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平成 30 年度(2018 年度)事例 Ⅳ 解答解説

第 1 問(配点 24 点)

(設問 1)

①:優れている指標

  • (a) 自己資本比率

  • (b) 35.59 (%) (計算過程:179 ÷ 503 × 100 = 35.59%、同業他社:12.01%)

    • 解説:D 社は総資本に占める返済不要の自己資本の割合が高く、借入金への依存度が低い。したがって、財務の安全性が高く、長期的な安定経営が可能である。

②:劣っている指標 1

  • (a) 売上高販管費率

  • (b) 22.95 (%) (計算過程:345 ÷ 1,503 × 100 = 22.95%、同業他社:6.67%)

    • 解説:販売費及び一般管理費が高く、収益を圧迫している。与件文にある「協力個人事業主等の確保・育成」「社員教育」などの人材投資、事業拡大に伴う管理コストが増加要因と考えられる。高い売上高総利益率を販管費が相殺している状況である。

③:劣っている指標 2

  • (a) 有形固定資産回転率

  • (b) 17.08 (回) (計算過程:1,503 ÷ 88 = 17.08、同業他社:42.21 回)

    • 解説:D 社は自社保有の土地(66 百万円)を含む固定資産を多く抱えており、資産の活用効率が低い。事業拡大や配送ネットワークの拠点整備に伴う固定資産の増加が、効率性の低下を招いている。

【別解】

①:優れている指標(別解)

  • (a) 売上高総利益率

  • (b) 24.15 (%) (計算過程:363 ÷ 1,503 × 100 = 24.15%、同業他社:9.92%)

    • 解説:D 社は付加価値の高い「インテリアトータルサポート事業」などを展開し、同業他社に比べて高い粗利益率を確保している。

【補足:売上高営業利益率を採用しない理由】

営業利益率は一見すると有用な指標であるが、利益の減少要因が原価によるものか販管費によるものかが区別できない。 本問では、D 社のように売上高総利益率(=原価構造)と売上高販管費率(=管理コスト構造)のいずれも差異が大きい場合、営業利益率のみでは原因を特定できない。 したがって、 問題の所在をピンポイントで指摘できる「売上高販管費率」 を採用する方が適切である。


(設問 2)

D 社の財政状態および経営成績について、同業他社と比較して D 社が優れている点と D 社の課題を 50 字以内で述べよ。

回答例(50 字)

自己資本比率が高く財務は安定し、粗利率も高い。販管費が多く営業利益率が低く、固定資産の活用効率が課題

解説

  • 問題文の該当箇所: D 社および同業他社の貸借対照表・損益計算書全体、および(設問 1)の分析結果。
  • 答案作成の根拠: (設問 1)の分析結果を要約する。
    • 優れている点(財政状態): 自己資本比率を計算すると、D 社は 179 ÷ 503 = 35.6% であり、同業他社の 74 ÷ 616 = 12.0% を大きく上回る。これは財務の安定性が高いことを示す。
    • 優れている点(経営成績): (設問 1)で分析した通り、売上高総利益率(粗利率)が高い。
    • 課題(経営成績・効率性): (設問 1)で分析した通り、高い販管費により売上高営業利益率が低い。また、有形固定資産回転率が低く、資産活用の効率性に課題がある。

第 2 問(配点 31 点)

D 社は今年度の初めに F 社を吸収合併し、インテリアのトータルサポート事業のサービスを拡充した。今年度の実績から、この吸収合併の効果を評価することになった。以下の設問に答えよ。なお、利益に対する税率は 30 %である。

(設問 1)

① 加重平均資本コスト(WACC)と、② 吸収合併により増加した資産に対して要求されるキャッシュフロー(単位:百万円)を求め、その値を ⒜ 欄に、計算過程を ⒝ 欄に記入せよ。

⒜-① 加重平均資本コスト(WACC)

3.30 (%)

⒝-① 計算過程

179503×8+324503×1×(10.3)=3.297...3.30

⒜-② 要求されるキャッシュフロー

6.27 (百万円)

⒝-② 計算過程

190×3.30=6.27

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解説

  • 答案作成の根拠:
    • ① 加重平均資本コスト(WACC):
      • WACC は、負債コストと株主資本コストをそれぞれの時価構成比で加重平均して算出する。税率を考慮し、負債コストの節税効果を反映させる。
      • 株主資本(E) = 純資産合計 = 179 百万円
      • 負債(D) = 負債合計 = 324 百万円
      • 総資本(D+E) = 503 百万円
      • 株主資本コスト (rE) = 8%
      • 負債コスト (rD) = 1%
      • 税率(t) = 30%
      • WACC の公式 WACC=ED+ErE+DD+ErD(1t) に代入して計算する。
    • ② 要求されるキャッシュフロー:
      • これは、投資した資産(今回は吸収合併により増加した資産)が、最低限生み出すべきキャッシュフローを示す。
      • 「増加した資産額 × WACC」で計算できる。
      • 増加した資産 = F 社から取得した資産合計 = 190 百万円
      • 要求 CF = 190 百万円 × 3.297...% ≒ 6.27 百万円。計算過程では ① で求めたパーセント表示の WACC をそのまま使用してよい。

(設問 2)

吸収合併により増加したキャッシュフロー(単位:百万円)を求め、その値を ⒜ 欄に、計算過程を ⒝ 欄に記入せよ。また、吸収合併によるインテリアのトータルサポート事業のサービス拡充が企業価値の向上につながったかについて、(設問 1 )で求めた値も用いて理由を示して ⒞ 欄に 70 字以内で述べよ。

⒜ 吸収合併により増加したキャッシュフロー

3.80 (百万円)

⒝ 計算過程

営業利益:400 - (395 + 1) = 4<br>キャッシュフロー:4 × (1 - 0.3) + 1 = 3.8

⒞ 記述(63 字)

吸収合併による CF(3.8 百万円)が、要求される CF(6.27 百万円)を下回るため、現時点では企業価値向上につながっていない。

解説

  • 答案作成の根拠:
    • 増加したキャッシュフローの計算:
      • 事業が生み出すフリー・キャッシュフロー(FCF)を計算する。運転資本の増減は考慮しないため、FCF = 税引後営業利益 + 非資金費用(減価償却費など)で求める。
      • 営業利益 = 収益 - 費用 = 400 - (現金支出 395 + 非資金費用 1) = 4 百万円
      • 税引後営業利益 = 4 × (1 - 30%) = 2.8 百万円
      • キャッシュフロー = 税引後営業利益 + 非資金費用 = 2.8 + 1 = 3.8 百万円
    • 企業価値向上への評価:
      • 投資の経済性を評価するには、その投資が生み出すキャッシュフロー(実績値)と、投資に対して要求されるキャッシュフロー(ハードル・レート)を比較する。
      • 実績 CF (3.8 百万円) < 要求 CF (6.27 百万円)
      • この結果から、投資額に対して期待されるリターンを生み出せておらず、このままでは企業価値を毀損していると判断できる。この論理を 70 字以内で記述する。

(設問 3)

キャッシュフローの成長率を ⒜ 欄に、計算過程を ⒝ 欄に記入せよ。

⒜ キャッシュフローの成長率

1.30 (%)

⒝ 計算過程

190=3.80.033g
g=0.0333.8190=0.013=1.3%

解説

  • 答案作成の根拠:
    • 将来のキャッシュフローが一定率 (g) で永久に成長する場合、その現在価値合計 (PV) は、定率成長配当割引モデル(ゴードン・グロース・モデル)を用いて計算できる。
    • 公式: PV=CF1rg
      • PV:現在価値合計 = 増加した資産額 = 190 百万円
      • CF1:初年度のキャッシュフロー = 3.8 百万円
      • r:割引率 = WACC ≒ 3.30% (0.033)
      • g:キャッシュフロー成長率(求める値)
    • 上記の公式に値を代入し、g について解く。
      • 190=3.80.033g
      • 0.033g=3.8190=0.02
      • g=0.0330.02=0.013
    • パーセントに変換すると 1.3%。小数点第 3 位を四捨五入して 1.30% となる。

第 3 問(配点 30 点)

(設問 1)

来年度は外注費が 7 %上昇すると予測される。また、営業所の開設により売上高が 550 百万円、固定費が 34 百万円増加すると予測される。その他の事項に関しては、今年度と同様であるとする。 予測される以下の数値を求め、その値を ⒜ 欄に、計算過程を ⒝ 欄に記入せよ。

⒜-① 変動費率

73.30 (%)

⒝-① 計算過程

外注費以外の変動費率: (1,047 - 782) ÷ 1,503 = 0.1763...
外注費率: (782 ÷ 1,503) × 1.07 = 0.5567...
合計: 0.1763... + 0.5567... = 0.7330... ≒ 73.30%

⒜-② 営業利益

76 (百万円)

⒝-② 計算過程

売上高: 1,503 + 550 = 2,053
変動費: 2,053 × 73.30% = 1,504.9
固定費: (126 + 312) + 34 = 472
営業利益: 2,053 - 1,504.9 - 472 = 76.1 ≒ 76

解説

  • 答案作成の根拠: CVP(損益分岐点)分析の考え方を用いて、来年度の予測損益を計算する。
    • ① 変動費率:
      • 変動費は「外注費」と「その他」に分けられる。来年度は外注費の単価(比率)が 7% 上昇する。
      • まず、今年度の売上高に対する各変動費の比率を計算する。
        • 外注費率(今年度)= 782 ÷ 1,503
        • その他変動費率 = (1,047 - 782) ÷ 1,503 = 265 ÷ 1,503
      • 来年度の変動費率は、上昇する外注費率と変わらないその他変動費率の合計となる。
        • 外注費率(来年度) = (782 ÷ 1,503) × 1.07 ≒ 55.67%
        • その他変動費率(来年度)= 265 ÷ 1,503 ≒ 17.63%
        • 合計変動費率 ≒ 73.30%
    • ② 営業利益:
      • 営業利益 = 売上高 - 変動費 - 固定費
      • 来年度の売上高 = 1,503 + 550 = 2,053 百万円
      • 来年度の変動費 = 来年度売上高 × ① で求めた来年度変動費率 = 2,053 × 73.30% ≒ 1,504.9 百万円
      • 来年度の固定費 = 今年度の固定費 + 増加固定費 = (126 + 312) + 34 = 472 百万円
      • 来年度の営業利益 = 2,053 - 1,504.9 - 472 = 76.1 百万円。百万円未満を四捨五入して 76 百万円。

(設問 2)

D 社が新たに営業拠点を開設する際の固定資産への投資規模と費用構造の特徴について、60 字以内で説明せよ。

回答例(60 字)

固定資産投資は小規模で、拠点の固定費増は軽微である。一方、事業の多くを業務委託するため、変動費比率が高い費用構造を持つ。

解説

  • 問題文の該当箇所: 与件文、第 3 問の費用内訳表と予測値。
  • 答案作成の根拠:
    • 投資規模: 新規営業所開設による固定費増加は 34 百万円。これは既存 3 拠点分の個別費 99 百万円(1 拠点あたり 33 百万円)とほぼ同水準であり、大規模な設備投資ではなく、賃借料や人件費が中心の軽微な投資であることがわかる。
    • 費用構造: 費用内訳表から、変動費が総費用の大半を占めていることがわかる(変動費 1,047 / 総費用 1,485 ≒ 70%)。特に外注費が大きく、外部への業務委託に依存した事業モデルであることが読み取れる。この結果、変動費比率が高く、固定費比率が低い費用構造となっている。 これらの特徴を指定文字数内でまとめる。
  • 使用した経営学の知識: CVP 分析財務レバレッジ。変動費比率が高い費用構造は、損益分岐点売上高が低くなる傾向があり、売上の増減が利益に直接的に反映されやすい。これは「経営レバレッジが低い」状態ともいえる。

(設問 3)

(設問 2 )の特徴を有する営業拠点の開設が D 社の成長性に及ぼす当面の影響、および営業拠点のさらなる開設と成長性の将来的な見通しについて、60 字以内で説明せよ。

回答例(49 字)

当面は低投資で売上を伸ばし成長に貢献する。将来的には協力事業者や人材の確保・育成が制約となりうる。

解説

  • 問題文の該当箇所: 与件文全体、特に事業モデルと人的資源に関する記述。および(設問 2)の分析結果。
  • 答案作成の根拠:
    • 当面の影響: (設問 2)で分析した通り、低投資・低固定費で拠点を展開できるため、少ないリスクで売上拡大が可能。これは企業の成長に直接的に貢献する。変動費率が高いため利益率は低いかもしれないが、売上増による利益額の増加は見込める。
    • 将来的な見通し(課題): D 社のビジネスモデルは「協力個人事業主等」や「加盟物流業者」という外部資源に大きく依存している。与件文にも「確保・育成」「緊密な連携」が重要要素であり、「人手不足」が課題であると明記されている。したがって、事業を拡大し続けるには、この外部ネットワークを質・量ともに維持・拡大する必要があり、これが将来の成長のボトルネック(制約要因)になる可能性が高い。
  • 使用した経営学の知識: 成長戦略リソース・ベースト・ビュー(RBV)。企業成長のドライバーと制約要因を分析する視点が求められる。D 社の成長は外部資源に依存しており、その管理能力が持続的競争優位の鍵となる。

第 4 問(配点 15 点)

D 社が受注したサポート業務にあたる際に業務委託を行うことについて、同社の事業展開や業績に悪影響を及ぼす可能性があるのはどのような場合か。また、それを防ぐにはどのような方策が考えられるか。70 字以内で説明せよ。

回答例(69 字)

委託先の品質低下で顧客の信頼を失うことや、外注費高騰で収益が悪化する場合。マニュアル整備や研修で品質を管理し、協力会社との連携強化で防ぐ。

解説

  • 問題文の該当箇所: 与件文の「協力個人事業主等の確保・育成および加盟物流業者との緊密な連携とサービス水準の把握・向上がビジネスを展開するうえで重要な要素になっている」という記述。
  • 答案作成の根拠:
    • 悪影響を及ぼす場合(リスク): 外部委託に依存するビジネスモデルのリスクを具体的に挙げる。
      1. 品質管理リスク: 委託先の業務品質を直接コントロールしにくいため、サービスレベルが低下し、D 社のブランドイメージや顧客からの信頼を損なう可能性がある。
      2. コストリスク: 外部委託への依存度が高まると、委託先に対する交渉力が弱まり、外注費の高騰を招く可能性がある(第 3 問でも外注費 7%上昇が予測されている)。
      3. ノウハウ空洞化リスク: 業務を外部に任せることで、社内にノウハウが蓄積されにくくなる。
    • 対策: 上記リスクへの対応策を記述する。
      • (品質管理に対して)与件文にある「サービス水準の把握・向上」を具体化する。業務マニュアルの整備・徹底、定期的な研修や現場指導、モニタリングなどが考えられる。
      • (コストや連携に対して)「緊密な連携」を強化し、パートナーとしての関係を構築することで、安定的な協力関係を築く。
  • 使用した経営学の知識: アウトソーシングのマネジメント。アウトソーシングはコスト削減や専門性活用といったメリットがある一方、品質管理や依存度上昇といったリスクを伴う。成功のためには、委託先との適切な関係構築と管理体制が不可欠である。

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