Gemini 2.5 Pro による回答と解説( 令和 3 年度(2021 年度)事例 Ⅰ)
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第 1 問(配点 20 点)
設問文
2 代目経営者は、なぜ印刷工場を持たないファブレス化を行ったと考えられるか、100 字以内で述べよ。
回答例(98 字)
技術革新による価格競争を回避し、多額の設備投資負担をなくすため。経営資源をディレクション業務に集中し、外注先を活用する分業体制構築により、高付加価値な美術印刷分野の多様な顧客ニーズに対応するため。
解説
問題文の該当箇所
- 「2000 年頃より情報通信技術の進化によって印刷のデジタル化が加速し、...一般的な事務用印刷の分野においては、...新規参入が容易になり、さらに印刷の単価が下がっていった。」
- 「多くの印刷会社が新しい印刷機へと設備を刷新してきたのに対して、A 社では、...印刷機、印刷工場を順次売却し、印刷機を持たない事業へと転換した。」
- 「美術印刷の分野にのみ需要を絞ることで、高度で手間のかかる小ロットの印刷、出版における事業を幅広く展開できるようになった。」
- 「外部にサプライチェーンのネットワークを構築し、顧客の細かいニーズに対応できるような分業体制を整えることに注力した。」
答案作成の根拠 与件文から、2 代目経営者が事業承継した時期は、技術革新により印刷業界の価格競争が激化し、設備投資の負担も増大していたことが読み取れる。この経営環境の脅威に対し、2 代目は以下の合理的な判断を下したと考えられる。
- 脅威の回避: 設備を保有しないファブレス化により、価格競争が激しい汎用印刷市場から撤退し、多額の設備投資リスクを回避した。
- 経営資源の集中: 自社の経営資源を、職人技術の伝承や設備維持ではなく、顧客との関係構築や制作全体の品質を管理する「ディレクション業務」というコア・コンピタンスに集中させた。
- 機会の創出: 外部の専門企業とのネットワークを構築することで、自社で全ての技術を持つことなく、高品質・高精度な美術印刷というニッチ市場の多様なニーズに柔軟に対応できる体制を整えた。 これらの要素を組み合わせ、ファブレス化の理由を多角的に説明する。
使用した経営学の知識
- 競争戦略(差別化集中戦略): 価格競争の激しい市場を避け、特定の顧客層(美術印刷分野)に特化し、独自の価値(高品質なディレクション)を提供することで競争優位を築く戦略。
- ファブレス経営: 自社工場を持たず、生産を外部委託することで、設備投資を抑制し、企画・開発・設計などの高付加価値業務に特化する経営手法。
- リソース・ベースト・ビュー: 企業の競争優位は、保有する経営資源にあるとする考え方。A 社は「設備」ではなく「ディレクション能力」や「外部ネットワーク」を競争力の源泉とした。
第 2 問(配点 20 点)
設問文
2 代目経営者は、なぜ A 社での経験のなかった 3 代目にデザイン部門の統括を任せたと考えられるか、100 字以内で述べよ。
回答例(100 字)
理由は 3 代目の広告代理店での経験とデザイナー等の人脈を活用し、紙媒体に依存しないウェブ等の新領域へ進出するため。後継者育成のため権限を委譲し、リーダーシップを発揮させ、自律的な事業立ち上げを促すため。
解説
問題文の該当箇所
- 「広告代理店に勤務していた 3 代目が加わる」
- 「3 代目は、前職においてデザイナー、アーティストとの共同プロジェクトに参画していた人脈を生かし、ウェブデザイナーを 2 名採用した。」
- 「紙媒体に依存しない分野にも事業を広げ、ウェブ制作、コンテンツ制作を通じて、...広告制作へと業務を拡大した。」
- 「新たにデザイン部門を社内に発足させ、3 代目に部門の統括を任せた。」
答案作成の根拠 2 代目経営者は、印刷業界の将来を見据え、紙媒体への依存から脱却する必要性を感じていた。そこで、A 社にはない知見や資源を持つ 3 代目に白羽の矢を立てたと考えられる。
- 3 代目の外部資源の活用: 3 代目が前職で得た「広告代理店での経験」「デザイナーやアーティストとの人脈」は、A 社が広告制作業へ進出する上で不可欠な経営資源であった。
- 新規事業への展開: これらの資源を活用し、ウェブ制作などのデジタル分野へ事業を拡大することで、企業の持続的成長を目指す狙いがあった。
- 後継者の育成と組織活性化: A 社での経験がない 3 代目に対し、いきなり全社を任せるのではなく、まず新規部門の責任者として権限を委譲した。これにより、3 代目に経営者としてのリーダーシップと経験を積ませると同時に、彼の自主性を尊重し、新規事業の立ち上げを加速させる意図があった。
使用した経営学の知識
- 事業承継: 円滑な事業承継のために、後継者に段階的に権限を委譲し、新規事業などを通じて経営能力を育成するプロセス。
- 権限委譲(エンパワーメント): 部下に権限を与えることで、その自律性やモチベーションを高め、組織のパフォーマンスを向上させるマネジメント手法。
- アントレプレナーシップ(社内起業家精神): 組織内部で、新しい事業を創造し、革新を推進しようとする気概や行動。2 代目は 3 代目のこの能力に期待したと考えられる。
第 3 問(配点 20 点)
設問文
A 社は、現経営者である 3 代目が、印刷業から広告制作業へと事業ドメインを拡大させていった。これは、同社にどのような利点と欠点をもたらしたと考えられるか、100 字以内で述べよ。
回答例(100 字)
利点は既存顧客へのクロスセルや事業の多角化によるリスク分散。欠点は ① 競合が多く、営業力も不足により新規受注が困難なこと、② 既存の高品質印刷事業との関連性が薄く、強みを生かせずシナジー創出が難しいこと。
解説
問題文の該当箇所
- 利点: 「既存の顧客に向けた広告制作へと業務を拡大した。」「紙媒体に依存しない分野にも事業を広げ」
- 欠点: 「新たな事業の案件を獲得していくことは難しかった。」「中小企業向け広告制作の分野においては、既に数多くの競合他社が存在しているため、非常に厳しい競争環境であった。」「新規の市場を開拓するための営業に資源を投入することも難しい」「印刷物を伴わない受注を増やしていくのに大いに苦労している。」
答案作成の根拠 事業ドメインの拡大は、機会と脅威の両面をもたらす。与件文から利点と欠点を整理する。
- 利点:
- クロスセル: 既存の印刷顧客に対し、ウェブ制作や広告制作といった新たなサービスを提案することで、顧客単価の向上や関係強化が期待できる。
- リスク分散: 縮小が懸念される印刷市場への依存度を下げ、事業ポートフォリオを多角化することで、経営の安定化を図ることができる。
- 欠点:
- 競争環境と営業力不足: 参入した広告制作市場は競合が多く、A 社には専門の営業部隊やノウハウがないため、新規案件の獲得に苦戦している。
- シナジー不足: A 社の強みである「高品質な美術印刷のディレクション能力」と、ウェブ制作等の新規事業がうまく結びついておらず、互いの強みを高め合うシナジー効果が発揮できていない。
- 利点:
使用した経営学の知識
- 多角化戦略: 企業が既存の事業領域とは異なる新しい分野に進出する成長戦略。本件は既存顧客に新製品を投入する「製品開発戦略」に近いが、事業ドメインの拡大という点では多角化の側面も持つ。
- シナジー効果: 複数の事業が相互に作用し合うことで、それぞれが単独で活動するよりも大きな成果を生み出す効果。「1+1>2」の状態。現状、A 社ではこの効果が十分に発揮されていない。
- ファイブフォース分析: 業界の収益性を決定する 5 つの競争要因を分析するフレームワーク。広告制作市場における「競合の多さ」は、この分析における「業界内の競争の激しさ」に該当する。
第 4 問(配点 20 点)
設問文
2 代目経営者は、プロジェクトごとに社内と外部の協力企業とが連携する形で事業を展開してきたが、3 代目は、2 代目が構築してきた外部企業との関係をいかに発展させていくことが求められるか、中小企業診断士として 100 字以内で助言せよ。
回答例(98 字)
指示・発注中心の関係から、戦略的パートナー関係へと発展させる。外部の多様な専門家と連携し、顧客課題を解決する企画の立案から共同提案までを行い、自社の営業力不足を補い、新たな需要を創造すべきである。
解説
問題文の該当箇所
- 2 代目が構築した関係: 「協力企業を手配して指示することが主な業務」「ディレクションする体制」
- 3 代目が構築した関係: 「外部のフォトグラファーやイラストレーター、コピーライター...との協力関係を構築」
- 課題: 「新規の需要を創造していくことが求められた」「営業に資源を投入することも難しい」
答案作成の根拠 2 代目が構築したのは、A 社が主導権を握り、各工程の専門企業に「指示・発注」する垂直的な分業ネットワークだった。これに対し、3 代目は広告制作という、より創造性が求められる事業を手掛けている。この事業を成功させ、かつ営業力不足という課題を克服するためには、外部との関係を質的に転換する必要がある。
- 関係性の発展: これまでの「指示・手配」という一方的な関係から、外部の専門家(クリエイター、印刷職人など)と対等な立場で協働し、共に新しい価値を創り出す「戦略的パートナーシップ」へと進化させる。
- 具体的な協働: A 社のディレクション能力と外部の専門技術を組み合わせ、単なる制作受注ではなく、顧客の経営課題を解決するための企画を共同で立案する。
- 課題解決への貢献: 共同で顧客に提案・営業活動を行うことで、A 社の営業力不足を補い、単独では創出できなかった新たな需要を掘り起こす。これは、2 代目が構築した高品質なものづくりネットワークと、3 代目が持つクリエイターネットワークの融合を意味する。
使用した経営学の知識
- オープンイノベーション: 自社だけでなく、外部の技術やアイデアを積極的に活用し、革新的な価値を創造する考え方。
- 戦略的提携(アライアンス): 複数の企業が経営資源を出し合い、協力して事業を行うことで、単独では得られない競争優位を築こうとするパートナーシップ。
- バリューネットワーク: 従来の直線的なバリューチェーンとは異なり、複数の主体が網の目のように連携し、顧客に対して価値を共創する関係。
第 5 問(配点 20 点)
設問文
新規事業であるデザイン部門を担う 3 代目が、印刷業を含めた全社の経営を引き継ぎ、これから事業を存続させていく上での長期的な課題とその解決策について 100 字以内で述べよ。
回答例(100 字)
課題は印刷部門とデザイン部門の連携不足でシナジーが創出できず、業績が停滞していること。解決策は、両部門の強みを融合し、印刷とウェブを組み合わせた提案を推進し、独自の付加価値を創造し需要を開拓すること。
解説
問題文の該当箇所
- 課題: 「新規のデザイン部門と既存の印刷部門はともに...」「印刷物を伴わない受注を増やしていくのに大いに苦労している。」「売り上げにおいて目立った回復のないまま現在に至っている。」
- 強み(解決策のヒント): 「高精度な仕上がりが求められる分野」「ディレクション業務へと特化」「デザイン部門」「ウェブデザイナー」
答案作成の根拠 A 社の持続的成長に向けた 3 代目の長期的な課題は、2 つの事業部門を単なる足し算で終わらせず、掛け算による相乗効果(シナジー)を生み出し、企業全体の競争力を高めることにある。
- 長期的な課題: 与件文から、印刷部門とデザイン部門が別々に動いており、結果として新規事業は苦戦し、全社的な売上も停滞していることがわかる。この「両部門の分断とシナジー不足」こそが、克服すべき本質的な課題である。
- 解決策: 課題解決には、両部門の強みを意図的に融合させる戦略が必要となる。
- 戦略の方向性: 印刷部門の強みである「高品質な美術印刷のディレクション能力」と、デザイン部門の強みである「ウェブ制作等のデジタルコンテンツ企画力」を掛け合わせる。
- 具体的な施策: 具体的には、紙媒体(カタログ、図録など)とデジタル媒体(ウェブサイト、動画など)を連動させた「クロスメディア戦略」を顧客に提案する。例えば、高品質な製品カタログから QR コードで詳細な Web サイトや使い方動画に誘導する、といった企画である。
- 期待される効果: これにより、競合の広告会社や印刷会社にはない、A 社ならではのユニークな付加価値が生まれ、新規需要の開拓と業績回復につながる。3 代目は、この全社戦略を主導するリーダーシップを発揮することが求められる。
使用した経営学の知識
- 全社戦略: 企業全体の方向性や事業の組み合わせ(ポートフォリオ)を決定する戦略。3 代目には、2 つの事業部をどう連携させ、全社として成長していくかという視点が求められる。
- シナジー効果: 第 3 問でも触れたが、ここでは特に、既存事業の強みと新規事業の強みを組み合わせることで生まれるシナジー(クロスセリングシナジー、技術シナジーなど)を意図的に創出することが解決策の核となる。
- クロスメディア: 複数のメディア(媒体)を連携させて、統一したマーケティング・プロモーションを展開する手法。A 社の 2 つの事業の強みを活かす具体的な戦略として有効である。