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平成 26 年度(2014 年度)事例 Ⅳ 回答と解説
第 1 問(配点 24 点)
設問文
D 社の貸借対照表、損益計算書と同業他社の貸借対照表、損益計算書を比較して、D 社が優れていると判断できる財務指標を 1 つ、財務上の課題となる財務指標を 2 つ、名称(a)とその数値(b)(単位を明記し、小数点第 3 位を四捨五入すること)を示し、そこから読み取れる D 社の財政状態および経営成績(c)についてそれぞれ 30 字以内で述べよ。
なお、優れている指標については ① の欄に、課題となる指標については ②、③ の欄に、それぞれ記入すること。
回答例
(a) 指標の名称 | (b) 指標の数値 | (c) 財政状態および経営成績(30 字以内) | |
---|---|---|---|
① | 売上高総利益率 | 72.0 % | 効率的な生産体制により、高い粗利益率を確保している。 |
② | 有形固定資産回転率 | 1.11 回 | 店舗等の有形固定資産を売上に有効活用できていない状況にある。 |
③ | 自己資本比率 | 16.7 % | 借入金への依存度が高く、財務基盤が脆弱で安全性が低い状態。 |
解説
① 優れている指標
- 問題文の該当箇所: 与件文「同時期にセントラルキッチン方式を導入し、自社工場を保有している。」、貸借対照表、損益計算書全体
- 答案作成の根拠:
- D 社の売上高総利益率:売上総利益 720,000 千円 ÷ 売上高 1,000,000 千円 = 72.0%
- 同業他社の売上高総利益率:売上総利益 1,050,000 千円 ÷ 売上高 1,500,000 千円 = 70.0% D 社は同業他社に比べて売上高総利益率が 2.0 ポイント高く、売上原価を低く抑えることに成功していると判断できます。これは、与件文にある「セントラルキッチン方式」の導入により、食材の集中仕入れや計画生産による原価管理が効率的に機能している結果であると強く推測されます。
- 使用した経営学の知識: 収益性分析 売上高総利益率(粗利益率)は、売上高から売上原価を差し引いた売上総利益が、売上高に対してどれくらいの割合を占めるかを示す指標です。この比率が高いほど、提供する商品やサービスの付加価値が高いことや、原価管理能力に優れていることを意味し、企業の基本的な収益力を測る上で重要な指標となります。
② 課題となる指標
- 問題文の該当箇所: 与件文「店舗の多くは…客足が落ちてきているのが悩みである」、貸借対照表、損益計算書
- 答案作成の根拠:
- D 社の有形固定資産回転率:売上高 1,000,000 千円 ÷ 有形固定資産 900,000 千円 = 1.11 回
- 同業他社の有形固定資産回転率:売上高 1,500,000 千円 ÷ 有形固定資産 900,000 千円 = 1.67 回 D 社は同業他社より有形固定資産回転率が低く、店舗や工場設備などの資産を売上につなげる効率が悪いことを示唆している。与件文にある「客足が落ちてきている」既存店舗の存在が、この指標の低さの要因と推測される。
- 使用した経営学の知識: 効率性分析 有形固定資産回転率は、売上高を有形固定資産で割って算出され、企業が保有する有形固定資産をどれだけ効率的に活用して売上を生み出しているかを示す。この率が低い場合、資産への過剰投資や資産の非効率な利用が考えられる。
③ 課題となる指標
- 問題文の該当箇所: 貸借対照表
- 答案作成の根拠:
- D 社の自己資本比率:純資産 200,000 千円 ÷ 総資産 1,200,000 千円 = 16.7%
- 同業他社の自己資本比率:純資産 510,000 千円 ÷ 総資産 1,450,000 千円 = 35.2% D 社の自己資本比率は同業他社の半分以下であり、総資本に占める返済不要な自己資本の割合が極めて低い。これは短期・長期の借入金が多いことに起因しており、財務の安定性が低く、金利変動などの外部環境の変化に弱い脆弱な財政状態であることを示している。
- 使用した経営学の知識: 安全性分析 自己資本比率は、総資本に対する自己資本の割合を示す指標で、企業の財務安全性を測る代表的な指標である。この比率が高いほど借入金への依存度が低く、倒産しにくい安定した経営であると評価される。
第 2 問(配点 30 点)
D 社の店舗の平成 26 年度における予想損益計算書は以下のとおりである。売上原価は売上高に比例している。設備備品の償却は定額法(取得原価 1,000 万円、残存価額ゼロ、耐用年数 5 年)で行われており、平成 27 年度期末で償却が終了し、改装のため取り替える予定である。しかし、この店舗の最寄駅では、平成 27 年 4 月 1 日の完成に向けて再開発が進んでおり、これに合わせて改装を早める提案がある。
ある店舗の平成 26 年度予想損益計算書
(単位:千円)
売上高 | 42,000 |
売上原価 | 10,500 |
売上総利益 | 31,500 |
販売費・一般管理費 | 31,000 |
人件費 | 19,500 |
店舗賃借料 | 3,000 |
その他経費 | 6,500 |
減価償却費 | 2,000 |
営業利益 | 500 |
改装する場合、再開発イメージに合わせた改装やインターネット環境などの充実のため、1,500 万円の設備投資額が見込まれている。設備投資は期間 5 年の定額法(残存価額ゼロ)で償却される予定である。改装した場合は、販売費・一般管理費のうちその他経費が、平成 26 年度よりも 10%増加すると見込まれている。
平成 26 年度期末に改装した場合、駅前の再開発との相乗効果により今後 5 年間の売上は平成 26 年度よりも 10%増加すると見込まれている。一方、改装を平成 27 年度期末に行う場合、相乗効果が得られないため、平成 27 年度の売上は平成 26 年度より 5%増加し、平成 28 年度以降の 4 年間は平成 26 年度より 10%の増加が見込まれている。
なお、再開発に合わせた改装を行う場合、現在の設備備品は平成 26 年度期末の帳簿価額で翌年度期首に除却されるものとする。 下記の設問に答えよ。
(設問 1)
平成 26 年度期末に改装した場合(a)と、平成 27 年度期末に改装した場合(b)について、それぞれの平成 27 年度の予想税引後キャッシュフローを求めよ。ただし、運転資本の増減はなく、法人税率は 40%とする。
回答例
(a) 5,000 千円
(b) 3,245 千円
解説
問題文の該当箇所: 第 2 問の設問文全体
答案作成の根拠: キャッシュフローは以下の計算式で求める。 CF = (売上高 - 売上原価 - 販管費(減価償却費除く)) × (1 - 税率) + 減価償却費 × 税率 + 除却損 × 税率 または、 CF = 税引後利益 + 減価償却費
前提条件:
- 売上原価率 = 10,500 ÷ 42,000 = 25%
- 旧設備の H26 年度期末帳簿価額(除却損)= 取得原価 10,000 - 減価償却累計額 (2,000 × 4 年) = 2,000 千円
(a) 平成 26 年度期末に改装した場合
- 売上高 = 42,000 × 1.1 = 46,200
- 売上原価 = 46,200 × 0.25 = 11,550
- その他経費 = 6,500 × 1.1 = 7,150
- 新設備の減価償却費 = 15,000 ÷ 5 = 3,000
- 税引前利益 = 46,200 - 11,550 - (19,500 + 3,000 + 7,150) - 3,000(新償却費) - 2,000(除却損) = 0
- 税金 = 0 × 0.4 = 0
- 税引後キャッシュフロー = (46,200 - 11,550 - 29,650) × (1 - 0.4) + (3,000 + 2,000) × 0.4 = 5,000 × 0.6 + 5,000 × 0.4 = 3,000 + 2,000 = 5,000 千円
(b) 平成 27 年度期末に改装した場合
- 売上高 = 42,000 × 1.05 = 44,100
- 売上原価 = 44,100 × 0.25 = 11,025
- その他経費 = 6,500 (変動なし)
- 旧設備の減価償却費 = 2,000 (最終年度)
- 税引前利益 = 44,100 - 11,025 - (19,500 + 3,000 + 6,500) - 2,000 = 2,075
- 税金 = 2,075 × 0.4 = 830
- 税引後利益 = 2,075 - 830 = 1,245
- 税引後キャッシュフロー = 税引後利益 1,245 + 減価償却費 2,000 = 3,245 千円
使用した経営学の知識: キャッシュフロー計算 設備投資の意思決定では、会計上の利益ではなく、キャッシュフロー(現金の出入り)を基準に判断する。キャッシュフローの計算では、非現金支出費用である減価償却費や除却損を税金計算上は費用として計上し(タックスシールド効果)、税引後利益に足し戻すことが重要である。
(設問 2)
平成 27 年度から平成 31 年度までの 5 年間における予想税引後キャッシュフローの正味現在価値を計算し、駅前の再開発完成に合わせて平成 26 年度期末に改装するか、予定どおり平成 27 年度期末の償却が終わるのを待ち平成 27 年度期末に改装するかを判断せよ。
ただし、運転資本の増減はなく、法人税率は 40%、資本コストは 5%とする(計算には以下に示す現価係数を用いよ)。
現価係数表
年 | |
---|---|
1 | 0.95 |
2 | 0.91 |
3 | 0.86 |
4 | 0.82 |
5 | 0.78 |
回答例
(a) 26 年度末改装の NPV は 3,904 千円、(b) 27 年度末改装の NPV は 5,326.75 千円となる。(b) > (a) のため、正味現在価値が大きい平成 27 年度期末に改装すべきである。
解説
問題文の該当箇所: 第 2 問の設問文全体
答案作成の根拠: 各案の正味現在価値(NPV)を比較し、より大きい方を選択する。(b)案では、5 年間の分析期間終了時に設備の帳簿価額が残るため、これを最終年度のキャッシュフローとして考慮する必要がある。
【(a) 平成 26 年度期末に改装】 この案では、設備の耐用年数(5 年)と分析期間(5 年)が一致するため、最終年度の残存価額は 0 と考える。計算は以下の通りである。
- 初期投資額 = 15,000
- CF (1 年目) = 5,000
- CF (2 ~ 5 年目) = 4,200
- NPV(a) = - 15,000 + (5,000×0.95) + 4,200× ( 0.91 + 0.86 + 0.82 + 0.78)
- = - 15,000 + 4,750 + 14154 = 3,904 千円
【(b) 平成 27 年度期末に改装】 この案では、分析期間終了時点(平成 31 年度末)で、設備は 4 年間しか使用されていない。そのため、1 年分の帳簿価額が残存価額として最終年度のキャッシュフローに加算される。
- 初期投資額 = 15,000 (1 年後)
- CF (1 年目) = 3,245
- CF (2 ~ 5 年目) = 4,200
- 最終年度(5 年目)のターミナルキャッシュフロー:
- 残存簿価 = 取得原価 15,000 - 減価償却費 (3,000 × 4 年) = 3,000 千円
- (売却を簿価で行うと仮定するため売却損益は発生せず、税効果はない)
- NPV(b) の計算:
- NPV(b) = - (投資額 × 0.95) + (CF1 年目 × 0.95) + CF2-5 年目 × ( 0.91 + 0.86 + 0.82 + 0.78) + 残存価額 × 0.78
- = - (15,000 × 0.95) + (3,245 × 0.95) + 4,200 × ( 0.91 + 0.86 + 0.82 + 0.78) + 3,000 × 0.78
- = - 14,250 + 3,082.75 + 14154 + 2340 = 5,326.75 千円
判断: NPV(a) 3,904 千円 < NPV(b) 5,326.75 千円。よって、NPV が大きい(b)案、つまり平成 27 年度期末に改装する案を採用すべきである。
使用した経営学の知識: 正味現在価値(NPV)法とターミナルバリュー NPV 法は投資評価の基本であるが、プロジェクトの分析期間と投資資産の耐用年数が異なる場合、分析期間終了時点での資産価値(ターミナルバリューまたは残存価額)を最終年度のキャッシュフローとして算入することが重要である。これにより、分析期間以降に残された資産価値を評価に反映させ、より正確な意思決定が可能となる。
第 3 問(配点 30 点)
D 社のセントラルキッチン部門における、人気商品 X, Y, Z のロット単位当たり原価情報等は以下の資料のとおりである。生産はロット単位で行われている。生産したものはすべて販売可能であり、期首・期末の仕掛品などはないものとする。 下記の設問に答えよ。
資料
X | Y | Z | |
---|---|---|---|
販売単価 | 5,300 円 | 5,000 円 | 5,500 円 |
変動費 | 1,500 円 | 1,400 円 | 1,650 円 |
直接作業時間 | 0.4 時間 | 0.6 時間 | 0.5 時間 |
個別固定費 | 18,000,000 円 | 17,000,000 円 | 17,000,000 円 |
共通固定費 | 15,000,000 円 |
(設問 1)
現状における X, Y, Z それぞれの限界利益率を求めよ(単位を明記し、小数点第 3 位を四捨五入すること)。
回答例
X: 71.7 %Y: 72.0 %Z: 70.0 %
解説
問題文の該当箇所: 第 3 問の資料
答案作成の根拠: 限界利益および限界利益率は以下の計算式で求める。
限界利益 = 販売単価 - 変動費
限界利益率 = (限界利益 ÷ 販売単価) × 100
X:
- 限界利益 = 5,300 - 1,500 = 3,800 円
- 限界利益率 = 3,800 ÷ 5,300 ≒ 0.7169 → 71.7 %
Y:
- 限界利益 = 5,000 - 1,400 = 3,600 円
- 限界利益率 = 3,600 ÷ 5,000 = 0.72 → 72.0 %
Z:
- 限界利益 = 5,500 - 1,650 = 3,850 円
- 限界利益率 = 3,850 ÷ 5,500 = 0.7 → 70.0 %
使用した経営学の知識: CVP 分析(限界利益分析) 限界利益は、売上高から変動費を差し引いたもので、固定費の回収と利益の源泉となる。限界利益率は、売上高に占める限界利益の割合であり、製品の収益性を評価する指標となる。
(設問 2)
平成 27 年度の需要予測が X, Y, Z の順で、10,000、8,000、4,000(それぞれロット数)と予想されている。平成 27 年度の工場における最大直接作業時間が年間 9,600 時間とした時、営業利益を最大化する X, Y, Z の生産量の構成比と、その求め方を述べよ。
回答例
X, Y, Z の生産量の構成比
X, Y, Z の生産量の構成比は 10000:8000:0 である。求め方
製品 Z を 4,000 ロット生産しても個別固定費を回収できず赤字となるため生産を中止する。次に、残った X と Y を時間当たり限界利益の高い順に、それぞれの需要上限まで生産する。
解説
問題文の該当箇所: 第 3 問の資料および設問 2 の文章
答案作成の根拠: 営業利益の最大化を目指すには、2 段階のステップで意思決定を行う必要がある。
ステップ 1:製品ラインの採算性分析(セグメント利益分析) まず、希少な生産時間(直接作業時間)を配分する前に、各製品がそれ自身の個別固定費を回収できるかを確認する。需要予測数量を生産した場合の、製品ごとの限界利益合計と個別固定費を比較する。
- X の採算性: (限界利益 3,800 円 × 10,000 ロット) - 個別固定費 18,000,000 円 = +20,000,000 円
- Y の採算性: (限界利益 3,600 円 × 8,000 ロット) - 個別固定費 17,000,000 円 = +11,800,000 円
- Z の採算性: (限界利益 3,850 円 × 4,000 ロット) - 個別固定費 17,000,000 円 = -1,600,000 円 📉
この分析により、製品 Z は需要を全て満たしても 160 万円の赤字となることが判明する。したがって、Z の生産は中止すべきである。
ステップ 2:制約条件下での最適プロダクトミックス Z の生産を中止し、年間最大直接作業時間 9,600 時間を、採算の取れる X と Y に割り振る。時間当たり限界利益は X (9,500 円/h) > Y (6,000 円/h) であるため、X を優先して生産する。
- X を生産: 需要上限の10,000 ロットを生産する。
- 所要時間: 10,000 ロット × 0.4 時間 = 4,000 時間
- 残り時間: 9,600 時間 - 4,000 時間 = 5,600 時間
- Y を生産: 残りの 5,600 時間で Y を生産する。
- 生産可能量は 5,600 時間 ÷ 0.6 時間/ロット = 9,333 ロットであり、Y の需要 8,000 ロットを十分に満たせる。そのため、需要上限の8,000 ロットを生産する。
最適生産量と構成比: 以上の結果から、最適な生産量は X = 10,000 ロット、Y = 8,000 ロット、Z = 0 ロット となる。 よって、生産量の構成比は 10000:8000:0 である。
使用した経営学の知識: セグメント利益分析と制約条件下の最適プロダクトミックス 📊 この問題では、まず各製品ライン(セグメント)が、それ自身の管理可能なコスト(変動費と個別固定費)をカバーして利益を生み出せるかを評価するセグメント利益分析が不可欠である。この段階で赤字となる事業は、原則として撤退を検討する。その上で、残った採算性の高い事業に対し、社内の希少な経営資源(制約条件)を最も効率的に配分する、という意思決定プロセスが求められる。
(設問 3)
設問 2 の条件に加え、商品 X と Z に販売促進費として、それぞれ 50 万円を追加すると、平成 27 年度の需要は X がさらに 10%増加、Z が 25%増加するとの予測に基づく提案がある。この提案を受け入れた場合の最適な X, Y, Z の生産量の構成比を求め(a)、この提案に対する意見を述べよ(b)。
回答例
(a) 最適な生産量の構成比は、X:11000、Y:0、Z:5000 となる。
(b) この提案は採用すべきではない。理由は、提案を受け入れた場合の営業利益が 10,050,000 円となり、現状(16,800,000 円)よりも大幅に減少するためである。
解説
答案作成の根拠: この問題は単に時間当たり限界利益だけで判断するのではなく、提案を受け入れた結果、各製品の採算性がどう変化するかを検証する必要がある。
(a) 最適な生産量の構成比の求め方
販促後の需要と時間当たり限界利益の確認
- 販促後の需要: X=11,000, Y=8,000, Z=5,000
- 時間当たり限界利益の優先順位: ①X (9,500 円/h) > ②Z (7,700 円/h) > ③Y (6,000 円/h)
制約時間(9,600h)の一次配分
- X に配分: 11,000 ロット × 0.4h = 4,400 時間 (残り: 5,200h)
- Z に配分: 5,000 ロット × 0.5h = 2,500 時間 (残り: 2,700h)
- Y に配分: 残り 2,700 時間で生産 → 2,700h ÷ 0.6h/ロット = 4,500 ロット
配分後の採算性検証(セグメント利益分析) この時点で、Y の生産量は需要上限の 8,000 から 4,500 に減少している。この生産量で Y の個別固定費を回収できるか検証する。
- Y のセグメント利益: (限界利益 3,600 円 × 4,500 ロット) - 個別固定費 17,000,000 円 = 16,200,000 円 - 17,000,000 円 = -800,000 円
- Y は単体で赤字となるため、生産ラインナップから外すべきである。
最終的な生産計画の策定 Y の生産を中止し、9,600 時間を採算の取れる X と Z に再配分する。
- X の需要: 11,000 ロット (所要時間 4,400h)
- Z の需要: 5,000 ロット (所要時間 2,500h)
- 合計所要時間: 4,400h + 2,500h = 6,900h < 9,600h
- 両製品とも需要上限まで生産可能である。
- よって、最終的な生産構成比は X:11000、Y:0、Z:5000 となる。
(b) 提案に対する意見(営業利益の比較)
提案の採否を判断するため、提案を受け入れない場合(設問 2 の最適解)と、受け入れた場合(上記(a)の解)の営業利益を比較する。
提案を受け入れない場合(現状の最適利益)
- 生産構成: X=10,000, Y=8,000, Z=0
- 限界利益合計: (3,800×10,000) + (3,600×8,000) = 66,800,000
- 固定費合計: (個別固定費 18M+17M) + (共通固定費 15M) = 50,000,000
- 営業利益 ①: 66,800,000 - 50,000,000 = 16,800,000 円
提案を受け入れた場合
- 生産構成: X=11,000, Y=0, Z=5,000
- 限界利益合計: (3,800×11,000) + (3,850×5,000) = 61,050,000
- 固定費合計: (個別固定費 18M+17M) + (共通固定費 15M) + (販促費 1M) = 51,000,000
- 営業利益 ②: 61,050,000 - 51,000,000 = 10,050,000 円
結論: 営業利益が 16,800,000 円 から 10,050,000 円 へと 6,750,000 円減少するため、この販売促進の提案は採用すべきではない。
第 4 問(配点 16 点)
D 社では、再度、コーヒー豆を直接買い付ける可能性を探ることにした。しかし、以前のような為替差損を計上する恐れがあるため、この為替リスクを軽減する手段の検討に入った。為替リスクを軽減する手段を 2 つ挙げ(a)、それぞれの手段を用いた際、円安になった場合と、円高になった場合の影響(メリット・デメリット)(b)について述べよ。
回答例
(a) 為替予約、通貨オプション取引
(b)
① 為替予約:円安時には予約レートで決済でき為替差損を回避できる。円高時には円高の利益を享受できず機会損失となる。
② 通貨オプション取引:円安時には権利行使で損失を限定でき、円高時には権利放棄で円高利益を享受できるが、オプション料のコストが発生する。
解説
問題文の該当箇所: 与件文「以前、原価低減を目的にコーヒー豆の現地買い付けを試みたものの、為替差損を出したことがあり…現地買い付けを再開しようと現社長は考えている」、第 4 問設問文
答案作成の根拠: D 社のリスクは、ドル建て等で仕入れるコーヒー豆の価格が、円安によって円換算で上昇すること(為替差損)である。このリスクをヘッジする代表的な手段として、為替予約と通貨オプションがある。
為替予約:
- 概要: 将来の特定日に、あらかじめ決めた為替レートで外貨を売買する契約。
- 目的: 支払額を事前に確定させ、為替レートの変動リスクを完全に排除する。
- 影響:
- 円安時 (メリット): 市場レートよりも有利な予約レートで決済できるため、コスト増を防げる。
- 円高時 (デメリット): 市場レートよりも不利な予約レートで決済する義務があるため、より安く仕入れられたはずの機会(為替差益)を逃す。
通貨オプション取引:
- 概要: 将来の特定日までに、あらかじめ決めた為替レートで外貨を買う「権利」を、オプション料(プレミアム)を支払って購入する。(今回はドルを買うのでコールオプション)
- 目的: 為替レートの不利な変動(円安)に対する保険をかけつつ、有利な変動(円高)の利益は享受できるようにする。
- 影響:
- 円安時 (メリット): 市場レートが権利行使価格よりも円安になれば、権利を行使して有利なレートでドルを調達できる。損失を権利行使価格までに限定できる。
- 円高時 (メリット/デメリット): 市場レートが有利(円高)な場合は、権利を放棄して市場でドルを調達できるため、円高のメリットを受けられる。ただし、最初に支払ったオプション料はコストとして発生する(デメリット)。
使用した経営学の知識: 為替リスク管理(ヘッジ) 為替リスクとは、為替レートの変動により外貨建て資産・負債の円換算価値が変動するリスクのこと。輸入企業にとっては円安がリスクとなる。このリスクを回避・軽減する手法を為替ヘッジといい、代表的なものに先物為替予約や通貨オプション取引がある。両者はリスクヘッジの効果とコストの性質(機会損失か、確定コストか)が異なるため、企業のリスク許容度に応じて使い分けられる。