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平成 27 年度(2015 年度)事例 Ⅰ 回答と解説

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第 1 問(配点 20 点)

設問文

ゲートボールやグラウンドゴルフなど、A 社を支えてきたスポーツ用品事業の市場には、どのような特性があると考えられるか。100 字以内で述べよ。

回答例(99 字)

流行の動向に強く左右され、市場のライフサイクルが短い特性を持つ。また、シニア層など特定の顧客層を対象としたニッチ市場であり、ブームが去ると需要が急減し、海外からの廉価品との価格競争にも晒されやすい。

解説

  • 問題文の該当箇所

    • 「いち早く流行の兆しをとらえた」
    • 「台湾製や中国製の廉価なシャトルコックが輸入されるようになると、A 社の売上は激減した」
    • 「ゲートボールの人気に陰りがみられるようになった」
    • 「シニア層をターゲットにしたグラウンドゴルフ市場」
  • 答案作成の根拠 与件文から、A 社が手掛けてきたスポーツ用品事業(バドミントン、ゲートボール、グラウンドゴルフ)には共通の市場特性が見られる。

    1. 流行性・短いライフサイクル: バドミントンは「流行の兆し」を捉えて成功したが、ゲートボールは「人気に陰り」が見られた。これは、市場がブームに依存し、製品ライフサイクルが短いことを示唆する。
    2. ニッチ市場: いずれのスポーツも、当初は限られた層にしか知られていないニッチ市場であった。特にゲートボールやグラウンドゴルフは「シニア層」という特定のセグメントをターゲットにしている。
    3. 価格競争: バドミントン事業では、海外からの「廉価品」の流入により売上が激減した経験があり、価格競争に晒されやすい市場であることがわかる。 これらの要素を統合し、A 社を支えてきたスポーツ用品事業の市場特性をまとめる。
  • 使用した経営学の知識

    • 製品ライフサイクル(PLC): 製品が市場に登場してから姿を消すまでの売上と利益の変化を、導入期、成長期、成熟期、衰退期で説明する理論。A 社のスポーツ用品事業は、このサイクルが比較的短い市場に属すると考えられる。
    • ニッチ戦略: 大企業が参入しないような小規模で専門的な市場(ニッチ市場)に特化し、経営資源を集中させることで競争優位を築く戦略。A 社は流行の兆しを捉え、ニッチ市場に参入することで成長してきた。

第 2 問(配点 20 点)

設問文

A 社は、当初、新しい分野のプラスチック成形事業を社内で行っていたが、その後、関連会社を設立し移管している。その理由として、どのようなことが考えられるか。120 字以内で述べよ。

回答例(118 字)

理由は、 BtoC である既存事業と、顧客の要求に応える技術力が重要な BtoB の新規事業とでは事業特性が大きく異なるため。既存事業の組織文化や年功的な評価制度から切り離し、経営責任を明確化して迅速な意思決定を促し、事業の早期成長を図るため。

解説

  • 問題文の該当箇所

    • 「自社ブランドで展開してきたバドミントン事業とは、事業に対する考え方そのものが異なっていた」
    • 「再起をかけてこのビジネスをスタートさせた A 社社長は、当初社内で行っていた新規事業を、関連会社として独立させることにした」
    • 「新規事業は、A 社社長の期待以上に急速に伸長し」
    • 「給与や昇進などの人事制度は、ほぼ年功ベースで運用されている」
  • 答案作成の根拠 A 社が新規事業を分社化した理由は、既存事業との「違い」を乗り越え、事業を成功させるためと考えられる。

    1. 事業特性の違い: 既存のバドミントン事業は自社ブランドの BtoC 事業であるのに対し、新規のプラスチック成形事業は顧客の要求に応える技術力が求められる BtoB の受注生産事業である。与件文に「事業に対する考え方そのものが異なっていた」と明記されている通り、マーケティング手法、生産管理、評価基準などが全く異なる。
    2. 組織・文化の違い: 既存事業の年功序列を基本とする人事制度や、長年培われた組織文化が、スピード感や顧客対応力が求められる新規事業の足かせになる可能性があった。分社化により、新規事業に適した独自の組織文化や人事制度を構築しやすくなる。
    3. 経営の効率化: 別会社として経営責任を明確化し、権限を委譲することで、環境変化への迅速な意思決定が可能となる。これが「期待以上に急速に伸長」した一因と考えられる。
  • 使用した経営学の知識

    • コンティンジェンシー理論(状況適合理論): 組織の構造や管理システムは、事業内容、技術、外部環境などの状況要因に適合させるべきであるという考え方。事業特性が大きく異なるため、それぞれに適合した組織を構築するために分社化したと解釈できる。
    • 事業部制・分社化: 事業の多角化が進んだ際に、事業単位で独立性を持たせる組織形態。分社化は事業部制よりさらに独立性が高く、迅速な意思決定、責任の明確化、外部資金調達の容易化などのメリットがある。

第 3 問(配点 20 点)

設問文

A 社および関連会社を含めた企業グループで、大型成形技術の導入や技術開発などによって、プラスチック製容器製造事業の売上が 60%を占めるようになった。そのことは、今後の経営に、どのような課題を生み出す可能性があると考えられるか。中小企業診断士として、100 字以内で述べよ。

回答例(99 字)

課題は、単一事業への依存度が高く、特定業界や顧客の業績変動が経営を直撃するリスク。また、受注生産のため、価格交渉力が弱く、業績もほぼ横ばいの現状から、グループ全体の成長を停滞させる可能性があること。

解説

  • 問題文の該当箇所

    • 「グループ全体でみた売上構成比は、プラスチック製容器製造が 60%」
    • 「業績もほぼ横ばいで推移しているが、決して高い利益を上げているとはいえない」
    • (過去の経験として)「A 社の売上は最盛期の約 70%減となり、一転して経営危機に直面することになった」
  • 答案作成の根拠 プラスチック製容器製造事業が売上の 60%を占めるという状況から、将来的な経営課題を導き出す。

    1. 特定事業への過度な依存リスク: グループ売上の過半を一つの事業に依存する構造は、経営の安定性を損なう危険性を持つ。過去にバドミントン事業の不振で経営危機に陥った経験があり、同様のリスクを抱えていると言える。この事業は楽器や自動車、住宅設備など特定の業界向けの受注生産が主体であり、それら業界の景気変動や主要取引先の経営方針転換の直撃を受けやすい。
    2. 収益性と成長性の課題: この事業は受注生産型であり、一般的に顧客(特に大企業)からの値下げ圧力に晒されやすい。与件文の「決して高い利益を上げているとはいえない」「業績もほぼ横ばい」という記述は、この事業が収益性の面で課題を抱え、グループ全体の成長エンジンになりきれていない可能性を示唆している。
  • 使用した経営学の知識

    • 事業ポートフォリオ・マネジメント(PPM): 企業の事業構成を分析し、最適な経営資源の配分を決定するフレームワーク。特定事業への過度な依存は、ポートフォリオのバランスが悪い状態であり、リスク分散ができていないことを示す。この事業が「金のなる木」であっても、市場の魅力が低下すれば「負け犬」になるリスクがある。
    • ファイブフォース分析: 業界の収益性を決定する 5 つの競争要因を分析するフレームワーク。本件では「買い手の交渉力」が強いことが推察され、これが A 社の収益性を圧迫する要因となっていると考えられる。

第 4 問(配点 20 点)

設問文

A 社および関連会社を含めた企業グループで、成果主義に基づく賃金制度を、あえて導入していない理由として、どのようなことが考えられるか。100 字以内で述べよ。

回答例(100 字)

理由は、チームワークや部門間連携が重要な事業が多く、個人評価が難しいため。また、過度な個人間競争を避け、円滑な技術伝承を促すとともに、経営危機を乗り越えて培われた従業員の一体感を維持・向上させるため。

解説

  • 問題文の該当箇所

    • 「給与や昇進などの人事制度は、ほぼ年功ベースで運用されている」
    • 「どうにか事業を継続させ、約 40 名の従業員を路頭に迷わせずに済んだ」
    • 「従業員のほとんどが正規社員であり、非正規社員は数名に過ぎない」
    • 事業内容:プラスチック製容器製造(チームでの生産)、健康ソリューション事業(自治体や大学との連携)
  • 答案作成の根拠 A 社があえて成果主義を本格導入しない背景には、事業特性と組織文化が深く関わっている。

    1. 事業特性との不適合: 主力のプラスチック製容器製造や自動車部品製造は、個人の能力だけでなく、チームワークや部門間のスムーズな連携、ノウハウの共有・伝承が品質と生産性を左右する。個人の成果だけを切り出して客観的に評価するのは難しく、成果主義はかえってチームワークを阻害する可能性がある。
    2. 組織文化の維持: A 社は経営危機に従業員を守った歴史を持ち、正規社員中心の長期雇用を前提としていることから、従業員の生活安定と組織への帰属意識を重視する文化が根付いている。成果主義による過度な競争は、この「和」や「一体感」を損なうリスクがある。年功序列は、ベテランから若手への円滑な技術伝承を促す機能も持つ。 これらの理由から、急進的な成果主義の導入はメリットよりもデメリットが大きいと判断していると考えられる。
  • 使用した経営学の知識

    • 組織文化: 企業内で共有されている価値観や行動規範。A 社には、経営危機を共に乗り越えた経験から、従業員を大切にし、組織の一体感を重んじる文化が形成されている。人事制度は組織文化を強化する機能を持つため、文化に適合した年功ベースの制度を維持している。
    • モチベーション理論: 成果主義は金銭的報酬(外的動機付け)に訴えるが、チームワークや貢献意欲といった内的動機付けを損なう可能性がある。A 社は、安定した雇用と処遇によって従業員のロイヤリティを高め、組織全体での成果を追求するアプローチをとっている。

第 5 問(配点 20 点)

設問文

A 社の健康ソリューション事業では、スポーツ関連製品の製造・販売だけではなく、体力測定診断プログラムや認知症予防ツールなどのサービス事業も手がけている。そうしたサービス事業をさらに拡大させていくうえで、どのような点に留意して組織文化の変革や人材育成を進めていくべきか。中小企業診断士として、100 字以内で助言せよ。

回答例(99 字)

製造業中心のプロダクトアウト型文化を顧客ニーズ起点のサービス創出文化へ変革する。部門横断の挑戦を促す組織・評価制度を整え、サービス企画やマーケティング等の専門人材を育成・中途採用で確保すべきである。

解説

  • 問題文の該当箇所

    • 「プラスチック製品メーカーである」
    • 「体力測定診断プログラムなどのソフト開発にも着手しサービス事業を拡大」
    • 「地元自治体や大学との連携」
    • (組織文化として)「年功ベース」「製造が主力」
  • 答案作成の根拠 モノづくり(製造業)からコトづくり(サービス事業)へ拡大する際の組織・人材面の課題に対する助言が求められている。

    1. 組織文化の変革: 従来の製造業は、良い製品を作ることに主眼を置く「プロダクトアウト」の考え方が強い。一方、サービス事業では、顧客の課題や潜在的なニーズを深く理解し、解決策を提案する「マーケットイン」の発想が不可欠である。この文化的なギャップを埋める変革が必要となる。
    2. 人材育成・確保: サービス事業の拡大には、従来の製造技術者とは異なるスキルセットを持つ人材が必要となる。具体的には、顧客や連携先と対話してニーズを引き出すコミュニケーション能力、サービスを企画・立案する能力、ソフト開発やデータ分析などの専門知識が挙げられる。これらの能力を既存社員の研修(育成)と外部からの専門人材の獲得(中途採用)の両面で強化する必要がある。
    3. 変革を促す仕組み: 文化変革と人材育成を実効性あるものにするためには、それを後押しする組織運営や制度が必要。例えば、部署の垣根を越えたプロジェクトチームの推進や、失敗を恐れず新たな試みを評価するような仕組み(加点主義的な評価)の導入が有効である。
  • 使用した経営学の知識

    • 両利きの経営: 既存事業の深化(知の深化)と、新規事業の開拓(知の探索)を同時に追求する経営アプローチ。A 社は製造事業を深化させつつ、サービス事業という探索活動を拡大する必要がある。両者は異なる組織文化やスキルを要するため、意図的なマネジメントが求められる。
    • サービス・マーケティング: サービスの無形性、非分離性、変動性、消滅性といった特性を踏まえたマーケティング活動。人材(People)、業務プロセス(Process)、物的証拠(Physical Evidence)の 3 つの P が重要とされ、特に人材の役割が大きい。

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