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平成 25 年度(2013 年度) 事例 Ⅳ 解答解説
第 1 問(配点 25 点)
出資前後の財務比率を 3 つ挙げ、数値を算出し、D 社への影響を 80 字以内で述べよ。
回答
| 欄 | (a) 財務比率の名称 | (b) 出資直前の数値 | (c) 出資直後の数値 |
|---|---|---|---|
| 1 | 流動比率 | 285.00 (%) | 250.00 (%) |
| 2 | 自己資本比率 | 54.97 (%) | 53.30 (%) |
| 3 | 固定比率 | 73.33 (%) | 92.38 (%) |
(d) D 社への影響(79 字)
流動資産が減少し借入が増加するため、流動比率および自己資本比率が低下する。また、固定資産が増加するため固定比率が上昇し、短期・長期ともに財務安全性が悪化する。
解説
1. 出資直後の予想貸借対照表(B/S)の作成
与件文より、出資(100 百万円)は「余剰資金 70 百万円」と「長期借入 30 百万円」で賄われる。 これにより、B/S は以下のように変動する(単位:百万円)。
- (資産の部)
- 現金及び預金:300 - 70 = 230
- 流動資産合計:570 - 70 = 500
- その他固定資産(投資):90 + 100 = 190
- 固定資産合計:385 + 100 = 485
- 資産合計:955 + 30 = 985
- (負債・純資産の部)
- 長期借入金:70 + 30 = 100
- 固定負債合計:230 + 30 = 260
- 負債合計:430 + 30 = 460
- 純資産合計:525(変動なし)
- 負債・純資産合計:955 + 30 = 985
2. 財務比率の選定と計算(小数第 3 位四捨五入)
出資により「現金(流動資産)」が「投資(固定資産)」に振り替わり、「借入(負債)」が増加するため、安全性指標への影響が最も大きい。
- (1) 流動比率(短期安全性) = 流動資産 ÷ 流動負債 × 100
- (b) 出資前:570 ÷ 200 = 2.85 → 285.00 (%)
- (c) 出資後:500 ÷ 200 = 2.50 → 250.00 (%)
- (2) 自己資本比率(長期的安全性) = 純資産合計 ÷ 資産合計 × 100
- (b) 出資前:525 ÷ 955 = 0.5497... → 54.97 (%)
- (c) 出資後:525 ÷ 985 = 0.5329... → 53.30 (%)
- (3) 固定比率(固定資産投資の安全性) = 固定資産 ÷ 純資産合計 × 100
- (b) 出資前:385 ÷ 525 = 0.7333... → 73.33 (%)
- (c) 出資後:485 ÷ 525 = 0.9238... → 92.38 (%)
3. (d) D 社への影響
上記の計算結果より、流動性(流動比率)は低下、自己資本比率も低下(借入により総資産が増加したため)、固定比率は上昇(固定資産が増加したため)する。これらはいずれも財務安全性の悪化を意味する。
第 2 問(配点 45 点)
(設問 1)
定額法と 200%定率法それぞれの場合の 5 年間の減価償却費(a)と、5 年間の営業キャッシュフロー累計額(b)を計算せよ。
(a) 減価償却費(単位:百万円、小数点第 2 位四捨五入)
| 期 | ① 定額法 | ② 200%定率法 |
|---|---|---|
| 第 1 期 | 20.00 | 40.00 |
| 第 2 期 | 20.00 | 24.00 |
| 第 3 期 | 20.00 | 14.40 |
| 第 4 期 | 20.00 | 10.80 |
| 第 5 期 | 20.00 | 10.80 |
(b) 5 年間の営業キャッシュフローの累計額(単位:百万円、小数点第 2 位四捨五入)
- ① 定額法: 148.40 (百万円)
- ② 200%定率法: 140.40 (百万円)
解説
1. 営業キャッシュフロー(営業 CF)の計算
- 営業 CF = 税引後営業利益 + 減価償却費
- 営業 CF = (売上高 - 変動費 - 固定費 - 支払利息 - 減価償却費) × (1 - 税率) + 減価償却費
- (※ EBT < 0 の場合、税金は 0 のため、営業 CF = EBT + 減価償却費 となる)
2. 共通データの計算(単位:百万円)
| 期 | 1 期 | 2 期 | 3 期 | 4 期 | 5 期 |
|---|---|---|---|---|---|
| 売上高 (S) | 50 | 80 | 90 | 90 | 90 |
| 変動費 (V) (30%) | 15 | 24 | 27 | 27 | 27 |
| 固定費 (F) | 18 | 18 | 18 | 18 | 18 |
| 支払利息 (I) | 2.0 | 1.6 | 1.2 | 0.8 | 0.4 |
| 償却前利益 (S-V-F-I) | 15.0 | 36.4 | 43.8 | 44.2 | 44.6 |
- 支払利息(I): 期首残高 (50, 40, 30, 20, 10) × 4%
3. (a) 減価償却費の計算
- ① 定額法: 100 百万円 / 5 年 = 20.00 百万円/年
- ② 200%定率法:
- 償却率 = (1/5) × 200% = 0.4
- 1 期: 100 × 0.4 = 40.00 (残 60)
- 2 期: 60 × 0.4 = 24.00 (残 36)
- 3 期: 36 × 0.4 = 14.40 (残 21.6)
- 4 期: 設問指示「4 期、5 期は未償却残高を均等償却」
- 21.6 / 2 = 10.80 (残 10.8)
- 5 期: 21.6 / 2 = 10.80 (残 0)
4. (b) 営業 CF 累計額の計算(単位:百万円)
① 定額法
- EBT = 償却前利益 - 減価償却費(D1)
- 1 期: 15.0 - 20.0 = -5.0 (EBT < 0) → CF = -5.0 + 20.0 = 15.00
- 2 期: 36.4 - 20.0 = 16.4 (EBT > 0) → CF = 16.4 × 0.6 + 20.0 = 29.84
- 3 期: 43.8 - 20.0 = 23.8 (EBT > 0) → CF = 23.8 × 0.6 + 20.0 = 34.28
- 4 期: 44.2 - 20.0 = 24.2 (EBT > 0) → CF = 24.2 × 0.6 + 20.0 = 34.52
- 5 期: 44.6 - 20.0 = 24.6 (EBT > 0) → CF = 24.6 × 0.6 + 20.0 = 34.76
- 累計 = 15.00 + 29.84 + 34.28 + 34.52 + 34.76 = 148.40
② 200%定率法
- EBT = 償却前利益 - 減価償却費(D2)
- 1 期: 15.0 - 40.0 = -25.0 (EBT < 0) → CF = -25.0 + 40.0 = 15.00
- 2 期: 36.4 - 24.0 = 12.4 (EBT > 0) → CF = 12.4 × 0.6 + 24.0 = 31.44
- 3 期: 43.8 - 14.4 = 29.4 (EBT > 0) → CF = 29.4 × 0.6 + 14.4 = 32.04
- 4 期: 44.2 - 10.8 = 33.4 (EBT > 0) → CF = 33.4 × 0.6 + 10.8 = 30.84
- 5 期: 44.6 - 10.8 = 33.8 (EBT > 0) → CF = 33.8 × 0.6 + 10.8 = 31.08
- 累計 = 15.00 + 31.44 + 32.04 + 30.84 + 31.08 = 140.40
(設問 2)
(b)の計算結果が一致しなかった理由を 40 字以内で述べよ。
回答(40 字)
減価償却費の配分が異なり、初期の赤字で失われたタックスシールドの額が異なるため。
解説
減価償却費の合計(100 百万円)は両方法で同じだが、各期への配分が異なる。 営業 CF は「(償却前利益 - D) × (1-t) + D」もしくは「償却前利益 × (1-t) + D × t」で計算される(D=減価償却費、t=税率)。 「D × t」は減価償却費の節税効果(タックスシールド)を示す。
しかし、第 1 期において、両方法とも税引前利益(EBT)がマイナス(赤字)となった。設問の前提「欠損金の繰越控除は考慮しない」ため、この赤字は将来の税金を減らす効果(タックスシールド)を持たない。 定率法は定額法よりも 1 期の減価償却費が大きく、EBT の赤字額も大きくなった(定額法 -5.0、定率法 -25.0)。 この結果、定率法は定額法に比べて、より多くのタックスシールドを第 1 期で失った(活用できなかった)。 5 年間の合計でみると、実現したタックスシールドの総額が定額法(32.0 百万円)より定率法(24.0 百万円)の方が小さくなり、営業 CF 累計額に 8.0 百万円の差が生じた。
(設問 3)
(a) 調達方法
金融機関からの借り入れ
(b) 金額
98.4 (百万円)
(c) 理由
毎期の元本返済により支払利息が減少し、キャッシュフローの流出が抑えられるため。(30 字)
解説
第 5 期末の現金有高は、以下の式で計算される。 5 期末現金有高 = 期首現金 + 累計営業 CF - 累計投資 CF + 累計財務 CF(元本)
1. 共通項目の整理
- 期首現金:D 社からの 100 + 資金調達 50 = +150 百万円
- 累計投資 CF:1 期首の設備投資 100 + 5 期末の設備更新 100 = -200 百万円
- 累計財務 CF(元本): 与件文「返済が完了すると同時に、再び同額を借り入れるものとする」より、5 年間の元本返済(-50 百万円)と 5 期末の再借入(+50 百万円)が相殺される。
- 銀行借入(元本):-10 (1 期) ... -10 (5 期) + 50 (5 期末) = 0
- 私募債(元本):-50 (5 期末) + 50 (5 期末) = 0
- したがって、どちらの方法でも累計財務 CF は 0 となる。
2. 累計営業 CF の計算(差分)
差が生じるのは「支払利息」が異なることによる「累計営業 CF」である。 (営業 CF = (売上 - 変動費 - 固定費 - 利息 - 償却) × (1-税率) + 償却。 ※赤字時は EBT+償却) (減価償却は定額法 20 百万円/年)
① 金融機関からの借り入れ(利息 4%・毎期 10 返済)
- 支払利息 (I):
- 1 期:50×4%=2.0
- 2 期:40×4%=1.6
- 3 期:30×4%=1.2
- 4 期:20×4%=0.8
- 5 期:10×4%=0.4
- 営業 CF((設問 1)の計算結果流用):
- 1 期:(15.0 - 2.0 - 20.0) + 20.0 = 15.00
- 2 期:(36.4 - 1.6 - 20.0)×0.6 + 20.0 = 29.84
- 3 期:(43.8 - 1.2 - 20.0)×0.6 + 20.0 = 34.28
- 4 期:(44.2 - 0.8 - 20.0)×0.6 + 20.0 = 34.52
- 5 期:(44.6 - 0.4 - 20.0)×0.6 + 20.0 = 34.76
- 累計営業 CF (借入) = 148.40 百万円
- 支払利息 (I):
② 少人数私募債(利息 4%・5 期末一括返済)
- 支払利息 (I):
- 1-5 期:50×4% = 2.0 (毎期)
- 営業 CF:
- 1 期:(15.0 - 2.0 - 20.0) + 20.0 = 15.00
- 2 期:(36.4 - 2.0 - 20.0)×0.6 + 20.0 = 29.60
- 3 期:(43.8 - 2.0 - 20.0)×0.6 + 20.0 = 33.80
- 4 期:(44.2 - 2.0 - 20.0)×0.6 + 20.0 = 33.80
- 5 期:(44.6 - 2.0 - 20.0)×0.6 + 20.0 = 33.80
- 累計営業 CF (私募債) = 146.00 百万円
- 支払利息 (I):
3. 5 期末現金有高の比較
- ① 金融機関からの借り入れ: 150 (期首) + 148.40 (累計 OCF) - 200 (累計 ICF) + 0 (累計 FCF) = 98.40 (百万円)
- ② 少人数私募債: 150 (期首) + 146.00 (累計 OCF) - 200 (累計 ICF) + 0 (累計 FCF) = 96.00 (百万円)
したがって、(a) は「金融機関からの借り入れ」、(b) は「98.4」百万円となる。 (c) の理由は、借入の方が利息総額が 4.0 百万円(=10.0-6.0)少なく、税引後で 2.4 百万円(=4.0×(1-0.4))営業 CF が多いためである。
第 3 問(配点 30 点)
品質リスクに関連するコストを大きい順に 4 つ、90 字以内で述べよ。
回答(79 字)
① 外部失敗コスト(クレーム対応・返品・信用失墜による機会損失)、② 内部失敗コスト(規格外品の廃棄)、③ 評価コスト(品質検査)、④ 予防コスト(工程・衛生管理)。
解説
(第 2 問(設問 3)の解説と同一)
品質リスクに関連するコストは、一般的に「品質コスト」と呼ばれ、以下の 4 つに分類される。コストの大きさは、一般的に「外部失敗 > 内部失敗 > 評価 > 予防」の順となる。
- 外部失敗コスト:製品が顧客に渡った後に発見される不適合にかかるコスト。クレーム対応、返品処理、賠償、信用の失墜による将来の売上減少など、最も大きな損害につながる。
- 内部失敗コスト:製品が出荷される前に発見される不適合にかかるコスト。与件ではハーブ類や薬草であり「手直し」は困難と想定されるため、規格外品の「廃棄コスト」が主となる。
- 評価コスト:品質基準を満たしているかを確認(検査・試験)するためのコスト。
- 予防コスト:不適合の発生を未然に防ぐためのコスト。与件の「工程管理」「品質管理」「衛生管理」のノウハウ活用がこれにあたる。