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令和 5 年度(2023 年度)事例 Ⅲ 回答と解説
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第 1 問(配点 10 点)
設問文
C 社の生産面の強みを 2 つ 40 字以内で述べよ。
回答例(40 字)
顧客の高度な要求に応える技術力と多品種少量の受託製造に柔軟に対応できる生産体制。
解説
問題文の該当箇所
- 「高級ホテルの料理人を経験し、ホテル調理場の作業内容などのマネジメントに熟知した現経営者」
- 「工場管理者...は、ホテルや旅館での料理人の経験がある」
- 「和食や洋食の総菜、菓子、パン類などの多品種で少量の食品を受託製造している」
- 「販売先料理長が C 社に来社し、口頭で直接指示」「必要があれば食材、製造方法などの変更指示がある」
- 「食品衛生管理上交差汚染を防ぐようゾーニングされている」
答案作成の根拠 与件文から、C 社の生産面における強みを抽出する。
- 高い技術力と顧客対応力: 経営者や工場管理者は元料理人であり、主要顧客である高級ホテル・旅館の料理長のニーズを深く理解している。これにより、口頭での曖昧な指示や急な仕様変更にも的確に対応できる。これは、単なる製造業を超えた「調理工場の支援」という付加価値の高いサービス提供能力を示している。
- 多品種少量生産への柔軟性: 顧客ごとの製造班、汎用調理器具、手作業中心という生産体制は、ホテル・旅館から依頼される多岐にわたる少量生産の依頼に柔軟に対応することを可能にしている。 これらの要素を組み合わせ、「顧客の高度な要求に応える技術力」と「多品種少量生産への柔軟な対応体制」という 2 つの強みをまとめた。衛生管理も強みだが、顧客との関係性から生まれる対応力の方がより本質的な強みと判断した。
使用した経営学の知識
- コア・コンピタンス: 競合他社に真似されにくく、顧客に価値をもたらす企業の中核的な能力。C 社にとっては、元料理人である経営陣がもたらす「顧客(料理長)の意図を汲み取り、高品質な製品で応える技術力・対応力」がこれに該当する。
- 生産方式: C 社の生産方式は、顧客の要求に応じて一品一様に近い製品を製造する「個別受注生産」に分類される。特に、販売先ごとに製造班を分ける体制は、顧客密着型の生産を実現している。
第 2 問(配点 20 点)
設問文
C 社の製造部では、コロナ禍で受注量が減少した 2020 年以降の工場稼働の低下による出勤日数調整の影響で、高齢のパート従業員も退職し、最近の増加する受注量の対応に苦慮している。生産面でどのような対応策が必要なのか、100 字以内で述べよ。
回答例(91 字)
受注量の多い製品を対象に、工程順の設備レイアウトへ改善し動線を短縮する。また、専用調理器具の導入と作業の標準化を進め、パート従業員の作業負荷軽減と生産性向上を図り、受注増に対応する。
解説
問題文の該当箇所
- 「高齢のパート従業員も退職し、最近の増加する受注量の対応に苦慮している」
- 「各加工室の設備機器のレイアウトはホテルや旅館の厨房と同様なつくりとなっている」
- 「受注量が最も多い総菜の製造工程は...鍋やボウル、包丁など汎用調理器具を使って手作業で進められている」
答案作成の根拠 受注量の増加と人手不足という二つの課題に対応するためには、現在の生産方式を抜本的に見直し、生産性を向上させる必要があります。
レイアウトの改善: 「ホテルや旅館の厨房と同様なつくり」というレイアウトは、様々な調理に柔軟に対応できる反面、特定の製品を効率的に生産するための動線が考慮されていない可能性があります(機能別レイアウトに近い状態)。そこで、特に受注量が多い主力製品については、前処理 → 計量・カット → 調理 → 包装という**工程の流れに沿って設備を再配置(製品別レイアウト化)**し、モノの移動距離や作業者の動線を最短にすることで、作業時間短縮と生産性向上を図ります。
作業方法の改善: 「汎用調理器具を使った手作業」は、作業者の熟練度に品質やスピードが依存し、生産量の拡大に対応しにくい要因となります。野菜カッターやスライサー、自動攪拌調理釜といった専用調理器具を導入することで、作業の高速化と省人化、品質の安定化を実現します。これにより、パート従業員の身体的負担を軽減し、人手不足の中でも生産量を確保します。
これらのハード面の改善と同時に、改善された作業手順を標準化しマニュアルに落とし込むことで、新人教育の効率化と技能の定着を図り、持続的に受注増に対応できる体制を構築する、という方向性で回答を構成しました。
使用した経営学の知識
- 工場レイアウト: 生産効率を左右する設備の配置方式。様々な種類の製品を少量ずつ生産するのに適した「機能別レイアウト」(C 社の現状)と、特定の製品を大量に効率よく生産するのに適した「製品別レイアウト」(改善の方向性)があります。
- IE (Industrial Engineering): 科学的なアプローチで生産システムの効率化を図る学問分野。動線分析によるレイアウト改善や、作業分析による手作業の効率化は、IE の代表的な手法です。
- 省力化・自動化: 人間の作業を機械に置き換えたり、補助させたりすることで、生産効率を高め、労働力不足に対応する考え方。専用調理器具の導入は、この省力化に該当します。
第 3 問(配点 20 点)
設問文
C 社では、最近の材料価格高騰の影響が大きく、付加価値が高い製品を販売しているものの、収益性の低下が生じている。どのような対応策が必要なのか、120 字以内で述べよ。
回答例(96 字)
レシピを標準化し、生産計画に連動した資材所要量計算を行う体制を構築する。資材管理課が発注業務を集約し、入出庫管理と先入れ先出しを徹底することで在庫を可視化・適正化し、食材の廃棄ロスを削減する。
解説
問題文の該当箇所
- 「最近の材料価格高騰の影響が大きく、(...)収益性の低下が生じている。」
- 「パートリーダーは、月度生産計画に必要な食材や調味料の必要量を経験値で見積り、(...)定期発注する。」
- 「入出庫記録がなく、食材や調味料の在庫量は増加傾向にあり、廃棄も生じている。」
- 「製品仕様は...口頭で直接指示」「メモ程度のレシピ...整理されていない」
- 「納品遅れが判明し、販売先に迷惑をかけたこともある。」
答案作成の根拠 収益性低下の直接的な原因は材料価格高騰だが、C 社内部にはそれを助長する問題が存在する。具体的には、① 経験則に基づく不正確な発注、② 入出庫記録がなく在庫量が不明瞭な杜撰な在庫管理、である。これらが過剰在庫と廃棄ロス(=コスト増)を招いている。 対策として、まずレシピの標準化が前提となる。標準化されたレシピに基づき、生産計画から必要な資材量を正確に計算(資材所要量計算)する仕組みを導入する。そして、パートリーダー任せだった発注業務を資材管理課に集約し、入出庫記録の徹底と在庫の可視化を行う。これにより、勘に頼った発注から脱却し、廃棄ロスと欠品を同時に削減することで、コストを抑制し収益性改善を図る。
使用した経営学の知識
- MRP (Material Requirements Planning): 資材所要量計画。生産計画に基づき、部品や原材料が「何を、いつ、いくつ」必要かを算出し、発注や在庫管理を効率化する手法。C 社の課題解決にこの考え方が有効である。
- 在庫管理: 在庫を最適な量・状態で維持するための活動。在庫の可視化、先入れ先出し(FIFO: First-In, First-Out)の徹底は、品質維持と廃棄ロス削減の基本である。
第 4 問(配点 20 点)
設問文
C 社社長は受注量が低迷した数年前から、既存の販売先との関係を一層密接にするともに、他のホテルや旅館への販路拡大を図るため、自社企画製品の製造販売を実現したいと思っていた。また、食品スーパー X 社との新規事業でも総菜の商品企画が必要となっている。創業から受託品の製造に特化してきた C 社は、どのように製品の企画開発を進めるべきなのか、120 字以内で述べよ。
回答例(120 字)
製品開発部主導で工場管理者の調理ノウハウやレシピをデータベース化する。さらに販売先料理長の来社時に同席し、製品評価やニーズを直接ヒアリングする。この情報を基に組織的な製品開発プロセスを確立し、顧客の潜在ニーズを捉えた自社企画製品を開発する。
解説
問題文の該当箇所
- 「自社企画製品の製造販売を実現したい」
- 「創業から受託品の製造に特化してきた」
- 「製品仕様は販売先料理長が C 社に来社し、口頭で直接指示」
- 「納入期間中も販売先料理長が来社し、製品の出来栄えのチェックをし、必要があれば食材、製造方法などの変更指示がある。その際には工場管理者が立ち会い...」
- 「製品開発部 (...) 新設された。この採用された外部人材は、(...)製品開発の実務や管理の経験がある。」
答案作成の根拠 C 社が自社企画製品を開発するためには、社内に散在するノウハウを形式知化すると同時に、顧客の深いニーズを組織として吸収する仕組みが不可欠です。
ノウハウの形式知化: まず、これまで工場管理者の個人的な経験やメモ書きに留まっていたレシピや調理ノウハウを、新設された製品開発部が主導して収集・整理し、データベースを構築することが第一歩です。これは企画開発の土台となります。
顧客ニーズの直接収集: C 社には「販売先料理長が来社して出来栄えをチェックする」という、顧客の極めて質の高い意見(VOC: Voice of Customer)を直接得られる貴重な機会が既に存在します。しかし、現状は工場管理者が一人で対応しており、その知見が属人化しています。この機会を最大限に活用するため、従来の工場管理者に加えて製品開発部の担当者も必ず同席する体制を構築します。
組織的プロセスの確立: 製品開発部が料理長から直接、評価の理由、改善指示の背景、新たなメニューのアイデアやトレンドなどをヒアリングし、その内容をデータベースに蓄積します。この一次情報と既存のノウハウを掛け合わせることで、単なる受託製造の延長線上ではない、顧客の潜在ニーズを捉えた高付加価値な自社企画製品の開発が可能となります。これにより、属人的な対応から脱却し、組織的な製品開発プロセスを確立することができます。
使用した経営学の知識
- VOC (Voice of Customer) 分析: 顧客の声を収集・分析し、製品開発やサービス改善に活かす手法。C 社にとって料理長の来社は、最も重要な VOC 収集の場です。
- SECI モデル: 属人的な暗黙知(料理長とのやり取り)を、製品開発部が同席・記録することで組織の形式知(データベース)へと変換し、新たな企画(創造)に繋げるというプロセス構築にこの考え方が応用できます。
- 部門間連携: 従来の「工場管理者 対 料理長」という個人間の関係から、「製造部・開発部 対 顧客」という組織的な関係へと深化させることで、開発力を強化します。
第 5 問(配点 30 点)
設問文
食品スーパー X 社と共同で行っている総菜製品の新規事業について、C 社社長は現在の生産能力では対応が難しいと考えており、工場敷地内に工場を増築し、専用生産設備を導入し、新規採用者を中心とした生産体制の構築を目指そうとしている。この C 社社長の構想について、その妥当性とその理由、またその際の留意点をどのように助言するか、140 字以内で述べよ。
回答例(147 字)
構想は妥当である。理由は、① 生産能力を向上させ X 社の多店舗展開の要望に応えるため、② 専用ラインの効率化でコストを抑え、顧客の価格要求に応えるためである。留意点は、① X 社が求める多店舗への多頻度納品体制を構築すること、② 外部人材の知見を活かし、品質とコスト管理を両立させる生産体制を構築すること。
解説
問題文の該当箇所
- 「C 社社長は、この新規事業に積極的に取り組む方針であるが、現在の生産能力では対応が難しく、工場増築などによって生産能力を確保する必要があると考えている。」
- 「近年、販売先のホテルや旅館では、(...)材料調達や在庫管理の簡素化などによるコスト低減も目指している。」
- 「納品数量は納品日の 2 日前に確定する。納品は商品の鮮度を保つため最低午前と午後の配送となる。X 社としては、(...)10 数店舗まで徐々に拡大したいと考えている。」
- 「この採用された外部人材は、中堅食品製造業で製品開発の実務や管理の経験がある。」
答案作成の根拠
妥当性とその理由:
- 社長が「現在の生産能力では対応が難しい」と認識している通り、X 社が計画する 10 数店舗への展開に対応するには、抜本的な生産能力の向上が不可欠です。工場増築はこの課題への直接的な解決策となります。
- また、既存事業の顧客であるホテル・旅館からもコスト低減の要請があるように、新規の取引先であるスーパー X 社からも厳しい価格要求が想定されます。手作業中心の既存ラインとは別に、専用の生産設備を導入することで生産を効率化し、コスト競争力のある価格を実現することが、取引獲得・継続の鍵となります。以上の 2 点から、社長の構想は妥当と判断できます。
留意点:
- 新規事業では、X 社から「最低午前と午後の配送」という、既存事業にはない多頻度・多店舗への納品体制が要求されています。これを確実に実行できる生産計画、および配送網の構築が成功の前提条件となります。
- C 社はこれまで受託生産が主で、効率的な量産体制の管理ノウハウが不足しています。そこで、製品開発部に採用した「中堅食品製造業で製品開発の実務や管理の経験がある」外部人材の知見を最大限に活用することが重要です。彼の経験を活かして、C 社の強みである品質を維持しつつ、厳格なコスト管理を両立させる新たな生産管理体制を設計・導入すべきです。
使用した経営学の知識
- 規模の経済性: 専用の生産設備を導入し、生産量を増やすことで製品一つあたりの固定費を低減させ、コスト競争力を高めるという考え方。
- サプライチェーン・マネジメント (SCM): 生産から在庫管理、配送までの一連の流れを最適化し、顧客満足度の向上とコスト削減を両立させる経営手法。X 社の要求する納品体制の構築にこの考え方が求められます。