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平成 22 年度(2010 年度)事例 Ⅱ 回答と解説

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第 1 問(配点 10 点)

設問文

B 社の現社長は、経営再建策の 1 つとして、仕入先の精査を行ったが、具体的にはどのようなことを実施したと考えるか。80 字以内で答えよ.

回答例(78 字)

ターゲットである中高年女性のニーズを満たす品質・鮮度・安全性を重視。慣習に囚われず、契約農家など地産地消を実現できる供給元へ切り替え、取引関係を再構築した。

解説

  • 問題文の該当箇所

    • 「創業当時からの長い付き合いのある仕入先も含めて、今までの人間関係の視点ではなく顧客視点に立ち、現在の仕入先の精査を行い、その再構築を図った。」
    • 「B 社は、まず地元の中高年女性に注目し、売り場づくり、品揃えを工夫した。」
    • 「堆肥は契約農家に無償で提供され、農家が栽培する有機野菜を店頭で販売した。」
  • 答案作成の根拠 設問は「具体的にどのようなことを実施したか」を問うている。与件文から、B 社が「人間関係の視点」から「顧客視点」へと転換したことが読み取れる。その「顧客」とは主要ターゲットである「地元の中高年女性」である。 彼女たちが重視するであろう価値、すなわち価格だけでなく「品質」「鮮度」「安全性(有機など)」といったニーズに応えることが、顧客視点に立つことだと考えられる。 したがって、具体的な行動としては、旧来の人間関係や取引の慣習に捉われず、たとえ長い付き合いの仕入先であっても、これらのニーズを満たせなければ取引を見直し、逆にニーズを満たす「契約農家」のような新たな仕入先を重視して取引関係を再構築したと推測できる。

  • 使用した経営学の知識

    • ターゲット・マーケティング: 特定の顧客セグメント(中高年女性)のニーズに適合するように、マーケティング・ミックス(4P)を最適化する考え方。本件では Product(商品)の調達、すなわち仕入れ戦略をターゲットに合わせて再構築している。
    • サプライチェーン・マネジメント (SCM): 顧客価値の最大化を目的として、原材料の調達から製品・サービスが顧客に届くまでのプロセス全体を最適化する経営手法。顧客視点での仕入先再構築は SCM の一環である。

第 2 問(配点 30 点)

設問文

大手スーパーなどへの差別化として、B 社の現社長は 2 つのターゲット・セグメントを設定した。そこで B 社が採用した戦略は各々のターゲットにどのような便益を与えようとしたのか。それぞれのセグメントごとに 100 字以内で答えよ。

回答例

セグメント 1(99 字)

ターゲットは地元の中高年女性。顧客ニーズに合う品質・鮮度・安全性を重視した品揃えを提供。加えて、同世代の店員との交流やエコ活動への参加を通じ、買い物の楽しさと地域に貢献する満足感という便益を与える。

セグメント 1(解説)

  • 問題文の該当箇所

    • 「B 社は、まず地元の中高年女性に注目し、売り場づくり、品揃えを工夫した。」
    • 「パートを含む従業員も地元の中高年女性を積極的に採用した。」
    • 「有機野菜を店頭で販売した。」
    • 「マイバッグを持って、レジ袋を辞退する顧客に対しては、「B ポイントカード」に買物のポイント以外に 2 ポイントを還元している。」
  • 答案作成の根拠 与件文から第 1 のターゲットは「地元の中高年女性」と明確に特定できる。彼女たちに提供した便益は、以下の 2 つの側面から整理できる。

    1. 商品・買い物そのものから得られる便益: 大手スーパーの価格訴求とは異なり、品質・鮮度・安全性といったニーズに応える品揃えを提供した。これは、顧客が求める商品を安心して購入できるという機能的便益である。
    2. 付随的な経験から得られる便益: 同世代の従業員とのコミュニケーションは、買い物の楽しさという情緒的便益を生む。また、エコ活動への参加(マイバッグ利用や生ゴミ持ち込み)は、地域や環境に貢献しているという自己実現的な満足感を提供する。
  • 使用した経営学の知識

    • 顧客便益(ベネフィット): 顧客が製品やサービスを通じて得られる価値のこと。物理的・機能的な「機能的便益」と、心理的・感情的な「情緒的便益」に大別される。B 社は両方の便益を提供することで、大手スーパーとの差別化を図っている。
    • STP 分析: 市場を細分化(Segmentation)し、狙うべき市場を決定(Targeting)し、自社の立ち位置を明確にする(Positioning)マーケティングの基本フレームワーク。B 社は「中高年女性」をターゲットに設定し、独自の便益を提供することで差別化されたポジションを築いている。

セグメント 2(99 字)

ターゲットは高齢者の単身世帯。宅配サービスにより買い物の身体的負担が軽減される便益。御用聞きが生活上の不便を解消し、定期的な訪問が安否確認の役割も果たし、精神的な安心感と孤独感の緩和をもたらす便益。

セグメント 2(解説)

  • 問題文の該当箇所

    • 「同時に、現社長は高齢者の単身世帯への宅配サービスを始めたが、ただ単に注文の品を届けるだけではなく、高齢者の不安、不便さの悩みを解決するために、B 社にできることは何でも引き受け、御用聞きのサービスもするようにした。」
    • 「高齢者の単身世帯への訪問は、「安否確認」という別の役割を果たすことにもなった。」
  • 答案作成の根拠 与件文から第 2 のターゲットは「高齢者の単身世帯」と特定できる。彼らへの便益は、物理的な側面と精神的な側面から構成される。

    1. 物理的・機能的便益: 宅配サービスは、買い物に行くのが困難な高齢者の身体的負担を軽減する。さらに「御用聞きサービス」は、電球交換やゴミ出しといった日常生活の「不便さ」を解消する直接的な解決策となる。
    2. 精神的・情緒的便益: B 社のサービスは単なる物や労働力の提供に留まらない。定期的な訪問は社会との接点を維持し、「安否確認」として機能することで、利用者本人とその家族に大きな「安心感」をもたらし、高齢者の「孤独感」を和らげる効果がある。
  • 使用した経営学の知識

    • サービス・マーケティング: 形のないサービスという商材のマーケティング。B 社は「宅配」「御用聞き」「安否確認」といったサービスを組み合わせ、顧客(高齢者)の課題解決というレベルで価値を提供しており、単なる商品販売業からサービス業へと事業領域を拡大している。
    • リレーションシップ・マーケティング: 顧客との長期的で良好な関係を築き、維持することを重視するマーケティング。B 社の訪問サービスは、顧客との深い信頼関係を構築する典型的な事例である。

第 3 問(配点 10 点)

設問文

B 社の現社長は、従業員の能力を引き出すためにインターナル・マーケティングを展開した。実際にどのようなインターナル・マーケティングを行ったのか。50 字以内で 2 つ答えよ。

回答例

インターナル・マーケティング 1(44 字)

透明性のある昇給・評価制度や正社員登用制度を導入し、従業員の貢献意欲と能力向上を促した。

インターナル・マーケティング 2(47 字)

各売場への予算配分とイベント企画や顧客対応に関する権限委譲を行い、主体性と責任感を引き出した。

解説

  • 問題文の該当箇所

    • 「パートを含めた従業員に対しては、その能力を尊重した透明性のある昇給制度を導入し、給与体系も見直した。」
    • 「優秀なパート従業員に対しては、正社員への登用制度を作り、社員と区別なく能力を評価した。」
    • 「顧客とのトラブル対応については、...各売り場責任者に顧客対応の意思決定を任せた。」
    • 「各売り場に毎月予算を与え、売り場ごとのイベントを考えてもらうようにした。」
    • 「現場の従業員から発信されるつぶやきやアイデアは積極的に取り入れ...」
  • 答案作成の根拠 インターナル・マーケティングとは、従業員を「内部顧客」と捉え、その満足度(ES)を高めることで、結果的に顧客満足度(CS)の向上を目指す活動である。設問では「従業員の能力を引き出すため」の施策を問われている。

    1. 動機付けの強化: 頑張りが報われる仕組みは、従業員のモチベーションを直接的に刺激する。「透明性のある昇給制度」や「正社員登用」は、努力と成果が公正に評価・処遇されることを示し、従業員の能力開発への意欲を高める。
    2. 主体性の尊重: 従業員を単なる作業員ではなく、自ら考えて行動するパートナーとして扱うことも重要である。「権限委譲」(顧客対応の意思決定)や「裁量権の付与」(売り場ごとのイベント企画・予算執行)は、従業員に当事者意識と責任感を持たせ、仕事へのやりがいを通じて潜在能力を引き出す効果がある。
  • 使用した経営学の知識

    • インターナル・マーケティング: 従業員満足(ES)が顧客満足(CS)を生むという「サービス・プロフィット・チェーン」の考え方が根底にある。B 社は、従業員を大切にすることで従業員から会社が愛される関係を築き、それが質の高い顧客サービスに繋がるという好循環を創出している。
    • 動機付け理論: ハーズバーグの二要因理論における「動機付け要因(承認、責任、昇進など)」や、マクレガーの Y 理論(人間は生来働くことが好きで、自己実現を求める)に通じる施策を展開している。

第 4 問(配点 20 点)

設問文

B 社の現社長は「B ポイントカード」の機能を拡大した。それは顧客にどのような便益を与えようとしたのか、50 字以内で 2 つ答えよ。

回答例

便益 1(47 字)

マイバッグ持参でポイントが還元されることで、環境配慮行動が直接的な経済的メリットに繋がる便益。

便益 2(50 字)

生ゴミ持ち込み等で貯まるポイントが自動で地元に寄付され、環境活動への参加と地域貢献を実感できる便益。

解説

  • 問題文の該当箇所

    • 「生ゴミを回収するごとに、2 ポイント(1 ポイントは 1 円)の「グリーンポイント」が発生し、この「グリーンポイント」は B 社の店舗のある地元自治体への寄付となり...」
    • 「ゴミの持ち込みは「B ポイントカード」1 枚につき、1 日 1 回に制限している。」(カードが認証キーとして機能)
    • 「マイバッグを持って、レジ袋を辞退する顧客に対しては、「B ポイントカード」に買物のポイント以外に 2 ポイントを還元している。」
  • 答案作成の根拠 「B ポイントカード」は単なる値引きツールではなく、顧客との関係性を深めるための多機能なツールへと進化している。その拡大機能がもたらす便益は以下の通りである。

    1. 経済的便益の拡大: 従来の購買金額に応じたポイント付与に加え、「マイバッグ持参」という顧客の特定の行動(環境配慮行動)に対して直接的な経済的インセンティブ(2 ポイント還元)を提供している。これは顧客にとって分かりやすく、行動を促す直接的なメリットとなる。
    2. 社会貢献・自己実現的便益: 生ゴミ持ち込みで発生する「グリーンポイント」は顧客自身に還元されるのではなく、自動的に地元自治体へ寄付される。これにより、顧客は日々の買い物を通じて、手間なく簡単に地域貢献(緑化事業など)に参加できる。自分の行動が社会の役に立っているという満足感や、地域の一員としての連帯感を得られるという心理的な便益を提供している。
  • 使用した経営学の知識

    • CRM (Customer Relationship Management): B 社はポイントカードを単なる販促ツールから、顧客の行動変容を促し、企業と顧客の価値観(環境配慮、地域貢献)を共有するためのコミュニケーション・ツールへと昇華させている。これにより、顧客とのエンゲージメント(深い関係性)を強化している。
    • コーズ・リレーテッド・マーケティング (CRM): 企業の売上の一部を社会貢献活動に寄付するなど、事業活動と社会貢献を結びつける手法。「グリーンポイント」制度は、顧客の参加を促しつつ社会貢献を実現する典型的なコーズ・リレーテッド・マーケティングである。

第 5 問(配点 30 点)

設問文

B 社の現社長がエコ活動を続けようとしているのは、B 社の経営上、どのような効果を狙っているのか。2 つの視点から具体的にそれぞれ 100 字以内で説明せよ。

回答例

効果 1(98 字)

「地域や環境に貢献する企業」というブランドイメージを構築する効果。この活動に共感する顧客のロイヤルティを高め、安定した顧客基盤を確立し、非価格競争による差別化と長期的な収益安定化を図る狙いがある。

効果 2(99 字)

事業基盤の強化と共生関係を構築する効果。生ゴミの堆肥化から有機野菜販売に至る循環システムは地域社会の課題解決に貢献し、行政や農家との連携を深めることで、地域に不可欠な存在としての地位を確立している。

解説

  • 問題文の該当箇所

    • 「地元の大型スーパーや全国規模の大手スーパーなどとの価格競争に巻き込まれ...」
    • 「経営の原点は、地元への感謝から」
    • 廃ペットやプラスチック容器の自主回収と寄付。
    • 資源ゴミ集積所の無償設置。
    • 生ゴミを無料で引き取り堆肥化し、契約農家に提供し、有機野菜を生産・販売する循環システム。
    • 「グリーンポイント」による地元自治体への寄付。
  • 答案作成の根拠 B 社のエコ活動は、単なる慈善事業ではなく、経営戦略と深く結びついている。その経営上の効果を 2 つの視点から分析する。

    1. 対顧客・市場における効果(差別化とブランド構築): B 社はかつて大手スーパーとの価格競争で疲弊した経験を持つ。エコ活動は、「安さ」という土俵から抜け出し、「地域貢献」「環境配慮」という新たな価値基準で顧客に選ばれるための強力な差別化戦略である。この活動に共感する顧客は、価格が多少高くても B 社を選び続けるロイヤルカスタマーとなる可能性が高い。これにより、安定した収益基盤を築くことができる。
    2. 事業基盤の強化と共生関係の構築: 生ゴミの堆肥化から有機野菜販売に至る循環システムは、他社が容易に模倣できない独自のサプライチェーンを構築している。これは「B 社でしか買えない」という魅力的な商品(高付加価値商品)を生み出し、来店動機を強化する。同時に、ゴミ問題という地域の課題解決に貢献し、自治体や契約農家といった地域のステークホルダーとの連携を深めることで、「地域に不可欠な存在」としての地位を確立し、持続的な事業展開のための強固な基盤を築いている。
  • 使用した経営学の知識

    • CSV (Creating Shared Value / 共通価値の創造): 企業の競争戦略と CSR(企業の社会的責任)を統合する考え方。B 社は、地域のゴミ問題という社会的課題の解決と、有機野菜という経済的価値の創出を両立させており、CSV の好事例と言える。
    • ブランディング: エコ活動を一貫して続けることで、「B 社=地域と環境を大切にするスーパー」というポジティブなブランド・アイデンティティを顧客や地域社会の心の中に形成している。
    • ステークホルダー理論: 企業は株主だけでなく、顧客、従業員、取引先、地域社会、行政など、すべての利害関係者との関係を良好に保つことで持続的に成長できるという考え方。B 社の活動は、まさしく多様なステークホルダーとの共存共栄を目指すものである。

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