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平成 19 年度(2007 年度)事例 Ⅳ 解答解説

第 1 問(配点 25 点)

設問文

平成 18 年度(実績)と 19 年度(予想)の財務諸表から、従来の経営政策を続けた場合の重要な問題点を 3 つ挙げ、根拠となる経営指標(名称・値)と問題点の内容を説明せよ。

回答

①:問題点 1 (収益性の悪化)

  • (a) 売上高経常利益率
  • (b) 1.55 (%) (計算過程:45 百万円 ÷ 2,900 百万円 × 100)
  • (c) 取扱薬局の減少による売上高の減少と高コスト体質により、収益性が大幅に悪化している。 (41 字)

②:問題点 2 (効率性の悪化)

  • (a) 総資産回転率
  • (b) 1.11 (回) (計算過程:2,900 百万円 ÷ 2,601 百万円)
  • (c) 売上高が減少している一方で、資産規模が縮小せず、資産が効率的に売上に結びついていない。 (43 字)

③:問題点 3 (安全性の悪化)

  • (a) インタレスト・カバレッジ・レシオ
  • (b) 1.02 (倍) (計算過程:174 百万円 ÷ 171 百万円)
  • (c) 営業利益が支払利息(営業外費用)と同水準まで低下しており、利払いの安全性が著しく低い。 (43 字)

解説

  • 指標選定理由:与件文から、D 社は取扱薬局の減少により「売上高が減少する可能性が高まって」おり、H19 予想財務諸表では H18 実績に対し売上高・各利益が大幅に減少している。この「収益性」「効率性」「安全性」の 3 観点からの悪化を示す指標を選定した。
  • 算定ルール
    • ① 売上高経常利益率 = 経常利益 ÷ 売上高 × 100
      • H18 実績:198 ÷ 3,216 × 100 = 6.16 (%)。H19 予想の 1.55% への悪化は深刻である。
    • ② 総資産回転率 = 売上高 ÷ 総資産
      • H18 実績:3,216 ÷ 2,651 = 1.21 (回)。H19 予想は 1.11 回であり、資産効率が低下している。
    • ③ インタレスト・カバレッジ・レシオ = 営業利益 ÷ 営業外費用(支払利息)
      • H18 実績:333 ÷ 171 = 1.95 (倍)。H19 予想は 1.02 倍と、本業の利益で利息を賄うのがやっとの状態である。
  • 丸め・単位:(b)欄は指示(小数第 3 位四捨五入)に基づき、小数第 2 位まで表示。
  • 解釈:従来の経営政策(薬局への対面販売ルート)が、ドラッグストアの進出や薬局の廃業という外部環境の変化によって機能不全に陥りつつある。その結果、売上減少と利益の急減を招き、財務体質全体が悪化している状況が、上記 3 指標から読み取れる。

第 2 問(配点 25 点)

設問文

2 か年の財務諸表から、損益分岐点分析を営業利益レベルにおいて行う。なお、変動費率は一定と仮定する。以下の設問に答えよ。

(設問 1)

変動費率を(a)欄に、固定費を(b)欄に求めよ。なお、変動費率は 1 パーセント未満を四捨五入し、固定費は百万円未満を四捨五入すること。

(a) 変動費率

50 (%)

(b) 固定費

1,285 (百万円)

解説

  1. 変動費率 (v) と固定費 (F) の算定: 営業利益レベルでの CVP 分析のため、2 期間の売上高 (S) と営業利益 (P) を用いて連立方程式を解く。
    • P=S×(1v)F
    • (H18) 333=3,216×(1v)F ... ①
    • (H19) 174=2,900×(1v)F ... ②
  2. 変動費率 (v): ① - ② より:
    • 333174=(3,2162,900)×(1v)
    • 159=316×(1v)
    • 限界利益率 (1v)=159÷316=0.50316...
    • 変動費率 v=10.50316...=0.49683...
    • 指示(1 パーセント未満を四捨五入)より、(a) 50% となる。
  3. 固定費 (F)v=0.49683... を ② に代入:
    • F=2,900×(10.49683...)174
    • F=2,900×0.50316...174
    • F=1,459.17...174=1,285.17... (百万円)
    • 指示(百万円未満を四捨五入)より、(b) 1,285 百万円 となる。

(設問 2)

D 社が現在の経営政策をこのまま取り続けるとしたら、どのような状況となるか、この損益分岐点分析に基づいて 60 字以内で説明せよ。

回答例(51 字)

  • 売上高が損益分岐点(約 2,554 百万円)に接近しつつあり、更なる売上減少で赤字転落の危険性が高い状況。

解説

  1. 損益分岐点売上高 (BEP) の計算
    • BEP = 固定費 / 限界利益率
    • BEP = 1,285.17... 百万円 / 0.50316... = 2,553.8... 百万円
  2. 状況の解釈
    • 平成 19 年度の予想売上高 2,900 百万円は、損益分岐点売上高(約 2,554 百万円)を上回っており、営業利益 174 百万円(黒字)を確保している。
    • しかし、与件文には「このままだと今後 D 社の売上高が減少する可能性が高まっている」とある。
    • H19 予想の安全余裕率((2,900 - 2,554) / 2,900)は約 11.9% と低水準であり、売上がさらに減少すれば、容易に営業赤字に転落する危険な状況にあることを示している。

第 3 問(配点 25 点)

設問文

D 社は、次のようなタイムスケジュールをもつ新製品開発プロジェクトを検討している。 (中略)

(設問 1)

D 社の新製品開発プロジェクトの平成 19 年度期末(1 期末)での期待正味現在価値を求めよ(四捨五入により百万円単位まで求めること)。

回答例

77 百万円

解説

  1. 前提整理
    • 評価時点:t=1 (H19 期末)
    • 研究開発投資 (t=1): IR=4,000 万円
    • 設備投資 (t=2):
      • X 案 (確率 0.5): IX=50,000 万円
      • Y 案 (確率 0.5): IY=70,000 万円
    • 営業 CF (t=3 ~ 7、5 年間):
      • X 案: CFX=20,000 万円/年
      • Y 案: CFY=16,000 万円/年
    • 資本コスト (r): 10%
    • 年金現価係数 (n=5, r=10%): 3.7908
  2. t=2 (H20 期末) 時点での各案の NPV 計算: t=2 を起点とし、t=3 ~ 7 の CF(t=2 から見て 1 年後からの 5 年年金)を現在価値に割り引く。
    • NPVX,t=2=IX+CFX×(年金現価係数)
      • =50,000+20,000×3.7908
      • =50,000+75,816=25,816 万円
    • NPVY,t=2=IY+CFY×(年金現価係数)
      • =70,000+16,000×3.7908
      • =70,000+60,652.8=9,347.2 万円
  3. t=2 時点の意思決定
    • X 案: NPVX,t=2>0 のため、投資を実行する。
    • Y 案: NPVY,t=2<0 のため、投資を中止する(価値は 0)。
  4. t=1 (H19 期末) 時点の期待価値 (EV) 計算: t=2 での各案の価値を t=1 に割り引いたものの期待値。
    • EVt=1=[0.5×(NPVX,t=2÷(1+r))]+[0.5×(0÷(1+r))]
    • =[0.5×(25,816÷1.1)]+[0.5×0]
    • =0.5×23,469.09...=11,734.545... 万円
  5. t=1 (H19 期末) 時点の期待正味現在価値 (E[NPV]) 計算: t=1 の期待価値から、t=1 で支出する研究開発投資を引く。
    • E[NPVt=1]=EVt=1IR
    • =11,734.545...4,000=7,734.545... 万円
    • 四捨五入により百万円単位で、77 百万円 となる。

(設問 2)

D 社は、研究開発への着手および設備投資について、それぞれどのような意思決定を行うべきか、50 字以内で説明せよ。

回答例(49 字)

期待 NPV が正のため研究開発に着手し、設備投資は製造方法 X の場合にのみ実行し Y の場合は中止すべき。

解説

  1. 研究開発への意思決定: プロジェクト全体の価値評価に基づくものである。設問 1 で算出した 1 期末時点の期待 NPV は 77 百万円とプラスであり、研究開発投資 4,000 万円を差し引いても、プロジェクト全体として正の価値が見込まれる。したがって、研究開発に着手すべきである

  2. 設備投資への意思決定: 設問 1 の計算過程(ステップ 2)に示された通り、設備投資の可否は研究開発の結果に依存する。

    • 製造方法 X の場合: NPV はプラス(258.16 百万円)であり、投資を実行すべきである
    • 製造方法 Y の場合: NPV はマイナス(−93.472 百万円)であり、投資を中止すべきである。 これらの判断を 50 字以内で簡潔にまとめると、「研究開発を実施し、製造方法 X に投資すべきである」となる。

第 4 問(配点 25 点)

設問文

開発された新製品はインターネットを新たな販売チャネルとし、ウェブサイトの作成・運営は専門業者に委託する予定である。以下の設問に答えよ。

(設問 1)

インターネット販売に進出した D 社が、今後留意すべき点について、個人情報の観点から 60 字以内で指摘せよ。

回答例(60 字)

顧客の個人情報漏洩を防止する安全管理措置を講じる必要がある。サイト運営委託先の管理体制を監督する責任を負う点に留意する。

解説

  • 問題文の該当箇所: 「インターネットを新たな販売チャネルとし、ウェブサイトの作成・運営は専門業者に委託する予定である。」

    インターネット販売では、顧客の氏名、住所、決済情報といった重要な個人情報を取り扱うため、個人情報保護法を遵守し、安全に情報を管理する体制の構築が不可欠である。 特に本事例では、サイト運営を外部に委託していることから、自社のみならず委託先の監督責任が重要な論点となる。万一、委託先が情報漏洩事故を起こした場合には、委託元である D 社も法的・社会的責任を問われる可能性があるためである。 したがって、① 情報漏洩防止のための自社における安全管理措置の徹底、② 委託先が適切な管理を実施しているかの確認・監督、という二点を指摘することが求められる。

(設問 2)

D 社の新製品開発プロジェクトが軌道に乗った場合には、この新製品によって獲得した顧客は将来的にもインターネット販売を利用すると予想される。したがって、販売の主力は対面販売からインターネット販売へと置き換えられて行くと考えられる。これにともなって、D 社の資産と費用の構造は、どのように変化すると予想されるか。40 字以内で説明せよ。

回答例(39 字)

資産は無形固定資産が増加、売掛金が減少。費用は変動費が減少し固定費が増加する。

解説

  • 資産の変化
    • 増加:インターネット販売用のウェブサイトや顧客管理システム等の構築・開発が必要となるため、無形固定資産(ソフトウェアなど)が増加する。
    • 減少:従来の薬局ルート(卸売)では売掛金の回収サイトが長かった可能性があるが、ネット販売(BtoC)では決済(クレカ、代引き等)が早まるため、**売上債権(受取手形・売掛金)**が減少する可能性がある。
  • 費用の変化
    • 増加:ウェブサイトの作成・運営を専門業者に「委託」するため、この委託費(多くは固定費)が発生・増加する。また、ネット広告宣伝費も増加すると予想される。
    • 減少:従来の薬局ルート(対面販売)にかかっていた販売員への説明コストや、薬局への卸売マージン(変動費的要素)が、直販(ネット販売)になることで削減される。これにより**変動費(率)**は減少すると考えられる。
  • 結論:総じて、資産面では無形固定資産が増え、費用面では変動費が減る一方で固定費が増加し、営業レバレッジが高まる(損益分岐点売上高が上昇する)構造に変化すると予想される。

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