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平成 23 年度(2011 年度)事例 Ⅳ 解答解説

第 1 問(配点 35 点)

(設問 1)

①:問題点を示す経営指標 1(収益性)

  • (a) 売上高経常利益率
  • (b) 0.61 % (計算過程:15 ÷ 2,450 × 100、同業他社:1.24 %)

②:問題点を示す経営指標 2(安全性)

  • (a) インタレスト・カバレッジ・レシオ
  • (b) 1.38 倍(計算過程:(50 + 5) ÷ 40、同業他社:2.14 倍)

③:問題点を示す経営指標 3(効率性)

  • (a) 棚卸資産回転率
  • (b) 5.36 回 (計算過程:1,972 ÷ 368、同業他社:8.46 回)

(c) 原因(59 字)

水産加工品の見込み生産による過剰在庫が資産効率を圧迫。有利子負債依存が支払利息負担となり、経常利益率を悪化させている。

(d) 改善策(55 字)

在庫管理の徹底による棚卸資産の圧縮と、余剰資産売却等による有利子負債の削減を進め、財務体質と収益性を改善する。

解説

  • 指標選定の視点 D 社の財務課題を多角的に示すため、収益性・安全性・効率性の観点から、特に同業他社比較で問題が顕著な指標を選定する。
  • 各指標の解説
    1. 売上高経常利益率:営業利益率(D 社 2.04%)は同業(1.76%)を上回るが、支払利息(40 百万円)が重く、経常利益率(D 社 0.61%)は同業(1.24%)を大きく下回る。財務活動(借入)が本業の利益を圧迫している状況を示す。
    2. インタレスト・カバレッジ・レシオ:D 社(1.38 倍)は同業(2.14 倍)より著しく低い。営業利益等は支払利息の 1.38 倍しかなく、利息支払能力が低い。これが ① の経常利益率圧迫の直接要因であるため採用。
    3. 棚卸資産回転率:D 社(5.36 回)は同業(8.46 回)より著しく低い。与件文に「生産能力に余剰」とある一方、棚卸資産(368)が過大であることを示す。過剰在庫は資金繰りを圧迫し、総資産の効率性低下にも寄与している。
  • (c)原因と(d)改善策の連動 (c)では、上記 3 指標が示す問題点(低い経常利益率、低い利息支払能力、低い在庫回転率)の根本原因が、「過剰在庫」と「過大な有利子負債」にあることを連動させて指摘する。 (d)では、(c)で特定した 2 つの根本原因に対し、「在庫圧縮」と「有利子負債削減」という直接的な改善策を提示する。

(設問 2)

(a) 営業キャッシュフローの計算過程

(単位:百万円)

  • 税引前当期純利益: 15
  • 減価償却費: 22 (H22 累計 490 - H21 累計 468)
  • 営業外収益(受取利息): △5
  • 営業外費用(支払利息): 40
  • 売上債権の増加: △21 (H22 360 - H21 339)
  • 棚卸資産の減少: 9 (H21 377 - H22 368)
  • 仕入債務の減少: △13 (H21 298 - H22 285)
  • 小計(利息及び法人税等調整前): 47
  • 利息の受取額: 5
  • 利息の支払額: △40
  • 法人税等の支払額: △4 (期首未払 2 + P/L 計上 6 - 期末未払 4)
  • 営業キャッシュフロー = 47 + 5 - 40 - 4 = 8 (百万円)

(b) 今後の経営上の課題(90 字)

営業 CF が 8 百万円と低水準であり、本業でのキャッシュ創出力が弱い。老朽設備の更新や HACCP 対応の新工場建設という多額の投資需要に対し、内部資金が不足しており、借入依存度が高い点。

解説

  • (a) 営業 CF

    • 減価償却費: 貸借対照表の減価償却累計額の差分(490 - 468 = 22 百万円)。
    • 運転資本の増減: 売上債権(純額)の増加は CF のマイナス(△21)、棚卸資産の減少は CF のプラス(9)、仕入債務の減少は CF のマイナス(△13)。
    • 利息・法人税:
      • 税引前利益からスタートした場合、営業外の利息(非営業活動項目)の影響を除外し(収益は引き、費用は足す)、実際に支払・受取があった額を加減算する。
      • 法人税等の支払額: P/L 上の「法人税等(6)」と B/S の「未払法人税等」の増減(H21: 2 → H22: 4)から算出する。支払額 = 期首未払 2 + P/L 計上 6 - 期末未払 4 = 4 百万円。
  • (b) 経営課題:営業 CF が 8 百万円と、当期純利益(9 百万円)や減価償却費(22 百万円)と比して低水準であることに変わりはない。与件文の「老朽化」「新規工場建設」といった多額の投資(投資 CF のマイナス)が今後見込まれる中で、営業 CF の創出力強化が急務である。

第 2 問(配点 15 点)

回答例(32 字)

貢献利益が 60 万円増加し、会社全体の利益が増えるため受諾すべき。

解説

  1. 前提確認

    • 月間生産能力:20,000 単位
    • 予定生産量:18,000 単位
    • 余剰能力:20,000 - 18,000 = 2,000 単位
    • 特別注文量:2,000 単位
    • → 特別注文は余剰能力の範囲内で対応可能であるため、追加の固定費は発生しない(埋没原価)。
  2. 差額原価収益分析

    • 意思決定は、この注文を受諾することによる差額収益と差額費用(変動費のみ)を比較して行う。
    • 差額収益(単価):800 円
    • 差額費用(単価):500 円(単位当たり変動費)
    • 差額限界利益(単価):800 円 - 500 円 = 300 円
    • 差額限界利益(総額):300 円/単位 × 2,000 単位 = 600,000 円
  3. 判断

    • 差額限界利益がプラス(600,000 円)となるため、この特別注文は受諾した方が企業全体の利益増加に貢献する。

第 3 問(配点 25 点)

(a) 計算過程

  • 製品 Z の限界利益: 320
  • 製品 Z の個別固定費: 200
  • 製品 Z の貢献利益 = 320 - 200 = 120 (百万円)

(b) 結論と理由(43 字)

廃止すべきでない。Z は 1.2 億円の貢献利益を生み、共通固定費の回収に貢献しているため。

解説

  1. 分析の視点

    • 製品 Z は営業損失 20 百万円だが、これには共通固定費 140 百万円が配賦されている。
    • 共通固定費は、製品 Z を廃止しても減少しない(発生し続ける)と仮定される。
    • したがって、意思決定は「限界利益」から「個別固定費」を差し引いた 「貢献利益」 がプラスかマイナスかで判断する。
  2. 貢献利益の算定

    • (a)の計算過程のとおり、製品 Z の貢献利益は 120 百万円(=限界利益 320 百万円 − 個別固定費 200 百万円)の黒字である。
  3. 判断

    • 製品 Z は、それ自身の製造・販売に直接かかる固定費(個別固定費)を賄った上で、さらに 120 百万円の利益(貢献利益)を生み出している。
    • この 120 百万円は、企業全体の共通固定費(315 百万円)の回収に貢献している。
    • もし製品 Z を廃止すると、この貢献利益 120 百万円が失われるため、企業全体の利益は現状よりも 120 百万円減少してしまう。

第 4 問(配点 25 点)

(設問 1)

(a) 各年のキャッシュフローの期待値

  • 1 年目:−40 百万円
  • 2 年目:10 百万円
  • 3 年目:35 百万円

(b) 正味現在価値の期待値

−10 百万円

(c) 意思決定

正味現在価値の期待値がマイナスであるため、この新規事業案は採用すべきでない。

解説

本設問は、不確実性下における意思決定問題であり、各事象の発生確率が与えられているため、**期待値(期待キャッシュフロー)**を求めて投資可否を判断するものである。

(1) 各年のキャッシュフローの計算方法 各年のキャッシュフローは、 「売上の期待値 − コストの期待値」で算出する。 売上とコストは独立事象であるため、それぞれを別々に計算して差し引く。

  • 1 年目: 売上期待値 = (100×0.5 + 50×0.5) = 75 コスト期待値 = (80×0.5 + 150×0.5) = 115 CF 期待値 = 75 − 115 = −40 百万円

  • 2 年目: 売上期待値 = (150×0.5 + 100×0.5) = 125 コスト期待値 = 115 CF 期待値 = 125 − 115 = 10 百万円

  • 3 年目: 売上期待値 = (200×0.5 + 100×0.5) = 150 コスト期待値 = 115 CF 期待値 = 150 − 115 = 35 百万円

(2) 正味現在価値(NPV)の計算方法 「現在価値に割り引かない」という条件のため、各年のキャッシュフロー期待値を単純合計する。 −40 + 10 + 35 = 5 百万円 これに初期投資 15 百万円を差し引くと、 5 − 15 = −10 百万円 となる。

(3) 意思決定の根拠 NPV(正味現在価値)の期待値がマイナスであるため、投資基準に照らして本事業は採用すべきでないと判断する。

(設問 2)

初期投資に先だって、R&D 費として 10 百万円を投資することで、コストの高低が判明すると仮定した場合、(設問 1)で得られた結果はどのようになるか、根拠となる数値を提示しながら 150 字以内で述べよ。

回答例(143 字)

R&D 投資により、低コスト(確率 50%)なら NPV95 百万円で事業実施、高コスト(確率 50%)なら事業中止(価値 0)と判断できる。R&D 後の期待価値は 47.5 百万円。R&D 費 10 百万円を引いた正味価値は 37.5 百万円となる。これは設問 1 の価値 0 を上回るため、R&D 投資を行うべきである。

解説

これはリアルオプション(特に「学習のオプション」)の考え方を用いた意思決定問題である。R&D 投資によって不確実性(コストの高低)を解消し、その情報に基づいて最適な行動(事業実施または中止)を選択できるという「柔軟性」の価値を評価する。

  1. 【低コスト(80)と判明した場合:確率 50%】 総キャッシュフロー(CF)= (-5) + 45 + 70 = 110 NPV = 110 − 初期投資 15 = 95 NPV > 0 であるため、事業を実施する。このシナリオの価値は 95 百万円である。

  2. 【高コスト(150)と判明した場合:確率 50%】 総 CF = (-75) + (-25) + 0 = -100 NPV = -100 − 初期投資 15 = -115 NPV < 0 であるため、事業を中止する。このシナリオの価値は 0(投資を行わないため損失は発生しない)。

  3. R&D 投資時点での期待価値 (95 百万円 × 50%) + (0 百万円 × 50%) = 47.5 百万円

  4. R&D 投資を含めた正味価値 期待価値 47.5 百万円 − R&D 費 10 百万円 = 37.5 百万円

設問 1 では価値が 0(事業を実施しないため)であったのに対し、R&D 投資案では 37.5 百万円のプラスの価値が生じる。したがって、意思決定は覆り、R&D 投資を行うべきであると結論付けられる。

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