Gemini 2.5 Pro による回答と解説( 平成 24 年度(2012 年度)事例 Ⅰ)
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第 1 問(配点 20 点)
設問文
A 社のような中小企業が近年、海外での事業活動に積極的に取り組むようになっている。A 社のような企業の場合、どのような外部環境の変化が海外進出を促していると考えられるか。
その要因を 2 つあげ、それぞれ 40 字以内で簡潔に述べよ.
回答例
- 要因 1(26 字):主要取引先のグローバル化に伴う海外生産体制への追随。
- 要因 2(27 字):国内市場の縮小懸念と、成長著しい海外新興国市場の開拓。
解説
問題文の該当箇所
- 「取引先の自動車部品メーカー X 社の強い誘いを受け、経済成長著しい東南アジアの S 国の経済特区に工場を建設し、海外進出を果たした。」
- 「自動車メーカーのグローバル化に伴い、海外生産体制の強化を迫られた Y 社をはじめとする自動車部品メーカーから、海外進出の打診を幾度となく受けた」
- 「2008 年秋のリーマンショックを契機とした世界金融危機の時には、主要取引先の営業不振の煽りを受け、一時、売上・収益を大幅に減少させた。」
答案作成の根拠 与件文から、A 社の海外進出の直接的なきっかけが、X 社や Y 社といった主要取引先の海外展開への対応であったことが読み取れます。これが要因 1の「取引先のグローバル化への追随」です。サプライチェーンの一員として、顧客の海外生産拠点に追随する必要があったと考えられます。
また、リーマンショック時に国内の主要取引先の不振によって大きな打撃を受けた経験から、国内市場や特定顧客への依存リスクを痛感したことが推察されます。これが要因 2の「国内市場の縮小懸念とリスク分散」につながります。「経済成長著しい東南アジア」への進出は、新たな需要を獲得し、事業リスクを分散させる戦略的な動きと分析できます。
使用した経営学の知識
- サプライチェーン・マネジメント(SCM): 顧客であるメーカーの海外展開に伴い、部品供給を維持・拡大するためにサプライヤーも海外に進出する、というサプライチェーン全体のグローバル化の動きです。
- PEST 分析: 外部環境を分析するフレームワーク。特に経済的(Economic)要因である「取引先のグローバル化」や「新興国の経済成長」、そして国内市場の成熟・縮小が海外進出を促す大きな力となったと整理できます。
- リスクマネジメント: 特定の国や市場に依存するカントリーリスクや市場リスクを、事業展開地域を多角化することで低減させる考え方です。
第 2 問(配点 20 点)
設問文
A 社は、Y 社の要請による海外進出を実現していないが、X 社の要請に応じて、2002 年に東南アジアの新興国 S 国に初めて生産拠点を設けている。
Y 社の要請による A 社の海外進出が実現しなかったのはなぜか。X 社の状況を考慮に入れて、考えられる理由を 100 字以内で答えよ.
回答例(98 字)
最重要取引先である Y 社とは重要保安部品を扱い、海外での品質保証の失敗リスクが極めて高かった。一方、X 社とは失敗時の経営への影響が比較的小さく、経済支援もあり海外生産の経験を積む好機と判断したため。
解説
問題文の該当箇所
- Y 社について:「現在の主要取引先」「依存度が高い」「重要保安部品」「Y 社の協力を得ながら数年間にわたって膨大な実験を行い」
- Y 社の要請:「経済的支援を前提とした海外進出の打診を幾度となく受けたが、実現には至らなかった。」
- X 社の要請:「X 社の強い勧誘と経済的支援を受け、2002 年に S 国の経済特区内に初の海外工場を開設」
答案作成の根拠 Y 社は A 社にとって、事業基盤の根幹をなす「重要保安部品」を扱う最重要取引先であり、取引依存度も高いです。海外生産の経験がない A 社にとって、Y 社との海外進出で万が一品質問題を起こせば、経営を揺るがす致命的な事態になりかねません。この高すぎるリスクが、Y 社の要請に応じられなかった最大の理由と考えられます。
一方、X 社との関係は Y 社ほどクリティカルではなく、X 社からの「強い勧誘と経済的支援」もありました。これは、A 社にとって比較的リスクを抑えながら海外生産のノウハウを蓄積する絶好の機会と捉えられたはずです。つまり、X 社との進出は、将来の本格的なグローバル展開に向けた戦略的な布石であったと分析できます。
使用した経営学の知識
- 取引関係ポートフォリオ: 企業は取引先を重要度に応じて分類し、関係性をマネジメントします。A 社にとって Y 社は戦略的パートナーであり、安易にリスクを取れない相手です。
- 段階的国際化プロセスモデル: 企業が海外進出する際、まずは心理的・地理的距離が近く、リスクの低い市場や形態から参入し、経験を蓄積しながら徐々にコミットメントを高めていくという考え方です。X 社との進出は、このモデルにおける初期段階と捉えることができます。
第 3 問(配点 20 点)
設問文
日本国内で重要保安部品を自動車部品メーカーに供給している A 社では、表面加工処理の自動化システムなどを開発し、品質の確保を図ってきた。しかし、東南アジアの中でも労働者がまじめで勤勉だといわれる S 国の工場に、品質保証のためのシステムを導入したにもかかわらず、X 社向け表面加工処理が主である S 国の工場を日本の工場の品質保証レベルにまで引き上げるにはかなりの時間がかかった。
それには、どのような理由が考えられるか。120 字以内で答えよ.
回答例(110 字)
自動化システム等の形式知は導入したが、品質を支える現場での継続的なプロセス改善や異常発見能力といった暗黙知の移転と定着は容易ではない。また、部門間の情報共有や連携といった品質保証を支える組織文化の醸成に時間を要したため。
解説
問題文の該当箇所
- 日本の品質保証:「システムが完備されているだけでは完全な品質保証はできないため、取引先企業の状況に応じた現場での継続的なプロセス改善や、製品の異常を迅速に発見・対処する意識・能力の育成・確保が必要である。」
- 日本の組織的取り組み:「部門間や従業員同士の情報共有を促すとともに、社長自らが日々、意識改革やシステム改善に取り組んでいる。」
- S 国工場の状況:「自動化システムや検品ノウハウを導入したとはいえ、海外工場での品質の安定的維持・確保は容易ではなかった。」
答案作成の根拠 A 社の高い品質は、「自動化システム」というマニュアル化・言語化しやすい形式知だけで成り立っているのではありません。与件文には、それを補完する「現場での継続的なプロセス改善」や「異常を発見・対処する意識・能力」といった、経験や勘に基づく暗黙知の重要性が明確に示されています。
システム(形式知)の海外移転は比較的容易ですが、従業員の意識や能力、ノウハウといった暗黙知の移転・育成には多くの時間がかかります。さらに、日本の工場では「部門間の情報共有」といったチームワークを重視する組織文化が品質を支えていますが、こうした組織文化を海外拠点でゼロから醸成することもまた、時間がかかる困難な課題です。労働者が「まじめで勤勉」であっても、こうした組織的な仕組みや文化がなければ、日本レベルの品質を安定的に維持することは難しいのです。
使用した経営学の知識
- SECI モデル(ナレッジマネジメント): 知識には言語化できる「形式知」と、経験に基づく「暗黙知」があります。A 社の強みは両者の相互作用にあり、特に暗黙知の海外移転の難しさが、品質レベル向上の遅れの要因となったと分析できます。
- 組織文化: 組織で共有される価値観や行動規範。A 社の「品質第一」や「部門間連携」といった組織文化は、一朝一夕には海外拠点に根付かないため、その醸成に時間がかかったと考えられます。
第 4 問(配点 20 点)
設問文
A 社では、生産現場管理に精通し管理能力に長けた係長クラスの人材を海外生産拠点の工場長として送り込んでいる。現地工場の運営管理以外に、係長クラスの人材にどのような役割を期待し、どのような能力を向上させるべきかについて、中小企業診断士として、A 社の社長に 100 字以内で助言せよ.
回答例(98 字)
役割は現地法人の経営責任者として次世代の現地幹部を育成することです。そのために現場管理能力に加え、財務等の経営管理能力と、異文化を理解し現地従業員をまとめ上げるリーダーシップの向上を促すべきです。
解説
問題文の該当箇所
- 派遣人材:「30 代後半の技術畑出身で現場に精通する係長クラスの人材を工場長として派遣し、現場運営を任せている。」
- 将来の展開:「T 国でも、工場稼働に向けた準備が進められている。」
- 人材育成:「現地技術者の日本国内での教育の機会も設けられている。」
答案作成の根拠 現在、工場長は「現場運営」を任されていますが、A 社の海外展開が拡大していく中で、彼らには単なる現場の管理者ではなく、現地法人全体の経営を担う責任者としての役割が期待されます。さらに、事業の持続的成長のためには、日本人駐在員に依存し続けるのではなく、将来の経営を担う現地幹部(ナショナルスタッフ)を育成することが不可欠な役割となります。
この役割を果たすために向上させるべき能力は、既に持っている「現場管理能力」に加え、① 拠点全体の損益や資産を管理する経営管理能力(財務・会計知識など)と、② 多様な文化背景を持つ現地従業員の意欲を引き出し、組織としての一体感を醸成するグローバル・リーダーシップです。
使用した経営学の知識
- グローバル人材マネジメント: 海外拠点の経営を担う人材(グローバルマネージャー)には、専門能力だけでなく、経営的視点、異文化適応能力、リーダーシップが求められます。
- サクセッションプラン(後継者育成計画): 将来のリーダーを計画的に育成する仕組みです。海外拠点において、現地人材を後継者として育成することは、グローバル化を進める企業にとって重要な戦略課題です。
第 5 問(配点 20 点)
設問文
A 社は、日本国内で課長以上の社員を対象に成果主義型賃金制度を導入しようと考えている。中小企業診断士として、制度の設計および導入にあたって、A 社の場合、どのような点に留意すべきかを 120 字以内で助言せよ.
回答例(122 字)
個人の成果のみを評価すると、強みである部門間の連携やチームワークが阻害される恐れがある。そのため、個人の業績に加え、部門間連携や部下育成等の組織貢献度を評価項目に加える。また、評価基準とプロセスを明確にし、社員の納得性を高めることが重要である。
解説
問題文の該当箇所
- A 社の強み:「パートナー企業との連携を強化」「部門間や従業員同士の情報共有を促す」
- A 社の事業特性:「重要保安部品の事業基盤を固めてきた」「徹底した品質保証体制を確立」
答案作成の根拠 A 社の強みは、部門間やパートナー企業との「連携」、そしてチームワークによって支えられる「徹底した品質保証体制」にあります。成果主義型賃金制度が、個人の短期的な数値目標の達成のみを評価する仕組みになると、社員が自分の成果だけを追い求め、セクショナリズムに陥る危険性があります。その結果、A 社の競争力の源泉である連携やチームワークといった組織文化が損なわれる恐れがあります。
そこで、留意すべき点として、以下の 2 点を助言します。
- 評価基準の設計: 個人の業績目標の達成度だけでなく、「他部署との連携」や「部下の育成」といった組織全体への貢献度を評価項目に組み込み、A 社の強みを維持・強化する行動を促す。
- 制度運用の透明性・公正性: 評価基準や評価プロセスを全社員に明確に説明し、評価結果に対する納得感を得ることが、社員の不満を防ぎ、制度を円滑に機能させる上で不可欠です。
使用した経営学の知識
- 成果主義の弊害: 成果主義は、個人主義の蔓延、チームワークの阻害、短期的な視点への偏り、評価の難しさといったデメリットが指摘されています。A 社の強みを踏まえ、これらの弊害を回避する制度設計が求められます。
- コンピテンシー評価: 成果(What)だけでなく、成果に至るプロセスや行動(How)を評価する手法です。「連携」や「部下育成」といった行動特性(コンピテンシー)を評価に組み込むことで、成果主義の弊害を緩和し、企業文化に合った人材育成を促すことができます。