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令和 6 年度(2024 年度)事例 Ⅱ 回答と解説

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第 1 問(配点 20 点)

設問文

B 社の現状について、SWOT 分析をせよ。各要素について ① ~ ④ の解答欄にそれぞれ 40 字以内で説明すること。

回答例

  • ① 強み(38 字):3 代目の企画力と発信力、及びデザイナーズホテル等の実績。窯元等との良好な関係。
  • ② 弱み(40 字):卸売業の体質が残り、BtoC のノウハウやオンラインを活用した販売体制が未熟な点。
  • ③ 機会(40 字):クリエイター志望の移住者による窯元の新規参入とオンラインでの新たな顧客層の開拓。
  • ④ 脅威(38 字):人口減少による国内市場の縮小、安価な輸入品との競合、産地の情報発信力の低下。

解説

  • 問題文の該当箇所

    • 強み:「ファッション業界での経験」「デザイナーズホテルの仕事に加わった」「オリジナルの食器の担当を任されて企画」「ホテルの経営者や宿泊客から高い評価を得た」「オンライン動画サイトに掲載」「再生回数が伸び」「窯元をはじめ、この地で地場産業に携わってきた人々も温かい態度で接するようになった」
    • 弱み:「産地問屋と呼ばれる卸売業者」「2 代目社長は、事業内容が卸売業であることから、自社ホームページには会社概要と…さえあればよいと考えていた」「動画の反響を通してオンラインの有用性を痛感した 3 代目は、ホームページをリニューアルし…EC サイトを開設することにした」
    • 機会:「X 市にはクリエイター志望の移住者が窯元を開くケースが見られる」「コロナ禍で家庭に関心を向けるようになった若者と見られる視聴者や海外の人々から、驚きや感動を表すコメントが書き込まれた」
    • 脅威:「高齢化と人口減少が進む社会」「安価な外国製陶磁器の輸入が増加」「産地問屋が少なくなったことから X 焼に関する社会全般への情報発信が滞り、販路が細っている」
  • 答案作成の根拠

    • 強み: 3 代目が持ち込んだ外部の知見(企画力・発信力)に加え、それが具体的な「実績」として認められている点、さらに事業推進の基盤となる産地内の「良好な関係」まで含めています。これらは今後の事業展開における重要な内部資源となります。
    • 弱み: 2 代目の考え方に代表される、長年の BtoB 卸売業に特化した「事業構造」そのものを弱みと捉えています。その結果として、消費者向けのデジタルマーケティング(EC サイト等)への取り組みが遅れた、という因果関係を明確に示しています。
    • 機会: X 焼産地の内部におけるポジティブな変化(クリエイターの新規参入)と、市場(顧客)におけるポジティブな変化(オンラインでの新規顧客層)の 2 つの側面から機会を捉えています。これらは 3 代目の強みを活かせる領域です。
    • 脅威: マクロ環境である国内市場の縮小や輸入品との競合に加え、B 社が属する X 焼産地そのものが直面している「情報発信力の低下」という、より直接的な脅威を指摘しています。産地問屋である B 社にとって、産地全体の地盤沈下は深刻な経営課題です。
  • 使用した経営学の知識

    • SWOT 分析: 企業の経営戦略を策定する際に用いられるフレームワークです。企業の内部環境を「強み (Strength)」と「弱み (Weakness)」に、外部環境を「機会 (Opportunity)」と「脅威 (Threat)」に分類・整理することで、自社の現状を客観的に把握し、今後の戦略の方向性を検討します。

第 2 問(配点 25 点)

設問文

X 市は、ふるさと納税の返礼品として X 焼を活用したいと考えている。現在でも市の返礼品の中に X 焼はあるが、全国の返礼品の中で埋もれている状態にある。3 代目は、X 市から「返礼品の中でもっと目立ち、市と X 焼のファンを増やすような返礼品の企画を考えてほしい」と依頼を受けた。ブランド価値構造のうち、消費者にもたらす感覚価値と観念価値を意識して、返礼品の企画を 100 字以内で提案せよ。

回答例(100 字)

3 代目の企画力とクリエイター窯元を掛け合わせ、伝統と革新を融合した限定品を開発。作り手の想いや地域の物語を伝える動画で訴求し、所有する喜びと、料理が映える美しさを提供。これにより市のファンを創造する。

解説

  • 問題文の該当箇所

    • 「ブランド価値構造のうち、消費者にもたらす感覚価値と観念価値を意識して」
    • 「市と X 焼のファンを増やすような返礼品の企画」
    • 強み関連:「ファッション業界での経験」「盛り付け映えや写真映えを考え抜き」「オンライン動画サイトに掲載するコンテンツ」「再生回数が伸び」
    • 機会関連:「X 市にはクリエイター志望の移住者が窯元を開くケースが見られる」「新しい作風を受け入れる土壌がある」
  • 答案作成の根拠 本提案は、設問で指定された「感覚価値」と「観念価値」を提供し、「市と X 焼のファンを増やす」という目的を達成するため、SWOT 分析で明らかになった B 社の強み機会を積極的に活用するものです。

    1. 強み(3 代目の企画力・発信力)× 機会(クリエイター窯元): 3 代目のモダンな企画力と、新しい作風を持つクリエイター窯元の技術力を掛け合わせることで、「伝統と革新の融合」という付加価値の高い限定品を開発します。これは、既存の返礼品との明確な差別化要因となります。
    2. 感覚価値の提供: 3 代目が得意とする「盛り付け映えや写真映え」を意識したデザインにより、「料理が映える美しさ」という、五感に訴える直接的な価値を提供します。
    3. 観念価値の提供: 3 代目のもう一つの強みである「動画による発信力」を活用します。作り手であるクリエイターの想いや制作風景、X 市の歴史といった「地域の物語」を伝えることで、消費者はモノの背景にあるストーリーに共感します。これにより、単なる食器ではなく、「所有する喜び」という特別な精神的価値を感じ、結果として市や X 焼に対する愛着(ファン化)が醸成されます。
  • 使用した経営学の知識

    • ブランド価値構造: 設問で示された通り、ブランドが提供する価値を分析する概念。
      • 感覚価値:デザインの美しさなど五感で感じる価値。本提案では「料理が映える美しさ」が該当します。
      • 観念価値:背景にある物語やコンセプトから生まれる精神的な価値。本提案では限定品であることによる希少性や、動画で伝えるストーリーによる「所有する喜び」が該当します。
    • クロス SWOT 分析(SO 戦略): 自社の「強み」を活かして外部環境の「機会」を最大限に活用する戦略。本提案は、3 代目の能力(強み)とクリエイター窯元の存在(機会)を掛け合わせる典型的な SO 戦略です。
    • ストーリーテリング: 商品やサービスの背景にある物語を伝えることで、消費者の感情に訴えかけ、共感やロイヤルティを高めるマーケティング手法です。

第 3 問(配点 25 点)

設問文

X 焼には窯元それぞれの魅力があるため、3 代目は、消費者がいろいろな窯元の陶磁器を手にとれる機会をつくりたいと思っている。しかし、陶磁器祭りで接客をしていると、「あれもこれも欲しいが、家にはもうたくさんの食器がある。収納スペースがないし、今あるものも捨てられない」と購入をためらう食器愛好家の声をよく耳にする。3 代目は、自社や窯元の事業機会拡大を図る一方、こうした食器愛好家のニーズを充足する新規事業を手がけたいと考えている。どのような事業内容にすべきか、100 字以内で提案せよ。

回答例(99 字)

様々な窯元の器を交換利用できるサブスクリプション事業を始める。収納場所を気にせず多様な器を楽しめる機会を提供。気に入った器は EC サイトで購入可能とし、窯元の事業機会拡大と食器愛好家の継続利用を促す。

解説

  • 問題文の該当箇所

    • 顧客のニーズ:「『あれもこれも欲しいが、家にはもうたくさんの食器がある。収納スペースがないし、今あるものも捨てられない』と購入をためらう食器愛好家の声をよく耳にする」
    • 3 代目の想い:「消費者がいろいろな窯元の陶磁器を手にとれる機会をつくりたい」
    • 事業目的:「自社や窯元の事業機会拡大を図る」
  • 答案作成の根拠 本提案は、食器愛好家が抱える「所有したい欲求」と「収納スペースの限界」というジレンマを解決する新規事業です。

    1. 顧客課題の解決: モノを「所有」するのではなく、一定期間「利用」する権利を提供するサブスクリプションモデルを導入。これにより、顧客は収納問題を気にすることなく、B 社が目利きした様々な窯元の器を試すという体験価値を得られます。これは 3 代目の「多様な器に触れる機会を作りたい」という想いとも合致しています。
    2. 事業機会の創出: この事業は、B 社にとっては安定した月額収益を、零細な窯元にとっては新たな販路と自社製品のプロモーション機会をもたらします。
    3. 既存事業との相乗効果: レンタルサービスを「お試し期間」と位置づけ、気に入った商品をEC サイトで購入できる仕組みを設けることで、レンタルから販売へと繋がる新たな顧客導線を構築します。これにより、食器愛好家の継続的なファン化を促し、B 社および産地全体の収益拡大に貢献します。
  • 使用した経営学の知識

    • サブスクリプションモデル: 製品やサービスを買い切りで提供するのではなく、月額制などで利用権を提供するビジネスモデル。顧客との継続的な関係を構築し、安定した収益(ストック収入)を生み出します。
    • コト消費: モノ(商品)の所有で得られる満足だけでなく、サービスや体験から得られる精神的な満足を重視する消費スタイル。本提案は、多様な食器を使う「体験」を商品としています。
    • アンメットニーズ(未充足ニーズ): 市場に存在するものの、まだ満たされていない顧客の欲求。「収納を気にせず色々な食器を使いたい」というニーズがこれに該当し、新規事業の起点となります。

第 4 問(配点 30 点)

設問文

EC サイトの新規顧客は増えたが、3 代目は顧客の顔を直接見ながら販売できない寂しさも感じ始めた。3 代目は、今後は、X 市の地元で開く店舗と EC サイトの両方を利用する顧客を増やしていきたいと考えるようになった。B 社にはどのような施策が必要か、150 字以内で具体的に提案せよ。

回答例(128 字)

①EC サイトで 3 代目や窯元による食器の制作体験や盛り付け講座等のイベント予約を受け付け、店舗へ誘導する。② 店舗では、購入者やイベント参加者に EC サイトで使えるクーポンを提供し、相互利用を促進する。③ 両チャネルの顧客情報を一元管理し、継続的な関係を構築する。

解説

  • 問題文の該当箇所

    • 「顧客の顔を直接見ながら販売できない寂しさ」
    • 「X 市の地元で開く店舗と EC サイトの両方を利用する顧客を増やしていきたい」
    • 店舗:「明るく開放感のあるスタイリッシュな空間」「カフェスペースも併設」
    • オンライン:「EC サイト」「オンライン動画」
    • 3 代目の強み:「盛り付け方を紹介する動画」「窯元をはじめ、この地で地場産業に携わってきた人々も温かい態度で接するようになった」
  • 答案作成の根拠 設問は、実店舗(オフライン)と EC サイト(オンライン)を連携させ、両チャネルを利用する顧客を増やすための具体的な施策を求めている。これは、オンラインとオフラインを融合させて顧客体験の向上を目指す OMO(Online Merges with Offline)戦略の構築に他ならない。

    1. オンラインからオフラインへの送客(O2O): EC サイトを単なる販売の場ではなく、リアルな体験への入り口と位置づける。3 代目の強みである「盛り付け」や、窯元との良好な関係を活かした「制作体験」といった付加価値の高いイベントを企画し、EC サイトで予約を受け付けることで、顧客が店舗に足を運ぶ強い動機付けとする。
    2. オフラインからオンラインへの送客(O2O): 店舗での体験を EC サイトでの次の購買行動につなげる。店舗での購入者やイベント参加者という、エンゲージメントが高い顧客に対し、EC サイトで利用できるクーポンを配布することで、オンラインチャネルの利用を促す。
    3. チャネル連携の基盤整備: ① と ② の施策を効果的に行うには、顧客情報の一元管理が不可欠である。店舗と EC サイトの購買履歴やイベント参加履歴などを統合・分析することで、個々の顧客に合わせた、よりパーソナルなコミュニケーションが可能となり、LTV(顧客生涯価値)の向上につながる。
  • 使用した経営学の知識

    • OMO(Online Merges with Offline):オンラインとオフラインの垣根をなくし、両者を融合させた形で顧客に一貫した購買体験を提供するマーケティング戦略。顧客データを中心に、オンラインの利便性とオフラインの体験価値を両立させることを目指す。
    • O2O(Online to Offline):オンライン(Web サイトや SNS など)から、実店舗(オフライン)へと顧客を誘導する施策。クーポン配布やイベント告知が代表例。逆の Offline to Online も存在する。
    • CRM(Customer Relationship Management):顧客関係管理。顧客情報を一元管理し、顧客との良好な関係を構築・維持していくための経営手法。

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