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平成 27 年度(2015 年度)事例 Ⅲ 回答と解説
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第 1 問(配点 40 点)
設問文
C 社では、現在取引している産業機械部品メーカーから新規に自動車部品の生産依頼があり、新規受注の獲得に向けて検討している。この計画について以下の設問に答えよ。
設問 1
C 社が自動車部品分野に参入する場合、強みとなる点を 2 つあげ、それぞれ 40 字以内で述べよ。
回答例
- 強み 1(40 字):複雑形状や軽量化に対応できる鋳造技術と鋳造から機械加工、塗装までの一貫生産体制。
- 強み 2(33 字):鋳造技術に精通した中堅エンジニアで構成される営業部の新市場開拓力。
解説
問題文の該当箇所
- 「農業機械部品と産業機械部品の受注量は増加傾向にあるが、これらの部品では顧客からの軽量化、複雑形状化要求が強くなっていて、鋳造技術の向上が求められている。」
- 「鋳造工程の生産能力の増強を進めるとともに、機械加工工程と塗装工程の新設により一貫生産体制を確立することで、農業機械部品と産業機械部品の受注獲得に成功した。」
- 「鋳造技術に精通した中堅エンジニア 3 名を社内から選抜して営業部をつくり、新市場の開拓を行わせたことも大きな力となった。」
答案作成の根拠 自動車部品業界は、燃費向上のための軽量化や、デザイン性・機能性向上のための複雑形状化といった高度な技術要求が特徴です。与件文から、C 社は既に農業機械・産業機械分野で同様の要求に対応し、鋳造技術を向上させてきた実績があります。これは自動車部品分野でも直接活かせる技術的な強みです。 また、鋳造から後工程である機械加工、塗装までを社内で完結できる一貫生産体制は、品質保証、納期管理、コスト管理の面で優位性があり、厳しい品質・納期を求められる自動車業界において大きな強みとなります。技術営業力も強みですが、より直接的な生産面の強みとして「鋳造技術」と「一貫生産体制」を抽出しました。
使用した経営学の知識
- コア・コンピタンス: 企業の中核となる強み。C 社にとって、顧客の高度な要求に応える「鋳造技術」はコア・コンピタンスに該当します。
- 垂直統合: サプライチェーンの前後の工程を自社内に取り込むこと。C 社が鋳造だけでなく機械加工や塗装工程を内製化したのは後方・前方統合の一例であり、これにより管理の容易化や競争優位性の確保に繋がっています。
設問 2
自動車部品の受注獲得は、C 社にとってどのようなメリットがあるのか 100 字以内で述べよ。
回答例(94 字)
メリットは ① 公共事業に依存する建設資材の比率を下げ、経営の安定化を図れること、② 厳しい品質・納期要求への対応を通じて、鋳造技術や生産管理レベルが向上し、他事業への波及効果も期待できること。
解説
問題文の該当箇所
- 「公共事業予算の縮小や海外製品との競争激化などの影響を受け、マンホール蓋の受注量が減少し、売上高が低迷した時期があった。」
- 現在の売上構成比は、建設資材 55%、農業機械部品 30%、産業機械部品 15%となっている。
- 「顧客からの軽量化、複雑形状化要求が強くなっていて、鋳造技術の向上が求められている。」
答案作成の根拠 C 社の売上の過半数を占める建設資材は、公共事業予算に左右され経営リスクが高い事業です。自動車部品という新規分野に参入することで、この依存度を下げ、事業ポートフォリオを多角化し、経営の安定化を図るという「守り」のメリットがあります。 一方で、自動車業界の厳しい QDC(品質・コスト・納期)要求に対応する過程で、C 社の技術力や生産管理能力は一層鍛えられます。このレベルアップは、既存の農業機械・産業機械部品事業にも好影響を与え、会社全体の競争力を高めるという「攻め」のメリットも期待できます。これら 2 つの側面を盛り込むことで、多角的なメリットを説明できます。
使用した経営学の知識
- 製品・市場マトリクス(アンゾフの成長マトリクス): C 社の取り組みは、既存の技術(鋳物)を活かして新規市場(自動車部品)に参入する「新市場開拓戦略」に位置づけられます。
- 事業ポートフォリオマネジメント: 特定事業への過度な依存を避け、複数の事業を組み合わせることでリスクを分散し、企業全体の安定的な成長を目指す考え方です。
設問 3
自動車部品の受注獲得には、自動車業界で要求される短納期に対応する必要がある。そのためにはどのような改善策が必要なのか、100 字以内で述べよ。
回答例(80 字)
5Sの徹底により工場内に散在する仕掛品置き場を整備し、定置管理を行う。これによりフォークリフトや作業者の安全で円滑な動線を確保し、運搬や移動のムダを削減することで製造リードタイムを短縮する。
解説
問題文の該当箇所
- 「製造現場では、鋳造工程後の仕掛品が多く、その置き場に大きなスペースが必要になり、フォークリフトによる製品の移動は、散在する仕掛品置き場を避けて走行している。」
- 「またこの仕掛品によって、多台持ちを行っている機械加工工程の作業についても設備間の移動が非常に困難な状況である。」
- 「このため、製造リードタイムが長期化し納期遅延が生じる原因となっている。」
答案作成の根拠 与件文は、製造リードタイム長期化の原因を、過剰な仕掛品によって引き起こされる 2 つの物理的な問題、すなわち ① フォークリフトの走行阻害と、② 作業者の設備間移動の困難さ、であると指摘している。したがって、改善策はこれらの直接的な問題の解消に焦点を当てるべきである。 そのための具体的な手法として、まず5S(整理・整頓・清掃・清潔・躾)を徹底する。これにより、不要なものを処分し(整理)、必要なものの置き場所を明確に定める定置管理(整頓)を行うことで、散在する仕掛品置き場を解消する。 その結果、工場内のレイアウトが改善され、フォークリフトが効率的に走行し、作業者が安全かつ迅速に設備間を移動できる動線が確保される。これは運搬や移動に費やされる時間という「ムダ」の排除に繋がり、製造リードタイムの短縮に直結するのである。
使用した経営学の知識
- 5S: 製造業やサービス業における職場環境の維持改善で用いられるスローガンであり、生産性向上の基礎となる活動である。
- ムダの排除(トヨタ生産方式): 付加価値を生まない全ての活動を「ムダ」と定義し、徹底的に排除する考え方。「運搬のムダ」や「動作のムダ」が本件に該当する。
- 工場レイアウトとマテリアルハンドリング: 製品、仕掛品、作業者の流れを最適化するための工場設計の考え方。動線の確保はマテリアルハンドリング(マテハン)効率化の基本である。
第 2 問(配点 20 点)
設問文
C 社の設備投資は、鋳造工程が優先されてきた。これによって生産工程に生じている問題点と、その改善策を 100 字以内で述べよ。
回答例(95 字)
問題点は、鋳造工程と後工程の能力不均衡により機械加工工程前に仕掛品が滞留し、リードタイムが長期化していること。改善策はボトルネックの機械加工工程能力を増強し、鋳造工程の生産を同期させること。
解説
問題文の該当箇所
- 「鋳造工程の生産能力増強を特に進めてきた。」
- 「機械加工工程がネック工程となっていた。」
- 「鋳造工程後の仕掛品が多く、その置き場に大きなスペースが必要になり...」
- 「製造リードタイムが長期化し納期遅延が生じる原因となっている。」
答案作成の根拠 設問は「鋳造工程が優先されてきた」ことによる「問題点」と「改善策」を問うています。 問題点: 与件文から、鋳造工程の能力だけを増強した結果、後工程である機械加工工程との能力差が拡大し、工程間にボトルネックが生じていることがわかります。この能力のアンバランスが、大量の仕掛品滞留、工場内の運搬の非効率化、そして最終的にリードタイム長期化と納期遅延を引き起こしています。 改善策: この問題の解決には、TOC(制約理論)の考え方が有効です。まず、ボトルネックとなっている機械加工工程の能力を向上させること(制約を向上させる)。具体的には設備投資や第 1 問設問 3 で述べた稼働率向上策が考えられます。そして、最も重要なのは、前工程である鋳造工程が、後工程(ボトルネック)の能力を超えて作りすぎないように、生産量をコントロールすること(非制約を制約に従わせる)です。これにより、工場全体の生産の流れが同期化され、仕掛品が適正化されます。
使用した経営学の知識
- TOC(制約理論): 工場全体の生産能力は、ボトルネック工程の能力によって決まるという理論。TOC では改善の 5 段階ステップ(① 制約の特定、② 制約の徹底活用、③ 非制約の制約への従属、④ 制約の能力向上、⑤ ステップ ① に戻る)が提唱されています。本問の改善策は、この考え方に基づいています。
第 3 問(配点 20 点)
設問文
C 社は、納期遅延の解消を目的に生産管理の IT 化を計画している。それには、どのように納期管理をし、その際、どのような情報を活用していくべきか、120 字以内で述べよ。
回答例(109 字)
納期管理は、全工程の負荷と進捗状況をリアルタイムに可視化し、一元管理することである。活用する情報は、受注納期、工程ごとの能力・負荷、仕掛品在庫、作業進捗である。以上によりボトルネックを考慮した生産計画を立案・統制する。
解説
問題文の該当箇所
- 「納期遅延が生じている。」
- 「受注処理、生産計画、生産統制、在庫管理などを統合した IT 化の検討を進めている。」
- 「生産計画は、鋳造工程の計画のみが立案される。」
答案作成の根拠 現状の納期遅延は、生産情報が工程ごとに分断され、鋳造工程以外は場当たり的な生産になっていることが一因である。IT 化による納期管理では、この情報の分断を解消することが不可欠である。
したがって、まず納期管理のあり方として、受注から発送までの全ての工程を対象に、各工程の負荷状況や作業の進捗状況をリアルタイムで把握し、可視化・一元管理する体制を構築することが求められる。
そのために活用する情報は、最終目標である「受注納期」に加え、計画立案の基礎となる各工程の「能力・負荷」、仕掛品の滞留状況を示す「仕掛品在庫」、そして計画と実績の差異を管理するための「作業進捗」である。
これらの情報を統合的に活用することで、初めて工場全体の生産能力を正確に測ることが可能となる。その上で、ボトルネックとなっている機械加工工程の能力を制約条件とした、精度の高い生産計画を立案し、その進捗を統制していくのである。
使用した経営学の知識
- 生産管理システム (MES: Manufacturing Execution System): 製造現場の情報をリアルタイムで収集・管理し、生産活動を最適化するシステム。C 社が目指す IT 化の理想形である。
- 見える化: IT ツールを活用して、工場の問題点や進捗状況などを誰もが客観的に把握できるようにすること。
- TOC(制約理論): ボトルネック工程の能力に合わせて全体の生産計画を同期させるという考え方。IT 化によって得られた情報を活用し、この理論に基づいた計画立案が可能となる。
第 4 問(配点 20 点)
設問文
海外製品との競争が厳しい時代のなかで、今後も C 社は国内生産を維持する考えである。そのために C 社が強化すべき点は何か、その理由とともに 140 字以内で述べよ。
回答例(122 字)
強化すべき点は、顧客の軽量化・複雑形状化といった高度な要求に対し、VA/VE提案ができる技術開発力と設計提案力である。理由は、海外製品との価格競争を回避し、高付加価値化による差別化で顧客との関係を強化し、国内での高収益な生産体制を維持するため。
解説
問題文の該当箇所
- 「海外製品との競争激化」
- 「農業機械部品や産業機械部品では顧客からの軽量化、複雑形状化要求が強くなっていて、鋳造技術の向上が求められている。」
- 「鋳造技術に精通した中堅エンジニア 3 名を社内から選抜して営業部をつくり、新市場の開拓を行わせた」
- 「営業部が顧客と技術的な打ち合わせを行い、顧客の要望を把握し、その内容を設計部に伝え図面等仕様書を作成する。」
答案作成の根拠 「海外製品との競争が厳しい」中で国内生産を維持するには、価格競争に巻き込まれないための戦略が不可欠です。そのためには、安価な海外製品には真似のできない「付加価値」を提供する必要があります。 C 社の強みは、顧客の高度な要求(軽量化、複雑形状化)に応える「鋳造技術」と、それを顧客に提案する「技術営業力」にあります。この強みをさらに伸ばし、単に要求されたものを作るだけでなく、顧客の製品開発段階から関与して、より低コストで高性能な製品形状を提案する「VA/VE 提案(価値分析/価値工学)」ができるレベルまで昇華させることが、強化すべき方向性です。 その理由は、このような提案力を持つことで、海外製品との明確な差別化を図り、価格競争から脱却できるからです。顧客にとって不可欠なパートナーとなることで、安定した受注と高い収益性を確保し、国内生産を維持することが可能になります。
使用した経営学の知識
- 競争戦略(差別化戦略): 競合他社に対して、製品やサービスの独自性を打ち出すことで競争優位を築く戦略。技術力や提案力を核とした高付加価値化は、差別化戦略の典型です。
- VA (Value Analysis) / VE (Value Engineering): 製品やサービスの「価値」を「機能」と「コスト」の関係で捉え、最低のコストで必要な機能を実現するための体系的な手法。これを顧客に提案できれば、強力な競争力となります。
- ソリューション営業: 単にモノを売るのではなく、顧客の課題を解決するための方法(ソリューション)を提供する営業スタイル。C 社の技術営業は、この方向性をさらに強化すべきです。