本らしい朝食といった「経験」を通じて得られる情緒的・感覚的な価値を訴求するアプローチである。これにより、競合との差別化を図り、顧客の心に残る独自のブランドイメージを構築することが可能となる。

第 3 問(配点 25 点)

設問文

B 社は、宿泊客のインターネット上での好意的なクチコミをより多く誘発するために、おもてなしの一環として、従業員と宿泊客との交流を促進したいと考えている。B 社は、従業員を通じてどのような交流を行うべきか、100 字以内で述べよ。

回答例(100 字)

英語に堪能な従業員が館内美術品を解説する。また、徒歩圏内の名刹や SNS 映えする店舗、祭りの見どころなど地域の楽しみ方を宿泊客のニーズに合わせて個別に提案し、感想の投稿を促し、好意的な口コミを誘発する。

解説

  • 問題文の該当箇所

    • 「B 社は、宿泊客のインターネット上での好意的なクチコミをより多く誘発するために、おもてなしの一環として、従業員と宿泊客との交流を促進したいと考えている。B 社は、従業員を通じてどのような交流を行うべきか、100 字以内で述べよ。」
  • 答案作成の根拠 本回答は、設問で要求されている「好意的なクチコミの誘発」という目的を達成するため、B 社の持つ資源を活用した従業員と宿泊客との具体的な交流方法を提示したものである。特に、現代の口コミの主要な舞台である SNS への投稿を促す狙いを明確にしている。

    1. B 社独自の体験価値の提供: B 社には「英語に堪能な従業員」と、「海外でも名の知られた作家や芸術家による美術品」という独自の資源が存在する。これらを組み合わせ、従業員が美術品やその背景にある物語を解説することは、他では得難い特別な体験となり、顧客満足度を大きく向上させる。この満足が好意的な口コミの源泉となる。

    2. SNS 投稿への積極的な誘導: 与件文には、X 市に「写真映えし、SNS 投稿に向く」食べ物や街並みがあると記されている。従業員がこうした外部の魅力を熟知し、「SNS 映えする名所や店舗」として積極的に紹介することが重要である。個別に提案することで、パーソナルなおもてなしを演出し、宿泊客の感動を深める。

    3. クチコミの誘発: 満足度の高い体験を提供した上で、「感想の投稿を促す」という働きかけは、潜在的な口コミを顕在化させる上で効果的である。従業員との人間的な交流を通じて生まれた好意的な感情が、熱量の高い写真付きの SNS 投稿につながり、インターネット上で拡散されることが期待できる。

  • 使用した経営学の知識

    • 口コミ・マーケティング (WOM Marketing): 顧客による自発的な推奨や評判の拡散を狙うマーケティング手法である。本施策は、満足度の高い体験を提供し、かつ SNS 投稿という具体的なアクションを促すことで、インターネット上の好意的な口コミ(eWOM: electronic Word-of-Mouth)を戦略的に創出することを目的としている。
    • サービス・マーケティング: サービスの品質は、従業員と顧客が接する瞬間(サービス・エンカウンター)に大きく左右される。本回答の施策は、従業員の専門知識(美術品解説)と対話能力(個別案内)によってこの接点の質を最大化し、顧客満足とロイヤルティを高めるものである。
    • 経験価値マーケティング: 宿泊という機能的価値に加え、美術品鑑賞や地域探索といった情緒的・感覚的な「経験価値」を提供する考え方である。記憶に残り、誰かに話したくなるような経験を提供することが、SNS での共有を促進する上で不可欠となる。

第 4 問(配点 25 点)

設問文

B 社は、X 市の夜の活気を取り込んで、B 社への宿泊需要を生み出したいと考えている。B 社はどのような施策を行うべきか、100 字以内で述べよ。

回答例(94 字)

提携する割烹料理店など、夜の街を楽しめる飲食店で使えるクーポン券を宿泊客に提供する。また、それらの店舗には B 社のチラシを置いてもらい、夜の観光客を宿泊につなげる相互送客の仕組みを構築する。

解説

第 4 問(解説)

  • 問題文の該当箇所

    • 「B 社は、X 市の夜の活気を取り込んで、B 社への宿泊需要を生み出したいと考えている。B 社はどのような施策を行うべきか、100 字以内で述べよ。」
  • 答案作成の根拠 本回答は、設問の趣旨である「X 市の夜の活気を取り込む」ことを、自社に閉じず、地域全体との連携によって実現する施策を提示したものである。B 社の経営資源や地域の状況を踏まえ、実現可能性の高い具体的な方法を提案している。

    1. 外部資源の活用と連携: 与件文には「夜間の滞在人口は増加傾向にある」とあり、これは主に市街地の飲食店やライトアップされた名刹などが生み出す「夜の活気」である。B 社単独で夜の魅力を創出するのではなく、既に存在する地域の魅力を活用することが合理的である。特に「すぐそばにある地元の割烹料理店」との既存の関係は、連携の足がかりとして最適である。

    2. 宿泊客へのインセンティブ提供: 宿泊客に「クーポン券」を提供することは、夜の街へ出かける直接的な動機付けとなる。これにより、宿泊客は地域の飲食店で食事を楽しむという「コト消費」を体験でき、滞在満足度の向上につながる。これは、夕食を提供しないという B 社の弱みを、地域の魅力を体験させる機会へと転換する施策でもある。

    3. 相互送客による宿泊需要の創出: 施策を一方的な顧客紹介で終わらせず、「B 社のチラシを置いてもらう」ことで、双方向の送客、すなわち相互送客の仕組みを構築することが重要である。これにより、地域の飲食店を訪れた夜の観光客に対して B 社の存在を認知させ、新たな宿泊需要を掘り起こすことが可能となる。これは、プロモーション不足という B 社の課題を、地域連携によって補う有効な手段である。

  • 使用した経営学の知識

    • 地域連携マーケティング (エリア・マーケティング): 自社だけでなく、地域全体を一つの魅力的なエリアとして捉え、地域の事業者と連携して集客力やブランド価値を高めていくマーケティング手法である。本施策は、地域の飲食店と連携し、互いの顧客を送り合うことで地域経済の活性化と自社の売上向上を両立させる、その典型例といえる。
    • Win-Win の関係構築: B 社は宿泊客に付加価値を提供でき、提携飲食店は新規顧客を獲得できる。この協力関係は、双方に利益をもたらす「Win-Win」の関係であり、持続可能な連携の基礎となる。
    • クロスセル: 宿泊というメインのサービスに、地域の飲食という関連サービスを組み合わせて提案する手法である。顧客単価の向上ではなく、顧客満足度の向上と、新たな顧客接点の創出を目的としている。

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